65.次の目的地は?
受け取った円盤を見つめる。
手のひらに感じる重さよりも、なぜだか重く感じてしまう。
「これが精霊の円盤……」
この手の中にある小さな円盤が、世界から呪いを消し去る道に繋がっている。
言い換えれば今、世界の未来が自分の手の中にあるということ。
それは気負いすぎかもしれない。
だけど、それくらいのことを俺たちはしようとしている。
きっと俺の中にいる英雄たちも望んでいる未来が、その先にあるはずだ。
俺は円盤を握りしめたまま、ウルネに視線を向ける。
「町のことは任せていいですか?」
「ええ。お陰で私も、本来の役目を果たすことができますから」
「そうですか」
チラッとアリアたちに視線を向ける。
三人とも声には出さなかったけど、安心しているのが表情で分かった。
自分たちの生まれ故郷で、シスターたちが暮らす町だ。
その問題を解決できたことは、彼女たちにとって大きな糧になるだろう。
「さて、湖が戻ったこと知らせてあげないとな」
「うん! みんなきっと喜ぶよ!」
そう言っているアリアの喜びっぷりを見れば、町の人たちがどんな顔をするか想像できそうだ。
長らく続いた不作、水不足もこれで終わる。
解決したのが彼女たちだと知れば、喜ぶ前に驚くかもしれないな。
「その前にもう一つ、私からお伝えしたいことがあります」
俺とアリアの話を聞いていたウルネがそう言った。
帰るつもりでいた俺たちは、改めてウルネのほうへ身体を向ける。
「何ですか?」
「貴方たちはこれから、どこへ向かわれますか?」
「え、町に戻りますよ」
と言いいながら、自分の返答が見当違いだと気づく。
おそらくウルネが聞きたかったことはそこではなくて、その後のこと。
「町を出た後です。試練を持つ方々の居場所を、貴方たちは知らないのではありませんか?」
「そうでしたね。聞こうと思って忘れるところでした」
ウルネのほうから言い出したということは、居場所を教えてくれるということで間違いないだろう。
「どこに行けば会えますか?」
「はい」
ウルネは優しく微笑んで続ける。
「精霊は総じて、自身の力を宿す自然と共に生きています。私が湖の精霊で、この湖に宿っているように」
「その四人も同じなんですね」
「ええ。そして私よりも遥かに強い力を持っています。生きている環境も、それだけ過酷だと思ってください」
今のはウルネからの警告と取るべきだろうか。
俺に対するものか、もしくは彼女たちに言っているのか。
直接的なことは言わぬまま、彼女は続けてそれぞれの居場所を口にする。
「躍動する地【ボルカノ火山地帯】に大地の精霊ノロム様。暴風に閉ざされた【フィンディ島】に大気の精霊ウェスター様。光りすら押しつぶす深海【マリエナ海溝】に海の精霊シーリス様。天に届く頂【ハールバレー山脈】に太陽の精霊コロポム様。今お話しした方々が、貴方たちが挑む相手です」
名前だけを聞いてもピンとこないが、居場所の名称を聞く限り、どこも過酷さはわかる。
なぜなら彼女が話した場所は、冒険者の間でも有名な危険地帯だから。
強力な魔物はもちろん、環境にすら殺される可能性がある。
優れた冒険者でも行くのを躊躇うという。
別名、特別災害指定区域。
「確かに……行くだけでも大変そうだ」
呪いの王を倒すための旅も過酷だった。
でも間違いなく、これからの旅のほうがよっぽど過酷だ。
俺はともかく……
「先生?」
果たして、彼女たちが耐えられるだろうか。
ウルネが言った言葉は、どうやら彼女たちに向けての警告だったようだ。
「出発前に準備しないとな」
四か所の中で一番近いのは、ボルカノ火山地帯か。
大地の精霊ノロム。
名前だけなら温厚そうな感じがするけど、火山地帯に宿ってる精霊だからな……
一人で考えていると、隣からひょこっと顔を出したティアが尋ねてくる。
「師匠、次の目的地は一番近いボルカノ火山地帯ですか?」
「ん? ああ、そのつもりでいる」
「わかりました。なら装備を一式揃えないといけませんね」
「ああ。必要なものはホームに帰ってから買いだそう」
「ノロム様の試練を最初に受けるのですね」
俺とティアの会話にウルネが入ってくる。
「ええ」
「ではお気をつけください」
「そんなに辛い試練なんですか?」
「いえ、試練の内容は私も知りませんが、あの方は人間嫌いですので」
人間嫌いか。
それはまず、会うまでで一苦労しそうな予感だ。
「一応確認したいんですが、他の精霊たちも人間嫌いなんですか?」
「それはわかりません。私がお会いしたことがあるのは、ノロム様だけですので」
「そういうことですか。なるほど」
じゃあ会ってみないとわからない……か。
「他に確認しておくことはありますか?」
「ありがとうございます。これだけわかれば十分です」
「わかりました。貴方たちの幸福を、心より祈っております」
ウルネがそう言うと、湖の水がバシャンと打ちあがってしぶきが舞う。
彼女の後ろには、小さくも確かな虹が掛かっていた。






