5.義姉参戦 -今更ながらキャラメイク回です
『プレイヤーネームとユーザーIDを設定してください。プレイヤーネームは後からでも変更が可能です』
ANOの世界へと自分を歓迎してくれたメッセージウィンドウは更に次の文章を表示した。その下にテキストボックスが更に出現し、名前の入力を指示する。
「え、えと……。じゃ、じゃあ……」
シイナはポチポチと電子キーボードを叩き、テキストボックスへと名前を入力させる。名前は……“シイナ”だ。自分のアバターの外見は特に変更できないのだ。ならば本名でプレイしたところでそこまで影響はあるまい。
そもそも自分の外見で、いつもネトゲなどで使っている名前をそのまま用いた方が違和感がある。それにこのゲームは本名プレイのユーザーが多いと聞いているので、本名を用いてもそこまで浮かないはずだ。
IDは普段から使っているものでいいだろう。”シイナ”に合わせたものである「C-7」を入力。
『次に、この世界で貴方と共に戦うデーヴァの容姿を設定してください』
名前を入力し終わると、目の前にマネキンのような立体映像と、そのマネキンの容姿を細かく設定するための沢山のパネルが出現する。
身長、体重、スリーサイズ、アクセサリー…………などといった単語と数値、更に身体のパーツを収めたウィンドウがズラリと並ぶ。
種族設定まである。ヒューマン、エルフ、サイボーグ、獣人、竜人…………ファンタジーゲームで見られるような種族は大体揃っていた。
「な、悩む……。というか物凄く時間のかかる作業になりそう」
そう思っていると、下の方に目立つ表記で
『困った時はこれ!貴方好みのキャラデザインを自動で作成します!』
とあった。
デーヴァの自動生成機能、こんなものアテになるのだろうか。と思いながらもシイナはその表示の下にある『作成開始!』の文字をタップ。
するとマネキンから光線のような物が放たれ、シイナの脳天を撃ち抜いた。
「わ、あわわわわわ……!?」
突然のことにシイナは驚く。急にマネキンが攻撃してきたのかと思ったのだ、無理も無い。
謎の光線によって何かを読み取ったらしいマネキンが徐々にその姿を変えていき、一人の長身の女性の姿を形作った。
170cmはあるかといった長身の女性だ。切れ長の眉だが穏やかそうな瞳、長く美しい青紫色の髪を後ろで縛ってポニーテールにしている。服装は黒色を基調としたコートのような衣装だ。
「カッコいい……」
思わずそう声が出た。自分が理想とするような、カッコいい女性の姿そのものだ。
自分は今まで一人っ子だった――一応今は義理の弟がいるが――ため、自分の上に頼れる姉が欲しかったことがある。そんなことを思い出した。だからこんなカッコいい女性の姿が出来上がったのだろうか?
自分がANOに手を出した理由は、好きな配信者兼声優の女性が熱くこのゲームをオススメしていたことにあるが、それよりもデーヴァと呼ばれる人間に近しい人工知能を持った存在とコミュニケーションをとることが出来る機能に惹かれたからでもあった。
今の自分には気軽に話せる人間が特に存在しない。友人など特にいないし、義母とは仲が悪いわけじゃないが、やはりどこか遠慮しがちなところがある。
……SNSのフォロワーならいっぱいいるのだが、彼らとは直接的なコミュニケーションはとったことがない。あくまでネットの中だけの付き合いだ。
VRゲームだって、他人との直接的な付き合いが少し怖くてMMOに手を出したことは無い。
オンラインゲームといえばPCやスマホで出来るものばかりで遊んでいたし、意識潜航型のVRゲームも一人用のRPGしか触れたことがなかった。
だが、そんな自分にもそろそろ嫌気がさしてきた。私はこれから変わるのだ。コミュ障だけど他人と関わっていきたい。いや、コミュ障を卒業したい。
付き合いが浅いとはいえ、家族相手にすら満足に喋れない鳴海詩奈とはこれからサヨナラする!……サヨナラ出来たらいいなぁ!
