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呪詛 〜Noir〜

今回かなり長めです。

 ヴィルヘルムの後について、階段を下りる。2階の廊下を歩きながら、背後の様子を探った。



 直ぐ後ろに、ミア。先程から何かを言おうかどうか迷っているらしく、気配が落ち着かないが、こちらから声をかける必要性も感じない。少し距離を置き、階段を下りているのが夫妻。何をしているのか、フウはまだ訓練場だ。



 前に視線を戻すと、突き当たりのドアが目に入った。そこから禍々しい気配が流れ出ているのを感じて、眉をひそめる。予想以上に厄介な呪いのようだ。



「……君は、何をする気なのかね」

 父親——ラルスの問いかけに、振り返らずに答える。

「貴方の息子と娘が、何よりも願う事を」

「ユハナに何をする気?」


 母親——カリナの問いかけは、もはや尋問だった。出会う時と場所が違えば、これ以上意見の一致する相手はいないだろう。そう思える程の吸血鬼嫌いのようだ。

 その吸血鬼嫌いが何故、自分の娘を餌として差し出したのかはひとまず棚に上げ、質問に答える事を優先した。


「2人に話を聞いた限り、呪いは魔道具では解けません。無論、彼の見つけ出した方法でも無理です。ですが、俺はその呪いを知っていますから、可能性はあります」


 断言しないのは、その少年の容態によっては、呪いを解いても回復しないかもしれないからだ。それだけ生命力と魔力を消費していたら、相当弱っているだろう。割とぎりぎりの状態である事は、容易に想像が付く。


「……何が狙いなの?」

「何も。彼らがここに戻り、弟を救い、元の生活を取り戻したいと言うから、それに付き合っているだけです」


 正直、今ここに居るのは誰だと疑いたくなるくらい、お人好しな話だが。


「ユハナに手を出さないで」

「害を為す気はありません」

「吸血鬼の言う事が、信じられるわけがない」


 とうとう殺気まで漂わせ始めたカリナに、冷たく言い返す。

「安心しろ。死にかけのガキの血なんて、不味いだけだろう。俺の糧は、貴方の息子じゃない。娘だ」


 じりっと、焦げ付くような痛みを手から感じた。先程から握りしめている手に、また力を込めすぎたようだ。


「この、化け物……!」

「……お母様、もうやめて下さい」

 ミアが制止に入った。何事か言い合う母娘を無視して、この家の人間に思いをはせる。



 ミアといいヴィルヘルムといい、吸血鬼である俺に何の嫌悪も示さない。この世界では吸血鬼が然程嫌われていないのかと、最初不安を抱いたが、この両親を見る限り、そうでもないらしい。


 そうすると、どうしてあの妹思いのヴィルヘルムが平気で話しかけてくるのか、全く理解できない。最初こそ怒りを見せていたが、いつの間にか怒りを忘れたかのような態度だ。弟を救う、と言ったからだろうか。真偽も疑わしい化け物の言葉だというのに、お人好しが過ぎる。


 ミアもミアで、俺を恐れる様子すら見せない。俺を躍起になって救おうとしたのは弟の為と分かったが、それでもあの態度は訳が分からない。


 ラルスは、領主としての理性と人としての良識を持った、出来た人間。多少子供思いが過ぎて情に流されかけていたが、まあ立派と言っていい。


 カリナは、過剰という程の吸血鬼嫌い。人としては普通だと思うが、ならばどうしてこんな兄妹が育ったのか、不思議な話だ。



 ——何故彼らは、吸血鬼などに心を許す。



 びりびりと神経を震わせるような、どす黒い感情が込み上げてきた。


 再び拳を強く握りしめる。掌に走った痛みに一瞬気が散った瞬間に、感情の制御を取り戻した。



 先程は、少し危なかった。幸か不幸か、フウが暴走しかけたが為に、溢れかけた感情をぎりぎりで宥める事が出来た。もし、フウがあのまま何もしなかったら、……制御を失っていたかもしれない。


 マスターでさえ身を引く程の、負の感情。普通の人がその余波を受ければ、それだけで息が止まるからと、制御を強要されてきた。別に他人がどうなろうと俺の知った事ではないが、出会った人間全てが死ぬのも目障りなので、そこまで言うならと、なるべく自分を抑えてきた。


