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47.呪いの王

 呪いの王。

 その見た目は、人間の青年と同じだ。

 黒い髪に紫色の瞳。

 肌の色は日に避けたことのないような白で、傷一つ付いていない。

 身長も俺と変わらないくらいだろう。

 一目見ただけでは、恐ろしい存在だとは思えない――


 なんてことはありえない。

 

 一目見れば誰でもわかる。

 憎悪、恐怖、悲しみと言った負の感情が自分の内でざわつき出す。

 普通の人間と変わらない見た目をしながら、明らかに異質な存在感を放っていた。

 全身の細胞が、産毛の一本に至るまで騒ぐ。

 この男を――倒せと。


「まぁ待て」


 呪いの王が手をあげてそう言った。

 聖剣を手に、一歩踏み出していた俺の身体は、ピタリと動きを止める。

 自分の意思で止めたわけではない。

 引き留められ、動けなくされた。


「っ、呪言か」


 言葉に呪力を込め、相手の行動を支配する。

 魔力で脳を防御するのを怠っていた。

 聖女の力で無理やり振り払い、改めて脳を保護する。


「もう対策したか。さすがに早いな」


 俺は聖剣を構えて呪いの王を睨む。

 対する王は、呆れたようにため息をつく。


「待てと言っただろう? 少し話をしようではないか」

「話だと? そんなことしている暇はない」


 地上では彼女たちが戦っている。

 きっと劣勢だ。

 それでも戦い続けているに違いない。

 俺の勝利を信じて、いつか来る終わりを待っている。


「そうか? ならば――」


 呪いの王が眼前から消える。

 次の瞬間、彼の顔が目の前に現れる。


「戦いながら語り合うとしよう」

「ぐっ……」


 反応が遅れた。

 ギリギリで手刀を回避し、一旦距離をとる。

 ここで彼の腕が剣のように変化していることに気付く。


「よく躱した。さすがは意地汚い人間どもの代表」

「お前に言われたくないな」

「そうでもない。我以外にこれを言う資格はないのだぞ」


 呪いの王は余裕の表情で語る。

 俺は構わず攻勢に出て、聖剣を振りかざす。

 呪いの刃と聖剣の刃。

 二つの力がぶつかり合い、地に咲いた花が舞う。


「愚かな継承者よ。我がどうやって生まれたのか、お前は知っているのか?」

「知っているさ」


 呪いの王を形作っているのは、人間から漏れ出た負の感情。

 怒り、悲しみ、恨み、妬み……人が内に秘める良くないものに力が宿り、かの王を誕生させた。


「そう、我を生んだのは紛れもない貴様ら人間だ。そうだというのに、なぜ貴様は我と戦っている?」

「お前のばら撒く呪いで、多くの人が苦しんでいるからだ」

「それは自業自得であろう? 我を形作る悪感情……その矛先が、人間どもに向うのは当然のことだ」

「だから目を瞑れと? それで大切な人たちが、死んでいくのを受け入れろとでも?」


 俺たちは刃をぶつけ合いながら、同時に言葉もぶつけ合う。

 互いの主張が繋がることはない。

 ここにたどり着き、戦いが始まった時点で、わかり合う道などありはしないのだから。


「ふっ、ならば貴様は知っているか? 人間どもの悪感情の味を……腐った雑巾を丸のみしているような物だぞ。我の中に日々それが流れ込んでくる。仮にお前が我だったとして、果たして耐えられるか?」


 悪感情の味……呪いの源。

 それを最初に知ったのは、紛れもなく呪いの王だ。

 彼を生み出し、生き長らえさせているのは、この世界に生きる人々に他ならない。


「それに感じているのだろう? 我の力が、数千年前より増していることを」

「……」


 彼の言っていることは事実だった。

 英雄たちが戦ったかつての王と、目の前にいる現代の王は似て非なる存在だ。

 呪いの質、量、どす黒さが増している。

 つまりそれは、現代の人々が発している悪感情の強さを示している。


「度し難いものだ。平和を手に入れて尚、人間どもは争いを止めない。他人を尊ぶことよりも、心の内で蔑み、恨むほうが強いとは」

「そんなこと!」

「ないと言えるのか? 我と対峙しているお前が、それを否定できるのか?」


 出来ない。

 彼の力が増していくのを感じる。

 今、こうしている間にも、世界中で悪感情は生まれている。

 人と人が関わり合えば、どうしたって消えない。

 善良な人々でも、心の奥底に一つや二つは必ず持っているのだから。


 地に咲いた花。

 ただの花ではなく呪力が込められている。

 ツタが伸びて俺の身体に絡みつく。


「っ、邪魔だ!」


 風を纏う魔法を発動。

 絡みついたツタと一緒に、周囲の花が散っていく。


「酷いことをするな。花も尊い命だぞ? いや、それでこそ人間らしいか」

「いいかげん黙れ」

「事実が耳に痛いか?」

「なめるなよ」


 鍔迫り合いの中。

 俺は呪いの王に言う。


「人間の愚かさくらい知ってるさ」


 何せ実体験がある。

 加えて英雄たちの記憶も体験している。

 俺は普通よりも、人間の嫌な部分をたくさん見せられている。


「それを知った上で、俺はここに来たんだよ」

「ほう。救う価値があると?」

「あるさ。俺が見てきたのは、愚かさだけじゃないからな」


 人間のもつ可能性。

 善性、他人を思いやり、いつくしむ心。

 どれだけ荒んだ感情を持っていても、失われなかった優しい想い。

 俺の周り……少なくとも今は、それが溢れている。


「教えてもらったからな。彼女たちに」


 追い出されて悲しみに暮れた時、俺は英雄たちの存在を知った。

 力を受け継いで、素直な弟子たちとも巡り合えた。

 分かり合えた人もいて、道を違えた人もいた。

 それらは全て、俺の中に残っている。

 

 切っ先を向け、改めて宣言する。


「呪いの王よ。貴方を倒そう」

「ふっ……やはり人間は愚かだな」

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