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15.ストレンジアVSシャルディ②

「食らいなさいなぁ!」


 コンテナの上から放たれる魔弾の雨をストレンジアは走りながら避ける。

 対するシャルディはストレンジアを追うようにコンテナから別のコンテナへと飛び移り、攻撃の手を休めることなく駆け続ける。


『ハッハッハ!逃げろ逃げろ!いやぁ、良い眺めだなまったく!』


 ――ああ、もう。気持ち良いくらいムカつく性格してるなぁ彼。


 シャルディとリンクしているシューマの小気味いい笑い声が聞こえる。相手は喋り方からしてあまり礼儀の正しい人ではないと思っていたが、自分が有利になるとすぐ煽ってくるマナーの悪いプレイヤーのようだ。


『チャージ完了!ブチかませ、“一角銃(ユニコーンブラスト)”!!』

「おブッパですわぁー!!」


 一角銃というスキルの名前と共にシャルディの構えた魔銃から鋭い光線が放出される。

 ……いや、おブッパってなんだよ。おブッパって。とシイナとストレンジアは笑いそうになるも、その光線の勢いを見て笑みが消える。

 上空から放たれたその鋭利な光線は逃げ往くストレンジアの進行方向に向かって飛んで行った。咄嗟に後ずさろうとするも間に合わない。駆け出していたストレンジアはその光線を直に浴びることとなった。


「わあああああああ!!」

『ストレンジア!』


 HPが大きく減少したのを確認する。もう残り1割近くしか残っていない。シイナは慌ててストレンジアを誘導させ、離れた場所にあるコンテナの蔭へと彼女を隠れさせる。


「あら?そんなところに隠れたって、こちらからは丸見えですわよ?……“丸見え”って単語、だいぶ卑猥だと思いません?誰が最初に考えたのかしら」

『ノーコメントだ』


 “引きずり降ろしてやる”とは言ったものの、どうすればいい。この距離から相手に攻撃を当てるならば空気の刃を飛ばす魔法攻撃スキル、“ウィンドカッター”が有効だろうか。しかしこれを外せば再チャージまで待たねばならない。

 ジャンプしてコンテナに飛び乗る?だが相手は銃を持っている。飛び乗る瞬間を狙われれば危険だ。

 さて、どうしたものか――、とシイナが思考している時、残り1枚のスキルカードが“使用可能”の表示を示した。


『あ、そうか』

「お、何かこの状況を打開するための良い策でも思いついたのかい?」

『うん、これならいけるかも。相手を一気に地面に引きずり下ろす』


 そうか、そうだ。

 邪魔な足場なんて――ぶっ壊してしまえばいいのだ。


『このままこの角度で……、いくよ、“月光丸・紫電”!!』


 シイナによるスキルの発声と共にストレンジアが刀を勢いよく突き出す。

 刀身から放たれた紫色の雷は轟音と共に真っ直ぐ突き進み、その直線状にあるコンテナを全て破壊する。


「うわ、ちょ!?なんですのこの威力!?」


 足場を崩されたシャルディが手をバタバタさせながら落下する。


『もらった、着地狩り!“ウィンドカッター”!』

「ハァッ!」


 ストレンジアが腕を勢いよく振るうと空気の刃が何枚も放たれ、宙に浮いたままのシャルディに向かい飛んでいく。


「くっ――!」

『“――――”!』


 空中にいるシャルディは回避行動をとることが出来ない。腕を胸の正面でクロスさせて防御の構えをとったものの、ウィンドカッターの攻撃を満足に防ぐことは叶わず、そのまま全ての攻撃を食らって地面へと放り出される。

 直後、シャルディはバラバラになったコンテナの残骸に落下し、ズドオオオン!と衝撃音が鳴り響く。回避できない状態でスキルによる攻撃を食らった挙句、コンテナの瓦礫の上に落下したのだ。大ダメージを与えられたに違いない。

 あとはトドメを刺すだけだ……とストレンジアが瓦礫に向かってゆっくりと歩きだす。


『形勢逆転だね。ストレンジア、一気に決めちゃって!』

「分かってる。さぁ、覚悟――」


 ――パチン!

 瓦礫の中で倒れ込んでいるシャルディに刀を突き立てようとしたその時だった。指を弾くような音が聞こえたかと思えば、シャルディの身体はパッと消えてしまった。


『何!?』


 2人は困惑した。敵の姿がどこにも見当たらない。


「ワタシをお探しですか?」


 背後から聞こえたその声にストレンジアはバッと振り向く。

 そこには先ほど消えたはずのシャルディがストレンジアの頭部に魔銃の銃口を突き付けていた。


「キミ、一体いつの間に――」

『“デコイ・クリエイト”』


 シャルディの代わりに彼女と同調しているシューマが答える。

 デコイ・クリエイト、スキルの名前だろうか。


『自身の複製を作り出すスキルだ。落下直前に発動させてもらった。一瞬でも気を逸らすだけで良かったのだが、貴様達が随分とゆっくり迫ってくるものだからこうして忍び寄るチャンスまで出来た』


 フッ、とシューマが小さく鼻で笑う。続いてシャルディもフフンッと笑った。


「再び形勢逆転……いや、勝負アリですわね。中々楽しかったですわよ?」


 それを聞いたストレンジアは諦めたように小さく笑ってから、わざとらしく両手を上げる。


「一本取られたね。最後まで油断するのはよくないか」

『……。勉強になりました』

『ああ、賢くなれて良かったな』


 ――この人本当にムカつくなぁ!


