12.神の使いと使い魔らしいよ
場所と時間は変わりサウスエリア。
シイナとカエデ、ストレンジアとアーメスはニーナに招かれて民家の中へと入る。
家の奥では少女と雰囲気のよく似た女性がベッドに横たわっていた。
「お母さん!プレイヤーの人達が薬草を持ってきてくれたよ!これで病気もきっとよくなるよ!」
ニーナに声を掛けられた女性はコホッコホッと席をしながら状態を起こす。そしてシイナ達を見やると深く頭を下げる。
「そうですか、貴女達が……。けほっ、本当にありがとうございます。ただの風邪だろうから心配しないでと娘には言ったのですが、薬草を採ってくると言って家を飛び出してしまい……」
「いえ、この世界の困ってる人達を助けるのが自分達の使命ですから」
ニーナの母に対してシイナが何か答えようとしたが、その前にストレンジアが発言する。この薬草採取のクエストを受けた時と言い、彼女は主人である自分よりも先に行動しようとすることが多いなとシイナは思った。
――これじゃどっちがプレイヤーでデーヴァか分からないな……。もっとしっかりしないと。
「じゃあこれ。レベンの森で採ってきた薬草だよ。お母さん、早く良くなるといいね」
シイナはアクロスギアの【アイテム一覧】から『万能薬草』をタップする。するとアクロスギアの画面から薬草が出現し、シイナの手元に落ちる。
シイナは丁寧に両手を差し出し、それをニーナに手渡す。
目の前の少女は眩いばかりの笑顔で「ありがとうお姉ちゃん!」と答える。可愛い。
「流石神の使いさん達だよね!使い魔さん達も強そ~!」
また登場した”神の使い”、”使い魔”というワードにまたしてもシイナとカエデは小首をかしげる。それは後ろのアーメスも同じようだ。
「えーっと、さっきから神の使いとか使い魔とか言ってる言葉の意味がよく分かんないんだけど……」
「ああ、オレ達ってどういう認識の仕方されてるんだ?」
それを聞いたニーナの母が口を開いた。
「そうですか、貴女達はご存じないのですね。使者の多くはこの世界に来た時に記憶を失っていると聞きますし……。それでは私の知っている範囲でお話します」
そうしてニーナの母親は語り始めた。
この街の中心部分には大きな古代の遺跡が存在していた。何のために存在し、いつからあるのかは誰にも分からないが、とにかくそこにあった。そして遺跡を取り囲むように巨大な石が周りを覆っていた。
そして数ヶ月前、この世界に4人の神が現れた。
神達は言った。「アリュビオンの遺跡を起動させる」と。そしてこの世界の平和を守るための使者達を別の世界から招き入れる、と。
遺跡は”ターミナル”と呼ばれる建造物へと姿を変え、その周辺を囲う石の砦は見たことの無い建物が建ち並ぶ神の街”セントラル”となった。
その街にはデーヴァと呼ばれる神の使い魔が住んでおり、そして特別なデーヴァを操る存在、”プレイヤー”達が別の世界から召喚された。
プレイヤーはこの世界に住まう魔物や悪党を使い魔を使役することで倒し、時にはアリュビオンの住人たちが困っている出来事を解決してくれる。
ただし彼らは頻繁に別の世界へと消えてしまうため、この世界に永住はしてくれないようだ。
ある日突然街の遺跡が姿を変え、別の世界の人間達が住み着いた時はアリュビオンの住人の大半は神の所業に困惑、そして憤怒したものの、神によって使わせた”デーヴァ”と呼ばれる使い魔はセントラルから出てこず、プレイヤー達も基本的にはこの世界に害をもたらしたりはしないので次第にアリュビオンの住人も彼らの存在を認めていった。
――のだという。
「ねえ、これってさ……」
「うん、このゲームがサービス開始したのと私達がこの世界にログインしていることを世界観の設定に盛り込んでるってことだよね」
カエデとシイナが小声で会話する。
人間に近しい思考能力を備えたNPC達にこの世界はゲームだと思わせずに動かすため、ZENOはそのような設定を盛り込んだのだろう。
ニーナの母の口ぶりからすれば、セントラルエリアに住まう住人こそがデーヴァ……NPDでそれ以外のエリアに住む彼女たちのような存在はデーヴァとは呼ばないようだ。アリュビオンと呼ばれるこの世界も、ゲームのサービス開始前から存在していることになっているらしい。
2人は色々と推測したがそれを口にするのはやめておいた。本当に自分達がこの世界に生きる人間だと思っている彼女達に向かって「この世界はゲームだ」と語るのは失礼……というか意味の分からない行為だろう。気でも狂ったのかと思われるに違いない。
「お姉ちゃん達、これはお礼。受け取って!今日は本当にありがとう!」
ニーナが布袋に入ったお金をシイナに手渡した。小さい女の子からお金を貰うのは少し気が引けたが、これはクエストの達成報酬だ。受け取る以外あるまい。
受け取ったお金がアクロスギアに吸収されていく。
「え、お金が消えた!?」とニーナがビックリしていた。消えたんじゃなくてここに入ったんだよ、とカエデがアクロスギアを指さしながら説明。
「ビックリしたぁ……。あ、そっちのお姉ちゃんも手伝ってくれたんだよね?あなたには……はい。昨日外で拾ったの。これ、プレイヤーの人達が使う物なんでしょ?」
ニーナはポケットから1枚のカードのような物を取り出してカエデに差し出す。それは紛れもなく、ガチャで手に入るデーヴァ用のスキルカードだった。
カエデがそれを受け取るとスキルカードが光の粒子となってアクロスギアに吸い込まれた。そして『スキルカードを入手しました』とアナウンス。
「ありがとう!……おっ、しかもこれ盾用のスキルじゃん。ラッキー」
スキルカードはこうして直に手に入れることもできるのか。それにしても「外で拾った」とは。スキルカードってその辺に落ちてるものなのか?
