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8.義姉参戦 -初戦闘は絶叫と共に

 カエデとシイナはアリュビオンの中心部、“ターミナル”へとやってきた。

 行きかう人々に様々な姿形をしたデーヴァ。それらにシイナは目を輝かせる。


「うわぁ……、色んな人がいる……!…………で、なんでここに来たのドロちゃん。レベンの森に行くにはまず街の外に出ないと駄目なんじゃ……」

「ボク達プレイヤーはわざわざ門の外に出なくても、ターミナルの転送装置を使えばこの世界の様々な施設やダンジョンの入り口にワープできるんだよ。直接ワープできない特別な場所ってのも噂ではあるらしいんだけど、とりあえずレベンの森ならパパっと行けるよ」

「……なんかいきなりゲーム感強くない?」

「まあ、便利だからいいんじゃない?」


 そう言いながら彼女達はターミナルの中にある、いかにも”転送装置”といった形状の大きな装置がある場所へと足を運ぶ。

 その装置の床にカエデ、シイナ、アーメス、ストレンジアの4人が立つと、パネルのような物にカエデがアクロスギアをかざした。


 するとパネルに『どちらへ転移しますか?』という表示と共に大陸の地図が表示された。カエデは指先で地図の一部分をタップする。そこにはレベンの森と書かれてあった。


 『それではレベンの森へと転送します』と、また新たにパネルに文字が表示され、4人は光に包まれた。






  ◆






 気が付くとシイナ達は植物が野放図に伸びた道――果たしてこれを道と呼んでいい物か悩むところだが――に立っていた。


 目の前には広大な森が広がっている。ほぼほぼ朽ちかけているといってもいい木製の立て看板には『レベンの森』と書かれてあった。


「さ、行こうか」

「うん」


 カエデとシイナは森の入り口を進む。


 森、といっても自分たちの歩いているところは、かつては舗装された散歩道だったようで、迷うことは無さそうだ。

 おそらく昔はハイキングコースか何かだったがモンスターが出現するようになって放置された……という設定なのだろうとシイナは推測する。


「薬草を探すんだっけか。薬草、といってもそれだけじゃ分かんねえな……。何か特徴とか聞いてないのか?」

「あっ」


 アーメスにそう言われてシイナがハッとなる。

 そういえばその通りだ。どんな外見の薬草なのか聞いていない。草をパッと見ただけで「これは薬草だ!」と判断できるスキルなど自分はおろかストレンジアすら持ち合わせていないだろう。


 いや、ひょっとしたらストレンジアなら分かるかも……と、シイナは相棒の方を向いたが、申し訳なさそうに首を振った。デスヨネー。


 どうしようどうしよう、とまたシイナが悩み始めようとした時、カエデがポンっと手を叩く。


「こういう時はフォーラムで聞けばいいんだよ」


 そう言ってカエデは自分のアクロスギアを操作し、プレイヤー同士の交流の場であるフォーラムを起動させた。

 そして「質問用スレッド」を開くと、慣れた手つきでキーパッドを操作して書き込む。





 753.混沌の闇を穿つ光の騎士

 レベンの森で薬草探せって言われたんだけど、どんな見た目してるのか分かる人おる?





「……混沌の闇を穿つ光の騎士ぃ?なんだそりゃ」


 フォーラムへ書き込む様子を見ていたアーメスがカエデのコテハンを見て固まった。

 それにフォローを入れるようにストレンジアが続ける。


「光と闇が合わさって、何やら強そうに見えるじゃないか」

「いや、混沌があって更に光も闇もあるぞ。光と闇が合わさった後に分裂してないか?」

「ええい、静かにしなさいデーヴァ共」


 カエデが自慢のコテハンを弄る2人に注意する。再びアクロスギアに視線を移すと、自分のレスに対して画像ファイルの添付と共に返信があった。





 754.NO_NAME

 >>753

 万能薬草のことかな?それならこんなやつ【画像】

 結構奥の方に生えてるよ

 というかなんなんその名前



 755.NO_NAME

 混沌の闇てwwwwwww



 756.混沌の闇を穿つ光の騎士

 >>754 ありがとー感謝!






