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14.ストレンジアVSシャルディ①

 シイナと一体化したストレンジアのコートの色が黒から白へと変化し、目の前のシャルディもメイド服から白を基調とした煌びやかな軍服へと姿が変わる。


 ストレンジアが背中から刀を引き抜くとともに、シャルディもスカートをふわりと浮かせながら一回転。まるでアイドルのダンスのような動きをとった後、腰のホルスターから銃を取り出して構える。


「シャルっと参上!ディディっと解決!白銀の魔だ――」

『恥ずかしいからもうやめてくれ』

「えー、最後まで言いたかったんですのにぃー」


 構えと共に何やら不思議な名乗りを上げようとしたシャルディだったが、背後から出現したシューマの顔アイコンの発言に遮られてしまう。

 それを見たストレンジアとシイナは呆気にとられる。


『……今の何?』

『気にしないでくれ。本当に気にしないでくれ。……さ、始める――』


 ――ぞ。

 とシューマが言い終わる前にシャルディの構えた銃の銃口から紫色をした魔力の弾丸……魔弾が数発発射された。敵は魔銃の使い手のようだ。


「口を動かす暇があるなら手を動かせ――でしたっけ?」

『フッ、よく覚えてるじゃないか』

「ワタシのクッソオシャレな名乗りの代わりに受け取りなさいな!」


 少し油断していたが、その攻撃に対するストレンジアの反応は速かった。


「――ふっ!」


 素早く刀を振るい、全ての魔弾を弾こうとする。魔弾は刀とかちあって弾け空中で消滅した。ストレンジアはそれを確認することなくシャルディ目掛けて駆け出す。


(カッコいいなぁ……。……っと、駄目駄目。私も集中しないと)


 華麗な動作で攻撃を弾いたストレンジアの動きにうっかり見惚れていたシイナ。

 こんな調子ではいけない。自分も周りに気を配りつつ最適なスキル発動のタイミングを見計らうなどして、彼女のサポートをしっかり努めなければならないのだ。それが自分の代わりに身体を傷つけて戦う相棒への務めだ。


 ダンダン!ダン!

 とシャルディがバックステップをとりながらも魔銃の引き金を引き続け、銃口から幾度となく魔弾を発射する。

 しかしそれらは一度に3発しか撃てないようで、連射といっても大した数ではない。ストレンジアはそれらを先ほどと同じように弾くか、僅かに身体を逸らすことで直撃を回避する。


 何発かは衣服に掠ったものの大きなダメージにはなっていない。だが相手のステータスの攻撃値は高めに設定されているようで、攻撃を弾いた刀が既に刃こぼれしかかっている。


『刀で防御し続けるのは辞めた方がいいね。一気に距離を詰めて接近戦に持ち込むよ!』

「了解だ!」


 再びシャルディが一発の魔弾を発射する。これを弾けば敵との距離が縮まり接近戦に持ち込める。

 敵のステップの速さは大した程ではない。敵は魔法攻撃特化型のステータスのようだが、接近さえすれば銃撃戦は不利なはずだ。


 敵の距離まで残り僅か、となったところでシイナがあることに気付く。


 ――随分とあっさりすぎないか?


 あまりにも簡単に敵へと到達出来た。こんなに簡単に魔弾とは防げるものなのか?

 それに攻撃の内容が直線的すぎる。まるで弾いてください避けてくださいと言わんばかりに……。


「もらった――!」


 ついに近接戦闘を行える距離まで到達したストレンジアが刀を振るおうとする。

 ……その時、敵のシャルディの口角が少しだけ吊り上がったのをシイナは見逃さなかった。


 ――まさかこの距離に誘われた!?


