制服 〜Rouge〜
ミア達が案内してくれたお店の中で、もじゃもじゃのオレンジ色の髪の毛をお団子にした女店員さんが、学校の制服について説明してくれた。
「学院の制服? だったら必要なのは、普段着るもの、実戦授業と魔法生物学の実習の時用の防護服、魔法薬学の時用の保護服だね」
「分けるんですねー」
いちいち着替えるなんて大変そうだなと思って訊いてみると、店員さんははっきりと頷いた。
「そりゃあね。実戦の時と魔法生物を扱う時はきっちりと対魔法、対物理の魔法付加をかけとかなきゃならないし、魔法薬学で扱う薬草や薬は危ないから、保護服無しではとてもじゃないけど授業を受けられない。けど、そんなものを普段から着る必要は無いだろう? 戦闘ではない魔法演習に耐えうるだけの対魔法加工だけで十分さ」
「一括でも良さそうですが。魔法付加を加重したところで、それこそ日常生活には支障無いでしょう」
ノワの言葉に、店員さんは大きく首を振る。さっきから、動作の大きい人だなあ。
「まさか! 魔法付加の服といっても、その魔法は着ている人の魔力で発動するんだ。発動していなくたって常に待機状態にする為に、一定の魔力を使う。1日中そんなもの着てたら、普通の生徒はへばるよ。まあ、坊ちゃんなら大丈夫なのかもしれないけど」
言いながら店員さんが目を向けているのは、ユハナだ。店員さん、ミアやヴィルとは顔見知りみたいだったし、このお家の人達が魔力が多い事は知っているんだろうな。
「着ている者の魔力を使う……ですか」
けれどノワは、そっちの方が気になったみたい。眉根を寄せ、店員さんの言葉を繰り返す。
「そりゃあまさか、制服1着1着に魔石を付けるわけにもいかないだろ? 制服を分けた方がまだ安上がりさ。魔石は相当高級品だし、どのみち定期的に魔力を込めなければならないのは同じだしね。魔石に魔力を込めるのは、かなり難儀するって言うし、生徒にそんな疲れる真似をさせたくはないよ」
「…………」
ノワはちょっともの言いたげな顔をしたけど、結局何も言わずに頷いた。そりゃあ、私達は周囲に漂う魔力を活用した魔術付加の服なんて当たり前だけど、こっちでは無理なんだからしょうがないよ。
「さて、早速始めるかね。普段着はデザインが統一されているけど、色は黒、紺、茶から選べるよ。魔法薬学用の保護服は、普段着と同色で、デザインは1つだけ。さて、何色が良いかな?」
説明は途中までしか聞いていなかった。わくわくしながら見本を見て、言葉が終わると同時に手を上げた。
「茶色!」
「ええと……紺色でお願いします」
「……黒」
私の後に、ユハナとノワが続く。見事に別れた注文におかしそうな顔をしながら、店員さんは頷いた。
「はい、承りましたっと。そして、実習用の防護服だが、こいつはデザインを自由に決められるんだ。サンプルは沢山あるから、いろんな柄から好きに選ぶと良い。ほら、3人ともこっちおいで」
「はーい!」
「フウ、走るな。ガキかお前は」
ノワの注意する声が聞こえたけど、ほとんど気にならなかった。
この間ミアやカリナさんと今着てる服を決めた時も思ったけど、おしゃれってとても楽しい。今までは訓練や仕事の時の為に、丈夫さを優先したノワお手製の魔術付加の服しか着なかったけど、こうやって可愛い服を選ぶ楽しさはたまらない。わくわくして仕方がなかった。
「あはは、随分楽しそうだね。そんなに嬉しそうに服を選ぶ子は珍しいけど、作る側としては嬉しいもんだ。さあ、どんなのが良いかな?」
サンプルを出してくれた店員さんが、駆け寄る私を見て相好を崩す。色々見せてもらって生地と比べて、気に入ったデザインを選ぶのに、30分かかった。
「これでいいかなあ?」
「ああ、良いんじゃないか? きっとよく似合うよ」
「ありがとうございます!」
沢山アドバイスしてくれた店員さんにお礼を言うと、相手もにっこりと笑って頷いてくれる。