 ……だからといって機械になるなと、人間の心理について教え込まれ、それらしく振る舞う事まで学ばされる筋合いは、なかったと思うのだが。


 とはいえ、血が滲む程に拳を握りしめて抑え込んだ感情は、何時までも目を逸らしきれるモノではないとは自覚している。自覚しているが、もう少しだけ、目を逸らしておく。



 ——向き合えば、しばらく使い物にならないだろう。



「何か言ったらどうなの!?」

 怒鳴りつけられて、思考の海から浮上した。意識を背後に向けると、ミアは母親を抑えきれなかったらしい。先程から何か言われていたらしく、それを無視する形だった俺に、彼女がキレたようだ。


「魔道具なんて応急処置かつ貴方の息子を弱らせるだけの手段を使いたいのなら、娘を餌だと公表して、王族に魔道具を求めればいい。意味は無い、というよりも、娘と息子を1度に失う愚行だが」

「君がそう断言する理由は?」


 カリナに比べると随分冷静なラルスの問いかけに、しかし、答えるのが億劫だった。今までこれだけ他人と話す機会など無かったから、既に苦痛の域に入っている。


「2人の判断です。あの魔道具は呪いがかけられて5年以内の人間にしか効果がない、と言ったら、絶望的な顔をしていました」

「……確かに、ユハナの呪いは、かけられて6年だ」

「なら無理ですね。魔道具から流れ込む魔力に耐えきれず、死にます」


 6年も放置してきたのかと内心呆れつつ答える。本当にこの両親、子供が大事なのかそうでないのか、よく分からない。


「君が取ろうとしている方法は?」

「魔法か、魔術か、術式か。どれを取るかは、見てから決めます」

「魔法は分かるが……、魔術と、術式?」

「ああ、言い方が悪かった。魔法で解きます」


 この世界にその分類は無いのだと思い出し、訂正する。説明する気は起きなかった。本気で疲れてきている。

 まだ何か聞きたそうなラルスを無視して、立ち止まった。ヴィルヘルムが振り返る。



「ユハナはこの中だ。……頼む」



 ……本当に、依頼でもないのに、何故引き受けてしまったのか。

 自分の気まぐれに後悔しつつ、真剣な顔で見上げてくる彼に頷いて見せた。



 ヴィルヘルムがドアを開けると、中から瘴気が溢れ出てきた。濃密な呪いの気配に、一時的に全ての感情を切り捨てる。魔法士として、すぐさま瘴気の性質を探った。



「……ユハナ、今帰った」

「ヴィル兄上!」


 嬉しそうな声が聞こえる。躯をずらし、ミアも中に入れる。


「ミア姉上も? 兄上、連れて帰ったの?」

「そう。ただいま、ユハナ」


 再会に喜ぶ兄妹の図だが、長々と付き合う気はない。


「ヴィルヘルム」

 名前を呼ぶと、彼もそれを思い出したようだ。中に入るよう促されて、足を踏み出す。


 ベッドから起き上がった少年は、長年の闘病生活のせいだろう、肌が透き通るように白く、病的に細かった。兄と同じ青灰色の髪に、姉と同じ翡翠の目。

 その躯に纏いついているように視えるのが、呪いだ。強烈な負の気配が、少年の躯を浸食し、生命力も精気も魔力も、全て奪っている。熱のせいか赤い顔を俺に向け、小さく首を傾げる。