『不味いストレンジア!離れて――』

『”必殺の美脚“!』


 シイナが警告するよりも前に相手プレイヤー、シューマのスキル発動の叫びが響いた。

 ストレンジアが刀を振るうと同時に上げられていたシャルディの右足に光が集まる。真横に折り畳んだ状態で掲げられた右足は、しっかりと地面を踏みしめた左の軸足の回転と共に解き放たれる。


「シャルディ・エレガント・キイイイイイイック!!」

『だからダサいんだっての』


 その右足が狙う先はストレンジアの脇腹に当たる部分だった。刀を振るう動作を行っている最中だったため、そこの部位はガラ空きになっている。今から腕を下ろして防御しようとしても間に合わない。


「しまっ――」

『“パワーシールド”!』


 その時、ストレンジアの身体を覆うように円形のシールドのような物体が出現し、シャルディの右中断回し蹴りをカットする。

 まるで石をぶつけ合ったような鈍い音が工場ステージに響き、シャルディは「いったぁー!?」と叫んで右足を下ろす。


 “パワーシールド”。物理攻撃に対して大きな耐性を持つシールドを出現させる防御スキルだ。ギリギリ使用可能になっていたため助かった。シイナはホッと胸を撫でおろす。


「まさか敵の狙いも接近戦だったとはね。助かったよマスター。貴女がスキルを発動させていなければ危なかった」

『なんとか間に合って良かったよ。……と、くるよ!』


 スキルによる一撃が防がれてもたじろぐことなく、シャルディは魔弾を数発けん制のつもりで撃った後にストレンジアへと駆け出す。

 ストレンジアの剣撃を交わしたシャルディは懐に飛び込み、パンチとキックの連打を繰り出す。


「くっ……!」


 刀を持っているため右手が塞がったままのストレンジアはそれらを全て捌ききることはかなわず、腹部に、太ももに、物理ダメージが蓄積されていく。

 シイナはふと、ここに来るまでにすれ違ったプレイヤーの言葉を思い出した。


 ――あー、クソッ。なんなんだよアイツら……。なんで銃がぶっ壊れても戦えるんだよ。本当はインファイターなんじゃねえのか?


(……あれってこの人たちのことを言ってたのかなぁ?)


『いいぞシャルディ!最近近接格闘の練習をした成果がしっかり出てるじゃないか!』

「お褒めにあずかり光栄ですわナッコォー!……あら?」


 自分の主とトークを交わしながらも攻撃を続けるシャルディだったが、ついに攻撃の手が止まる。

 シャルディの放った左のストレートパンチをストレンジアの方手が受け止めていた。

 ストレンジアが反応したのではなく、彼女とリンクしている状態にあるシイナが彼女の身体を咄嗟に動かして防御したのである。


『防いだよ……。さぁ、お返し!』

「せいっ!」


 一瞬動きの止まったシャルディに今度はこちらの番だ、と左のボディブローを叩き込み、シャルディを後ずらせる。そして続けざまに振るった刀による一撃が、ついに彼女の身体を捉えた。


(どうだ!数々のゲームで鍛えた私の反射神経と反応速度!)


 シイナはリンク状態にある中でガッツポーズをとる。

 引きこもり生活の中でFPSなどのゲームをやっているうちに鍛えられた能力がこの反撃を成功へと導いた。現実世界ではいくら反射神経が高かろうと身体が付いていけないが、仮想現実の世界……それもデーヴァの身体ならば思い通りの動きが出来る。


「きゃっ……!!」

『くっ!しまった……!』


 ズバァッ!と軽快な斬撃音が響き、データの乱れのようなエフェクトがまるで火花のようにシャルディの身体から吹き上がる。


 攻撃の手を緩めないとばかりにもう一撃を振るうが、シャルディは大きく後ろに跳躍して距離をとると同時に、魔弾を数発放つ。

 今度は一度に3発ではなく更に多くの弾を発射していた。先程までの攻撃は魔弾を3発までしか撃てないと自分達に誤認させる目的があったのだろう。

 更に今度は直線的な攻撃ばかりではなかった。数発の魔弾は少し真上に向かって放たれ、重力に引き寄せられるようにして、放物線を描いて読みにくい軌道でストレンジアへと向かう。

 ストレンジアは刃こぼれしかかった刀をチラリと見やるとそれらを防ぐことなく回避。だが最後の曲射だけはシイナもストレンジアも着弾点を読み切れず、1発直撃を食らってしまう。


