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「なんでこんなとこで寝てるんだ……」

 白鯨討伐から数日後の早朝。早くに目が覚めてしまった海斗は射撃練習しようと射撃場へ向かっていた。夜の哨戒などがあり活動時間が人それぞれのため射撃場などは二十四時間いつでも使用可能だ。

 そんな道中のベンチで眠るサラを発見した。

 基地内であり上空をみれば周囲を警戒するようにオリークが飛んでいるため、危険性はそこまで高くないがそれでもどうかと思わざる負えない。

 起こした方がいいだろうと判断し近づくと、マガジンの抜かれたサラのサイドアームUSPを抱きしめるようにしているのが見えた。小柄なサラに不似合いな大型のハンドガンは昔サラがSB教団に囚われていた頃に共に捕まっていた仲間の形見だと聞いている。当時サラと共に捕まっていた者の中にAMSFの隊員でありサラとも仲の良かった者がいたらしかった。それ故にサラは物凄く大切にしていた。

「おい、起きろ。ここで寝るな」

 軽くゆすってやる。すると「んぅ……ん? んん……ん、ふわぁ。あ、海斗、おはよ」と目を覚ました。

「おはよ、じゃない。部屋に戻ってから寝ろよ」

「ね、海斗。ちょっとこれ見て」

 そう言ってUSPを手渡す。

「人の話を……ってスライド割れてるじゃないか」

「昨日、射撃練習してたらそうなった」

 淡々とした物言いだが、その表情には隠しきれない悲愴感があった。じっと海斗の手元にあるUSPを見つめている。

「あー、これバレルも駄目だな……」

 スライドを外し、内部の様子もみていた海斗は問題がスライドだけではないことに気付く。整備を怠った結果、というよりは経年劣化だろう。火薬を使用し発砲の反動をもろに受けるため、長年使用しているとどうしてもこうなってしまう。

「……サラ、言いにくいんだけど。これ部品を取り換えるより銃自体を変えた方がいいぞ」

 恐らく見えない他の部分も劣化が進んでいるだろう。これではいつどこが壊れるか分からない。今回は練習中の出来事だったため大事にはならなかったが、これが実戦中だと命にかかわる問題だ。

「でも、これ」

 大切なものだから、手放したくないとその目は訴えている。

「大事な銃でことは分かってるよ。でも実戦で何かあったら困るだろ。それに何もその銃を廃棄しろって言ってる訳じゃない。使わずともお守りとして持っておけばいい」

「……」

「生き残って復讐するんだろ? だったら少しでも死なないようにするべきだよ」

「分かった。じゃあ新しいのは海斗が選んで」

「え?」

「狙撃のこと以外あんまり詳しくないから。だから私に合うハンドガンを信頼できる海斗に選んで欲しい。海斗は詳しいでしょ」

 その言い方は卑怯だと言わざる負えないが、サラの言うことは事実である。片目がほぼ見えないサラは狙撃以外を実戦で行うことはほとんどない。いざという時のためにUSPでの射撃練習はしているものの、技量や知識は海斗たちと比べるとどうしても一歩劣ってしまう。

「だったらサラも一緒にきてくれよ。そうした方が選びやすい」

「やだ、私は眠い。こんなとこで寝ちゃうぐらいには、ね」

「……分かったよ。ならサラは早く部屋に戻って寝てろ」

「ん、おやすみ……っとと」

 自室へ帰ろうとするサラだったが、自身の左側にあった出っ張りに気付かず体勢を崩してしまう。

「おっと……大丈夫かよ」

 距離が近かったこともあり海斗はとっさに受け止めるとぽすっ、と小さな衝撃が海斗に走った。

「平気平気」

 海斗に抱き留められたことに恥ずかしがるでもなく、それだけを言うとふらふら寮へと戻っていった。

「しょうがねえ。見繕ってやるか」

 それを見送ると射撃練習の予定を取りやめ基地内にあるガンショップへと向かう。AMSFには官給品がなく、各隊員の好みで装備をそろえて良いことになっている。ありがたい話ではあるが、その分それぞれで使用弾薬が異なったりと補給の面では苦労することもあるため、一長一短だ。

