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寮へと帰ってきた海斗は背負っていた愛歌を部屋のベッドに寝かすと、一度自室に戻りあるものを取ると一階にある広間へとやってきた。
その広間には大きくて透明なケースがあり、そこには多くのハンドガンが置かれている。M9、USP、M9、P320、パイソン、Unica、それ以外にも。そのすべての銃がかつて同じ部隊に所属し共に戦ってきた仲間たちが所有していたものだ。いつからか戦死した仲間の銃をいつまでも忘れず、共にいるという意味を込めて置き始めた。中には回収することができずに、ここに収められなかった銃もいくつか存在する。
「最初はあんなにスペースがあったのに、今は置き方考える必要があるんだからな……」
そう一人ごちて手に持っていたG19を置く。
「最初はあんなに騒がしくて楽しかったのにね」
「おわっ!? って、愛歌か。起きたのか」
独り言のつもりが返事があり驚く海斗。声のする方へ顔を向けると白い頭部が見えた、愛歌だ。
「実を言うと、帰り道の途中から起きてた」
「言ってくれよ」
「えー。だってそうしたら自分で歩かないといけないでしょ? 私はリーダーとくっついていたかったんだもん」
どうやら気持ちに折り合いがついたのか、普段の様子に戻っている。
「自分で歩け」
「リーダー、つれない。私たちは次があるなんて楽観できる立場にいないんだから、常日頃から後悔しないように。でしょ?」
その言葉は愛歌がAMSFに配属されることになった日に海斗が言った言葉だ。
「それをお前に言ったことを今後悔してるよ……」
「リーダーだってホントはこんな美少女を背負えて、ほんとは嬉しいんでしょ?」
「お前みたいな子供背負ったところで、嬉しいとは思わない」
確かに愛歌の顔立ちは整っている方であり、日本人らしからぬ白髪は幻想的だ。愛歌が自称する美少女という言葉は間違っていない。だがそれとこれとは別だ。
「記録上は十七歳かもしれないけど、ほんとはもっと年上かもしれないじゃん」
「お前を見てると、ほんとはそれより年下だと思えてくるけどな」
愛歌は約ニ年前に海斗たちが作戦行動中に発見し保護した少女だ。その時よりも過去の記憶を無くしており、今の名前は海斗が考えたものであり歳も推定でしかない。
当初は記憶がないことに混乱し情緒不安定になっていたが、今ではそれも落ち着き当たり前の様に生活ができるようになっていた。
そんな少女がオルカ隊に所属しているのは偶然にも白鯨に有効な《歌姫》と呼ばれる能力を有していたからだ。
「むぅ。まあいいや。明日のデート忘れないでよ」
「街中の見回りのことだろ? 忘れないよ。てか、デートじゃないから仕事だから」
「じゃあまた明日ね。私はもう寝るよ、おやすみリーダー」
「ああ、おやすみ」
愛歌と別れ、海斗は屋上を目指す。
「よう、そんなとこに座ってると下からパンツ見えるぞ」
屋上へたどり着くとそこには一人と一羽の先客が。
「なに」
縁に座りペットである鷹に餌をあげていたサラはちらりと海斗を見やる。鷹の名前はオリークックと言い、みなそれを略してオリークと呼んでいる。
「ちょっとな」
「メンタルケアってとこでしょ」
「ばれてたか」
慣れたとは言っても全く気にならない訳ではない。苦楽を共にし長い時間共にいた仲間だ、当然苦しい想いはある。それが次の作戦等に悪影響をあたえる可能性もなくはないためサラの様子を見に来たのだ。特にサラは狙撃手であり僅かな狂いでも、結果に大きな影響を及ぼしてしまう。
「今更よ、人の死なんて」
「だとしても、なにがどう影響するかなんて分からないだろ。これでも部隊のリーダーとしてなるべく不安定要素は排除しておきたいんだ」
