お茶 〜Rouge〜
編入試験、前夜。夕食はもう終わったんだけど、ラルスさん達に誘われて、食後のお茶を飲む事になった。
「大丈夫でしょうか……」
心配げに漏らすのは、ミア。ヴィルさんも同じように心配そう。
「どうにかする。筆記は問題無いし、実技は……まあ、目立ちはするだろうが落ちる事は無い。お前達は弟の事だけ心配しておけ」
「いや……ユハナはどこかの学年には引っかかると思うけどね……。僕達の教科書使って、今まで部屋で勉強していたし」
「僕は実技が心配です、兄上」
ノワの言葉に対する、ヴィルさんとユハナのやりとり。ユハナは少し緊張気味で、何だか可愛い。
「ユハナ、貴方ノワールに結構教えてもらっていたじゃない。だったら大丈夫よ」
「……言っておきますが、俺は指導はそこまで得意ではありません。当てにされても困ります」
カリナさんの励ましの言葉に、ノワが水を差す。黙ってあげてれば良いのに。
「……頑張ります。応援していて下さいね、ノワール」
「自分達の試験が何とかなったらな」
不安げに言うユハナに、ノワは淡々と答えた。
ここに来て驚いたのは、ノワが結構ユハナに優しい事。何だかんだ言って「お願い」を聞いて魔術を教えてあげてたし、色々言われても、ミアやヴィルさんみたいに冷たくあしらわない。どういう基準なんだろう。
よく分からないなーと首を傾げつつ、お茶を飲む。お花の香りがして、味は紅茶。ノワは香りがきついみたいで、さっきから全然口を付けていない。美味しいのに、勿体ないな。
私達のやりとりを微笑みながら聞いていたラルスさんが、口を挟む。
「まあ、3人とも随分頑張っていたし、大丈夫さ。服はもう届いたのか?」
「ええ、昨日届いたわ。フウちゃんが凄くよく似合っていて、可愛いの」
「えへへー」
カリナさんに照れた笑顔を返す。明日着ていく服は、カリナさんが用意してくれた。ノワは自分で選んでいたけれど——黒で凄く地味なやつ。つまんないって、カリナさんとミアの顔が言っていた——、私はミアやカリナさんと一緒に色々試して決めた。
今までノワやマスターと一緒にいた時は、可愛い服とか1度も着た事無かったから、明日それを着られるってだけで、凄くわくわくする。
「2人とも、もう着てみたのですか?」
「うん、届いた日に。あれ、ミア見なかったっけ」
「……ええ。他の用事があったものですから」
そう言って残念そうに笑うミア。あ、ヴィルさんが顔を顰めた。
「ああ、あの日か。そういう意味では、2人が奥にいて助かった、と言うべきかな」
「光の属性を研究したい人間か?」
ノワがいきなり口を挟んだ。ちょっと怖い顔をしている。
「ああ。まあ、いつもの事なんだけど。ミアが帰ってきたと聞いて、早速」
ヴィルさんが肩をすくめた。思ったよりも怒っていないのが意外。
「……本人に対応させているのですか?」
対照的に、ノワの声はいつもより少し低い。どうしたのかなあと見てみると、冷たい目をラルスさんに向けていた。
「まあ、2人ももう5年生。いつまでも私がどうにかしてやるのも筋違いというものさ」
答えたラルスさんは、どこか楽しげな表情でノワを見つめている。それに気付いたノワが、僅かに眉を顰めた。
「まあ、貴方がそう判断するなら、俺はどうでも良いですが」
けれど結局そう言って、ノワは口を閉じた。丁度良いので、ヴィルさんに聞いてみる事にする。
「ヴィルさん、あんまり怒ってないね。慣れてるから?」
ヴィルさんとミアが顔を見合わせた。思ってもない事を聞かれたって感じ。ヴィルさんはミアを凄く大事にしているから、不思議は無いと思ったんだけど。
「……慣れているというより、それが当たり前だから、かな。ノワールだってそうじゃないの?」
「え?」
ヴィルさんの質問に、きょとんとした。どういう事だろう。
「だからこそ、資格を取った後もマスターの所に残っていた」
けれどノワはヴィルさんの言葉が分かっていたみたいで、私の代わりに答えた。ますます分からなくて、首を傾げる。
でも、分からなかったのは私だけだったみたいで、ヴィルさんもミアも凄く納得した顔をしているし、カリナさんとラルスさんは、ちょっと表情が硬い。
「ご心配なさらずとも、貴方に預けられたものは、そこまでは求められていません。後ろ盾さえして下されば、それで十分です」
ラルスさん達の表情を見て、ノワの謎かけのような言葉は続く。それを聞いて、どうしてかラルスさんは溜息をついた。
「それは、ピエール氏の意思かな? それとも君の?」
「両方のです」
「……そうか」
ラルスさんは、ちょっと元気の無い顔で頷いた。そろそろ、どういう意味か説明して欲しい。
「ねーノワ」
「分からんで良い」
ノワに説明してとお願いしようとしたら、何も言う前に釘を刺される。こう言われたらもう教えてくれないから、がっかりしつつ諦めた。
「……さて、俺はそろそろ寝ます。明日は早いようですし」
居心地の悪い空気を嫌ったのか、ノワはそう言って立ち上がり、さっさと部屋を出て行った。少し間を置いて、ミアがそれを追うように部屋を後にする。
何をしに行ったか大体分かるし、それが大事な事だっていう事も分かるけれど、こういう時、ちょっと寂しい。
「……そういえば、フウちゃん、ヴィル。ずっと気になっていたのだけれど、どうして貴方達、そんなに他人行儀なの?」
更に気まずくなった空気を破って、カリナさんがそんな事を聞いてきた。意味が分からなくて、聞き返す。
「どういう事ですか?」
「だってフウちゃん、ミアのことは呼び捨てなのに、ヴィルのことはさん付けじゃない。言葉も随分丁寧だし。どうして?」
言われてみれば、その通りだ。出会ったときにそう呼んでから、何となくそのままだった。一応理由はあるけど。
「えっと、話聞いてると、多分私が年下かなあって」
「ミアと同い年、という事?」
更に続いた質問に、頷く。
「うん、何となくだけど」
それを聞いたヴィルさんが、優しく笑った。
「仮にそうだとしても、学院の学年は年齢関係ないし、学年が違っても普通に話してる。フージュが気にならないなら、僕も呼び捨てで良いし、敬語も要らないよ」
そんな提案に、思わず期待が込み上げる。今まで何となく遠い感じだったけど、友達になれるのかな。
「そう? じゃあ、ヴィルって呼んで良いの?」
「うん」
「ありがとう!」
期待を込めて聞いてみたら、あっさりOKがでた。嬉しくて笑顔でお礼を言う。
何故かヴィルさんは、顔を少し朱くして、でも笑い返してくれた。
「じゃあ僕もフウで良いのかな。よろしく」
「よろしくー! 頑張ってヴィルとミアと同じクラスになるね!」
張り切ってそう言うと、みんなが笑った。




