51.激闘を終えて
「やはり愚かだな人間は」
「ああ」
「その代表よ。次に会うことがあれば、今度こそ呪い殺すぞ」
「殺されるのは困るから、意地でも世界を変えてみせるさ」
宿敵と交わした約束。
二度と同じ悲劇が繰り返されぬよう、世界の法則すら変えてみせる。
それは理に挑むということ。
かの王は愚かだと笑い、消えていった。
呪いの王との戦いの後、俺たちは王都へ帰還した。
道中に関わりのあった街や人々に挨拶をして回り、無事と回復を喜び合う。
行きとは違って刻限はない。
俺たちはゆっくりと帰り道を行き、王都へ戻ってこられたのは、出発から一月後の夕暮れ。
王都の入り口。
出迎えてくれたのは、一国の王女であるレオナ姫だった。
「ユーストス様、皆様も、お帰りなさいませ」
「ただいま戻りました。レオナ姫」
呪いの王が倒されたことで、レオナ姫の呪いは解呪されていた。
解呪後もしばらく不調が続いたようだが、しっかり栄養補給をして、休養をとったら回復したという。
王都の街で広まっていた呪いの被害も、きれいさっぱり消えていた。
その話を聞いて、ようやくひと段落したのだと実感する。
翌日。
王城では盛大にパーティーが開かれた。
何日も前から準備されていたらしく、俺たちの活躍を街を巻き込んで祝福してくれた。
ちょっぴり恥ずかしくて反応に困ったけど、いろんな人から飛び交う感謝の言葉を浴びたら、恥ずかしさよりも喜びのほうが大きくなったよ。
とは言え、こういう華やかな舞台は似合わないと思う。
「そんなことはないさ」
「グリアナさん」
パーティーには彼女も参加している。
普段の騎士服ではなく、パーティードレスを着ていた。
「グリアナさんは似合ってますね。ドレスも、このパーティーも」
「ふふっ、そういうセリフは、彼女たちに言ったほうが良いのではないですか?」
「はっははは、確かにそうですね」
彼女が言っているのは、弟子たちのことだろう。
今は三人で一緒にパーティーを楽しんでいる所と思う。
「ありがとうございました。グリアナさん」
「急にどうしたのですか?」
「リンドブルムを弟子たちと協力して抑え込んでくれたでしょう? お陰で俺は、呪いの王との戦いに集中できました。そうでなければ、負けていたかもしれません」
「ユーストス殿がそこまで言う相手だったのだな。呪いの王というのは」
「はい。これまで戦ったどんな相手より強かったし、戦い辛い相手でしたよ」
今でも鮮明に思い出せる。
戦いの細部までハッキリと、記憶と肉体に刻み込まれている。
俺はきっと、あの戦いを生涯忘れることはないだろう。
「そうですか……ユーストス殿、私からもお礼を言わせてください」
グリアナが深々と頭を下げる。
下げたまま、続けて言う。
「貴方のお陰で、私は団長の意思を継ぐことが出来ました」
「そんな……俺は別に、お礼を言われるようなことはしてません。今でも思うんです。あの時……もっと別の方法があったのなら……」
理由や過程はどうあれ、俺は団長を殺した。
グリアナは感謝を口にしてくれたけど、あれが正しい行いだったのかなんてわからない。
少なくとも、後悔は残っているようだし。
「いいえ、団長もきっと満足だったと思います。ユーストス殿と本気で打ち合えて、楽しかったはずです」
「グリアナさん……」
「団長はそういう人ですから。だから私も、まっすぐ自分の騎士道を歩んでいこうと思っています」
グリアナは小さく微笑んでそう言った。
彼女の瞳からは迷いが感じられない。
今の彼女なら、騎士団も大丈夫なのだろうと思う。
「では、私はこれで失礼します。それと滞在中は私の稽古に付き合ってもらいますよ」
「そうでしたね。お手柔らかに」
グリアナが去っていく。
彼女と交代するように、次の客が近づてくる。
「少しお話しませんか? ユーストス様」
「もちろんですよ」
王女様からの誘いを断るなんて、俺には出来ない。
レオナ姫は俺の隣に立ち、月を見つめる。
「月が綺麗ですね」
「ええ」
「実は呪いを受けていた頃は、月もぼやけて見えていたんですよ?」
「そうだったんですか?」
「はい。こうして見えるようになったのも、呪いが解呪されてからです。ユーストス様が約束を守ってくださったから」
そう言って、レオナ姫は俺を見つめる。
うっとりした表情に見えるのは、気のせいではなさそうだ。
「本当にありがとうございました」
「感謝なら散々もらいましたよ」
「まだ足りません。ユーストス様が成し遂げた偉業は、私の一生をかけても返せない恩ですから」
「それはさすがにほめ過ぎですよ」
何だか恥ずかしくなってしまう。
「ふふっ、ユーストス様らしいですね。この後はどうされるのですか?」
「そうですね。しばらくは滞在しようかと思っています」
調べたいこともたくさんある。
その点は王都のほうが都合が良い。
「良かった。でしたらまだお会いできますね」
「ええ、そうなりますね」
レオナ姫は嬉しそうにほほ笑む。
「師匠ー!」
するとそこへ、アリアたち三人がやってきた。
呼ばれた俺は彼女たちのほうへ振り向く。
その隙をついて、レオナ姫は俺の頬にキスをしてきた。
「「「ああぁー!」」」
「なっ……姫様?」
「ふふっ、またお会いしましょう」
そう言って最後に見せた笑顔は、今までで一番綺麗だった。
元気になったレオナ姫は、ちょっぴり小悪魔だ。