 ガンショップの中に入ると、道中である程度絞っていたいくつかのハンドガンを探し始める。ガラスケースには東西の様々なハンドガンが収められていて、少し離れた壁にはライフルなどの大きい銃が掛けられている。

「……レオン?」

 ハンドガンを探していると、この場で見るのは珍しいレオンの姿を発見した。

「よお、こんなとこで会うとはな。ははっ、まさか俺のことつけてたのか?」

「違うって」

 冗談を言うレオンに先ほどの出来事を話す。

「そういうことか。じゃあ俺も手伝うぜ。丁度暇になっちまったとこなんだ」

「そういえば、レオンこそなんでここに?」

「ああ、ナンパしてたんだけど背中の傷痕を見たとたんに思いっきり引かれて、逃げられちまった。あーあ、美人だったのにな……勿体ねぇ。まあそういうことで急に暇になっちまって暇つぶしにぶらぶらしてたとこだ」

「背中の傷痕見たとたんって……まあいいや。問題になるようなことだけやめてくれれば」

 どういう状況だったのか何となく察しの付いた海斗は、その話を掘り下げることなく注意だけした。

「んじゃいっちょサラの銃選ぶとするか。お前のことだある程度目星は付けたんだろ?」

「P2000か、G21か、FNP45あたり、かな。あとはP239とか」

「無難な感じでつまんねえな。もっとこう、P11とかさ。ああいうのも選択肢に入れてもいいんじゃねえか」

「水中銃だろそれ。どこで戦うこと想定してるんだよ……」

 白鯨との戦闘は海上になるとはいえ、水中で戦う状況はあり得ないと言っても過言ではない。

「ははっ、冗談だよ冗談。そうだな……FNPなんて良いんじゃねえか」

 FNP45はドットサイトやサプレッサーなどを装着することを前提として作られている。サラは片目がほぼ見えないため、視認性の高いドットサイトが使えるというのはポイントが高い。グリップの大きさも変えられるため、構えにくいということもないだろう。

「USPと同じ四十五口径だし、使いやすいだろ」

「それは俺も思ったんだけど……P2000の方が良くないか。USPがベースになってる銃だし」

 ハンドガンにはマガジンを変える際に使用するマガジンリリースボタンと呼ばれるもがあるのだが、USPシリーズは利き手が左右どちらでも問題ないようにレバー式になっている。そのためリロード時の動作が他のハンドガンと少し異なっている。それに慣れているであろうサラのために、USPの小型改良版と言えるP2000の方がいいのでは、と海斗は思ったのだ。

「それぐらいの動作すぐ慣れるだろ」

「……それもそうだな、FNPにするか」

 スナイパーであるサラがサイドアームを使用するときというのは、敵に背後をとられた時や狙撃地点を変えるときだろう。そういった時に使用するのであれば九ミリよりも殺傷能力に優れた四十五口径の方が有用だ。海斗がFNPを選んだ最終的な理由はそれだった。

「さて……ん」

 FNPを買おうと店員を呼ぼうとしたその時だ。とあるものが海斗の目を引いた。

「……愛歌にでも買っていってやるか。頼まれ物とはいえ、サラにだけ買っていったらむくれそうだし」

 海斗はそう思い予定になかった愛歌へのプレゼントを共に買いレオンと共にガンショップを後にする。

「……まめだねえ海斗。わざわざそんなもの買っていくなんてよ」

「後でこのことに気付いたら、サラちゃんだけずるーいって言いだすに違いないからな」

「それで先にプレゼント作戦ってことか。ま、いいんじゃねえの。どういう理由であれあいつは喜ぶだろうし」

「なんか棘のある言い方な気がするんだが」

「棘と言うか注意したほうがいいんじゃねえかって話だ。愛歌はお前のことが好きで、それはお前も知ってる。でもその気持ちに答える気はないんだろ? それなのにそうやって気を持たせるようなことするのは考えた方がいいとお兄さんは思うぞ」

