72.大地の試練
その容姿に思わず目を奪われた。
湖の精霊ウルネが妖艶な女性なら、目の前の彼女は……
「はぁもうムカつくぜ。追い払ってやろうと思ったのによぉ~」
けだるげに髪を触りながら悪態をつく。
どこか男の子っぽいしゃべり方も相まって、大人な女性のイメージとは離れていく。
想像していた容姿と違い過ぎて、俺は思わず聞いてしまう。
「……本当に、大地の精霊なのか?」
「ああ? そんなことみりゃーわかるだろ? 馬鹿かお前は」
「うっ、馬鹿って」
「おやおや、言われてしまったねユーストス」
笑わないでほしいな、ローウェン。
でも確かに、今の質問は馬鹿だったと思うよ。
聞くまでもない。
容姿は予想外だとしても、彼女が大地の精霊であることは明らかだ。
彼女から発せられる絶大な圧力がそれを物語っている。
現に、俺の後ろにいる三人の弟子たちは威圧され、言葉も出なくなっていた。
普段の彼女たちなら想像するに、俺のことを馬鹿なんて言ったら反発して意見を口にしていただろう。
恥ずかしながらそうだと思ってしまうことは置いておいて、そうしなかったのは余裕がなかったからに他ならない。
「凄い圧だな」
「そうだね。呪いの王が可愛く見えてくるよ。まぁ外見から言えば、彼女のほうがよっぽど可愛いのだろうけど」
「……ローウェンは余裕だな」
「当然。私はもう死んだ身だ。今の私に怖いものなんてないよ」
そう言えるのはローウェンの強さだ。
俺はまだまだ怖いものばかりで、今だって内心は怯えているのかもしれない。
もしもの時、彼女たちを守り切れるのか。
やるべきことを定めたのに、成し遂げる前に終わってしまうんじゃないか。
弱気な考えは、どれだけ強くなってもゼロにはならないな。
「おい人間」
「ん?」
「お前だよお前、円盤持ってんのはお前だろ? さっさと用件を言いやがれ。こっちは好きでもねーのに姿を見せてやってんだ。うだうだしてんなら締め出すぞ」
「それは困るな。でも用件ならさっき言った通りだよ。俺は世界の精霊に会いたい。そのために貴女の許可がいると聞いた」
少々態度は不遜だったか。
精霊の偉大さは理解できるものの、イマイチ遜る気にはなれない。
どうしてだろうな。
見た目が子供だから……いや違う。
彼女が俺を、人間をなめている気がするからか。
「その聞いたっていうのが引っかかるな。どこのどいつだ? その円盤とルールを教えたのは」
「湖の精霊ウルネだよ」
「ウルネ……? ちょっと前に消えかかってた彼女がか? 期間的にもうとっくに消滅してるかと思ってたが……そうか、お前が何かしたんだな」
「一応はそうだよ」
二人は面識があると聞いていたけど、彼女の事情も知っていたのか。
知っていた上で放置していたのなら気になるけど、そこは突っ込まないほうが良さそうだ。
「彼女は元気にしてたかよ」
「元気だよ。今は」
「そうか。じゃまぁ……良かったか」
彼女は憂いに満ちた表情で呟いた。
とりあえず仲が悪いという感じではなさそうでホッとする。
「それに合点がいったぜ。彼女は人間に随分と肩入れしてたからな。教えたのが彼女だって言うなら納得できる」
「じゃあ」
「ああ、試練を受けたいんだろ? いいぜ。つーかその円盤持ってこられた時点であたしに拒否権はねーんだよ。そいつを持ってる時点で、あたしらに挑む資格があるってことだからな」
「そういうものなのか、これ」
見た目はただの円盤。
だけど俺はすでに知っている。
この円盤の中に、世界の記憶が眠っていることを。
資格というなら確かに、これを持つことは普通じゃあり得ないか。
「だけどな、試練を受けられるのはお前一人だぜ? そこのつったってる三人は参加できない」
「元々そのつもりだよ。ちなみに彼はどうなる?」
「あ? ふわついてるそっちの男か? そいつはお前の一部だろ? ならお前と同じだよ」
「そうか」
大方予想通りの展開になったぞ。
試練は元から一人で受けるつもりだったし、三人にはまだ荷が重い。
除外してくれたのはラッキーだな。
そうお考えながら振り返り、彼女たちに言う。
「そういうわけだから、三人ともここで待機だ。もし時間が経ち過ぎるようなら先に下山してくれ。自分たちの身を最優先に考えろ」
「せ、先生……」
「大丈夫、俺のことは気にしなくて良い」
「そうだとも。彼には私もついている。悪いことにならないさ」
心配する三人に、ローウェンも声をかけてくれた。
俺の言葉だけじゃ足りないと思っていたからありがたい。
不安になるのもわかるよ。
精霊の力を知らない三人にも、彼女の力は感じ取れているようだし。
試練の内容次第では、俺も覚悟しないといけないな。
「話は終わったかよ」
「ああ」
「そうかい。じゃあお前だけ前に出ろ。できるだろ?」
目の前はマグマだが問題ない。
俺は飛べる。
言われた通りに前へ出て、マグマの上に俺と彼女が向かい合う。
「そんじゃ始めるぜ」
パチン。
彼女が指を鳴らした瞬間、周囲の地面が盛り上がる。
「先生!」
「――!?」
大地が変形し、ドーム状に俺と彼女を囲む。
天を塞がれ、明かりは足元のマグマが補っている。
「試練内容を言うぜ。あたしの試練は単純だ……あたしを倒せ」
「……そうくるか」
考え得る中で最悪の試練だ。
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