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7.義姉参戦 -初クエスト、そして戦友との再会

「まったくもう……。ナギサ君はBチームの皆とどっか行っちゃうし、シューマ君は気が付いたらいなくなってるし、ボクのことハブってんじゃないよ。試合が終わった後に知らない人ばっかに囲まれててチョー緊張したんだから」

「人見知り癖、そろそろ治した方がいいんじゃないか?」

「ボクも治したいとは思ってるんだけどさ……。中々難しくって……」


 カエデとアーメスは会話を交わしながら、ターミナルから少し離れた場所である街の噴水広場付近を歩いていた。

 特に今後の予定や目的があるわけでもない。だが本日のカエデはログアウトしても現実世界で用事が無いので、とりあえずアリュビオンを適当にふらついていた。


「暇だから適当な施設にでも行こうかな。ゲーセンとか」

「おっ、いいなそれ。俺ホッケーゲームやりたいんだよ」

「コインに余裕はあるし、今日はパーッと遊んじゃおっか!…………ん?どうしたんだろう、あの人」


 噴水の近くで「どうしようどうしよう」と何やら困った様子でブツブツと呟いている女性の姿があった。アクロスギアを持っていることからしてプレイヤーだろう。

 目にかかるくらいに伸びた前髪と、肩よりも下の位置まで伸びた髪の毛が特徴的な、自分と同じくらいの年の女性だ。

 その隣には青紫色の髪を後ろで縛ってポニーテールにしている、黒いコートを羽織った長身のデーヴァが立っていた。凛々しい顔立ちと赤茶色の瞳が美しい。


「どうしたんですか?」


 とカエデはその女性プレイヤーに近寄り、声を掛けようとした。コミュニケーションは苦手だが、同年代の女性が困っているのだ。何か力になってあげなければと思ったのだ。

 しかし実際に放たれた言葉はこうである。


「どど、どしたのですか?」


 カエデは自分の隣でアーメスが小さく噴き出したのが聞こえた。

 なんとか気合を入れて話しかけたは良かったものの、初っ端で噛んでしまい、その後に続く言葉もなんだか変なイントネーションになってしまった。


 女性プレイヤーは急に話しかけられたのにびっくりしたのか、ビクッと少し体を刎ねさせながらカエデの方を向いて答えた。


「あ、あの。私今日このゲームを始めたんですけど、この“クエスト”ってのをどうすればいいか困ってて……」



 【クエスト 薬草採取(レベンの森)

 難易度:中

 推奨ランク:D以上】



「あー、なるほど。クエストね……。それ、どうやって発生したか覚えてる?」


 カエデの問いに、女性プレイヤーの隣に立つ長身のデーヴァが答えた。


「こういうことがあってね――」






  ◆






 ANOの舞台、アリュビオンに降り立ったシイナはストレンジアと共にターミナルを目指して歩いていた。

 シイナの視界にはアリュビオンの簡易マップが表示されている。アクロスギアの機能の一つだ。


「なるほどなるほど。こういう作りの街なんだ」


 アリュビオンは円形の城壁に囲まれた、いかにも中世欧州モチーフのファンタジー物のような街だ。

 ターミナルと呼ばれる大きな施設を中心とし、その周辺を指す“セントラルエリア”。そしてその周りを囲むようにしてドーナツ状に広がる街を東西南北の4エリアに分けている。

 ゲーム開始時には皆セントラルエリアの広場付近に降り立つようで、このまま真っ直ぐ歩いていけばすぐターミナルへと到着する。

 シイナはストレンジアと共にターミナルを目指して歩いていた。と、その時だった。


「お姉ちゃん、もしかして“ぷれいやぁ”の人?」


 ふと、見知らぬ少女に話しかけられた。茶色いストレートの髪の毛が印象的な10歳付近くらいの幼い女の子だ。

 “ぷれいやぁ”とは文字通りプレイヤーのことだろうか。それをたどたどしい発音で確認するということは……。


「もしかしてこの子はNPC?」


 シイナはストレンジアに尋ねる。

 目の前の少女は“えぬぴーしー?”と、聞き慣れていない単語を耳にした時のような反応をとった。


「この世界で生活している住人だね。――お察しの通り、彼女がプレイヤーで私がそのバディデーヴァだ。さて、一体どうしたのかなお嬢さん?」


 ストレンジアの問いかけに少女は答える。


「あ、あのね。お母さんが病気で倒れちゃって、どんな病気にも効くっていう薬草が欲しいんだけど、お店に売ってなくて……。だから薬草が採れる森まで採りに行きたいんだけど、わたしは強くないからそこまで行けなくって……。それで、お姉ちゃん達にお願いできないかなって」

「なるほどね。その森の名前を教えてくれるかな?」

「えっと、レベンの森っていって……もしかして、引き受けてくれるの?」

「勿論さ。いいよね、マスター?」

「……うん。いいよ。お姉ちゃん達に任せて」


 まずはチュートリアルを受けるのが先だと思ったが、目の前の小さな女の子が困ってるのだ。助けないわけにはいくまい。――ストレンジアが勝手に引き受けなければならない雰囲気を作り出したような気もするが。