「そっち方面でレオンにまともなこと言われるとは思わなかったよ」

「そりゃ俺のモットーは『出会った時は泣いてても分けれるときには笑顔に』だからな。女性は笑ってるときが一番魅力的なんだから悲しませんなよ」

 今までのレオンの経験から出た言葉なのだろう、重みがあり説得力がある。

「ま、お前の場合は部隊のまとめ役として必要なことでもあるだろうし、そんな文句があるって程でもねえよ。だた、度は越すなよって話だ」

「この前サラにもちょっとそのことで言われたよ」

「まじかよ、あのサラが? よっぽどお前心配されてるんだろうな」

「そんなに俺情けないか」

「少なくともリーダーとしては頑張ってると思うけどな。色恋沙汰は俺から言わせればまだまだだ。なんなら教えてやろうか?」

「遠慮する。レオンに教えてもらったら駄目な大人になりそうだから」

 冗談交じりにそう答えるとレオンは楽しそうに笑った。

「ははっ、言ってろ」

「真面目な話、これは俺と愛歌の問題だから。出来るだけ自分でどうにかするよ」

「おう、頑張れ。……お。あそこに居る子可愛いな。ちょっと若い気もするけど、スタイルいいし……ちょっくら行ってくるぜ」

「問題は起こすなよ」

「分かってるよ」

 それだけを言い残しレオンは少し離れたところを歩いていた女性の元へ意気揚々と向かっていった。少しレオンを目で追っていると一言二言話しただけですぐ打ち解けたようで楽し気に話を続けていた。

「あれはあれで才能なんだろうな」

 そんなレオンを置いて海斗は一人寮へと戻る。

「あ、お帰りー」

 帰ってきた海斗を愛歌が出迎える。海斗の姿を見つけるなり駆け寄ってくる姿は主人の帰りを待ち望んでいた子犬のように見えてしまい思わず笑ってしまう。

「え、なになに。私の顔に何かついてた?」

 心配そうに少し顔を伏せながら問いかける。

「いや、そういうことじゃないよ。なんでもないから気にしないでくれ。それより掃除してたのか?」

 今の愛歌の恰好はどう見てもそうとしか思えない服装だ。

「ちょっと暇ができたからみんなの銃手入れしてたの」

 そう言ってガラスケースに目を向けた。

「そっか。あいつらも喜んでるだろうな」

「だと嬉しいな。あれ。ね、その持ってるのなに? 新しい銃?」

 ガンショップの袋に入っているのを見つけた愛歌は興味深そうに覗いてくる。

「サラの、な」

「ええ!? なんでリーダーがサラちゃんの買ってるの……? まさか、そういう……?」

「そういうって、どういうだよ。サラの使ってるUSPがもう替え時だったんだけど、眠いから買っておいてって頼まれただけだ」

「それ明日買いに行く、とかじゃダメだったの?」

「え、あ」

 それもそうだと今になって気付いた海斗は思わず二の句が継げなくなってしまう。

「いやでも、明日急に出撃するかもしれないだろ」

「ふーん」

 じとっとした目で見つめてくる愛歌から逃げるためにもう一つ買ってきた物を袋から取り出す。

「ほらこれ。やるよ」

 小さな無地の箱に収められたそれを手渡すと、驚いたようにきょとんとした表情を見せた。

「え、何プレゼント? 今までくれたことなんて無かったのに。どうして」

「何となくだ、ただの気まぐれ。深い意味はない」

「だとしても嬉しいよリーダー! あ、開けてもいいかなっ?」

 ぶんぶんと勢いよく振られる尻尾が見えるような喜びかたに苦笑しながら首を縦に振る。

「なんだろーな。リーダーが買ってきてくれた物なんだろーな」

 歌うように声を弾ませる愛歌を見ていると適当に買ってしまったことを少し後悔するが、それでも愛歌なら喜んでくれるだろうという確信もあった。そしてそれに違わず蓋を開けた愛歌は「わぁーー」と歓声を上げしげしげと見つめている。

