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出発 〜Noir〜

お気に入り件数50件超え、ユニークアクセス5000超え、ありがとうございます!

これからもノワール達をよろしくお願いします。

 意識が唐突に浮上するのを感じて、俺は目を開けた。


 ゆっくりと身を起こす。躯に上手く力が入らないが、どこか悪いわけではない。寧ろ、この世界に来て以来、1番具合が良い。



「……油断した…………」

 苦い思いで呟きを漏らす。気を失う前に感じたマスターの魔力を思い出した。


 元の世界でも時折かけられた魔法。最近は警戒していたから、そうやられることはなかった。ダメージを溜め込むほど化け物に手こずらなくなったというのも、理由の1つだが。


 予想以上に蓄積していたダメージのせいで、知らず知らずのうちに気が散っていたようだ。そうでもなければ、あんなにあっさりとやられたりしない。



 それにしても、気を失うとは。今まではせいぜい、動けなくなるだけだったのだが。そんなに溜め込んでいただろうか。

 おまけに、その後かけられた眠りの魔法のためか、余計な夢まで見る羽目になった。


 まだ覚えていた自分に、素直に驚きを感じる。もう、5年くらいは経っているはずだ。



 マスターは、俺が魔法を悪用しないこと、訓練を投げ出さない事を約束させた後、俺に魔法を、化け物との戦い方を、教えることを了承してくれた。俺に再びまともな生活を与えてくれたのも、マスターだ。その事は感謝している。


 もし彼に会えなければ、俺は、奴らと戦う術も知らないまま、あの場所で果てていただろう。



 溜息をついて、ベッドから降りる。立ち上がった時に、少しバランスを崩しかけた。


「……?」


 先程から、妙に躯に力が入らない。その上、頭がぐらぐらする。マスターの魔法から目覚めた以上、ダメージは全て解消されたはずだが——



 その疑問に対する答えは、部屋に入って来た存在によって、直ぐに明らかになった。


「あっ……」

 声を漏らす来客——ミアを見た途端、俺は無意識に彼女に1歩、詰め寄った。


 俺を見たミアは、驚きから解放された後、微笑みを浮かべて歩み寄ってきた。

「……ようやく、目覚めたのですね」

「どのくらい眠っていたんだ?」


 ようやくという言葉に力が入っていたことが気になり、尋ねてみる。


「5日です。今日目覚めなかったら1度起こすと、ピエールが仰っていました」



 予想以上に眠り込んでいたらしい。それは——渇く、はずだ。



 俺が手を伸ばすと、ミアは直ぐに察して、腕を差し出した。その腕を引き寄せ、牙を突き立てる。



 しばらく渇きを満たした後、ゆっくりとミアから離れる。何故かミアは、不満げな顔をしていた。


「もう終わりですか?」

「お前、何だか妙な中毒でも起こしていないか?」


 多少胡乱げに聞き返す。血を吸われるのが癖になったなどと言い出したら、不気味に過ぎる。


「そうではありません。5日ぶりなのにこれだけでは、足りないでしょう?」


「……そろそろはっきりさせる必要がありそうだな」

 この方法はあまり好ましくないが、いい加減納得させなければならない。いちいち同じ会話を繰り返すのも面倒だ。



 部屋に魔力遮断の結界を張り巡らせた後、俺は魔力を解放した。


 凄まじい風が部屋に吹き荒れる。部屋に置かれた、決して軽くはないはずの家具が巻き上がり、宙を舞う。巻き込まれないよう事前に抱え込んでおいたミアは、腕の中でその威力に言葉を失っていた。


 魔力を収めてから、ミアを解放する。



「今見た通り、俺の魔力は他者とは桁違いだ。それこそ、お前の弟にかけられた呪いがあっても、魔力不足に悩む心配が無い程にな。そして、これはほぼ無意識に行っているんだが、俺は普段から魔力の1部を生命保持に消費している。元から通常より少ない食事で生きていけた。それは吸血鬼になっても変わりない。血を飲む量が少ないと感じるのならば、そのせいだ」



 彼女の体調を気遣っても、俺の体調がどうにかなるわけではない。魔力は普通の食事で補えるから、下手に血を飲むよりも効率的に体力を回復でき、飢えをしのげる。……まあ、本格的に飢えると、食べ物では補えなくなるようだが。


 ちなみにこの技術は、路上で生きている頃に無意識に身につけていた。他の仲間より妙に飢えに耐えられると思っていたが、魔力なんぞ存在すら知らなかったため、気付かなかったのだ。



「そう、ですか……」

 まだ何か気になっているようだが、気にしている時間は無い。 


「さて、行くか。もうタイムリミットだろう?」

「え?」


 きょとんとした顔で聞き返すミアに、現状を把握させる。

「あれから5日も経っているんだ、何時政府の人間が来てもおかしくない。さっさとここを離れるぞ」

「誰のせいだと思うておる」


 俺の言葉に答えた声に、驚いて目を向けた。

「……マスター、まだ帰っていなかったのですか?」


「馬鹿弟子を眠らせた責任は取らんとな。しかし……やっと起きたか」


 マスターの言葉を聞いて、先程のミアの発言を思い出した。今日起きなかったら起こすと言っていたが、それはマスターにしか出来ない。残っていると、そこから分かるはずだった。