だからこのゲームで自分が設定したキャラクター相手にコミュニケーションの練習をしたり、日頃の悩みの相談なんかをしたり、楽しく会話したり、そんなことが出来たらいいなぁ……と、そう思っていた。
とりあえず自動生成機能で作成したデーヴァの基本情報を確認する。
一人称は「私」、基本となる性格は「しっかり者」……。この辺りは特に変更しなくても良いだろう。面倒見の良いしっかり者の姉。いやぁ、欲しかったなぁそんな人!
容姿や性格の設定は一旦これで置いておいて、名前を決めておこう。
どんな名前がいいだろうか、うーん……と腕を組んで考える。
「あんまり日本人っぽい名前が似合う感じじゃないよね……。横文字にするべきかなぁ……」
考えて考えて、一つの結論が出たためそれを入力する。――“ストレンジア”。
自分の好きな花である極楽鳥花の英名であるストレリチアと、アジサイの英名であるハイドレンジアを足し合わせたものだ。
2つの花の優雅さと可憐さ……そんなものを、今こうして作成された彼女は兼ね備えている気がした。
次は初期装備の設定をしよう。パネルをスライドさせる。
すると今度はズラーっと、武器のアイコンが並んだ。
「多い!」
武器アイコンが思ったよりも多くて思わず叫んでしまった。
分類が「打撃武器」「斬撃武器」「射撃武器」「魔法武器」……と色々分かれているのはまだ分かるが、まさか剣と刀が別扱いで、更にそこから「両手剣」「片手剣」「片手剣(盾付属)」と派生するのはとんでもなく面倒臭い。
というか、「ヨーヨー」や「カード」といった個性的な武器が設定されているゲームは初めて見た。ヨーヨーは打撃にも斬撃にも両方属していて、なんだかややこしそうである。
魔法武器に属している「魔銃」とはなんだ?銃とどう違うんだ?と思い、詳細をタップ。
『射撃武器ではありますが攻撃力の計算を通常攻撃力ではなく魔法攻撃力で行います』とある。この説明文から察するに、ステータス設定も中々面倒臭そうだ……。
銃、斧、杖、槍、棒、爪…………うーん、どれも先ほど完成させたストレンジアにはしっくりこない。彼女のイメージならば……うん、剣だ。それも西洋剣ではなく、刀で行こう。盾の類は付属させるか……は、後で考える。
いや、防具は無しだ。そっちの方がカッコいい気がする。武器なんてゲームを遊んでいれば後からいくらでも変更できる要素だ。最初は直感で決めよう。
刀の武器アイコンをタップすると、先ほど作成されたストレンジアの腰に刀が装着された。
「うーん、この子は腰より背中に刀を差した方がカッコよくない?」
シイナはそう言ってパネルを操作し、ストレンジアの腰に差された刀の配置を背中へと変更する。これでよし。
「ステータスポイントの振り分けかぁ……」
武器の設定を終えて、パネルを次の画面へとスライド。出現したメッセージはこうだ。
『初期ステータスタイプの決定を行います。21のポイントを以下のパラメータに振り分けてください(これはゲーム内の施設で変更が可能です)』
HP、通常攻撃力、通常防御力、魔法攻撃力、魔法防御力、スピード、運の7つのステータスが並び、システムはそれらに21のポイントをどう振り分けるか、と指示してきた。
これらに振り分けられたポイントによって、デーヴァのステータスタイプと成長度合いが決まるのだという。
「全部均等に振り分けてバランス型にする……と、なーんかパッとしないステータスになりそうだよね。かといって、どれか一つのパラメーターに全振りして一芸特化!ってのもなぁ」
パーティメンバーを複数用意できる一人用のRPGならそういうキャラを一人作っても面白いのだが、ANOは1人のプレイヤーが1体のデーヴァを使役するゲームだ。癖の強すぎるキャラを作成してしまえば、一人で遊ぶ時に困ることが多くなるだろう。
……シイナが知らないだけでそんなプレイヤーはそこそこいたりするのだが、生粋のゲーマーでもある彼女は、ここは慎重にならねばと考えた。
後からANO内の施設で変更が可能とはあるものの、おそらくそのためにはゲーム内通貨が大量に必要だったりするに違いない。一度決めた設定を簡単に変更させてくれるような優しいゲームなんて、そんなに無いのだ。
そうだ、魔法剣士みたいなスタイルで戦いたいな、とシイナは考えた。だったら攻撃と魔法攻撃を伸ばす方向で行こう。
――この子が剣と魔法を駆使して戦ったら、きっとカッコいいだろうなぁ……!