(HPの減少量から考えると……。うん、やっぱり向こうは攻撃特化型のステータスで間違いないかな。しかも魔法攻撃も物理攻撃も両方上げてる)


 既に3割程度が減少したストレンジアのHPゲージを見ながらシイナが思考する。相手のシャルディというデーヴァはさほど素早くも無く、そして攻撃のステータスが高い。

 と、いうことは恐らく防御面はそこまで高くないだろう。攻撃に多くの数値を振り分けているということはその分他が疎かになっている証拠だ。

 だから相手のHPもこちらと同じ程度には減少している筈である。そしてそんなシイナの読みは――。


(ふむ……不味いな。先ほどの一撃がクリティカルにでも入ったか?)


 当たっていた。一撃でHPを2割近く削られたシャルディのゲージを見てシューマが心の中で小さく舌打つ。

 クリティカル。攻撃が身体の急所に入った場合、もしくは低確率で発生する現象だ。これが発生した時は通常よりも多くのダメージを与えることが出来、上手くいけば相手の武器や防具を一撃で破壊することもできる。

 クリティカル発生率はデーヴァのステータスで”運”を上げていれば高めることが出来る。この運の能力値が高ければ高いほどクリティカルの発生率が上がり、更に相手の攻撃もクリティカルに入りにくくなる。

 先ほどのストレンジアの攻撃はたまたまクリティカルに入ったようだ。デーヴァ作成時のステータス傾向決定時に、運にも少し多めに数値を振っていたのが功を奏したのかもしれない。


(ガンナーだと思わせて接近戦を仕掛けるという奇襲はもう通用しないだろう。相手の方が素早いとなれば近接戦は不利だ。出来ればここからは遠距離射撃で攻めたいところだが、反応速度が中々高いのが厄介だな)


 近接戦に持ち込むために多少手を抜いたとはいえ、相手はこちらの銃撃を相手はほぼ完璧に防いでみせた。

 それに相手のプレイヤーによる”パワーシールド”発動のタイミングといい、そして先ほどのシャルディの攻撃を受け止めたことといい、どうやらデーヴァとリンクしているプレイヤーの反射神経も高いようだ。


(どうせならあそこに上りたいが)


 チラリ、とシューマは周辺に配置されたコンテナに目をやる。あれに登れば相手の刀による攻撃はまず届かないのに対してこちらの魔銃による攻撃はあちらに届く。そうなれば戦況はグッと有利になる。

 だが相手がそれによじ登るだけの隙を与えてくれるだろうかといえば、勿論無理に決まっている。


(これを使えばいけるか……?)


 “使用可能”の表示に変わった1枚のスキルカードを確認する。

 まだ使ったことがないが、試してみるのも悪くないだろう。


 一方、シューマに対するシイナは心の中で静かに燃えていた。


(楽しい……!)


 自分も相手も自らの相棒(デーヴァ)の特性を理解し、様々な勝ち筋を用意して戦い合う。これがデーヴァ同士のバトルなのか、と。


 戦っているのは自分自身ではないが、だが自分もしっかりと戦っている実感があった。自分が作り出した自分好みのキャラクターが自分の指示や操作に応えて、”勝利”という同じ目的のために頑張っている。

 自分は今、相棒と共に相手の相棒と全力でぶつかっている。対人ゲームは何本もやったことがあるが、これは新鮮な体験だ。だからこそとても楽しい。

 自分はダメージを受けない安全な場所におり、実際にダメージを受けているのはその相棒なので、こんなことを思うのは申し訳ないが――と思っていると、ストレンジアが小さく笑みをこぼした。


