53.また会いましょう
精霊。
意思を持った魔力の集合体であり、新たな生命。
自然の中に存在する植物や鉱物、生き物以外の無機物ですら、この世界に存在する物であれば魔力を宿している。
その魔力は一つ一つでは弱く乏しい。
しかし、大自然はどこまでも広く続いている。
全てをより集めれば、一つの存在を生み出すなど造作もない。
「同じ精霊であれば、呪いの王の誕生について詳しく知っているはずさ。何より彼らは大自然から生まれている。彼ら以上に、世界について知っている者はいないだろうね」
「なるほど。精霊……か」
世界の法則を塗り替える。
そんな方法があるのか、精霊たちは知っているかもしれない。
「とは言え、簡単じゃーないよ? 色々と解決すべき問題もある」
「問題?」
ローウェンはこくりと頷いて続ける。
「一つ、彼らの居場所だ。私は過去に何度か会ったことがある」
「だったら問題ないんじゃ?」
「残念ながら知っているのは昔の話さ。現在の居場所までは知らない。この長い年月で、新しく街や道が出来たり、地形が変わったりしているからね」
まずは見つけ出さなくてはならない。
ローウェン曰く、同じ場所にいる可能性もあるから、最初はそこを探すのもありか。
「そしてもう一つ。たぶんこっちがもっと難しい問題だ」
と、ローウェンが前置きをしてから言う。
「彼らは等しく、人間を嫌っているのさ」
「えっ、そうなのか?」
「そうだとも」
「理由は?」
「大自然にとって、人間は害悪でしかないからだよ」
精霊は自然から生まれている。
自然から得られる魔力で、彼らは存在を確立させている。
故に自然がなくなれば、彼らは消滅してしまう。
そんな彼らにとって、人間は自然を脅かす危険な存在でしかなかった。
「人は文明を築き発展してきた。その過程で森の木を切り倒し、川の水をせき止め、山に穴をあけている。そういう自然を壊す行為を彼らは嫌悪している」
「精霊にとって自然破壊は、自分の半身をもがれるのと同じ……ってことか」
「その通りさ。だから、仮に出会えても友好な関係を築ける保証はない。最悪、戦いに発展する可能性もあるからね」
ローウェンの話をふむふむと聞く。
話し合いに応じてくれたら嬉しいけど、中々面倒なことになりそうだ。
やれやれ、と心の中で呟く。
「その時は仕方がないな」
「先に言っておくけど、その時は手加減はしないほうが良いよ。今の君でも負けるかもしれない相手だから」
「そんなに強いのか?」
「力の総量だけなら、確実に呪いの王より上だね。何せこっちは大自然が生みの親だ。人間なんてちっぽけな存在のより集めとは違う」
呪いの王より強い……か。
本当なら、慢心している場合じゃないな。
「肝に銘じておくよ」
「そうしておいておくれ。君がいなくなったら、私は宿なしになってしまうからね」
「はっはは、そうだな」
夢の中に光が届く。
ローウェンが見せている光ではなくて、俺の意識が目覚めようとしている証拠だ。
「そろそろ時間だね」
「みたいだな」
「じゃあお話はここまでにしよう。続きはまた別の形で」
「ああ。まだローウェンのことを聞いてない」
「そういう約束だったね」
ローウェンが笑う。
夢の中の対話は、舞い散った花弁に隠れて終わる。
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目覚めの朝。
俺は布団からゆっくりと身体を起こす。
大きく背伸びをして、夢を思い出しながらつぶやく。
「さて、働きますか」
やることは決まっている。
俺は着替えをぱぱっと済ませてから、王城内にある書斎に向った。
途中でアリアたちと合流し、一緒に歩く。
ティアが俺に尋ねてくる。
「先生、調べものですか?」
「ああ、精霊の居場所についてね」
「それなら知っていますよ」
「へぇ……えっ? 知ってるのか?」
思わず聞き返し、廊下の真ん中で足を止めた。
「はい。わたしたちの生まれ故郷の近くに、精霊が住んでいる大きな湖があるんです」
「何々? 湖の精霊の話?」
「懐かしいね。ボクたちは会ったことないけど」
三人の生まれ故郷。
確か三人ともマードっていう小さな村の出身だったか。
俺も以前に行ったことがあるけど、大きな湖なんてあったか?
「村の人しか知らないので、地図にも載ってないと思います」
「そこに行けば、湖の精霊に会えるのか?」
「はい、たぶん。村の人たちは何度か会ったことがあるって」
その話を聞く限りだと、襲われたりもしていないらしい。
これは期待が持てるんじゃないか。
思わぬ形で手掛かりを見つけた俺は、書斎で可能な限りの情報を集めた。
そして、一週間後――
「戻られるのですね」
「はい。お世話になりました。グリアナさんも、頑張ってくださいね」
「ああ、ユーストス殿も。頼まれた精霊の調査も進めておくよ」
「助かります」
俺たちはレガリアに戻ることにした。
精霊の探索もあるし、ずっとこの城にはいられない。
姫様は寂しそうな顔をしている。
「また会いに来てくださいね?」
「もちろん」
「約束ですよ?」
「はい。約束は守ります」
そう言うと、姫様はニコリと微笑んだ。
またキスでもされるんじゃないかと思ったけど、今回は――
「隙ありです」
「あっ」
そんなことはなく、姫様は悪戯に笑って言う。
「予約です」
「あははは……」
やれやれ。
帰り道はうるさくなりそうだな。
「ではまた」
「はい。また会いましょう」
俺は手を振って別れを告げた。
何となくだけど、またすぐに会えそうな予感がしている。