「画像によると、こんな感じだね」


 カエデが見せてきた画像によると少し青みがかった色をしている長い草だった。目立ちやすい色だ。これなら分かりやすい。

 結構奥の方に生えている、ということはだいぶ歩くことになりそうだが、アクロスギアの簡易マップもあるので迷うことは無いだろう。

 と、いうか。


「やっぱそのコテハンめっちゃ馬鹿にされてないか?」

「う、うるさいっ」


 その時だった。

 ブブブブブブブ…………と、羽音のようなものが辺りから聞こえてきた。それも一つではない。二つ、三つ、それ以上はある。


「な、何?この音」


 シイナが怯える。そんなシイナを守るようにストレンジアが前に出た。


「虫系モンスターの羽音のようだね。なるほど、森というだけあって虫との戦いは避けられないか」

「む、虫!?」

「早速戦闘か。最近は対デーヴァ戦ばかりだったからちょっと久しぶりだな」


 アーメスも同じようにカエデの前へと躍り出る。

 ふと、ストレンジアの腰にささった刀を見てアーメスが「おっ」と小さく息を漏らす。


「あんたの武器は刀なのか。俺の知り合いにも刀を使う女子がいるよ」

「ほう?それは一度手合わせしてみたいものだね。……と、その前に。私は“あんた”ではなく、マスターに名付けてもらったストレンジアという名前があるんだ。次からはその名で呼んでくれると嬉しいな、アーメス殿」

「おっと、悪かったなストレンジア。……さて、二人共。多分これから相手するのはスキルを使うまでもない雑魚モンスターばっかだろうけど、一応一緒になっとくか?」

「そうだね。ナナちゃん、デーヴァと一体になるための合言葉は分かる?」

「う、うん。それは事前に知ってたから大丈夫」


 その時だった。羽音が更に近くなった。

 シイナ達部外者の存在に気付いた蜂のモンスターが周囲から迫ってきていた。シイナはそれらを視界に捉えると、大声で叫んだ。


「ぎゃああああああああ!!!!キモいいいいいいい!!!!」


 女子にあるまじき声を発してシイナが騒ぐ。


 ――虫の質感が遠目でも分かるくらいリアルで気持ち悪い!


 しかもデカい!とにかくデカい!

 VRゲームの虫、とにかくキモい!


「……気持ちは分かるよ。うん。ANOとは別のVRゲームやってた時の話だけど、ボクも最初は虫系モンスター本当に無理だったし。おっと、このままボーっとしてたら危ないね。いくよアーメス、イグニッション!」

「おうよッ!」


 “イグニッション”の掛け声と共にカエデはアーメスと一体になる。

 アーメスは戦闘時のスタイルである青銅の鎧を身に纏い、背中から西洋剣を引き抜いてそれを構えた。


「マスター、私達もいこう。記念すべき最初のイグニッションだ、カッコよく頼むよ!…………って、ちょっと難しそうかなぁ。これは」


 うわうわうわうわうわうわあああああああ!!!!……と絶叫を続けるシイナにストレンジアの声は届いていないようだった。


 ストレンジアは「やれやれ」といった様子で、少し大きな声でシイナに向かって叫ぶ。


「“イグニッション”!!私の名前と共にそれを叫ぶんだ!!大丈夫、あの虫達と直接戦うのはマスターじゃない!!私なんだ!!」


 ようやく言葉が耳に届いたのか、シイナはハッとなって腰のホルダーから自分のアクロスギアを取り出す。

 随分パニックに陥っていたため、慌てて取り出したせいでうっかりギアを落としそうになるが、右手でしっかりとキャッチした。


 そしてカエデと同様に叫ぼうとする。相棒と一体となるための言葉を。戦いの合図を。


 そうだった、初めてだからカッコよく決めないと……と気合を入れ直すシイナ。


 だが、すぐそこまで迫ってきている中型の蜂モンスターを見て、またもや


「あっひゃああああああああ!!!!」


 と声をあげる。隣でアーメスが「オイオイ大丈夫かこの子」と心配そうにするがその声もシイナには余裕で聞こえなかった。


 シイナは「頼むからこっちに来るな!」と言わんばかりに顔を逸らしてアクロスギアを持った手をブンブンと振り回し叫んだ。


「イ、イ!イグイグイグニッション!!ストレンジアアアアアアァ!!!!」


 シイナの初めての"イグニッション"の宣言は変なイントネーションととんでもない声量で行われた。


 ストレンジアは「これは格好がつかないね……」と困ったような、呆れたような顔で小さく笑いながらマスターと同調する。


 こうしてシイナとストレンジアの初めての戦いは、なんだか間抜けな形で幕を開ける。


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