 シイナは心の中でシューマへのイライラを募らせながらもおとなしく敗北を認め、溜め息と共に肩を下ろす。


『勝ちたかったなぁ……』


 不意にそんな言葉が口から洩れた。

 勝ちたかった。

 彼女が勝ちたいと思っているから、自分もそれに答えてあげたかったのに……。


『……1度負けたら何もかもが終わるわけじゃない。これはゲームなんだ』

「そうそう、この悔しさをバネにしてリベンジしてきてもいいんですのよ?」


 そんな自分の呟きが聞こえたのか、シューマとシャルディがそれに答えるように言った。


 いや、それは分かってるんだけど。

 自分が悔しい理由は他にもあるのだ。それは――


『貴方達の態度がなんか気に入らない!』

「……直球で言ったねマスター」


 そして、パァン!と銃撃音が一つ響くと共にストレンジアの頭部が魔弾によって撃ち抜かれた。


 ――ああ畜生。悔しいなぁ。


『フハハハハハ!!これで今日は2連勝だ!!午前の団体戦の憂さ晴らしが出来たな!!』

「オーッホッホッホ!!」


 ――ムカつくなぁ!






  ◆






「あ、戻ってきた。バトルしてたんだって?どうだった?」


 バトルが終わり、シイナはバトル開始前にいたターミナルのロビーへと戻っていた。既にログインし直していたカエデが待っていたのか、戻ってきたシイナに一声かける。

 シイナが何か喋ろうとする前にストレンジアが少し情けなく笑って答えた。


「ははは……いやぁ、負けたよ。でも私的には惜しかったかな。最後に勝ちを確信して気が緩んだのが良くなかった。でもマスターのスキル発動タイミングや反応の速さは中々凄かったよ。もっと私が強くなっていけば……マスター?」


 下を向いて俯いたままのシイナを心配してストレンジアが顔を覗き込む。カエデの隣にいたアーメスも「どうしたんだ?」と心配そうに声を掛けた。

 そして突然顔を上げて「あー!」とシイナが叫ぶ。


「悔しい!」


 人目も憚らずシイナは悔しそうな顔で続けて叫んだ。ロビーを行きかう人々が「なんだ?」「どうした?」と振り向く。

 それを恥ずかしがったのかカエデが「あわわわ!何でもないんですぅ!」と両手をバタバタと振る。「その反応じゃ何か深刻なことがあったみたいだろ……」とアーメスが困った顔で呟いた。


「あともう少しだったのに……。ああ、悔しいなぁ」

「……そっか。ねえシイナちゃん、ストレンジアさん」

「……ん、何?」


 悔しい、悔しいと続けるシイナとそれに付き添うストレンジアにカエデが話しかける。


「楽しかった?」


 それを聞いてシイナとストレンジアは顔を見合わせ、微笑む。

 そうだ、悔しいよりも先に来る感情があったな。


「ああ」

「うん、楽しかった!」






「もっとストレンジアのステータスを上げるべきかな……。そのためにはもっと他の人とバトルしたり、外に出てモンスターと戦わなきゃいけないの?」


 シイナがカエデに尋ねる。


「そうだね、でもここ“ターミナル”ならモンスターと戦い続けたり特定の目標をクリアすることでエレメントを獲得できる“ミッション”が受けられるんだ。まずはそれに参加してみたらどうかな?人型のモンスターも出てくるからデーヴァ同士のバトルの練習にもなると思うし」

「じゃあこの後はそのミッションっていうのを受けてみようかな。ストレンジア、大丈夫?」


 先ほど戦ったばかりなのに申し訳ない、と確認をとるシイナに対してストレンジアは「勿論大丈夫さ」と答える。フリーバトルによって受けたダメージ自体はバトル終了後に回復するため、その身体には傷一つない。

 ミッションカウンターをマップで確認して歩き出そうとするシイナをカエデが引き留める。


「ちょっと待ってシイナちゃん。ボク達も付き合うよ。ボク達がいればランクE以上用のミッションにも参加できるからエレメントの獲得効率も上がると思うし」

「ああ、今日はカエデもこの後暇なんだ。ま、毎日暇らしいけどさ。付き合うぜ」

「ボクの予定は言わんでよろしい」


 ピシッ、とまるで漫才のツッコミ担当のような綺麗な動きでカエデがアーメスの胸元を手の甲で叩く。

 そんな2人の様子を見てシイナとストレンジアがクスクスと笑う。まるで兄妹による漫才を見ているようだ。

 4人は並んでミッションカウンターまで歩いていく。ふと、歩きながらシイナが口を開いた。


「あ、そうだ聞いてよカエデちゃん。さっき戦った相手の態度がめちゃくちゃムカついたんだよ!私のことは“貴様”って呼んでくるし、ことあるごとに高笑いしてくるし!しかも声のせいで妙にその笑い声が様になってるのが更に腹立つっていうか!」

「…………」


 カエデとアーメスはそれを聞いて一人の人物を思い浮かべた。

 他人のことを貴様と呼び、ことあるごとに高笑い。ああ、おそらくシイナとストレンジアの相手を務めたプレイヤーは。


「「()()()か……」」


 志木宗馬。

 本当に彼は誰に対してもあんな態度とってるのか……。


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