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舞台裏 〜officier〜

officier=役人。要するに尋問官です。

 パーヴォラ家を後にしながら、俺は部下の報告を1度に聞いていた。


 1度に3人の報告。こんな芸当が出来るのは、俺の特殊魔法の賜物だ。あの少年は気付いていなかったようだが、尋問中もあの魔道具を通して、3人の尋問を聴いていた。だから今の報告は、各人の態度や彼らの感触だけを聞いている。


「——ご子息は、随分と緊張していましたね。妙にあの移民たちをかばっていましたし」

「ご令嬢も同様です。ほっとしたと良いながら、表情は固かった」

「……あの移民の少女は、事を理解しているのかどうか…………」


 報告の合間に漏らされた愚痴に、思わず苦笑する。確かに彼女は、尋問と言うよりは、世間話を楽しんでいるようだった。よくあれで移民として生きて行けたものだ。彼に任せきりという言葉に、嘘は無いだろう。



「しかしどうしたんだ、クリス。俺達全員が話を聞けるように尋問を引き延ばしたくせに、随分とおざなりな尋問だったじゃないか。お前らしくもない」


 愚痴を言った張本人であり、俺の片腕とも言える存在、アーベル・ビショフが、不満げに問い詰めてきた。平民ながらもBランクの持ち主である彼は、貴族相手でも容赦なく問い詰められる、剛胆な人物だ。移民相手に温い尋問をしたのがお気に召さなかったらしい。


 彼の言う事ももっともだ。状況的には、彼らが1番怪しい。というか、他にいないだろう。徹底的に問い詰めてぼろを出させ、とっとと王に処罰を決めてもらおうと思っていた。



 だが、彼と会話をして、考えが変わった。



「何、簡単なことさ」

 尋問前の会話と、彼の態度、3人の尋問の様子。その全てが、示唆していた。



やるだけ無駄(・・・・・・)だからだよ」



 部下も、アーベルも、愕然と言葉を失った。



「……それは、どういう意味だ」

「言葉の通りだ」

 我に返ったアーベルが剣呑な表情で詰め寄ってきたが、俺の意見は変わらない。


「なあ、3人とも。これだけの大事件、関係者として尋問されれば、緊張して当然だろう。緊張してたからって、しょっ引けるか?」

「……いえ」

 部下の1人、カールが素直に首を振った。それを横目に見ながら、更に聞く。


「じゃあ、あの3人の様子に、不審な様子があったか? あるいは、不自然な、疑えるだけの説明の穴があったか?」

 もう1人の部下、マリク=エリオ=ブルーノが口を開いて、直ぐに閉じた。ゆっくりと首を振る。


「そういう事だ。3人ともぼろを出さないのに、あの少年が隙を見せるはずもない」


 言いながら、異色の青年を思い出す。移民ながらも貴族のような風格を持った、とんだ食わせ者だった。



 通常、移民は国の権威に屈しない。国に見捨てられた彼らが、王に繋がるものに畏敬を抱くはずもないから、それは当然だ。


 とはいえ、権威に睨まれれば、国を渡り歩く彼らは生きてはいけない。圧力をかけられ、事実上国に入れないようにされれば、生計を立てられない。


 だから、今まで俺が関わってきた移民は、反抗的な雰囲気を漂わせながら、卑屈なほど丁寧に接してくるのが常だった。



 だが、あの青年は違う。国民が見せる怯えも、移民が見せる卑屈さもない。堂々と、臆することなく、真っ直ぐ俺を見据えてきた。


 魔法を使える移民なら誰もが不満を持つ制度を批判して見せても、食いつく様子すら見せない。


 さりげない会話の中でさえ、確実に疑いの芽を摘み取っていく。こちらの出方など、お見通しだと言わんばかりに。



「多分、だけどな。あの受け答え、事前に準備されてるぞ」

「それは当たり前だろう。あんな都合のいい話、あってたまるか」


 アーベルの不機嫌な声にも関わらず、自然と口元が吊り上がっていくのを感じた。

「そう、ご都合主義の物語のような説明だ。だがな、アーベル。大事なのは、たかだか数日で作られただろうご都合主義の説明に、1つも疑えるだけのものは無かった事だ。これはただ事じゃない」