 シイナの返事を聞いて少女の顔がパッと明るくなる。可愛い。


「ありがとうお姉ちゃん達!あ、わたしニーナっていうの!もし薬草が採れたらここに届けてほしいな!」


 ニーナと名乗った少女は小さなメモのようなものをシイナに手渡した。そこには「サウスエリア 110-2」と住所のような物が書かれていた。


 この世界に来たばかりの自分にはどこなのかさっぱりだが、アクロスギアによって表示されたマップには「住所検索」という項目が見られるため、この数字を入力すればそこに案内してくれるのだろう。

 ニーナは嬉しそうに手を振って、向こうへと駆け出して行った。おそらく自分の家へ帰るのだろう。釣られてシイナもストレンジアも小さく手を振る。


 その時、ピロン♪という電子音がアクロスギアから聞こえた。見ると『クエストを受注しました。>クエスト詳細』という表示が。

 なるほど、これはゲーム内クエストか。それにしても先ほどのニーナという少女はNPCなのに表情の変化や口調がまるで実際の人間のようだった。人間に近いレベルの人工知能をNPCに搭載しているというのはどうやら本当らしい。


 さて、ゲームを開始して早々に発生したクエストだ。そこまで難易度が高いわけじゃないだろう。と、アクロスギアでクエストの内容を確認する。


「……えっ?」



 薬草採取(レベンの森)

 難易度:中

 推奨ランク:D以上



「でぃ、D以上……!?」


 自分たちのランクはF。それなのに推奨ランクD以上とは。

 これにはストレンジアも少々驚いているようで、「ふむ……。これは結構しんどいかもね」と神妙な顔で呟いていた。


「ど、どうしよう……」


 快く引き受けた手前、「やっぱり他の人に頼んで」とはニーナに言いにくい。

 どうしようどうしよう。シイナは困った顔でずっと呟いていた。






  ◆







「な、なんでランクD以上推奨のクエストなんかが発生しちゃったんだろう……。私まだANOを始めたばかりのランクFなのに……」


 相変わらず困った様子のシイナにカエデが答える。


「クエストはターミナルで受けられるミッションと違って偶発的に発生することもあるからね。アクロスギアのメニューにもクエストが張り出されることがあるんだけど、こういう場合は初心者だろうとお構いなしに高難易度のクエストが発生しちゃうことがあるんだよ。ボクも経験あるなぁ……。アイテム屋でいきなり聞いたことも無い鉱石の収集を頼まれちゃって、行ったことのない山に登る羽目になったよね」

「あの時は大変だったな……。クリア出来たからいいけどよ」


 何やら感慨深そうに頷くアーメス。シイナはカエデ達に尋ねる。


「……このクエスト、他人が引き継ぐことっで出来ますか?私には難しそうだし、もしよかったらあなたに引き受けてほしいんですけど……」

「それも出来るけど、クエストをクリアすればこの世界に貢献した証として経験値……”エレメント”が増えるよ。それに、これはあなたが受けたクエストなんだから、あなたが達成した方がそのニーナって子も喜ぶと思うな」

「で、でも、一人じゃ不安で……」


 そんなシイナにアーメスが言った。頼もしそうに鎧の左胸をポン、と右の拳で叩く。


「それなら俺達が手伝ってやるよ。ここで出会ったのも何かの縁だしな。いいよな、カエデ」

「うん、勿論。というか、最初からそのつもりだったし。ボクのランクはEだけど、多分なんとかなるよ」

「助かったよ。お嬢さんに騎士殿。この世界で始めて出会ったプレイヤーとデーヴァが貴方達の様な親切な方で、とても幸運だ」


 クエストを手伝ってくれるというカエデとアーメスに対してストレンジアが深々と頭を下げてお礼を言う。

 うわっ、このデーヴァ、めっちゃ顔面偏差値高いな……とカエデは少しだけ委縮。アーメスも何やらドキッとした表情を浮かべる。


「じゃ、じゃあせっかくだし、フレンド登録しようか。これ、ボクのユーザーID」


 カエデは自身のアクロスギアを操作して自分のメニュー画面を開き、シイナへと見せる。

 シイナも「あ、じゃあ私も」と言いながら同じようにしてメニューを開いた。

 そして互いにフレンド登録を済ました2人は相手のIDを見て目を見開く。


「……フレンドID、“DoroKin”?」

「……“C-7”?もしかして……」


 シイナとカエデは互いに驚いた表情で目を見合わせた。

 まるで生き別れの兄妹が再開した時のような、そんな表情だった。


「そのID……もしかしてカエデさんって、ドロちゃん?」

「えっと、そういうシイナさんこそ、ナナちゃん?」


「「……ええええええええええ!!??」」


 互いに目を見合わせて叫ぶプレイヤーに驚いたアーメスとストレンジアが自身の主に尋ねる。


「どうしたんだいマスター達!?」

「なんだなんだ?二人とも知り合いだったのか?」

「知り合いっていうか……、別のゲームでフレンドだったっていうか……」

「去年サ終したファンタジーMMOを共に駆け抜けた仲といいますか……」


 VRMMOの流行と共に次々と通常のMMOはサービスを終了しつつあった。2人が以前プレイしていた「ロスト・ドラグーン」もその一つだ。サービス期間は約4,5年ほどだったが、意識潜航型VRゲームが流行している今の時代に誕生したゲームの中ではよく頑張った方といえる。

