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48.純粋な殺意だけ

 スキル【神速】を発動。

 最速の槍兵クランの速さには、この世の誰も追いつけない。

 呪いの王であっても、速度で張り合うことは不可能だ。


「速さで翻弄するつもりか?」


 縦横無尽に駆け回る。

 構造が人間と同じなら、背後は死角だ。


「が、残念ながら足りぬぞ」


 背後に回り聖剣を振り下ろそうとした俺に、無数の棘が襲い掛かる。

 彼は振り向いていない。

 攻撃してきたのは、彼の背中だ。

 背中の形状が変化し、ハリネズミのように棘を纏っている。


「我の身体は呪いそのもの。形状は自由に変化させられる」


 球状の結界を発動させ棘は防御した。

 俺は空を蹴り、彼の前へ降り立つ。


「ここは我の領域だ。どこへどう移動しようと、手のひらの上では丸見えだぞ?」

「それはどうかな?」


 今だ――放て!


 無数の矢が王の頭上から降り注ぐ。

 確実に不意をついた攻撃だ。

 しかし、これにも動じることなく対応する。


「魔法弓の遠隔射撃か。我の知る弓兵にはなかった芸当だ」


 そう言って、王は髪を鋭い鞭に変化させ、降り注ぐ矢の雨を振り払う。

 俺が使ったのは、女神が至る可能性。

 剣聖の同様に、彼女がいずれ到達したであろう魔法弓の使い方。

 あらかじめ魔法弓を空中に展開させ、任意のタイミングで射撃させる。


「なるほど。不意打ちは通じないってことか」


 ならば――


 無数の魔法陣を展開させる。


「速度が通じぬなら数でくるか。良い、火力勝負といこう」


 呪いの王も背後に黒い球体を展開させる。

 球体は漆黒の炎を纏い数を増す。

 呪力を帯びた火球。

 あの炎は人間だけを燃やし尽くす。

 

 対する俺の魔法陣は、魔力エネルギーを高濃度に圧縮して放つ。

 単純な魔法だが、威力は魔力量に大きく依存する。


「マナバレット」

「黒炎球」


 黒き炎と七色の光。

 威力は互角。

 互いの攻撃を相殺し合う。


 魔法には聖女の力も上乗せしてある。

 それでやっと互角か。


「中々やる。が、これでも不足だぞ?」


 呪いの王は余裕そうにニヤつく。

 火力でもダメージを与えられない。


「次は剣か?」

「ああ」


 聖剣を両手で持ち、上段に構える。

 剣聖が至れなかった極地。

 呪いの力を得たアレクセイを切り裂いた究極の一振り。

 これならば、呪いの王にも届くはずだ。


「ふっ、この程度か」


 その一撃を、彼は難なく受け止めた。

 地は裂けているが、彼の肉体には届いていない。

 剣士がたどり着く頂きですら、かの王には傷一つ付けられなかった。


 冗談だろ……


「どうした? もう終わりか?」


 俺の剣を弾く。

 大きく後退して、睨み合う。


「よい表情だな。ようやく理解したか?」

「……」


 呪いの王は強くなっている。

 英雄たちが倒した時より、何倍も力が増している。

 対峙した時点で気付いていた。

 それでも、何とかなると思っていたんだ。

 かつて世界を救った人たちの力を合わせれば、現代の王にも対抗できると。

 だが、予想は大きく外れてしまった。

 英雄たちの到達点、その一歩先を体現しても足りない。


「ふぅ……」

「何だ? もう諦めたのか? 思った以上に早かったな」

「……ああ、諦めたよ」


 このままじゃ駄目だ。

 彼らの力を全て発揮しても、強くなった呪いの王には勝てない。

 痛感させられて、諦めることにした。


「本当は……こんなものに頼りたくなかったんだけどな」

「――? どういうことだ?」


 俺から発せられる力を、呪いの王が感じ取った。

 彼の表情は驚きと疑いが混ざり合っている。

 それもそのはずだ。

 なぜなら……


「なぜだ? なぜお前が……呪いの力を持っている?」


 身体からあふれ出る黒いオーラ。

 俺が行使しているのは、紛れもなく呪いの力だった。

 故に彼は疑問を口にした。


「俺だって使いたくはなかったさ。でも勝つためには、こうするしかない」


 かつて俺は、この力を間違いだと言った。

 それを自らが犯すなんて、恥ずかしいことこの上ない。

 諦めるというのは、そういう意味だ。


「問いの答えになっていないぞ。なぜと聞いている」

「ああ、何だ? 俺のスキルを知っているわけじゃないんだな」

「スキルだと?」

「そう、俺のスキルは継承だ。武器や道具を介して、所有者の経験やスキルを手に入れることが出来る」

「所有者……そうか。あの騎士の剣」


 騎士団長アレクセイ。

 俺は彼の剣から継承していた。

 技術と経験、そして――与えられた呪いの力。

 その使い方を知った。

 呪力は本来、この世界に生きるものであれば誰しも持っている。

 持っているが、弱々しくて感じとれないだけだ。

 呪力は負の感情によって増幅し、身体の奥底で蓄積される。

 俺の中にも呪力はあった。

 それをこの場所に至るまで、蓄え続けてきたんだ。

 王にも悟られないように、幾重にも魔力の障壁を形成して。


「呪力の源は負の感情……想いの力だと言ったな? 俺にもあるぞ。お前に対する負の感情が――お前を殺したいという純粋な殺意が」


 殺意が呪力を増幅させる。

 黒いオーラが全身を覆い、肉体が強化される。 

 それを見て、呪いの王が口を開く。


「理解しているのか? 人間が呪いの力を行使すればどうなるのか。お前はその目で見ているはずだ」


 アレクセイの最後が脳裏に浮かぶ。


「それを知って尚、我が力に手を出すとは……愚かにも程がある」

「なめるなと言ったはずだぞ」

「聞いて覚えている」

「いいや、お前は理解していない。俺のことじゃなく、俺の中にいる彼女の力を」


 聖剣に流し込むのは聖女の力。

 そこへ加える呪力。

 相反する力が混ざり合い、反発し合い、新たなエネルギーを生み出す。

 白い稲妻と化したエネルギーは、呪いすら貫く。


「――白雷(びゃくらい)」

「くっ、我が炎と張り合うか!」


 呪いの王は黒き炎を纏う。


「お前を殺す!」

「やれるものならなぁ!」


 雷と炎がぶつかり合う。

 これが今出せる俺の全て。

 貫いてくれ。

 もっと殺意を込めろ。

 俺の中にもの全て、今この瞬間に使いきれ。

 

「うおおおおおおおおおあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 叫び、振り絞る。

 一滴まで注ぎ込む。

 それでも……


「はぁ……はぁ……くそっ」

「やってくれたな、腐った人間風情が」

 

 足りないのか?



 いいや、十分だよ。


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