表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Noir et Rouge 〜闇夜に開かれし宴〜  作者: 吾桜紫苑
第3幕 編入準備
69/230

魔法具と立場 〜Rouge〜

 尋問が終わってお昼を食べた後、私はノワについて、昨日ラルスさんとノワが戦っていた場所へと移動していた。


「とりあえず、お前が魔法具をどれだけ使いこなせるか、確認しておく。俺ほどではないにせよ、お前の魔力量も相当なものだからな」

「ん、分かったー」

 頷いて、私はノワの腕にしがみついた。ノワは、何も言わずにそれを振り払う。


「その後、座学だ。教科書を見ないと確実な事は言えんが、資格の取得の為にお前に教えた知識は、この世界でひけらかすと大事になる」


 そう言って、ノワが溜息をつく。その横顔に、私も溜息をついた。


「ノワ、顔に不満が出すぎだよ」

「お前はあまり魔術書を読んでいないからそう思えるんだ。あんな酷いもの、18世紀の魔術書にだって無い」

「……まあ、ヴィルさんでも詠唱破棄さえ出来ないみたいだったしねー」


 あれは驚いた。結構魔力量が多く、魔力の扱いもそれなりに上手いのに、丁寧に詠唱しないと魔法が使えないのだから。


「フウ、お前、魔法関連の筆記は満点取れよ。1点でも落としたら資格を破棄するぞ」

「うわ、ひど!」


 ものすごい横暴なことを言いだしたノワに文句を言ったけど、ノワはばっさり切り捨てる。


「酷くない。当然だ。むしろ、うっかり余計な知識を書かないように気を配れ」

「……それは、ノワが心配することじゃないの?」

「お前が心配しなければならないほどの内容だ」


 思った以上に内容が乏しいみたい。どんななんだろうと逆に興味を覚えつつ、無造作にドアを引き開けて中に入っていったノワの後に続いて、私も練習場に入った。



「……さて、ダンスーズ・フージュ。魔法士3級の実力を見せてもらおうか」



 そう言ってノワは、机の上にあった棒きれを投げてきた。受け止めてみると、どうやら杖の形の魔法具。



「……これ?」

「ああ。下級魔法士ご愛用の1品だな。この世界では、割と需要が多いそうだぞ」


 皮肉たっぷりの言葉と共に、ノワが目で促してくる。


「まさかこれを使うなんてねー」

 愚痴りながら、魔力を流し込む。ノワの件があったから、慎重に流してみたけれど、普通に魔法を使う分には問題無さそう。試しに、ノワに向けて炎を放射してみた。


 深紅の炎がノワに向かって真っ直ぐ伸びていく。


「問題無さそうだな。あまり耐性が強くないから、そう長持ちしそうにないが」

 手を一降りして炎を消したノワが、何も無かったかのようにそう言った。そして、直ぐに眉根を寄せる。


「フウ、それを貸してくれ」

「はーい」


 投げ返すと、ノワが魔法具に魔力を流し込む。魔法具は、危うい光を漏らしながらも、何とか壊れなかった。


「おー」

「うるさい」


 拍手した私に苛ついた口調で言って、ノワが眉間の皺を深くする。慎重な手つきで杖を私に向け、さっきと同じ炎の魔法を使う。オレンジ色の炎がこっちへ向かってきた。


 ひとまず、水を当ててみる。炎があっさり消えた。


「……使いづらい…………」

「本当に苦手だねー」

 ぼやくノワにそう言うと、更に不機嫌そうな顔になる。


 実際、どうしてノワがそこまで魔法具が苦手なのか、よく分からない。しかも、苦手は魔法具だけじゃない。


「ノワ、詠唱魔法も苦手だよね」

「何故お前が苦も無く出来るのか、俺にはその方が不思議だ」


 ノワは、詠唱に魔法を補助させるのも苦手だ。制御に気を遣いすぎて、威力のある魔法が使えない。


「魔法具無し無詠唱なら誰にも負けないのに、どっちかでもあると、下級魔法士みたいなんだもん。器用なんだか、不器用なんだか」

「やかましい」


 頭をひっぱたかれたその時、ドアが開いた。


「ノワール、いるか?」

「ええ。どうかなさいましたか?」

 ラルスさんだ。私もノワも近づいているのには気が付いていたけれど、まさか声をかけてくるとは思わなかった。


 ノワの返事に、ラルスさんが入ってきた。後ろから、3個の大きな箱が浮かんだまま付いてきている。


「早速だが、魔法具を集めてみた。この街で入手できるものの中では、かなり高品質だ。……その魔法具は、どうだった?」


 ノワの手にある杖に気付いたラルスさんの質問に、ノワが溜息混じりに答えた。

「中級魔法を構築してみたら、フウの初級魔法に防がれました」


 ラルスさんの微妙な顔。何でそんなにって顔。それを見たノワが、肩をすくめる。


「俺は基本、こんなものを使わず、無詠唱で魔法を使います。いちいち魔力を増幅されたり、中途半端に構築を補助されると、かえってやりづらいんですよ」

「……普通、魔力増幅や構築補助が加われば、やりやすくなるはずだが」

「では伺います。馬にお乗りですか?」

「? ああ」


 唐突な質問に妙な顔をするも、ラルスさんが頷く。


「馬に乗る時、鞭に錘を付けられたり、鞭を振るのを第三者に手伝われたら、どうでしょう?」