 海斗が渡したものは九ミリ弾の薬莢を使ったネックレスだ。実弾を使ったものではあるが、使用済みのもののため暴発する危険はない安全なものである。

「本当はもっと女の子らしいのが欲しかったんじゃないか?」

「ううん、そんなことないよっ。ほんと、嬉しい。……ね、リーダー。折角だからリーダーが私につけて」

 ネックレスを海斗に渡し、くるりと背中を向けた愛歌は髪を上げた。

 愛歌の白髪と同様に綺麗で透き通ったうなじが露になり、思わず見惚れてしまう。

「?」

「ああ、いやなんでもない。ほら、前向いて」

 一向に動こうとしない海斗に愛歌は振り返ってきた。そこでようやく自分の動きが止まっていたことに気付いた海斗は、行動を再開する。

「あ、……ひゃっ」

「黙ってろ」

「だってリーダーの手が触れてドキッてするんだもん……」

「お前がつけてって言ったんだろ……よし、いいぞ」

 つけ終えたことを知らせると、愛歌は首元にあるそれを手に取り大切そうに掴む。

「お守りだと思って大切にしろよ」

「うん、これリーダーだと思って大切にするね」

 何やら曲解されてるが心底嬉しそうにする愛歌を見ていると、それを訂正するのも野暮かと海斗は何も言わないことにした。

「……それで、これはその。私の告白の返事とかでは、無いんだよね?」

「ん? ああ、別に関係ないぞ」

「そっか。じゃあよかった」

「よかった?」

「え!? あっ、いや、その……急に返事されると私も困っちゃうから、あはは……」

 乾いた笑いをして誤魔化す。

 時折こういった言動を愛歌はとるのだが、それは必ずと言っていいほど海斗の方から愛歌に詰め寄った時だ。緊張している、と言われればそうなのかもしれないが海斗はどこか違うと感じていた。

 これこそが、愛歌が本心から好意を向けているのではなくAMSFで活動するための糧のための思い込みに過ぎない。と海斗が考える理由だった。

 自分が距離を詰めるのはいいが、海斗から近付こうとすると一定の距離をたもつように離れてしまうのだ。

「ともかく、ありがとリーダー。とっても嬉しい。好きだよ!」

 そう言い残し愛歌は自室へと帰っていった。

「モテるね」

「盗み聞きか?」

 背後から声をかけてきたのはオリークを肩に乗せたサラだ。タイミングからして話し終わるのを待っていたと考えるのが妥当だ。

「人聞きの悪い。いつもみたいに屋上にいたの、頼んでおいたの買ってきてくれたんでしょ?」

「ああ。……というか眠いんじゃなかったのか」

「…………買ってきてくれたんでしょ?」

「人の話を聞かなかったことにするな」

 そう言うと無言ですっと腕を海斗に向ける。

「オリー」

「ちょっと待て。渡すからそれはやめろ」

 オリークをけしかけようとするサラを止める。

 狙撃中に近づいてきた敵を襲うようにオリークは教え込まれている。そんな相手に襲われるのはごめんだ。

「冗談。ありがと」

 にこりともしないで冗談を言うサラのそれを、そうだと察するのは難しく海斗には判断付かない。

「…………」

 サラは遠慮なく箱を開けFNPを取り出すと軽く握って構えてみたりと操作を確認している。

「ん、使いやすい。反動とかは今度試してみる」

「ならよかったよ」

「じゃあ、私は今度こそ寝る」

「はいはい。おやすみ」

「じゃね」

 眠そうにあくびを噛み殺しながら去っていった。

「もしかしてこのためだけに無理して起きてたのか? 子供かあいつは」

 新しい玩具が待ち遠しくて眠れない子供みたいだと思う。が、すぐにその考えを改める。

「いや、あいつの場合はちゃんと"使える"銃か確かめたかっただけか……」

 見た目も子供っぽいサラだが、そこは大分現実的だった。

 その後は訓練や、他部隊との連絡事項の確認など、そして時間がたってもなおはしゃぐ愛歌を落ち着けたりしているとあっという間に夜になった。その頃には起きてきたサラに夜の歩哨を任せ海斗はベッドへと入る。

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