 作り話を作るのはそう難しくはない。だが、そこに一切の齟齬を生じさせず、あまつさえ、3人から聞いても食い違いが生じないというのは、異常だ。


「あのご子息やご令嬢に、これだけの大嘘を付くのは無理だ。肝はそれなりに据わっているが、経験が足りない。……まあ、あの年齢なら、それで普通だがな」


 ちなみにあの少女が論外である事は、言うまでもないので省略する。誰もそのことに異議は唱えまい。


「おそらく、ノワールと名乗ったあの青年が、全て1人で計画し、実行したのさ。貴族という知識箱を、最大限利用してな」

「……あの闇属性のガキが、1人で、ね」


 好戦的な空気を漂わせ、アーベルが呟く。それを見たカールとマリクは、やや身を強張らせた。純粋に戦闘力を買われてここまでのし上がった彼は、王国軍の祓魔師の中でもトップクラスだ。



 ——だが。



「やめとけ、アーベル。あれは手出ししない方が良い」

「何だよ、クリスともあろう奴が。転移魔法がそんなに怖いか? まあ、実戦で使われれば、確かに厄介だが。それだけじゃ、負ける気はしない」


 不満げなアーベルに、はっきりとした説明は出来ない。これは、彼と向かってみなければ分かるまい。


「あくまで勘、だが。ありゃ、俺でも勝てないな」

 その言葉に、3人は一斉に驚きを見せた。


「……限りなくAランクに近いと言われる祓魔師のお前がか? お前に勝てる人間なんて、それこそ——」

「そう、あの人外たちと同じニオイを感じた」


 アーベルが息を呑む。この中で、その実力を知るのは、こいつだけだ。だからこその、この反応だろう。


「まあ、そういうわけだ。自分の事で精一杯どころか、3人の尋問の準備をし、その上で余裕綽々で俺の尋問に臨んでいる奴に、何を言っても収穫があるものか。下手に藪をつつけば、蛇どころか龍が出てくる。力尽く、というのも無理だろうしな」

「……では、彼はこのまま監視ですか」


 カールの質問に、ゆるりと首を振った。

「いーや。無理だな。監視したら、速攻ばれる。事実、俺が何度か放った暴露の魔法は、注意も向けずに無効化しやがった」

「……貴方の暴露魔法を、ですか?」

「そうとも。大人が子供をあしらうような、至極どうでも良さそうな態度でな。全く、吐かせるのは得意だと思っていたんだがなあ」


 その言葉に、誰よりもアーベルが戦慄した。あっという間に青ざめる。

「……それは、手を出せない、な」


 その言葉にも、首を振った。

「阿呆。重要参考人だぞ。このまま引き下がってどうする」

「え? ですが……」


 マリクを横目で睨む。

「監視はしないし、これ以上の尋問は無駄。だがな、諦めてどうするんだ。あいつらの調査を徹底的に行うぞ。身元、これまでの足跡、そして、これから編入するっていう、魔法学校の書類も常に目を通せ。どんな些細なものでも、集まればそれなりの材料になる。彼に向き合うのは、切り札を手にした時だ。じゃなきゃ、絶対に逃げられる」



 これで終わらせてはならないと、直感が告げている。彼は間違いなく、この事件に関わっている。証拠が無いが、あの何の痕跡も無い(・・・・・・・)集落が、それを物語っている。



「蛭のオーティは健在か。分かった、やろう。随分手間取りそうだがな。……だがクリス、お前、奴を処刑させる気はさらさら無いだろう。弱みを握って、手駒にする気か?」


 俺をよく知るアーベルは、流石に理解していた。だが、正解ではない。



「手駒、ね。俺の手駒じゃ、惜しすぎるさ」



 俺の顔に浮かぶ嗤いに、アーベルが息を呑む。



「……そう、か。そう、だな」

 固い声で漏らされた言葉は、聞かなかったことにした。彼の制止を受け容れる気は、無い。


 俺は俺の目的のために、彼を調べよう。もしかすると、彼は。



 ——今まで誰にも出来なかった偉業を、成し遂げてくれるかもしれないから。

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