「どういたしまして。さて、残りの2人のデザインも決めてしまおうか」
「あ、僕はこれとこれを——」
ユハナは待っている間にサンプルを見て、もう決めていたみたい。希望を告げて、いくつか店員さんと質問したり相談したりして、最終的に頷くまで、10分くらいだった。手慣れた感じがするのは、やっぱり選び慣れているからかな。
「——はい、これでお終い。で、そっちのお兄さんはどうするの?」
「……正直、何でも良いです」
サンプルをざっと見るだけで選んでいる様子のなかったノワは、心底どうでも良さそうにそう言った。店員さんが、ちょっと意地悪そうな顔をする。
「じゃあ、適当に見繕おうかい?」
「そうしてもらおうかとも思いましたが、ろくでもない事になりそうですね」
店員さんの表情に何か察したらしく、ノワはそう言って溜息をつき、改めてサンプルに目を落とし、店員さんに歩み寄った。
「こういう形は可能ですか」
そう言いつつ、ノワが手早く何かを紙に書く。それを見た店員さんが、驚いたように目を見張った。
「あら驚いた。面倒がってた割に、センス良いね」
「魔法陣書くのと似たようなものですから。それで、可能ですか?」
「ああ良いよ。ただ、普通より魔力消費が大きそうだけど、良いのかい?」
「構いません」
ノワが頷いた事で、デザインは決まったらしい。5分もかからなかった。うーん、ノワは本当にこういうの興味無いよね。
「はい、これで全員決まったね。後細かい採寸取るから、ちょっとこっち来てくれよ。おーいメアリ、メジャー持ってきとくれー」
店員さんが奥に呼びかけ、メアリさんって人が持ってきたメジャーで、色々採寸を測る。その間に、ユハナがノワに話しかけた。
「ノワールは、黒が好きなんですか?」
「…………何故」
途端に物凄く嫌そうな顔をしたノワに、ユハナは不思議そうに首を傾げる。
「だって、いつも黒い服ばかりですから。会った時から、基本ずっと黒でしょう?」
「それは、好きな色と言えそうだねえ」
話を聞いていたらしい店員さんが口を挟む。面倒くさそうな顔をそっちに向けつつ、ノワが反論した。
「拘りがあるわけじゃない。単に、無難だからだ」
「無難?」
「目と髪が黒だから、色彩上違和感はない。加えて黒は扱いが楽だ。フウ、お前今日の服だと、汚れが気になって余り自由に動けないだろう」
「うん、気を付けてるよ」
「そういうのが面倒だから、簡素な意匠の黒い服を着る。選ぶのも手間がないしな」
それを聞いた店員さんが、溜息をついた。
「つまらないというか……男ってそんなものかねえ。うちの旦那もいい加減だもんねえ。坊ちゃんみたいに、生粋の貴族でもない限り、服に拘る事なんて無いのか」
「上級貴族にもなれば、服を選ぶのは使用人の仕事ですがね。ユハナが慣れている方が、自分は意外です」
「僕の家は新興貴族ですから。それに、上級貴族でも、拘る人は侍女達と相談して決めますよ」
「……物好きな」
ノワの呟きに、店員さんとユハナが苦笑する。
「まあ、貴族は着飾るのも仕事だしねえ。……っと、採寸もこれでオーケーだ。明日の夜までには一式届けるよ。お金もその時に頂こうかな」
「良いんですか?」
こういうのは大抵前払いって、ノワが言ってた気がする。そう思って訊いてみると、店員さんは大仰に手を振った。
「構わない構わない。パーヴォラ侯爵家には、いつもご贔屓頂いてるからね」
「あ、えっと、いつもお世話になってます」
意味ありげな目を向けられたユハナが、ちょっと慌てたように頭を下げる。それを見て楽しそうに笑うと、店員さんは丁寧に一礼した。
「それでは、明日の夕刻に伺います。今後もご愛顧宜しくお願いいたします」
きっちりとした挨拶に見送られて、私達はお店を出た。
ノワールが「黒が好きか」と聞かれていやそうにした理由は……まあ、分かりますよね(笑)