何度もニーナとその母親に感謝を述べられたカエデとシイナ、そして彼女たちのデーヴァが外に出ると2人のアクロスギアにメッセージが表示された。
『クエストを達成しました』『エレメントを獲得しました』
「それにしても……、知ってたんだねストレンジア」
「ん?何がだい?」
「この世界の設定。“この世界の困ってる人達を助けるのが自分達の使命”って言ってなかった?」
「ああ、オレも気になった。同じデーヴァなのにどうしてアンタだけ知ってるんだ?」
それに対してストレンジが「いやぁ、実はね……」と恥ずかしそうに答える。
「アクロスギアの中で休んでる間にフォーラムやANOの情報サイトを読んでいたのさ。それで少し情報収集していたんだ」
「えっ、貴女達って自由にネットとか見れるの!?」
「見れるよ?アクロスギアの中に入ってる間はインターネットに接続してるのと同じようなものだからね。当然ギアのメニューもある程度は操作できる」
アーメスも「俺も暇なときは動画とか見てるわ」と口にする。
カエデもこういったデーヴァの機能については知らなかったようで「ならアーメスもストレンジアさんを見習って勉強とかせんかい」と言った。
「それにしてもプレイヤーが神の使いでデーヴァは更にその使い魔、ねぇ……。ややこしいなぁ」
「4人の神って何だろう。これについても調べれば分かるのかなぁ」
まだまだこの世界には知らないことが多いようだ。シイナ達はゲームを進めていくうちにこの世界の仕組みや設定も詳しく知ろうと思った。
この時、カエデの頭の中に引っかかることが。
――セントラルエリアとそれ以外で世界観が違い過ぎる。それにミッションという形でモンスターと戦うことが出来るのに、わざわざ街の外にモンスターの生態系を構築してるのはなんでだ?
――世界観をよりリアルに見せるため?そもそもそんな必要あるのか?大体、ANOはPvPメインのゲームだからセントラルエリア以外の街とリアルなNPCを大量に作る必要なんてない筈だ。そんな面倒臭いことをしてまでアクロステージをMMOとして生まれ変わらせた理由は?
――今のままじゃ分からないことが多すぎる。なんて歪なゲームなんだ。というかまるで……。
「アクロステージと別のゲームを無理矢理一つに纏めたような……」
「なんか言ったか、カエデ?」
「……いや、何も」
それに何故アーメス達デーヴァはANOの世界観について何も知らないんだ?彼らはプレイヤーの相棒であると同時にこのゲームのキャラクターのはずだろう?
思考し続けるカエデの目の前に【アナウンス:空腹状態を感知】との文字列が表示される。
そういえば午前中から何も口にしていない。起床したのも午前中にしては遅めの方だったため現実世界の自分の身体が「お腹空いたー!」と悲鳴を上げているのだろう。
「ごめんアーメス、シイナちゃん。ちょっとご飯食べてくるね」
「おう」
「も、戻ってくるんだよね?」
オドオドするシイナを見てカエデがクスっと笑う。取り残されるのが不安なのだろうか。
ちょっと分かるなぁその気持ち。
「軽くお腹に入れたらすぐ戻るよ。えーっと、セントラルエリアのターミナルのロビーで待ち合わせってことでいい?」
「うん。先に行って待ってるね」
じゃ、また後で!と一声かけてからカエデとアーメスの身体がアリュビオンから消える。
「マスターはお腹減ってないのかい?」
「うーん、まだいいかな。じゃ、私達はセントラルエリアに戻ろうか」
「ああ。領域移動のやり方は分かるかい?」
「だ、大丈夫。カエデちゃんの操作を見てたから」
ポチポチとアクロスギアの画面をタップしてシイナはセントラルエリアの入り口に転移する。
ターミナルは目の前だ。ストレンジアと共に並んで歩きだす。
初めてここに降り立った時も思ったが、本当にすれ違う人々の姿がユニークだ。SNSでよく見る大規模な同人誌即売会のコスプレブース並みに世界観がバラバラな人々が一ヶ所に集っている。
あ、あの犬みたいなミミを生やしてる女の子可愛い。隣に立ってる人間の男性はちょっと顔がイライラしてて怖いけど。
……あんな人でも作るデーヴァのデザインはオタク寄りの趣味をしてるなぁ。
「あー、クソッ。なんなんだよアイツら……。なんで銃がぶっ壊れても戦えるんだよ。本当はインファイターなんじゃねえのか?」
「で、でも相手の戦い方は今回のバトルで理解出来ましたし、次やる時は多分…………じゃなかった、きっと勝てますよ!わたしももっと頑張ります!」
「おう。次は勝とうな」
……なんだ、チンピラっぽい見た目の割に結構デーヴァへ接する時の声色は優しいじゃないか。
そんなシイナの耳元にストレンジアの声が届いた。
「なんだい?他のデーヴァをじろじろと見て。ひょっとして浮気かな?」
違う違う!とシイナが慌てて手を振る。
そしてストレンジアが何度もシイナに見せた「フフッ」という気品漂う笑みをまたこぼす。
「冗談だよ。マスターをからかうのは面白いなぁ」
「……むぅ。意地悪」
「ははっ。すまない。マスターの困った顔は特に可愛いものでね。もし気分を害したなら遠慮なく指摘してくれ」
「別に、凄く嫌ってわけじゃないけど……。でもちょっと控えてくれると助かるかな」
「では控えよう」
うーん。
色んなデーヴァがいるみたいだけど、やっぱりうちの子が一番ユニークだな!




