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平和な朝 〜Rouge〜

 翌朝。

 私は、ノワと一緒に食堂に降りていた。


「ねーノワ、夕べは結局、何があったの?」

「……別に」

 昨日の夜からずっと気になってたことを聞いてみたけれど、返ってきたのは曖昧な答え。むっとして言った。


「何で教えてくれないのー」

「特に何も無かったからだ」

 何となく疲れた様子のノワが心配で声をかけているというのに、やっぱり素っ気ない返事しか返ってこない。


「何もって……あの爆音は?」


 今度は説明してくれた。カリナさんの魔術、結構レベルが高い。素直に感心した。


「へー、凄いね」

「使う場所を間違っている気がするがな。俺への悪戯に魔力を消費してどうする」

「……マスターは?」

「あのじじいは特別だろう。何せ、あれに生き甲斐を感じている変態だ」


 その答えに、素直に納得する。頷く私の頭を、ノワがくしゃっと掻き乱した。



「こうなった以上、お前に教えてやれない事が増える。言える事は言うが、どうしても俺とミアの事に関しては、言えない事が出てくる。気になるかもしれないが、諦めろ」



 諭すようなノワの言葉に、反論は出来なかった。ノワとミアの事を考えれば、我儘は言えない。



「……どうして、こうなっちゃったんだろう…………」

 ついこぼしてしまった言葉に、ノワが小さく呟く。


「……俺に関して言えば、目を逸らしていた、罰かもな」


「え?」

 聞き返そうとした時、横から声をかけられた。



「あ、おはようございます!」



 ユハナ君だった。すっと、ノワの手が離れる。


「おはよーユハナ君」

「……おはよう」


 何となく言いづらそうなノワ。こんな平和な朝、無かったからかな? 今までなら、おはようの前にひと死合、だったし。私は普通に、おはようって言ってたけど。


 挨拶を返した私達に、ユハナ君がにっこり笑った。


「フウさん、僕のこと、ユハナで良いですよ。勿論、ノワールも」

「分かったー、ユハナね。私もさんとか要らないよ」

「あと、その口調も不要だ」

 そう言って、ノワが足を進める。私もユハナも、それについて行った。


「ノワール、転移魔法も治癒魔法も使えるんですね。凄いです、それだけでこの国の筆頭魔法使いですよ!」

「…………フウも使える」


 反応の鈍いノワ。そりゃそうだよね。転移魔法も治癒魔法も、上級の魔法士ならば基本技術だ。この程度で驚かれていたら、むしろ嫌だろう。私だって、ちょっと嫌。


「そういえばノワ、これから魔法、どうする? 転移とか治癒とか、悪目立ちするかもだよ? 隠す?」

「積極的には使わない。だが、使わなければ死ぬって時に、人目を気にしてはいられない。出来るだけ使わないが、必要になれば使う。周りには出来るとも出来ないとも言わないでおく。この世界でそれだけ珍しい技術なら、出来るなんて夢にも思わないだろう」

「了解」

 わざと長い説明をして、私の理解が追いついてくれるのを待ってくれたノワへの感謝を込めて、元気よく返事した。


 上機嫌の私を、ノワが肩越しに見る。


「……お前はまず、記述の勉強だ。教科書を覚えることもそうだが、今までに学んだ理論がこの世界にあるのかどうか、1つずつ精査しなければならないからな。それにお前、算術とか、壊滅だろう。大丈夫なのか?」