「それはご苦労様。でも私だけじゃなくみんな大丈夫だと思う、みんなそれぞれ心の支えがある」
正義感や義務感などといったものだけで、自分の命を賭け続けられる者はそう多くはいない。
「私や海斗は復讐、レオンは女、愛歌は海斗。復讐のためにどんな状況でも生きようと思うなんて、皮肉だけどね」
レオンはよくナンパをするためにバーなどに出向くことが多い。人として褒められるような行為ではないが、その気持ちも分からなくはなく大きな問題になったことが無いため誰も文句を言うことは無い。
「よかったね、あんな可愛い子に好きだって言ってもらえて」
愛歌は海斗に助けられて以来ずっと好意を示しており、オルカ隊の誰もがそのことを知っている。
「あれは思い込みだろ。別に本気にはしてないよ」
愛歌には昔の記憶がない。
それはつまり、心の支えとなるものを持ちえないということだ。しかし愛歌には白鯨と戦うために必要な能力である歌姫の力があるために、おいそれと一般的な生活をさせることはできなくAMSFに所属する道しか存在しなかった。
AMSFの隊員として活動する以上どうしても命の危険にさらされてしまう。それに押しつぶされないためにも心の支えが必要であり、愛歌は最も身近な存在で直接助けた相手である海斗に好意を持っている、と思い込んでそれを支えにしているだけだと海斗は考えていた。
「私はそのあたりのことは明るくないから、それの真偽は分からないけど。決めつけるのはどうかと思う」
「言いたいことは分かるけど、一回真面目に返事しようとしたら逃げられたぞ」
「恥ずかしかったんじゃないの」
「普段からあんな態度とっておいてか?」
「女心なんて自分でも分からないことある」
「まさかサラから女心なんて言葉が出てくるとはな」
女性らしいところが無いとは言わないが、恋愛の話題は特に聞いたことがない。
「そういう風に見てたんだ。傷ついた。愛歌みたな胸がないから? 胸なんて狙撃するときに伏せるからあると邪魔なだけ」
先ほどのギムレットのアルコールがまだ残っているのか、サラは被虐的なことを口走る。思わず苦笑してしまいながら海斗は言葉を続ける。
「悪い悪い。ちょっとイメージが無かっただけだ。サラだって女らしいとこはあるし、十分可愛いぞ」
「ドーナツ」
「え?」
「明日ドーナツ買ってきてくれたら許す」
ドーナツは昔からサラの一番の好物だ。飼っている鷹の名前をドーナツの起源になったとされるオリークックというオランダ料理の名前にしてしまうほど。
「分かったよ、忘れてなかったら買ってくる」
海斗たちが所属する基地の中にもバーだけでなくボーリングやビリヤードなどが遊べる場所や映画館、様々なスポーツができる運動場などといったものがあるが、ドーナツを売っている店は一つもない。
「よし」
久々に好物が食べられると知ったサラの表情は微かにだが嬉しそうに緩んでいる。その変化というのは本当に微かであり、長年の付き合いである海斗がやっと分かる程度だ。
「そういえばレオンは?」
「まだバーだと思う。ずっとここから出入り口見てるけど姿見てない。レオンは別に大丈夫だと思うけど」
サラがレオンに対して冷たい、という訳ではなくレオンの家系は昔から自衛隊で活躍してきている。レオンも元々は自衛隊に所属しており、部隊内で一番戦歴が長い。こういった時の気持ちの落ち着け方は一番詳しい。
「そこまで心配はしてないよ。それでも少しは話しておきたくて」
「なら、部屋で待ってれば? 私もう少しここにいるから帰ってきたら連絡する」
「いや……いいや。明日の見回りもあるし寝るよ。サラも体冷えすぎないうちに部屋に戻れよ」
「分かってる」
海斗は屋上を後にし、自室へ戻ると翌日の見回りを共にする相棒のハンドガンを整備してからベッドへと入った。