「なに、そんなこと気にしなくていいよ。私達は戦うのが仕事だし、痛みには強く出来ている。……それに私もマスターと同じで楽しいよ。凄く楽しい」

『!?』


 まるで自分の心を見透かしたようなことを言うストレンジアに驚愕したシイナが驚きの声を漏らす。

 それに答えるようにシャルディが口を開いた。


「プレイヤーとリンクしているデーヴァは互いの思考を共有できますのよ。貴女の楽しいって気持ちが彼女に伝わったのですわ」

『互いに共有……』


 言われてみると、なんだか自分の中に自分の物ではない闘志と高揚感がみなぎっているのを感じた。これがストレンジアの感じている気持ちなのだろうか。

 目の前の相手に勝ちたいという気持ち。このバトルを楽しんでいるという、気持ち。


『そうか、楽しいんだね。貴女も』


 自分と共に戦うこの状況を楽しんでくれている。更に、この勝負に勝ちたいとも思っている。

 ならば……勝たねばなるまい。

 彼女は最初自分に”気楽に行こう“と言っていたが、記念すべき初戦だ。全力で相手から勝利を奪いに行く。

 大切な相棒と共にここで勝てば……とてもカッコいいし楽しいに違いないから!


『デーヴァ同士のバトルは楽しい。だから勝ちたい。分かるぞその気持ち。……だからこそ勝つのは俺達なんだがな、ルーキー!』


 シイナ達の気分を自らも雰囲気で感じ取ったのかシューマが楽しそうな声色で吠える。

 そして先ほど見つめていたスキルカードに触れ、それを発動させた。


『”ファイアドロップ“!』


 スキルの宣言と共にシャルディが地面を蹴って跳躍する。そしてクルリと身体を回転させると身体の目の前に炎の弾……ファイアボールが出現した。


「でりゃああああああ!!ですわ!!」


 シャルディは下向きになったスカートからスパッツをのぞかせた状態で、サッカーのオーバーヘッドキックのような動作でそれを地面目掛けて叩き付ける。ファイアボールはまるでサッカーボールを勢いよく蹴った時のような鋭い音を立ててストレンジア目掛けて飛んでいく。



 <ファイアドロップ>

 レアリティ:R

 チャージ時間:中

 分類:魔法

 ・空高く跳躍し、空中で生み出したファイアボールを敵目掛けて叩きつける。

 この攻撃は魔法攻撃力ではなく物理攻撃力で威力の計算を行う。



『ここは迎え撃つよ!“スパークブレイド”!』

「ああ!」


 攻撃の勢いからして回避は困難と見たシイナはスキルを発動させ、ストレンジアの刀に電流を走らせる。

 電流でコーティングされた刀が勢いよく振るわれ、火炎のボールとぶつかり合う。2つの攻撃がかち合うと火炎弾は遠方へと弾かれ、ストレンジアは攻撃の威力を殺しきれず後ろへと後ずさる。

 と、その時だった。


『――!ストレンジア!避けて!』


 ダンダンダン!

 頭上から銃声が響いた。シイナの声にハッとなったストレンジアは自分よりも高い位置から撃ちだされた魔弾を回避し、攻撃の主を見上げる。


「地の利を得ましたわ!」


 先ほどまで同じ地面に立っていたはずのシャルディがコンテナの上に立っていた。

 ファイアドロップはスキルの発動処理としてまず大きく跳躍することが出来る。火炎弾を放った直後にそれを利用してコンテナの上に飛び乗ったのだろう。


『くっ……!これじゃあ刀の攻撃は届かないかぁ……!』

「相手に有利な位置をとられてしまったね……」


 悔しそうに呟くシイナとストレンジアを見下しながらシューマが「フハハハハハ!!」と高笑い。周囲が壁で覆われているステージのため、彼の軽快な笑い声はいつもより良く響いた。


『言ったろう?手加減はしない。勝つのは俺達だ、と!』


 そんなシューマの態度に少しムッとしたのか、シイナが相手を煽るように吠える。


『ちょっと高いところに上ったからっていい気にならないでよね!まだ私達には使ってないスキルだってあるんだから!』


 シイナ自身は気付いてないが、普段の恥ずかしがり屋で自意識過剰気味な彼女ならそんなことはしなかった。ストレンジアとリンクしていることで気分が高揚しているからだろう。相手プレイヤーと面と向かって話しているわけではないということもあるのだが。


 シイナは未使用のままの2枚のスキルカードを見つめる。

 まだ勝負は決まってない。今は少々相手が高いところに立っているだけだ。すぐに引きずり落としてやろうじゃないか。

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