「だって、要らなかったし……。頑張るよ。ノワ、教えてね」

「……言われんでも、お前が1人で出来るとは思っていない」


 そう言って溜息をつくノワ。言うとおりなので、怒ることも出来ない。ちょっと悔しいけど。


「……フウ、勉強苦手?」

 ユハナに言われて、ぐさっときた。


「苦手じゃないよ! やったことないだけだよ! 魔法の勉強は、何とかなったもん!」

「何とかしてやったんだろう、俺とマスターが」


 ノワの指摘に、ユハナが目を輝かせる。


「お……ノワール、フウに勉強を教えていたのですか?」


 ユハナの様子に、ノワが警戒する様子を見せた。


「まあ、一応」

「じゃあ、僕にも教えて下さい! 僕も編入試験、受けたいんです!」

「断る。兄か姉に頼め。あの2人なら、泣いて喜んで教えるだろう」


 ユハナの申し出を、コンマ1秒以下で切り捨てるノワ。知らないよ、そんな事して……



「ノワール、どうして貴方は、ユハナに冷たいのですか?」

「良いじゃないか、フージュを教えるついでだろう?」


 案の定、「ブラコン」のミアとヴィルさんが、食堂に辿り着いたノワに噛み付いた。


「フウに教えるだけで精一杯だ。これ以上教える人間が増えたら敵わん。大体、俺も勉強しなければならないし、何より魔法具の問題がある。自分の事でも手一杯なのに、フウを見て、その上他人のガキまで見てられるか」

「…………フウが実の妹のような言い方をするのですね」


 何となく面白くなさそうなミアに、ノワが胡乱げな目を向ける。


「言っただろう、俺はこいつの面倒見役だ。それに、俺と同じで、ここに迷惑をかける側。出来るだけ自分たちで何とかしようとするのは、当然だ」

「……兄上と姉上が、増えたと思ったのに」

 ユハナの小さな呟きを無視して、ノワがミアたちに言葉を重ねた。


「ともかく、同時期に試験を受けるなら、そいつはお前らが面倒見てやれ。それとも何か、教えられないのか?」


 ……ノワ、意地悪。奥でカリナさんが目を光らせているのを知ってて、そんな事を言うなんて。


「い、いや、そういうわけではないけど……」

「ユハナが希望したから頼んだだけで、私達でも出来ますよ」

 ノワの狙い通り、ヴィルさんもミアも、焦った顔でその言葉を否定した。


「じゃあ、問題無いだろう。入るぞ。朝食の準備、出来ているのだろう?」

「ええ。どうぞ」


 カリナさんの返事に、思わず身構える。昨日みたいな食事が続くなら、ノワに作ってもらう事も考えなきゃ。


 でも、席に着いてみて、それは考えすぎだって、直ぐに分かった。

 ふわふわのパンに、湯気を立てたスープ。そのほか、まだ何なのかもよく分からないおかず。何となく、オムレツっぽいのとか、ベーコンっぽいのとかもあるんだけど、色が違う。緑のオムレツって、なんか変な感じ。


「あの人はもう出かけてしまったから、これで揃ったわね。さあ、食べましょうか」

 カリナさんの言葉に、ノワが尋ねる。


「もう連絡は入っているのですか?」

「そのようね。その件に関して申し上げたいことがあると、昨日連絡を送って、今朝早くに、役所に呼び出されたから」

「……大事、ですね」


 ミアの躊躇いがちな言葉に、カリナさんは頷いた。

「当たり前でしょう? 吸血鬼の集落が、1日のうちに全滅してしまったのですもの。大事件だわ。下手をすれば、国際問題になりかねないほどの、ね」



 ……国際問題? 化け物を倒しただけで?


 腑に落ちないけど、そう思っているのは、ユハナと私だけみたい。ミアは俯いているし、ヴィルさんは緊張した顔をしている。ノワは、さもあらんという風に頷いて、食事に手を伸ばした。



「……落ち着いているのね。多分お昼頃には役人が来て、事情を聞かれるわ。分かってる? 下手したら、転入以前に逮捕って可能性もあるのよ。これだけの事件、怪しいと思えば、たとえ証拠がなくても捕まえる」


 カリナさんのちょっとした脅しに、緊張したのは、脅されたノワ以外。


「リスクは承知の上ですよ。昨日のうちに、説明は準備してあります。4人同時に別室で尋問する気でしょうが、それも計算のうちです。後で3人には説明しますが、俺に出来るだけの対策はしますよ」


 ノワの落ち着き払った答えに、カリナさんはほっとした顔をした。カリナさんも、どきどきしてたんだね。



 その後は、適当に会話を差し挟みながら、穏やかな朝食をみんなで楽しんだ。


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