64.精霊の円盤
クリスタルが砕かれたことで、植物は枯れていく。
紫色の花が散り、うねり動いていた触手もボトボト落ちる。
床や壁にへばりついていたベトベトの液体も、じゅうと焼けるような音をたてて蒸発していった。
アリアがカチャリと剣を鞘に納める。
「やりました! 先生」
「ああ、上出来だったよ」
「えっへへ~」
俺が褒めると、アリアは嬉しそうに笑う。
そこへティアとマナも歩み寄ってくる。
「二人ともお疲れ。良い動きだったよ」
「ありがとうございます!」
「これくらい余裕」
「ははっ、そうだな」
三人とも、以前に比べ格段に強くなっている。
毎日の努力の成果ではあるけど、一番はあの旅を経験したからだろう。
練習じゃない本物の戦い。
命をかけた戦いの数々を経て、彼女たちは成長した。
実戦じゃないと学べないことも多いと、改めて実感する。
「先生」
「どうした?」
「これで湖の水は戻るのかな?」
アリアは魔物が巣くっていた場所を見つめている。
さらに続けて言う。
「さっきの魔物が、ウルネ様を苦しめてた原因なんだよね?」
「ああ」
魔物の毒素が大地に浸透して、湖に宿るウルネへ影響を与えていた。
そしてウルネが弱っていたことで、雨を降らせることも出来ず、水不足に陥っていた。
自然の雨が降っても、大地に吸収されてそのまま魔物の養分にされる。
さっきの触手の成分は、おそらく水が大半を占めていたに違いない。
「元凶は去った。あとはそうだな。この地の汚染を浄化しよう」
俺は両手を壁にあて、瞑想して祈る。
「主よ――この地に再び、命の息吹をお与えください」
聖女の奇跡。
天へ祈りを捧げることで、様々な奇跡を起こす。
正しきものには祝福を、悪しきものには罰を。
この地は、町の人々が生きるために必要なものだ。
彼らは日々、貧困に苦しみながらも懸命に生き続けている。
時に助け合い、励まし合って。
それは強く、正しい行いだ。
白く淡い光が大地へ注がれていく。
緩やかに広がって、辺り一面を白く染め上げる。
「いつ見ても綺麗……」
「偉大な聖女の力だからな」
光が一瞬強まって、眩しさでみんなが目を閉じる。
次に目を開けた時には、白い光は消えていた。
「浄化は終わった。これで大地は元通りになったよ」
「じゃあウルネ様も元気になったかな?」
「本人に聞いて確かめよう。地上へ飛ぶから、みんな俺に掴まって」
「うん!」
アリアは右腕に抱き着く。
「わかりました」
ティアは左腕に抱き着いた。
そしてマナは正面から俺の腰に抱き着き、下から俺を見上げる。
「準備万端」
「……そこまで引っ付かなくていいんだけど」
まぁ嫌な気分じゃないし、ここまま転移魔法を発動することに。
「じゃあいくぞ」
転移の魔法陣を展開。
足元が光り、パチッと音がして俺たちは消える。
一瞬の浮遊感に襲われて、気が付けば湖の辺に移動している。
ソロモンの転移魔法は、一度訪れた場所であれば、そこを思い浮かべるだけで移動できる。
とてつもなく便利な魔法だけど、その分消費魔力は大きい。
だからこれを使うと、ちょっと疲れる。
「ふぅ、っ、眩しいな」
しばらく暗い地下にいた所為か、日差しが普段より眩しく感じる。
「先生」
アリアが湖を指さす。
「ウルネ様は?」
「……戻ってない」
戻ってきたけど、湖は変わらず枯れかけていた。
ウルネの姿も見当たらない。
だけど、俺には感じる。
「大丈夫」
ウルネの力……精霊の力が強まって弾ける。
最後に残った僅かな水から、特大の水柱が天に昇る。
「わぁー! 水だよ水!」
「こんなにたくさん」
「冷たい」
水柱の上に視線を向ける。
そこには水を操る美しい女性の姿があった。
「ウルネ様だ!」
「力が戻ったみたいだね」
これで町の人たちも安心できるだろう。
ホッとする俺にウルネが微笑みかけてくる。
そのまま水が噴き出し湖が満たされると、ウルネは俺たちの前に移動してきた。
「体の具合はどうですか?」
「お陰様で回復しました。まだ違和感はありますが、じきなくなるでしょう」
「そうですか。なら良かった」
「はい。まさかこうもあっさり解決してしまうとは。ありがとうございます。これでまた、務めを果たすことが出来る」
「お礼は必要ありませんよ。俺たちも無償で戦ったわけじゃないですから」
俺がそういうと、ウルネはニコリと微笑んで、右手を差し出す。
「そうでしたね。これを貴方に」
「ありがとうございます」
彼女の右手から、精霊の円盤を受け取る。
手に取るとずっしり重く、見た目以上に硬い。
加えて今まで感じたことのない種類の魔力が流れている。
「これが……世界の精霊にたどり着くための鍵」
「はい。四つの試練を乗り越えた先に道は開けます。貴方たちならきっと、そこへたどり着けると信じております」
「はい」
俺は円盤を握りしめる。
いよいよ明日、第一巻発売です!
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