54.ただいま我が家
俺たちの馬車はレスターブ王国を出る。
どうしてだろう?
二か月もいなかったはずなのに、何年も暮らしていたような感じがする。
出て行くのが名残惜しいなんて、レスタを出た時とは大違いだな。
馬車に揺られ国境を抜け、俺たちは久しぶりにレガリアの街へ帰還した。
「帰ってきたー!」
「だな」
アリアが大きく手をあげている。
久々に戻ったレガリアの街並みは、ある意味新鮮さすら感じられた。
ゴブリンロードとの戦闘で壊された建物や道も、すっかり元通りになっている。
人々はのどかな生活を取り戻し、賑やかさは初めて来た時と同じだ。
馬車を返し、自分たちのホームへ戻る。
我が家に帰ってくると、何だか心が落ち着く。
「お兄さん、この後はどうするの?」
「一先ずゆっくり休もうか。ギルドへの報告とかは、全部まとめて明日にしよう」
帰って来ただけでも、長旅での疲れは出る。
これから先を考えたら、ちゃんと休めるときに休んでおいたほうが良い。
翌日――
俺たちはギルド会館に向った。
もう忘れているかもしれないけど、呪いの王の一件は元々、ギルドを経由しての依頼だった。
ギルドへ報告して、初めて依頼は完了となる。
「あっ! ユースさん!」
「こんにちは」
「こんにちは! 戻られていたんですね」
「はい。ちょうど昨日戻ってきました」
王城からの依頼書をくれた受付嬢だ。
俺たちの帰還を心待ちにしていたらしい。
「噂はここまで届いていますよ! ユースさんたちが王国を救ったって」
「えぇ……そうなんですね」
なるほど、だからか。
ここへ向かう道中、妙な視線を感じていた。
SSSランクになった時とも違う。
声もかけてこないし、遠巻きで噂されている感じがしていたんだ。
「その噂って街にも広まってますよね?」
「はい! 一時は街中その話題で大盛り上がりでしたよ」
「はっはははは……」
知らない所で名前が広まっているようだ。
嬉しい反面、注目され過ぎるのも疲れると実感する。
「それとですね~」
受付嬢が何やらごそごそとあさっている。
取り出されたのは、山盛りになった依頼書。
「な、何ですかこれ?」
「ユースさんへの依頼書ですよ」
「えっ! まさかこれ全部ですか?」
「はい」
冗談じゃない。
ぱっと見だけでも数十……下手したら百件以上あるぞ。
俺が不在の間に、たんまり依頼が溜まっていたのか。
「どうされますか?」
「と、とりあえず内容だけ確認させてください」
「かしこまりました」
依頼書を受け取った俺は、ギルド会館の一テーブルにどさっと置く。
その後で大きなため息をこぼした。
「たっくさんあるね~」
「どうされるのですか?」
「全部受ける?」
「いや、さすがにそれはきついだろ」
とは言え、せっかくきた依頼を全て破棄するわけにもいかない。
内容と送られてきた期間を見て、受けられる物から順にやっていくことにする。
しかし参ったな。
これじゃ三人の故郷に行くのは、当分先になりそうだ。
「仕方ない。張り切って頑張りますか」
その日から俺たちは、溜まった依頼消化に全力で取り組んだ。
簡単なものはアリアたちに任せたり。
重複で受けられそうなものは、まとめてこなしたりと工夫しつつ。
レガリアを出発した時より成長しているから、難しい依頼でも難なくこなせる。
自分たちの成長を実感しながら、怒涛のような日々が過ぎていった。
そして三週間後――
「「終わったー!」」
俺とアリアは声を合わせて背伸びをした。
合計で百二件あった依頼を、何とか全てさばききることが出来た。
中々にハードな生活が終わって、ようやく本題に取り組める。
と思っていたのに……
「ありがとうございます。また新しい依頼が来ていますよ!」
「うっ……もうこんなに?」
「はい。人気者は大変ですね」
受付嬢は他人事のようにニコニコしながら言う。
どさっと出された依頼書を見て、さすがの俺たちもげんなりした。
「えっと……一先ずそれは保留でお願いします」
さすがに依頼ばかりをしている暇はない。
俺にはやるべきことが残っている。
そのためにも――
「三人とも、マードに出発する準備をするぞ」
「おー!」
「はい!」
「うん」
彼女たちの故郷。
マードにいるという湖の精霊に会おう。