「……かえって、乗りづらいな。馬を強く打ちすぎてしまうのではと慎重になり、振り方もどうもぎこちなくなる」


 納得したようなラルスさんに、ノワが頷いて見せた。

「それと同じです」

「……乗馬と魔法の行使を、同じ土台で語られるとはな」


 苦笑気味のラルスさん。でも、それはしょうがない。



「ノワにとっては、それが当たり前ですよー。級の管理をする側、魔法士協会の幹部ですから」



 それを聞いて、ラルスさんが驚いたように目を見張った。

「幹部? その年でか?」

「……フウ、あまり向こうの世界の事を話すな」


 私を横目で睨み付けながら、ノワが簡単に説明していく。


「祓魔師、魔法使いの資格にも、ランクがありますよね?」

「ああ。 上からS,A,Bと続いて、Fまである」


「魔法士も同じです。10級から始まり、上に上がるにつれて1級まで数が減っていきます。試験内容は筆記と実戦。筆記は念の為程度のレベルで、実戦でおおよその級は決まりますね。ああ、一応、級に対応するレベルの魔術、魔法、術式が少なくとも1種類ずつ使えるかの確認も行いますが」


 5級の実力しか無い人が、3級の試験を受けるのはとても危険で、命を落としても文句は言えない。それくらい厳しい試験だ。私は寧ろ、筆記の方が大変だったけど。



 そして。最初の試験で1級を取ったノワは、更にその上にいた。



 一握りしかいない1級魔法士でさえ、遙か及ばない存在。



「協会幹部、か。あの役職は会議ばかりで、利点はほぼ無いな。依頼を受ける度に、幹部が雑魚の露払いに出るななんてほざく戯けはいるし」

 ノワが至極どうでも良さそうに呟く。けど、その役職はどうでも良くなんかない。



 資格を取るのではなく、資格を認める側。世界中の魔法士を管理し、魔法を、魔術を、術式を研究し、研究結果を書物にして知識を広めていく。それが幹部。



 ノワは、最年少でその座についた。その実力も確かで、幹部の人たちにも一目置かれている。



 そんなノワは、魔法具の制作や、利用理論とかは勿論完璧で、何冊か魔術書も書いていたはず。なのに。


「どーして扱えないかなー」

「理論だけで何でも出来るわけがないだろう」

「作ることも使い方を教えることも出来て、自分が使えないって、変だよー」

「ほっとけ」



 ノワは魔法具を私に投げ返すと、ラルスさんの持ってきた箱に歩み寄った。中を覗き込んだかと思うと、食い入るように見つめる。


「……よく、これほどのものをこの短時間で集めましたね」

 感嘆の混じる声に、ラルスさんは曖昧な笑みを浮かべた。


「まあ、これでも枢機院の一員だからな」


 枢機院っていうのは、王様と貴族の限られた人が話し合う場所らしい。枢機院の一員という事は、王様に直接意見を言える人って事で、かなり凄い事みたい。


「魔力回路の相性、強度を優先してみたが……、使えそうなものはあるかな?」

 ラルスさんの問いかけに、ノワが眉間に皺を寄せる。


「中級魔法までは、何とかなりそうですね。上級となると厳しいでしょうが」

 そう言って、魔法具の1つを手に取った。槍の形をしたそれを構えようとして、ふと顔を私の方に向ける。


「フウ、お前は下へ行って、基本的な座学を教わってこい。誰かいるだろう」

「えー! 私の魔法具は!?」


 まさかとは思うけれど、さっきの杖を使わせる気だろうか。流石にそれは酷い。


「今この場にはないからな。後で適当に探してやる」


 けれどノワは首を振って、あっさりそんな事を言った。ほっとして、笑顔を浮かべる。

「ん、よろしくねー。……でもノワ、魔法具試すの、1人でやるつもり?」


「ああ、結界張るから大丈夫だ」

「私が相手をしよう」


 ノワとラルスさんが同時に答えた。直ぐに、ノワがラルスさんに首を振ってみせる。


「制御し損ねる可能性もありますし、危険です。ご覧になるのは構いませんが、運用試験は自分でやります」

「しかし、それでは——」


 渋るラルスさん。多分、事故でノワが怪我でもするんじゃないかと心配しているのだろう。基本、こういう時は、誰かと一緒に試験するものだ。



 けれど。



「大丈夫ですよ、ラルスさん。ノワ、慣れてますから」


 ノワはしょっちゅう研究のために実験をする。実験に失敗は付きものだ。ノワは少ない方だと思うけれど、それでもゼロじゃないし、そもそも実験回数が多いから、その分失敗も多い。失敗した時どうすれば良いのか、誰よりもよく分かっている。


「寧ろ、手を出した方が危ないですよー」

 ラルスさんのレベルだったら、事故に巻き込まれて大怪我をする可能性の方が高い。


「…………」

 だからそう言ったんだけど、それを聞いたラルスさんは何だか傷付いたような顔をした。


「……暴発の対処くらい、私でもできる」

 その言葉を聞いて、ノワがまた首を横に振った。


「俺は闇属性ですからね、暴発した時は始末に負えません。自分でどうにかするしかないんですよ」

 その説明に、ラルスさんは渋々頷く。


「じゃ、カリナさんにでもお願いしてくるねー」


 そう言って、私は訓練場を出た。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