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4.祝勝会 -男の娘の良さって説明するの難しいよね

 団体戦が終わってから少し後のこと。

 ミナミが「良かったらこの後みんなで祝勝会でもしませんか?」とBチームの面々に声を掛けた。その結果。


(うーん、集まったのはたったの4人とはいえ……、1人を除いて全員顔見しりってのはなぁ)


 多数のプレイヤーが「すみません、この後約束が」「クエストに行く予定があって」「リアルでちょっと用事が」「夕方から取引先に会わなきゃいけなくて」などと答えたため、セントラルエリアのレストランに集まったのは4人となった。


 ナギサ、ミナミ、モトカズ、そして無口な少年の4名はテーブルに座って注文が届くのを待つ。そして隣のテーブルには彼らの相棒であるデーヴァが座っていた。


「柚子アイス、良い響きですね柚子アイス。これにします」

「ならばオレはこのソーセージの盛り合わせを頼むぞ。肉が食べたい気分なんだ」

「おにーさん、その口で食べ物食べれるの?あっ、ぼく様はチョコレートパフェねー」

「えっ、えと、あ、あの……。じゃ、じゃあわたしもそれで……」


 4人はワイワイとメニューを見ながら自分達の注文を決めているところだった。

 カオルコは戦闘時の兵士服から可愛らしいワンピースに変わっており、レウルは戦闘時の衣装と通常時の衣装を個別に設定していないのか吸血鬼のような衣服のままだ。

 それにしても女性剣士とケモミミ、吸血鬼のような女性……のような姿をした男の子、更にアンドロイドとは、中々カオスな組み合わせだ。


「と、とりあえず、今日はお疲れ様でした!かんぱーい!」

「ナギサさん、それは飲み物が届いてからでよくないか?……水で乾杯ってあんまり聞いたことないよ」

「そ、そうだった。ごめん、ちょっと焦っちゃって……」


 沈黙を破ろうと水の入ったコップを掲げて無理矢理声を出してみたナギサだったが空回りしてしまった。自分は何をやっているのだ、と反省する。


 しかし、まあ、なんだ。何故この人がいるのだ。

 と、ナギサは向かいの席に座るモトカズをチラリと見る。


 別に「なんで来てんだよ。帰れよ」と思っているわけではない。ただ、気まずいのである。初心者狩りをふっかけた側とかけられた関係だぞ、僕らは。


 今回の団体戦でも特に一緒に戦うことは無かった。自分の方に集中していたため詳しく見てはいなかったが、向こうは試合の前半は常に逃げ回っていただけな気もする。


 そしてもう一人の少年、10代中頃辺りに見える痩せ型の華奢な身体と、黒いコートを着ている彼は確かクオンと言ったか。

 右手が鉤爪のデーヴァ、レウルを操っていたプレイヤーだ。こちらも共に戦う機会は無かったが、彼の操るレウルはソウハと同じようにスピード寄りのステータスをしているらしく、戦場を駆けまわっている姿がちょくちょく確認できた。今は戦闘中ではないので右手は普通の手になっている。

 試合終盤で精密射撃を得意とする敵チームのロビンを倒してくれたことは非常にありがたかった。システムの分析によるとこの試合で最もチームに貢献した動きをしていたらしく、MVPを受け取っていた。


「こないだはその……悪かったな。ツレの偉そうなアイツにもそう言っといてくれ。ちょっと、それだけは言っとかなきゃなと思ってよ……」


 急にモトカズが口を開いた。視線の方は若干逸らされているものの、その言葉が自分に向けられたものであることをナギサは即座に理解した。

 水を飲んでいる途中だったナギサはそのことに少し驚き、むせそうになったため慌ててもう一口、水を口に含んで無理矢理飲み込む。


「げほっ……、あぁ……、あのことですか。別にいいですよ。もう気にしてませんし」

「なんだ?ナギサさん達、何かあったのか?」

「ま、ちょっとね。大したことじゃないよ」


 ですよね?とナギサはモトカズに軽く目で合図する。彼もそれを受け取ったのか、小さく頷いた。

 ここで「ログイン初日、彼に初心者狩りをふっかけられました!」と言ったならば、ミナミを困惑させかねない。面倒なことになるのはごめんだ。


 それにしても急に謝罪するとは、何か心変わりでもあったのだろうか。それを言うためにこの集まりに参加してくれたのだろうか。


「それにしても君……クオン君、だよな?今回はMVPおめでとう!なんでこの集まりに参加してくれたんだ?」

「ん?……まあ、別にこの後用事も無かったし。それにアイツが行きたいって言うもんだから」


 ミナミが向かいに座るクオンに質問する。クオンは表情を変えることなく答えた。

 “アイツ”とは向こうのテーブルに座る自身のデーヴァ、レウルのことだろう。

 そんな彼は


「さぁさぁ、今日の主役はクオンとぼく様だぞー!崇めろー!奉れー!」


 とハツラツとした声で笑っている。


 ナギサもミナミも最初はピンクの髪とサイドテールが特徴的な彼の吸血鬼風デーヴァ、レウルのことを女性型だと思っていた。だが、細身ながらも筋肉質な身体のラインと、少年に近い声質からしてどうやら男性らしい。


