52.良い夢
賑やかなパーティーが終わる。
姫様の悪戯とか、弟子たちからの説教とか。
色々とハプニングがあったけど、おおむね楽しい時間を過ごせた。
その分疲れたし、今日はぐっすり眠れそうだ。
何だか良い夢を見られる予感がする。
そんなことを考えながら、瞼を閉じると――
「やぁ、良い夢に割り込んでしまってすまないね」
「――いいや、これこそ一番見たかった良い夢だよ。ローウェン」
美しい花園が広がっている。
ヒラヒラと舞い踊る蝶と一緒に、かの魔術師は佇んでいた。
「久しぶりだね、ユーストス」
「ああ」
呪いの王都の戦い以降、彼は一度も俺の呼びかけに答えなかった。
一か月ぶりに声を聞いて、少しほっとする。
「良かった。消えてなかったんだな」
「ん? 私がかい?」
「そうだよ。呼びかけても全然反応しないし。てっきり終わって満足したから、どこかに行ってしまったのかと思ってたんだ」
ローウェンの望みは叶っている。
呪いの王を倒し、報いた時点で満たされている。
そう思ったから、いなくなってしまっても仕方がないと考えてた。
俺がそう言うと、ローウェンは笑って言う。
「はっはっはっ、そんなことはないさ。約束しただろう? 次は君の望みをかなえるために協力しようと」
「そうだったな」
「おうとも。それにまだ、私の目的も半ばと行った所さ」
「え、そうなの?」
ローウェンは小さく頷いて答える。
「呪いの王は倒された。しかし残念なことに、その影響で消されてしまった彼らの記憶は戻っていない」
「あぁ、そういえば」
呪いの王に挑んだかつての英雄たち。
その記録と記憶は、呪いの力によって世界から抹消されている。
誰の記憶にも残らない戦いは、今も尚知らないままだ。
「私はそれが残念でならないんだ。どうにかして、彼らが生きてきた証を残したい。世界を救った英雄としてでなくとも良い。ただ、そういう人たちがいたのだと、今の時代に伝えてあげたいのさ」
「ローウェン……」
「そのためにも! 君の目指す未来に協力させておくれ」
そう言って、ローウェンは握手を求めてきた。
俺は迷いなくその手を握り返す。
「一緒に戦おう」
「ああ」
かつての英雄とその後継者。
自分の言うのも何となく恥ずかしいけど、二人なら世界を変えるくらい簡単に出来てしまいそうだと思った。
「さて、ではさっそく作戦会議と行こうじゃないか」
ローウェンがパチンと指を鳴らす。
すると、蝶たちがヒラヒラと舞集まり、目の前にテーブルと椅子が出来上がる。
「便利な力だな」
「そうでもないさ。私にだって、出来ないことがたくさんある。それを補ってくれていたのが彼らであり、今の君だからね」
なるほど。
そう言われると、悪い気分じゃない。
俺たちは向かい合って椅子に座り、今後のことについて話し合う。
「世界の法則を変える。呪いの王を二度とこの世に生み出さないような仕組みを作る……って、簡単に言ってみたけど、実際にそんなことが可能なのかな?」
「う~ん、結論だけ言ってしまうと、不可能ではないと思う」
可能とは言い切らない所に、何か不安要素が隠されていそうだ。
ローウェンが続ける。
「知っての通り、呪いの王は人の悪感情によって生まれた精霊だ。より正確に言うなれば、人から無意識に漏れ出た悪感情と魔力の集合体。人は怒ったり感情が高ぶると、魔力の制御が利かなくなって、無意識に垂れ流す。その時に流れる魔力には、悪感情がそのまま残っている」
怒り、悲しみ、恨み、妬み……
強力な悪感情のまじりあった魔力は、呪いの王という存在を誕生させた。
それらの感情は全て、他人に向けられたものばかりだ。
そう考えると、呪いの王が人に牙をむいたことも、至極当然だとわかるだろう。
「つまり、人間から悪感情をなくせば、呪いの王も誕生しないというわけさ」
「ローウェン、それは……」
「わかっているさ。そんなことをすれば、人間の人間らしさが欠けてしまう。良いも悪いもひっくるめて人間だ。私は人でなしだけど、それくらいは理解しているよ」
「他の方法は?」
「そうだね。後は全人類に魔力のコントロールをマスターさせることかな」
ローウェン曰く、魔力のコントロールが未熟だから、感情の高ぶりで魔力が漏れ出てしまうらしい。
つまり、全人類が魔法使いになれば、呪いの王も生まれない。
ただし、この方法はあまり現実的ではない。
今いる人間と、これから生まれてくる人間。
全ての人に魔力のコントロールを覚えさせるなんて、普通に考えて不可能だろう。
「じゃあ魔力をなくすか」
「そうだね。まだそっちのほうが現実的だと私も思う。だが、魔法技術の発展と共に繁栄を築いた文明だ。その基を失うことは、すなわち衰退を意味する」
俺もそう思う。
仮に魔力を失えば、困ることも多い。
それを受け入れられるかは、人それぞれの許容によるからな。
「八方ふさがり……か」
「いいや、少なくとも現時点ではだよ。わからないなら、知っているかもしれない者たちに聞けばいいのさ」
「知っている? そんな人がいるのか?」
「いるとも。呪いの王は精霊だった……ならば、同じ精霊に話を聞くのがベストだと思わないかい?」