そしてまず初めに通常攻撃に5、魔法攻撃に4を振る。攻撃力はあった方がいい。そして攻撃力に5を回した分、HPは1にする。HPに大きく数値を振ったところで、防御力が低ければ意味を成さない。
色々と考えた結果、数値の割り振りはこうなった。
HP:1
通常攻撃力:5
通常防御力:2
魔法攻撃力:4
魔法防御力:2
スピード:3
運:4
とりあえず初期設定はこれで良しとしよう。
最後にキャラメイクを細かく見直そう。瞳の色は薄い赤なんてどうだろう。いや、茶色がいいか?
身長はこのままで……、胸囲はもうちょっと大きめの方がいいかな……。このスタイルに似合うスリーサイズは――。
「で、出来たぁ……!」
などなど、じっくり色々と考えた結果、ついに自分のデーヴァである“ストレンジア”が完成した。
『キャラメイクを終了しますか?』というメッセージウィンドウの『YES』をタップ。
『本当によろしいですね?』と更に表示された。
更に『YES』。
『何かやり残した設定はございませんか?』と更に更に表示。
「しつこいっ」
再々確認は余計だろう。と、シイナは口を尖らせて3度目の『YES』をタップする。
『それでは貴方の相棒となるデーヴァを作成いたします。これからの詳しい説明はデーヴァからお聞きください(ゲームの基礎知識はメニュー画面でも確認が可能です)』
すると、先ほどまでは立体映像だったストレンジアの足元に魔法陣のような物が展開された。ここに来てちょっとオカルト的な要素入ったな、とシイナは思う。
魔法陣から放たれた光に包まれたストレンジアは、徐々にその姿を実体化させようとする。
――私はこれから、この子と一緒にANOの世界を楽しんでいくんだ。
誕生していく自分の相棒とのゲームライフに胸を膨らませながら、シイナはストレンジアの完成を待った。
そして完全に実体化したストレンジアはスッ……と目を開けると、静かに微笑んでシイナの目を見た。
「あ、あの!あなたがストレンジア、だよね。私は――」
シイナが言い終える前に、ストレンジアは膝をついてその場に屈むと、まるでお姫様でも扱うような仕草で、呆然と佇むシイナの手を取った。
「貴女が私をこの世界に生み落としてくれたんだね。ありがとう。……ふふっ、可愛らしいお嬢さんだ」
「えっ、えっ、あの」
突然の出来事にシイナは驚くばかりだった。出会っていきなり手を取られた。
しかも、おとぎ話に出てくる王子様のような動作で。
フフフッ、とストレンジアが妖艶に微笑み、シイナの顔を見上げた。
「これからよろしく頼むよ。マイマスター」
「マ、マママママ、マスター…………?」
初めてだった。マスターといった仰々しい称号で呼ばれるのも、こんなカッコいい女性に手を取られるのも、丁寧に扱われたのも。
とりあえず、とりあえずだ。
「顔と声が良い!!」
真っ先に口を突いて出たのは、彼女の美貌に対する感想だった。
そう、顔と声が良い。それだけは揺るぎようのない事実だ。
「お褒めに預かり光栄だ。けど、貴女の美貌と声もとても素敵だよ」
突然のシイナの叫びにもストレンジアは動じることなくそう答える。
――うーん、不味いぞ。このままでは自分の作ったキャラに恋をしてしまいそうだ……。
シイナは内心ニヤニヤしつつも、ちょっと困っていた。
しっかり者というか王子様みたいなキャラになった彼女と上手く喋れるかどうか不安で。