「爪が武器ってカッコいいね。いやー、今回は色んな種類のデーヴァが見れて面白かったな」


 それに続くようにナギサが口を開いた。その顔はどこかイキイキとしている。

 他人のデーヴァを見るのが楽しいのだ。


「それ、よく言われるよ。確かにこのゲームは武器やスキルの種類が多いから色んな発見があるよね」

「うんうん、それにデーヴァってプレイヤーのせいへ……んっ!んんっ!趣味嗜好の塊みたいな存在じゃない?それを眺めるってのはまるで相手の趣味を覗いてるみたいで楽しいっていうかさ」

(こいつ、今“性癖”って言いかけたな!?)


 モトカズだけがナギサの失言に気付くも、ミナミとクオンは聞き逃したようだ。

 “趣味の塊”というワードにミナミが「うんうん」と反応する。

 以前ナギサに言われた“デーヴァのデザインって自分の“好きな要素”の塊みたいなものだろ?“という言葉を思い出していた。

 クオンが小さく笑う。


「趣味の塊、か。確かにそうだね。ぼくは否定しないよ」

「……ってことはお前、男の娘が好きってことか?」


 隣にいるモトカズがそう言った途端、クオンの顔が少し赤くなる。

 そして大きく手を振って否定の意を示した。


「ち、違う違う。レウルは……そう、自動生成機能を使ったら勝手にああなっただけで――」

「それで出来たなら間違いなくね?」


 2人の会話にどこかピンと来ていない様子のミナミが「オトコノコ?」と口にする。そしてその後、何かに納得したように「うんうん」と目を瞑って頷く。


「……世の中色んな人がいるもんな。大丈夫、あたしはそういうのに偏見無いから」

「何か勘違いしてるなキミ!?いいか、知らないなら教えてあげるよ。男の“子”じゃない!“コ”は子の字じゃなくて、“娘”って書くんだよ!男の娘!男の子とは別種!」

「ごめん、よく分かんないな……」

「もう諦めて楽になっちまえって。別に馬鹿にはしてねえよ」

「じゃあせめて黙っておいてくれない!?」

「男の娘、その魅力は」


 突然ナギサが口を開いた。


「可憐な容姿と性別のミスマッチさ、ガーリッシュ&ボーイッシュという相反する2つの属性の融合が神髄。男としても女としても完璧では無いからこそ逆に美しい、という日本人特有のわびさびの精神を感じることも出来るね」