 まだ本調子ではないようだ。そう思いつつ、それを悟らせないように肩をすくめる。


「俺も驚きました。ですが、その間マスターがいたなら、もうここを離れる準備は出来ているのでしょう?」

「ああ、いくらか食料などを拝借し、隣の部屋に置いてある。お前が管理するといい」

「分かりました。それでは、行きますか」


 頷いて歩き出そうとした俺を、マスターが止めた。

「その前に、話がしたい。何、多少時間が遅くなっても大丈夫だろう」


 その言葉を聞いて、魔力を半径5キロ圏内に薄く広げる。ここから4キロの所に、こちらへ向かう人間を確認した。


「その余裕は無さそうですよ」

 指摘すると、マスターが苦い顔で黙りこくった。その機会を逃さず、ミアを伴い隣の部屋に移動する。 



 部屋には、大量の食料と水、その他テントなど野営に必要な物が置いてあった。馬車1台分くらいありそうだ。


「……一体何日間かけて移動する気だ?」

 呆れて尋ねると、部屋にいたヴィルヘルムが当惑した様子で答えた。


「……僕もそう思うんだけど、「運べるから、もらえる物はもらっておけ」って、ピエールが……」

「…………」


 言うまでもなく、運ぶのは俺だ。相変わらず人使いが荒い。


「……まあ、苦労しないからいいが」

 魔力を練り上げ、虚空間の入り口を開く。部屋に積み上げられている物を浮かせて、順に放り込んでいった。


「……えーと、ここはどう反応するべきかな?」

「お兄様、いちいち驚いていては、体が保ちません」

 兄妹の会話を無視して、全ての荷物をしまい、再び空間を閉じる。


「さて、あのじゃじゃ馬はどこだ?」

 ミアに尋ねると、曖昧な顔をした。

「先程まで、この荷物を運ぶ手伝いをしていてくれたのですが……」


 大方、最後に屋敷を探検しようとか思い至ったのだろう。まあ、迷子になることはないと思うが。


(……フウ、今すぐ戻ってこい)

 探すのも面倒なので、直接言葉を送った。


(うわ! ノワ、起きたの?)

 返事は直ぐに戻ってきた。予想通り、俺が眠っている間の暇つぶし中だったようだ。

(ああ。もう出るぞ、荷物のあった部屋まで来い)

(んー……、ちょっと気になる物があるから、もう少し待って)


 珍しく、フウが俺の言う事に逆らう。普段なら別に構わないのだが、状況が状況だ。


(もう政府の人間がここに来る。待つ時間は無い。物なら持って行ってやるから、持って来い)

(分かった、5秒で行く)

(待て、お前今何処に——)


 5秒という中途半端な時間——転移魔法なら1秒とかからないし、このでかい屋敷を歩けばこの廊下の端からでも10秒はかかる——に凄まじく嫌な予感を覚えて止めようとしたが、手遅れだった。


 爆音が上の階から聞こえ、続いて猛スピードでダッシュする音。音は俺達のいる部屋の前で急停止して——



「お待たせ——痛ーっ!!」



 ——飛び込んできたフウに、虚空間に入れてあった魔術書の1冊を思いっきり投げつけた。



 見事に顔に当たって痛がるフウに、一言。

「屋敷を壊してまで急げとは言っていない」

「あうー……ごめんなさい」


 涙目で謝ってくるフウの目を見る。一応反省しているようなので、いいだろう。魔術書を元に戻す。ついでに、フウの気になる物とやらもしまっておいた。古ぼけた、薄いノート。日記だろうか。何故気になるのかは聞かない。何となくとしか言わないだろう。



「さて、行くぞ。……ああその前に、記憶操作か」

 里に残る元餌達に、俺達の存在を忘れさせる魔法。多少魔力を消費するだろうが、まあ大丈夫だろう。


「それは儂がやっておいたよ」

 そう思っていた矢先に、マスターからのこの言葉。意外に思って目をやると、マスターは顔を顰めた。


「何だその顔は。お前が寝ている間、暇だったんでな。料理は止められるし、せめて魔法の面で手伝おうと思ったのさ」

 フウが頑張って抵抗したらしい。マスターの料理好きは、相当なものなのだが。



「1度手伝おうとなさった時に、包丁の扱いがあまりに危ない上、調味料を間違えそうになったので、お断りしました」

 ……本当にこの娘、見かけを裏切って逞しい。



「まあ、正解だな。お前が言えば、マスターも手を出せないか」

 その時のマスターの顔を想像して、不意打ちを食らってしまった溜飲を下げた。



「だったら、直ぐに移動だな。馬車はあるのか?」

「集落の外に。昨日餌はやったから、大丈夫だと思う」


 ヴィルヘルムの答えに軽く頷いてから、移動魔法を発動した。座標設定は、集落の外、フウがいた辺り。

 魔力光が一瞬閃き、収まった時には移動が終わっていた。


続きます。

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