56.マード
この度、カドカワBOOKS様より書籍化が決定いたしました!
広大な緑に囲まれた小さな町。
マードの総人口は二千人と少なく、半数が老人や子供である。
二つの大きな街に挟まれている関係上、一時的な休憩地点として利用されることが多い。
建物は全て木造建築で、三階建て以上の建物はない。
また、敷地の半数は畑や家畜の小屋で、様々な農作物を育てている。
レガリアで使われている食材も、ここマードから出荷されたものが多いとか。
「なっつかしー!」
「大げさね。何年も経ったわけじゃないでしょ」
「でも懐かしい」
「まぁ確かに」
マードの入り口に立った三人は、町の景色を見つめながら物思いにふける。
ティアの言うように期間的には大したこともないのだろう。
とは言え、この数か月に体験したことの全てが、色濃くて大変なことばかりだった。
その反動もあって、生まれ故郷を懐かしむ気持ちが強いのかもしれない。
「案内頼めるかな?」
「うん! 任せてよ!」
アリアは元気いっぱいに返事をしてくれた。
里帰りでテンションも普段以上に高い。
笑顔が三割マシくらいでキラキラ輝いているのも良い感じだ。
マードの町並みは一言で表すと素朴。
レガリアのような派手さ、新鮮味はまったくない。
だからと言って悪いわけではなく、落ち着く雰囲気は嫌いじゃない。
特別な塗装もされていない木の建物は、より自然に囲まれているような安心感も得られる。
「先に宿だけ取っちゃおうよ!」
「そうだな。おすすめとかあるのか?」
「あるよー!」
アリアがちょっと駆け足で行く。
案内されたのは横広の建物。
年季の入った看板は、宿の名前がかすれている。
「こんにちは!」
「いらっしゃい。ってアリアちゃんか?」
「うん! おばさん久しぶり!」
「相変わらず元気が良いねぇ。ティアちゃんにマナちゃんも。みんな久しぶりだね」
受付に立っていた女性と仲睦まじく話すアリア。
どうやら彼女たちの知り合いだったらしい。
ふと、視線が俺のほうへ向けられる。
「後ろの人は三人の知り合いかい?」
「うん!」
「同じパーティーのユースさんです」
「初めまして」
じーっと見つめてくるおばさん。
少し恥ずかしい。
「ふん、中々良い男だね」
「でしょ!」
「あっはははは、ありがとうございます」
宿を確保した俺たちは、三人に案内され教会へ顔を出すことに。
道中に話していた彼女たちの育て親がいる。
湖の精霊についても詳しいらしいから、挨拶がてら話を伺おうと思っている。
「ここだよ!」
到着した教会は、大きさこそ普通だけど、立派な建物だった。
町並みには合わない白い壁が特徴的で、唯一木造ではない建築だという。
かすかに子供たちの楽しそうな声も聞こえる。
アリアを先頭に教会へ入ると――
「シスター!」
「その声……アリア?」
教壇に立っていた女性が振り返る。
透き通る白い肌と対照的な黒いシスターの服。
声も優しくて、落ち着いている雰囲気を感じる。
両目とも閉じているのも印象的だ。
「お久しぶりです」
「ただいま」
ティアとマナが続けて声をかける。
その声で気付いたのか、ハッと驚いたような表情を見せるシスター。
「ティア、マナも一緒なのね。三人とも帰ってきていたの?」
「うん! ちょっと用事があって戻って来たんだ!」
「シスターはお元気そうですね」
「ええ。貴女たちはどう? しっかり頑張っている?」
「もちろんだよ!」
「何とか」
「それなりに」
三人ともバラバラな回答。
シスターは口元に手を添えながら嬉しそうにほほ笑む。
「シスター! 今日は紹介したい人もいるんだよ!」
「わたしたちの師匠ユースさんです」
「前にいる」
シスターはアリアに手をひかれ、ティアとマナに説明されながら俺の前へと出る。
「初めまして、彼女たちのパーティーメンバー、ユーストスです」
「あら、その声は男性の方ですね?」
「はい」
やっぱり目が不自由なのだろう。
ずっと両目を閉じているのは、何かしらの障害を持っているからか。
「先生はすっごいんだよー! 何でも出来ちゃうし、とーっても強いの!」
「師匠のお陰で、わたしたちも強くなれましたから」
「みんなに自慢できるお兄さん」
「そう。わたしはサリエナです。三人がお世話になっているみたいで」
「いえ、俺も三人には支えられていますから」
俺がそう言うと、三人はちょっぴり嬉しそうに頬を赤らめていた。
その雰囲気を感じ取ったのか、シスターもニコリと微笑む。