「ナ、ナギサさん……?」

「更に男性であることから同性の友達感覚で自分に接してくれそう……という気軽さも兼ね備えている。こんなところかな?」


 3人が静まり返る。

 あ、やべっ。やっちゃったわ。とナギサはその場の雰囲気を察し、固まった。ちょっとクオン君と仲良くなろうと肩を持っただけなのに。


「……いや、そんなに深くは考えてない」

「あっ、はい」


 クオンが顔を赤らめて下を向いたまま呟いた。

 うーん、どうしようかこの空気。と思ったナギサが再び口を開く。


「あ、そうそう!さっき言ってた自動生成機能?……って、何?」

「ん?知らないのか?デーヴァ作成時に聞かれるだろ。“もしキャラメイクに困ったら貴方好みのキャラデザインを自動で作成します”ってやつ」

「あー、知らないなぁ……。VR版で初めて実装された機能かな。アプリ版にあったのは心理テストみたいなやつに答えたら勝手にキャラメイクしてくれるってやつだったけど」

「お兄さんってアプリ版からやってる人なんだね。その通りだよ」

「あたしはそれ使わなかったなー」


 自動作成機能か。そんな機能がANOから増えていたとは驚きだ。

 まあ先ほど言ったように、アプリ版にも似たような機能はあったのだが。

 すると、店員が一つの商品を持ってこちらに歩いてきた。


「お待たせいたしました。ジャンボデラックスパフェになります」


 そして机の上に置かれたのは全長50cm以上あるかといった巨大なパフェだ。

 横幅もかなり大きい。具材にスイカやメロンなどが丸々1カット乗っていて非常にボリュームがあった。とても一人で食べきれる量ではない。

 というか。


「誰も頼んでないです」

「これは失礼いたしました」


 この場にいる誰一人としてそんなものは頼んでいなかった。デーヴァ側も「なんだあれ」と言った目で見ていたので彼女達の注文ではない。

 店員は慌てて深くお辞儀をしてから、それを下げ、別の席へと持っていく。


「誰が食うんだあれ」

「みんなでシェアして食べる感じかな?僕らとデーヴァを含めた全員でなら楽しく完食出来そうだよね」


 と、その時だった。

 その商品が運ばれた、斜め向こうのテーブルから声がした。


「あっ、大きい!こ、こんなの絶対入りませんわ!」

「腹にか?」

「む、無理!駄目ですわこんなの!」

「完食がか?……ええい、その妙に艶のある声をやめろ!!」


 その声にナギサとモトカズは聞き覚えがあった。ですわですわとやかましい女性、それを咎める気取った声の男性。

 シューマとシャルディだった。


「あれ、偶然。僕達は今さっきのチーム戦の祝勝会やってるとこ」

「シャルディ達じゃないですか」


 やっほー、とナギサとソウハが片手をあげてシューマに手を振る。

 なんでお前たちがここに、と驚愕した様子でシューマがナギサ達の方を向いた。


「知り合い?」


 レウルがソウハに尋ねる。


「知り合いというか、プレイヤー同士が友達なんです」

「あ~んなことやこ~んなことまでする仲ですわ。2人の日頃の絡みを描いただけで薄い本が厚くなるような」

「「んなわけあるか」」


 シャルディの発言に対してナギサとシューマのツッコミの声が重なる。

 そしてハァ……とシューマが溜め息を吐いた。


「静かにパフェを食うつもりだったんだが、なんでお前に出くわすかな……。まあシャルディがいる限り静かにするのは無理だが……」

「それ2人で完食出来るの?残したら手伝ってやろうか?」

「手伝いたいですねぇ!」


 ソウハが大きな声でそう言った。目はとてもキラキラしている。アレが食べたいのだろう。

 それに対してシューマが首を軽く横に振った。


「2人で食える。……いや、2人で食いたい気分なんだよ」

「……なぁ」


 モトカズが立ちあがってシューマに向かって口を開いた。

 シューマは、「なんだ貴様か」と言ってから視線をモトカズに移す。彼もまたナギサ同様にアンティルールを無理矢理ふっかけるという初心者狩りの対象となり、そして同じく撃退した人間だった。

 モトカズと同様に別テーブルのカオルコも立ち上がり、頭を下げた。


「……その、この前のことは悪かったな。あの時は俺もなんっつーか……、色々荒れててよ」

「ご、ごめんなさい!どうか、わたしのことは許さなくてもいいので、せめてモトカズさんのことは許してあげてください!」


 シューマとシャルディは二人して彼らの方をまじまじと見ると、同時にフッと笑った。


「悪かった?別に気にしてはいない。むしろ次に会ったら礼を言おうと思っていたところだったよ。()()()()()()()()“必殺の美脚”のスキルカード。あれはふざけた名前の割に中々使い勝手が良くて助かっているからな」

「経験値とカード、ご馳走様でしたわ!」

「なっ!テ、テメェら……!」

「……お兄さん達、やっぱり何かあった?」

「なんでもねぇ!謝って損した!」

「あ、あはは…………」


 カオルコが困った顔で小さく笑う。

 危ない危ない。黙っていたらアイスが溶ける。さっさと食うぞシャルディ。とシューマとシャルディはすぐに巨大パフェの方へと向き直り、それを食べ始めた。

 今日は色々と賑やかな日だな、とナギサは思った。






  ◆






 ナギサ達による祝勝会が開かれるよりも前の話である。

 鳴海詩奈――シイナは白く広い部屋に立っていた。

 部屋というよりは廊下に近いだろうか。どこまでも続く床とそりたつ壁が与える冷たさが、今感じている全てだった。

 

「えーと……、ここが、ANOの世界……?」


 家から自転車で5分の位置にあるデパートの玩具屋に行き、周りの人間達に怯えながらもANOを購入したシイナは家に帰るとすぐにそれをダイヴ用ギアに挿入し、起動させた。

 ちなみに自転車は義弟の物を勝手に借りた。バレてないからいいだろう。

 そして何の導入もないままにこの空間に連れてこられた。これからチュートリアルが始まるのだろうか。


 話には聞いていたが自分のアバターの外見は現実のものと全くそのままだ。ロクな私服を持っていないので高校時代の制服を着て外に出たのだが、それも反映されている。

 そうだ。長く伸びた髪、そろそろ切らないと駄目かなぁ。などとそんなことを考える。


 ヴゥン!と鈍い電子音が鳴る。突然のことにシイナは「ひゃっ」と小さく叫ぶ。

 そして目の前に表示されたのは1枚のメッセージウィンドウ。



『――ようこそ。ANOの世界へ。新たなデーヴァプレイヤーよ!』

 


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