57.親孝行
「ねぇシスター! 他のみんなは?」
「裏庭で遊んでいるわ。もうそろそろお休みの時間だから、呼びに行こうと思っていたところよ」
シスターがそう答えると、アリアは教会の左壁にかかった大きな時計に目を向ける。
時計の針は、午後二時五十五分を指し示していた。
「そっか。もうそんな時間だね」
「ええ。もしよかったら、アリアが迎えに行ってくれないかしら?」
「いいの?」
シスターはこくりと頷き、
「きっとみんなも驚くわ」
と言って、アリアに微笑みかける。
アリアはピコッと尻尾を発たせてから、俺のほうを向いた。
じっと見つめるそれは、俺に了承を求めている目だ。
「任せるよ」
「うん!」
アリアは嬉しそうに尻尾を振って、シスターの奥にある扉へかける。
本音を言えば、今の話だけでは何のことを言っているのかわからなかった。
アリアが行きたそうにしていたから、とりあえず行かせただけだ。
すると、ティアが一歩前に出て、俺の隣に来る。
「ここでは昼食の後、自由に遊べる時間が設けられているんです。危ないこと以外なら、何をして遊んでも構いません。ただ、三時になったらちゃんと休憩することがシスターとの約束でした」
「ああ、そういう話か」
ティアの丁寧な説明のお陰で、さっきの会話の意味が理解できた。
「説明ありがとう、ティア」
「いえ、これくらい弟子として当然です」
とか言いながら、ティアも嬉しそうな顔をしている。
とがった耳がぴくぴく動いているのが証拠だ。
アリアの尻尾ほどではないけど、彼女も中々わかりやすいな。
「で、ティアは行かなくてよかったのか?」
「えっ」
「会いたいんだろ? アリアと同じ反応しているぞ」
「……いいでしょうか?」
「もちろん」
「ありがとうございます!」
俺が許すと、ティアはぱーっと表情が明るくなってお礼を口にした。
久しぶりに教会へ戻ってきて、テンションが上がっているのはアリアだけじゃない。
パタパタ足音を鳴らしながら、ティアもアリアの後を追う。
「マナ?」
「あっ、ボクは良いです」
「そ、そうか」
マナは二人ほどはしゃいでいないか。
というより、普段通りだな。
そんなマナの言葉に彼女らしさを感じたのか、シスターが微笑む。
「ふふっ、相変わらずね」
「そうなんですか?」
「ええ。マナは昔から、のんびり屋さんでしたから」
「違うよシスター。ボクは大人だから、落ち着きがあるの」
どやーっと無表情の中にも張りを感じる。
心なしか、背筋もピンと伸ばしているような?
「ふふっ、そうね」
「はっははは」
「むぅ、なんでお兄さんも笑うの」
ムスッとしているマナをみて、微笑ましく思った。
たぶん、ここで暮らしている時も、こんな感じだったのだろうな。
何となく想像できる。
「そういえば聞くのを忘れていたわね。三人はどうしてここへ戻ってきたの?」
「ん、お兄さん」
シスターに尋ねられ、マナが俺に視線を送る。
代わりに伝えてくれ、という意思表示か。
「実は、湖にいるという精霊に用がありまして」
「精霊様にですか?」
「はい。シスターは事情に詳しいと聞きましたので、教えて頂けないかなと思いこちらに伺いました」
「そうだったのですね。私にわかる範囲でよろしいのであればご協力させていただきます」
「ありがとうございます」
シスターの協力は得られそうだ。
立ち話もなんだし、場所を移そう――という感じの話になったところで、奥の扉が勢いよく開く。
「ちょっと、みんな押さないで!」
「シスター、師匠。ただいま戻りました」
子供たちに囲まれるアリアとティア。
わちゃわちゃと楽し気に騒ぎながら、二人の周りに張り付いている。
子供たちの中には、アリアと同じ獣人もいて、他にも様々な種族がいるようだ。
「十……七? 十七人くらいですか」
「はい。一番小さい子で二歳、大きい子で十三歳になります」
「凄いですね。この人数を一人で育てているのですか?」
「いえそんな。街の皆さんにも手伝ってもらっているお陰ですよ」
シスターは謙遜しているようだが、子供たちの腕白さは見ているだけで伝わる。
特に男の子なんて、アリアの尻尾に引っ付いて離れない。
楽しそうではあるけど、面倒を見続けるのは大変だろう。
「よし! 三人とも夜までシスターの手伝いをしよう」
「先生?」
「手伝いですか? 師匠」
「ああ。せっかく戻ってきたんだし、お世話になってるだろ」
偶に帰ったら親孝行するのも、子供の仕事だからな。
俺がそう言うと、アリアが尻尾と耳、右手をピンと挙げて言う。
「はい!」
「確かにそうですね。さすが師匠です」
「お兄さんが言うなら……仕方ないよね」
「うん。俺も手伝うからさ」
「よろしいのですか?」
「ええ。精霊の話は、また落ち着いてから聞かせてください」
一日を急ぐ用事でもないしな。
せっかくだし、俺もシスターに恩を返そう。
シスターが三人を立派に育ててくれたお陰で、俺も彼女たちと出会えた。
俺にとってそれは恩だと思うから。