 他コンテンツとのコラボやイベントをあまりにも積極的に行い過ぎてゲームの雰囲気はサービス開始1年目から既に闇鍋状態になっており、ファンタジー感は皆無であったが……。


 カエデとシイナはそのゲームで同じギルドに所属していた仲間だった。

 カエデは絶対的な防御力を誇るタンク役として、シイナはその反対で圧倒的な破壊力を誇る攻撃役としてそれぞれ背中を預けて戦った、いわば戦友であった。


 その時の互いのIDが「Dorokin」と「C-7」。その文字列を彼女たちは再び目にしたのである。


「すっごい偶然!“絶対防御”のドロちゃんとまた会えるなんて!お互いにSNSのアカウントとか知らなかったからもう絶対会えないと思ってた!」

「ボクもボクも!うわぁー、嬉しいなぁ!“破壊神” ナナちゃんの活躍がANOでも拝めるのかなぁ!」


 別の世界で共に戦った戦友と再会した、その喜びを噛みしめる2人。

 互いの手を取ってブンブンと上下させる。そんな様子を見てアーメスとストレンジアがほほ笑む。


「良かったねマスター。長年の友と再会できるなんて、どうやら私は素晴らしいシチュエーションに立ち会ってしまったようだ」

「初めて同性の友達が出来たって感じだなカエデ」





「さぁ、早速クエストをクリアしに行こう!ボクとナナちゃんの力があれば怖い物なんてないよ!」

「ロスドラの時のようにはいかないだろうけど……、でもドロちゃんと一緒なら心強いな!」


 2人は仲良く並んでターミナルを目指して歩き出す。

 レーベンの森を始めとしたANOの各エリアへはターミナルの移動機能を使って移動することが出来る。街の四方にある門から外に出ることもできるが、移動のために非常に時間がかかってしまう。

 こうしてシイナのANOでの初めてのクエストが始まった。自分の作り出した相棒と、そしてかつての戦友と共に。






  ◆






 一方その頃、シイナがカエデと共にクエストに挑んだのとほぼ同時刻のことである。


「……なぁ、これ、手伝ってくれないか」

「やっぱり2人じゃ無理でしたわ……」


 ターミナル付近のレストランにて、シューマとシャルディは自分達が注文した「ジャンボデラックスパフェ」を完食することが出来ず、7割ほど残った器を別のテーブルに座っているナギサ達に差しだしてきた。


「言わんこっちゃない!」


 ナギサが叫ぶ。だから「手伝ってやろうか?」と言ったのに。

 隣のテーブルに座っていたソウハが待ってましたとばかりに立ち上がる。自分が注文した柚子アイスはとっとと食べきってしまったようだ。


「……ぼくはお腹いっぱいだから遠慮しておくよ。それに現実世界で昼食をまだとってないんだ。これ以上食べると向こうに戻った時に面倒臭いことになる」


 ナギサの向かいに座るクオンはハンバーグを食べ終えたところで、もう既に満足した様子だった。

 それに仮想空間であまり食事をとり過ぎると、実際は空腹だけど頭の方が満腹中枢を刺激されて、現実世界に戻った際に「ご飯全然食べれる気がしないけどお腹は空いた!」ということになりかねない。彼はそれを危惧しているのだろう。

 ちなみにそれを利用した"VRダイエット"というダイエット法がこの世界では流行ったりもしている。


「仕方ないですね。手伝いましょう手伝いましょう」

「全然“仕方ない”と思って無さそうな言い方だぞ?」


 ソウハ達デーヴァの座るテーブルでプロトがソーセージの盛り合わせを食べながらソウハの言動にツッコむ。

 最初は「どう見てもアンドロイドの彼はどうやって飲食を行うのだ?」と同じテーブルに座るソウハ達は思っていたが、プロトは口元のクラッシャー部分を開き、そこに食べ物を放り込むと、まるで虫のようにそれを動かして普通に食事をとっていた。

 その様子を見たレウルは「虫みたいでキモい!」と驚愕したが、プロト本人が


「言わないでくれ……。前にミナミにも言われて少し気にしているんだ……」


 と、結構真面目に凹んでいたので、他の皆はそこに言及するのはやめておいた。

 ただ、カオルコだけはなんとかフォローしようとした。


「え、えーっと……、虫さん、わたしは好きですよ?」

「そういうことではなく、純粋に虫っぽいことを気にしているんだ……」


 そして失敗した。

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