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Noir et Rouge 〜闇夜に開かれし宴〜  作者: 吾桜紫苑
第3幕 編入準備
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お茶 〜Rouge〜

 編入試験、前夜。夕食はもう終わったんだけど、ラルスさん達に誘われて、食後のお茶を飲む事になった。


「大丈夫でしょうか……」

 心配げに漏らすのは、ミア。ヴィルさんも同じように心配そう。


「どうにかする。筆記は問題無いし、実技は……まあ、目立ちはするだろうが落ちる事は無い。お前達は弟の事だけ心配しておけ」

「いや……ユハナはどこかの学年には引っかかると思うけどね……。僕達の教科書使って、今まで部屋で勉強していたし」

「僕は実技が心配です、兄上」


 ノワの言葉に対する、ヴィルさんとユハナのやりとり。ユハナは少し緊張気味で、何だか可愛い。


「ユハナ、貴方ノワールに結構教えてもらっていたじゃない。だったら大丈夫よ」

「……言っておきますが、俺は指導はそこまで得意ではありません。当てにされても困ります」


 カリナさんの励ましの言葉に、ノワが水を差す。黙ってあげてれば良いのに。


「……頑張ります。応援していて下さいね、ノワール」

「自分達の試験が何とかなったらな」

 不安げに言うユハナに、ノワは淡々と答えた。



 ここに来て驚いたのは、ノワが結構ユハナに優しい事。何だかんだ言って「お願い」を聞いて魔術を教えてあげてたし、色々言われても、ミアやヴィルさんみたいに冷たくあしらわない。どういう基準なんだろう。



 よく分からないなーと首を傾げつつ、お茶を飲む。お花の香りがして、味は紅茶。ノワは香りがきついみたいで、さっきから全然口を付けていない。美味しいのに、勿体ないな。


 私達のやりとりを微笑みながら聞いていたラルスさんが、口を挟む。

「まあ、3人とも随分頑張っていたし、大丈夫さ。服はもう届いたのか?」

「ええ、昨日届いたわ。フウちゃんが凄くよく似合っていて、可愛いの」

「えへへー」


 カリナさんに照れた笑顔を返す。明日着ていく服は、カリナさんが用意してくれた。ノワは自分で選んでいたけれど——黒で凄く地味なやつ。つまんないって、カリナさんとミアの顔が言っていた——、私はミアやカリナさんと一緒に色々試して決めた。


 今までノワやマスターと一緒にいた時は、可愛い服とか1度も着た事無かったから、明日それを着られるってだけで、凄くわくわくする。


「2人とも、もう着てみたのですか?」

「うん、届いた日に。あれ、ミア見なかったっけ」

「……ええ。他の用事があったものですから」


 そう言って残念そうに笑うミア。あ、ヴィルさんが顔を顰めた。


「ああ、あの日か。そういう意味では、2人が奥にいて助かった、と言うべきかな」

「光の属性を研究したい人間か?」


 ノワがいきなり口を挟んだ。ちょっと怖い顔をしている。


「ああ。まあ、いつもの事なんだけど。ミアが帰ってきたと聞いて、早速」

 ヴィルさんが肩をすくめた。思ったよりも怒っていないのが意外。


「……本人に対応させているのですか?」

 対照的に、ノワの声はいつもより少し低い。どうしたのかなあと見てみると、冷たい目をラルスさんに向けていた。


「まあ、2人ももう5年生。いつまでも私がどうにかしてやるのも筋違いというものさ」

 答えたラルスさんは、どこか楽しげな表情でノワを見つめている。それに気付いたノワが、僅かに眉を顰めた。


「まあ、貴方がそう判断するなら、俺はどうでも良いですが」


 けれど結局そう言って、ノワは口を閉じた。丁度良いので、ヴィルさんに聞いてみる事にする。


「ヴィルさん、あんまり怒ってないね。慣れてるから?」


 ヴィルさんとミアが顔を見合わせた。思ってもない事を聞かれたって感じ。ヴィルさんはミアを凄く大事にしているから、不思議は無いと思ったんだけど。


「……慣れているというより、それが当たり前だから、かな。ノワールだってそうじゃないの?」

「え?」


 ヴィルさんの質問に、きょとんとした。どういう事だろう。


「だからこそ、資格を取った後もマスターの所に残っていた」

 けれどノワはヴィルさんの言葉が分かっていたみたいで、私の代わりに答えた。ますます分からなくて、首を傾げる。


 でも、分からなかったのは私だけだったみたいで、ヴィルさんもミアも凄く納得した顔をしているし、カリナさんとラルスさんは、ちょっと表情が硬い。


「ご心配なさらずとも、貴方に預けられたものは、そこまでは求められていません。後ろ盾さえして下されば、それで十分です」

 ラルスさん達の表情を見て、ノワの謎かけのような言葉は続く。それを聞いて、どうしてかラルスさんは溜息をついた。


「それは、ピエール氏の意思かな? それとも君の?」

「両方のです」

「……そうか」


 ラルスさんは、ちょっと元気の無い顔で頷いた。そろそろ、どういう意味か説明して欲しい。


「ねーノワ」

「分からんで良い」


 ノワに説明してとお願いしようとしたら、何も言う前に釘を刺される。こう言われたらもう教えてくれないから、がっかりしつつ諦めた。



「……さて、俺はそろそろ寝ます。明日は早いようですし」

 居心地の悪い空気を嫌ったのか、ノワはそう言って立ち上がり、さっさと部屋を出て行った。少し間を置いて、ミアがそれを追うように部屋を後にする。


 何をしに行ったか大体分かるし、それが大事な事だっていう事も分かるけれど、こういう時、ちょっと寂しい。



「……そういえば、フウちゃん、ヴィル。ずっと気になっていたのだけれど、どうして貴方達、そんなに他人行儀なの?」



 更に気まずくなった空気を破って、カリナさんがそんな事を聞いてきた。意味が分からなくて、聞き返す。


「どういう事ですか?」

「だってフウちゃん、ミアのことは呼び捨てなのに、ヴィルのことはさん付けじゃない。言葉も随分丁寧だし。どうして?」


 言われてみれば、その通りだ。出会ったときにそう呼んでから、何となくそのままだった。一応理由はあるけど。


「えっと、話聞いてると、多分私が年下かなあって」

「ミアと同い年、という事?」


 更に続いた質問に、頷く。

「うん、何となくだけど」


 それを聞いたヴィルさんが、優しく笑った。


「仮にそうだとしても、学院の学年は年齢関係ないし、学年が違っても普通に話してる。フージュが気にならないなら、僕も呼び捨てで良いし、敬語も要らないよ」


 そんな提案に、思わず期待が込み上げる。今まで何となく遠い感じだったけど、友達になれるのかな。


「そう? じゃあ、ヴィルって呼んで良いの?」

「うん」

「ありがとう!」


 期待を込めて聞いてみたら、あっさりOKがでた。嬉しくて笑顔でお礼を言う。


 何故かヴィルさんは、顔を少し朱くして、でも笑い返してくれた。


「じゃあ僕もフウで良いのかな。よろしく」

「よろしくー! 頑張ってヴィルとミアと同じクラスになるね!」



 張り切ってそう言うと、みんなが笑った。


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