「兄上、姉上、その人は? それに、父上も母上も、どうしてそんな顔をしているの?」


 「そんな顔」を視るべく魔法を使ってみると、ラルスは希望と不安と疑念の入り交じった複雑な顔を、カリナは今にも俺に喰らい付きたそうな顔をしていた。


 どっちが吸血鬼か分からないと、本人が聞いたら本気で襲ってきそうな事を考えつつ、視線で兄妹に説明を丸投げした。丸投げされた兄は、困った顔で弟に向き直る。


「この人が、ユハナの呪いを解けるかもしれないって」

「え?」

 目を丸くした弟が、俺を見上げる。熱で潤んだ瞳を視界から外して、兄姉に話しかける。


「2人は部屋から出ていてくれ」

 兄姉が両親を宥めつつ退室するのを待って、少年に歩み寄る。



「体調は?」

 時間が惜しい。いきなり尋ねると、彼は目を丸くした。少し間を置いて、返答が返ってくる。


「熱があるのと、体がだるい。最近、ベッドから降りるのも1人では出来ないから、アイラに手伝って貰ってる。……ねえ、これ、治るの?」

 最後の問いかけと共に、彼は真っ直ぐ俺を見上げた。その目には、死にかけているとは思えない、強い光が宿っていた。

「治らないなら、はっきり言って。恨まないから」


 そこで1度言葉を句切り、俺の背後を伺う様子を見せた。家族には聞かれたくないのだろうか。


 振り返り、告げる。

「1度障壁で遮るぞ」

「……分かった」

 兄姉が渋々頷いたのを確認し、視界と音を遮る障壁を張る。両親の反応は無視だ。大概、あの母親が鬱陶しくなってきた。



 向き直ると、少年は興味津々な表情で部屋を見回していた。

「それ、お兄さんの魔法?」


 気味の悪い呼び方は、しばし我慢する。議論する時間と気力が惜しい。


「ああ。それで、何を言いかけた?」

 少年は少し迷って、はっきり告げてきた。


「実は、魔道具で治らない事、知ってるんだ。その魔道具がどんなものか、説明された時に分かった。……皆、どうしてか気付いていなかったけど」


 だから、と迷う事なく少年は続ける。


「助からない事は、覚悟してる。それなのに、父上も母上も、希望を棄てられなくて、姉上を餌に差し出して、その魔道具を手に入れようとした。兄上にそれを話したら、姉上が帰ってきた。僕は、2人に会えたから、もう良いんだ。下手にあの人達に、夢を見せないで欲しい」

「……お前、いくつだ?」

「13歳」


 今の発言からもしやと思って確認してみると、やはり見かけや口調より、年齢が上だった。ならば、この程度の話は理解できるだろう。


「お前の姉が、どうして帰ってきたと思う?」


 それを聞いた少年が首を傾げて考え込む様子を見せたが、少しして首を横に振った。

「よく分かんない。けど、兄上がぎりぎり、餌になる前に取り戻した、とか?」

「いや。彼女は餌だ。……俺のな」

 少年が目を見開く。構わず続けた。


「その姉が、どうして俺をここに連れて来たと思う? 吸血鬼を人里に連れてくるなんて、ルール破りで済まされない事までして、何故帰ってきたと思う?」


 少年が、何事か言いかけて、直ぐに口を閉じた。彼の答えを待たず、ゆっくりと、答えを口にした。


「俺が、お前を救えるかもしれないと、知ったからだ」


「じゃあお兄さんは、ここに来たいから、そんな事を言ったの?」

「違う。いや、違わないか。確かに、人里に紛れて生活したいと考えている。だが、お前が思うような目的で、ここに来たんじゃない。……単に、餌について来たってだけだ」


 言葉を句切り、手を握りしめる。血が滴るのを感じながら、言葉を続ける。


「お前の姉は、自分の故郷を捨て、人の中で生きていく事を諦めてまで、お前を救おうとした。そして、餌になった今も、お前を救いたくて、化け物を故郷に連れてくるなんていう暴挙を犯した。お前の兄も共犯だ。そこまでしてまで、彼らはお前を救いたいと願っている」


 少年が、悲しそうな顔をした。


「……そんなの……。僕は、もう良いのに……」

 呟きを無視して、更に言葉を紡ぐ。



「——それをお前が知った上で、聞く。お前はまだ、死んでも構わないと、本気でそう思うか?」



「……え」

 少年が初めて言葉に詰まった。



「お前の兄、姉は、道徳の分からない人間じゃない。それでも、これだけの事をした。ばれればただじゃ済まないと分かっていてな。そうやって必死で救おうとしている2人に向かって、自分はもう死んでも構わないと、言えるのか? お前が死ねば、あの2人は悲しむだろう。それでも死んで良いと、本当に思うか?」



