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連れる旅の事象  作者: ゆぞぅ
第一章  義姉さんが来る
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棚の製作中

 義姉さんは木材の搬送を手伝わなかった。いや、一旦は運ぼうとしてくれたのだが、その際に付け爪が剥がれたらしく、急にやる気を失ったようだった。義姉さんには是非思い出してほしい。これが誰の要望なのかを……。

 トラックの返却を終えて一段落すると、義姉さんはまだ何もしていないくせに、すっかり休憩モードに入ってしまった。

 こういう工作事では、ちょっと押さえていてほしいときや、もう一本手があれば、なんて思う場面が多々あるのだが。そういう思いと、作業中にずっと横にいられても面倒だ、という思いが錯綜する。

 結局、やる気の感じられない義姉さんに(手伝って)の、ひと言が言えなかった。

 

 材料は測っていったサイズ通りに、切り出してもらってきたので、後はL字金具に載せて壁に固定するだけ。簡素な棚を思い描いていた俺は、すぐにでもでき上がると高をくくっていた。

 ところが、板の材質に難があった。

 強度の面では申し分がないが、その反面、ネジの一つ一つが、両手で回さなければならないほど硬かった。ネジ穴の加工もしてもらうべきだったか。握力最大で歯を食いしばりながら後悔した。八箇所ほど終わる頃には、手から握力が失われていた。

 それでも、腕をブラブラと振るって回し続けた。幾度か中断しながらも、何とか購入した資材を使い切った。

 俺はドライバーを握ったまま、部屋のカーペットに寝転がった。


「あ~、できたぁぁ……かな?」

 わざわざ声にして棚を見上げた。

 

 このアングルで見ると、段ごとに微妙なズレが見つかった。しかし、もう修正する気力が残っていない。だから、それは見なかったことにする。

 現実から逃避するわけではないが、今日は本当に暖かい。部屋の窓を開け放っていても、風さえ入ってこなければ、涼しいくらいでちょうどいい。

 工具の片付けに、自分の引越し準備。俺にはまだ、やらなければならないことがある。その前に、少しだけ休憩にしようと、そのままの格好で目を閉じた。


     ***


――木製のベンチに浅く腰掛けて、今にもずり落ちそうな体勢で眠っている、俺が見える。

 顎が胸に付いていて、呼吸がしづらそうだ。

 天気予報によると、今日と明日は冬型の気圧配置が緩むという。最高気温だけを聞くと、まだまだ寒い日には違いないが、連日続いた風がようやく止むとか。体感的に暖かいということで、お出かけ日和なのだそうだ。

 だからといって、この時期に公園のベンチで眠る行為は、体調管理がなってないというか、どれだけ暇な奴なんだ……。

 それに、自分の姿がこの角度から見えるのは、やっぱりよろしくない。

 昔、漫画か何かで得た情報によると、こういうときには、体と魂を繋ぐ紐みたいな物があって、それを死神に刈られると、完全に死んでしまうとか。……我ながらくだらないと思う。そんなことを考えながら自分の体に目をやると、白い糸が見えたので驚いた。

 それは俺のお尻から出ていた。目を凝らしてたどっていくと、ベンチに腰掛けている、もう一人の自分の頭に繋がっていた。

 その糸の途中を、いつの間に? どこから湧き出てきたのか、着物を着た女の子と、ジャージ姿の女の子が、綱引き大会でも楽しむように、引っ張り合っていた。

 俺の想像していた紐よりも、ずっと細く薄いそれを、まさかとは思うが……。


「ちょ、ちょっと、お嬢ちゃんたち。勘弁してくれへんかな。お~い。――だから、引っ張んなって!」


 子供たちに触れようとした瞬間に、俺は木製のベンチからずり落ちた。――あぁ、これはまた、夢だ。

 子供たちは一度も振り返らずに、全速力で逃げて行った。着物の子のほうが速かったので、意外だった。

 その背中を睨みながら、俺は擦った背中を手で押さえて、ベンチに座り直した。何でもありの夢の中。といっても、痛みを感じるなんてのは反則じゃないのか? 痛いはず、と思い込んでいるだけなのか。

 醜態を晒したときの癖で、辺りをキョロキョロと見渡した。

 意識が途切れる瞬間に、何か怖いモノを見たような気がする。擦った痛みとゾクッとした感覚が、背中に残っているだけで、それが何だったのかを思い出せない。


 俺は一度立ち上がって、伸びた。それから、通路を挟んだ向こう側の、ベンチと大きな木に視線を走らせた。

 今回もギターの人は、あの太い木の地面に這い出た太い根に腰掛けていた。姿を見るのは初めてだ。俺がイメージしていたよりも、ずっと若い男の人だった。

 知り合いに、あれと似た奴がいる。背格好だけで、雰囲気はまるで違っているが。「まさか、な」

 こちらとは少し距離があって、耳に届く音がかすれている。それが残念だった。


 では、そろそろだろうか?

 俺は腕を組んで空を見上げた。上空はどこまでもスカイブルーで、雲ひとつ見当たらないし、太陽も見当たらない。

 そのままじっとしていると、突然、右側の何もない空間から、窓ガラスを叩くような音がした。

――坂? 登った、おばぁ、いでんきゅう、キュウ。キュウ、起きろ!


 開け放った部屋の窓から、車のクラクションが聞こえた。

 時計を見ると、寝転がってからさほど時間は経っていなかった。


「おぉ、ヒサ君、完璧ぃ! トンカチの音もせぇへんし、えらい静かやなぁ思ぅて見に来たんやけどぉ。なかなか立派なんができてるやぁん、って……あれ、寝てたん?」


 例の彼女の声は、やっぱり聞き覚えがない。聞こえてくる方角さえわからなかった。前回見たときからの、インターバルの短さが気になるといえば、なる。

 とりあえず、俺は木のベンチのほうに座っていた……。ちょっとは要望が反映されるようで、つい口元が緩んだ。


「何や知らんうちに、眠ってしもてたわ。あぁそうそう、とりあえずは棚の形になっとるけど、色とかニスを塗るんやったら、俺が出てった後で、兄貴に頼んでや。そやけど義姉さん……」


 四枚の板が壁から垂直に生えているだけ、の簡素な出来栄え。

 義姉さんは棚の強度を確かめるように、板を叩いたり、押さえたりして、はしゃいだ。その喜びの表現があまりに無邪気で、俺はそれ以上何も言えなくなってしまった。

 俺が単に弱いのか、義姉さんが巧いのか。本日も手の平の上でクリクリと回されている。もう一段くらいサービスしても良かったか、などど思ってしまった。


 

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