 おそらく少年は、姉が人生を犠牲にして自分を救おうとした事で、生き残る事に罪悪感を覚えている。だから何度も、死んでも構わないと繰り返した。それが、罪悪感から逃れたいが為の言葉とも気付かずに。


 別に、俺はそれでも構わない。最後に自分の行動を決めるのは自分自身だ。周りの思いなど、どうでも良い。死にたいなら死にたいで、勝手にすれば良い。


 だが、今は兄姉から、この少年を救えと言われている。呪いを解く上で、呪われている本人に生きる意思がなければ、解呪の途中で命を落とす。——俺に呪いが移るという、ありがたくもないおまけ付きで。


 流石にそれは面倒だから、阻止する為に言葉を紡ぐ。彼の本音を、引き出す言葉を。



「もし構わないと思うなら、今この場で、あいつらにそう言え。このまま楽に死にたいなら、俺が殺してやる」



 少年が息を呑む。俺の顔に感情が顔に出ていない事を確認してから、言葉を続ける。



「お前がどちらを選ぼうと、俺はどうでも良い。あいつらの意思に、気を遣う必要もない。6年も苦しんだお前だけが、選ぶ権利がある。あいつらがどう言おうが、俺はお前の意志に従う」



 少年が俯いた。俺もそれ以上何も言わず、少年の結論を待つ。



 何分も経った後、彼は顔を上げた。その頬は、涙に濡れている。



「——助けて」



 囁くような声が聞こえた。問いを重ねる。

「俺に、何を望む」


 彼は顔を歪め、引き攣れたように息を吸った。



「呪いを、解いて……!僕はまだ、死にたくない…………!」



 振り絞るような叫びを聞いて、俺は頷いた。

「依頼を、受けよう」


 部屋に、強力な結界を張った。漏れ出ていた瘴気を閉じ込め、外に魔力の影響が及ばないよう、完全に遮断する。



 結界に綻びがない事を確認してから、少年にゆっくりと歩み寄る。緊張した様子のない少年の度胸に半ば呆れつつ、額に軽く触れ、目を閉じた。


 途端、呪いに関する情報が洪水のように流れ込んでくる。その内容に、内心首を傾げた。



 呪いは、魔術の特性を強く持ちながら、しかし魔法陣を用いていない。言霊で魔力を増幅させていないから、術式でないのは確かだが、魔法と魔術、両方の特徴を兼ね揃えていた。


 確かに呪いの場合、そういうものも無いわけではない。が、通常、この分類をまたがるようなものを使えば、相互干渉が起こって威力が落ちる。だがこの呪いは、むしろ、本来この目的で使われる魔法よりも威力が増していた。


 刻印魔術というわけでもなさそうだ。随分変わっているが、一応魔法に分類される。



 手を離し、俺を見上げる少年に訊いた。

「この呪い、どこで受けた?」

 少年は、困ったように首を傾げた。


「街の外れの、森で。後ろからいきなり。どんな魔物の仕業かは、分からない。……分からないと、だめ?」

「いや。単に気になっただけだ」

 魔物独特の魔法だろうとは思う。だが、どうも腑に落ちない。


 しかし今は、呪いを解除する方が優先だ。今俺が呪いに触れたせいで、呪いが活発化しつつあった。これ以上放っておくと、弱った少年には耐えきれない。



 左手に魔力を纏わせ、ナイフ並みの鋭さを与えた。それを右手に当てようとして、手が止まった。


 今から行う解呪法は、大雑把に言うと、術者の血で呪いを受けた人間に魔法陣を描き、呪いを引き出す方法だ。俺はこのやり方が1番慣れている。


 ……だが、化け物である俺の血を、この少年を触れさせる事に、強い抵抗を覚えた。


 とはいえ、これだけの呪いを解くのなら、これくらいのものがどうしても必要になる。覚悟を決めて、右手の指に傷を作った。滴る血で、少年の額に魔法陣を描く。


 目を閉じた少年に手をかざし、低く言霊を紡ぐ。歌うように紡ぎながら、呪いに向けて声に出さずに語りかけた。



 ——来いよ。ここに、極上の魔力の持ち主が居る。



 少年の中の呪いが震えるのが視えた。かざした右手の周りに、純度の高い魔力を凝縮させる。更に語りかけた。



 ——そんな死にかけのガキの魔力なんて、もういいだろう? ほら、感じるだろう。より強力な魔力を。



 呪いが更に大きく震えた。蠢く呪いが苦しいのか、堅く目を閉じた少年は、冷や汗を流している。急いだ方が良さそうだ。

 腕全体に魔力を纏う。言葉にまで魔力を乗せ、誘うように、仕上げの言葉を紡ぐ。



 ——さあ、そんなガキの事なんてどうでも良いだろう。ほら——来いよ。



 呪いが大きく跳ね上がったかと思うと、一気に少年の躯から溢れ出た。そのまま、俺の右手目掛け、凄まじい勢いで襲いかかってきた。


 莫大な瘴気に対して、右腕に溜めていた魔力で魔法陣を描き、魔術の形を取らせて一気に放出した。

 魔術を大きく展開して、出来るだけ広い面積を瘴気に触れさせる。途端、瘴気の動きが止まった。


 平面に広がった魔術を、一気に収縮させる。まるで掃除機に吸い取られていくかのように、瘴気が魔術に引き摺られ、吸い込まれていく。


「……っ!」

 少年が息を呑むのが聞こえた。瘴気は彼の魔力を取り込んでいる。躯から何かが引き抜かれているのを感じているのだろう。



 6年分の膨大な瘴気を飲み込み続けていくうちに、少年の躯の奥深くに、何かが抵抗するように揺らいでいるのが視えた。


「!」


 これだ。血で描いた魔法陣を介して、その「何か」に向かって魔力を送り込む。


 「それ」は抵抗しようとしたが、瘴気を奪われ続けている状態では、俺の魔力に抵抗する事など出来ない。すぐにそれを捕捉した。

 呪いの核だ。瘴気と魔力と妖気を練り合わせ、魔法という理を創り上げられた、宿主の魔力を使って成長する、寄生虫のようなモノ。これも一種の魔物と言っていいだろう。


 魔力で包み込んだそれを、瘴気ごと引き出した。全ての瘴気が、完全に少年の躯から出て行った。


 少年が力無くベッドに倒れ込むのを視界の端に映しながら、その核に対して、術式を起動する。



『合成、崩壊、霧散、浄化』



 魔力で包み込んだ核と、魔法で飲み込んだ瘴気が1つに合わさり、改めて術式に捕らわれた。まさに化け物のように暴れる呪いが、一瞬動きを止めたかと思うと、粉々に砕け、霧と散る。


 部屋に緩やかな風が吹き、呪いや、部屋に充満した瘴気を浄化していく。風は俺と少年の周りを吹き過ぎ、完全に瘴気の影響を消し去って、消えた。



 少年の元に歩み寄る。白い顔で浅い呼吸を繰り返す少年の額に手を当て、魔力を走らせ血を拭い去る。そのまま体調を確認した。


 かなり弱っている。生命力はぎりぎりまで削られ、魔力も底を尽きかけている。瘴気を抜き取った時、一緒に吸い取ってしまったようだ。というより、そうなるようにあらかじめ呪いに組み込まれていたらしい。つくづく陰険な呪いだ。


 ここで何もしなければ、この少年は確実に死ぬ。やるからには、最後までやらなければならない。


 呪いによって蓄積したダメージを治癒魔法で消し、回復魔法で生命力と体力を回復させた。更に、俺の魔力を彼の波長に一致させて、いくらか流し込む。


 少年の呼吸が穏やかなものになり、顔にも生気が戻った。瞼が震え、ゆっくりと持ち上げられる。翡翠色の瞳が、俺を見上げた。



「……呪いを取り去った。もう大丈夫だ。ゆっくり寝ていろ」


 少年の目が潤む。唇が動いた。

「ありがとう」

「化け物相手に礼を言うな。俺の事情は説明しただろう。感謝するなら、最後まで諦めなかった、あの2人にしろ」


 少年は小さく笑って、頷いた。これ以上の会話は体力が持たないだろうと判断し、眠りの魔法をかける。ゆっくりとまどろみ、彼は穏やかな眠りについた。



「……本当に、何をやっているんだ、俺は……」

 少年をベッドにきちんと寝かせながら、溜息混じりに漏らした。


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