第8話 運命は作るもの
残念なお知らせ―
ヒントの意味、分からず。
ボクが回答できずにいると
「二階堂くん、本当に性格がいいからね」
褒めてる?
いや、煽っている。
「二階堂くんに優しく声をかけた日のこと、覚えてる?」
「ああ、覚えているよ。
英語の授業のあと」
「変だと思わなかった?」
「おかしいとは、思ったよ。
話したこともないのに、馴れ馴れしく声をかけて来たから」
神馬さんは、馴れ馴れしくには、反応せず
「そっちじゃなくて、国友くんのこと。
私が初めて声を掛けた日に、いつも一緒の国友くんが授業をさぼって不在。
そんな絶妙なタイミングで、高尾山にデートに行くかしら?」
「うーん。
そう言うこともあるんじゃ…」
待て、待て、待て。
「なんで、カズヤの高尾山デートを知ってるんだ?
カズヤに聞いたのか?」
「私、国友くんと話したことないよ。
国友くんの彼女とは、いーっぱいお話したけど」
「なんだって?」
「運命なんて、待つものじゃない。作るもの」
ペットボトルのお茶を1口飲んで
「そろそろ、登ろうか。
お腹空いたし」
ましろさんの山々を堪能することなく、展望台から去って行く。
ちょっと早い紅葉に興味はないようだ。
「ちょっと待って」
待って、は二重の意味。
先に歩いて行くな。
話の先を教えろ。
「まさか、カズヤの彼女と知り合いだったの?」
「まさか!国友くんの彼女と知り合いになったの!」
「意味が分からない」
「つまりね、探偵事務所を舐めないで、ってこと」
「見ず知らずのカズヤの彼女に接触したってこと?
どうやって?」
「方法はいくらでもあるよ。
彼女さんのバイト先に潜入するとか、彼女さんのインカレに潜入するとか」
軽くハァハァと息が切れて来た。
「接触方法は、いいとして…
接触したあと、どうしたの?」
「ファーストステップ―
C大学の近くに高尾山があるって教える
セカンドステップー
高尾山にはカップルにピッタリの2人乗りリフトがあるって教える
サードステップ-
彼女さんの誕生日を聞く」
「いくつステップあるの?」
「ラストステップー
彼女さんにステキなプレゼント」
「なにをあげたの?」
「ケーブルカーのお得なきっぷ、そして、高尾山近くにあるホテルのお得な宿泊券。
宿泊券はもちろん彼女さんの誕生日限定」
ボクは、ハァハァと息が切れ続ける。
彼女は、逆に上機嫌で
「これでもう、確定よ。
お昼は登山でおたのみ、夜は宿屋でおたのしみ」
と、いにしえのRPGみたいなことを言った。
「探偵って恐ろしんだね」
「私は彼女さんに優しく声をかけて、仲良くなったよ」
「馴れ馴れしく、の間違いだろ」
ボクは、最後の質問をぶつける。
「なんで、そんなことをしたの?」
「国友くんが隣にいたら、話を合わせるでしょ。
用事があるとか言って、私から逃げちゃう。
いっつも男って2人でつるむと、ロクな話をしないから。
あっ、頂上に着いたよ」
ボクは、ハァハァと息が切れ続ける。
キツかったのは、山登り、神馬さんの話―どっち?
「二階堂くん、息切れしちゃって。
だらしないなぁ。
祖母山の優しいおばあちゃんも、情けなくて泣いちゃうよ。
体育の授業しか運動してないでしょ?
私と一緒にジムに行く?」
「お断りするよ。
ジムへの潜入になりそうだから」
「あっ、そう」
と、キョロキョロしてる。
「おお、あれだ!」
と、猛ダッシュする。
看板を指さし
「名物の―山菜きのこうどん―だって。
山菜、きのこ、うどん、すべてが健康的。
このお店でいい?」
「ご自由にどうぞ」
「うひょひょーい!」
と、飛び跳ねながらお店に入る。
「いらっしゃいませ!」
若い女性店員が、ほんとうに優しく、席に案内してくれた。
母山が見える絶好のポジション。
だが、神馬さんは、運ばれた品が運ばれた瞬間、
花よりだんご―改め―山よりうどん―になっていた。
――――
「ブーブーうるさいわね。
ブタさんみたい」
「だってさぁ。
なんで、2日連続なの!?」
「レジャーじゃくて、仕事なんだから、ガマンして」
そう、今日も山道を登っている。
昨日は、祖母山、今日は母山。
もちろん、ふもとまでボクの運転。
「じゃあ、登山をすると仕事が進むの?」
「安藤さんへの報告書が、スカスカになっちゃうから」
「報告書のための山登り?」
「他になにを書けばいいの?
会社の人に会わせてってお願いしたよ。
けど、安藤さんからOKが出ないし」
「安藤さん、なんで会わせてくれないだろう?」
「真実の愛と無縁の二階堂くんには分からないか。
愛する夫の言葉を信じてる。
だから、会社の人は関係なく、ましろさんのどこかで遭難したと思ってる。
そんなところよ、きっと。
ああ、見えた!
中間地点の展望台!」
母山と同じく、木製の椅子と机がある。
ここにある椅子・机、遠くに見えるましろさんの山々、両方とも趣を感じる。
だが、趣には興味がない神馬さんは、リュックをゴソゴソ探っている。
マズい、急がねば!
間接キスのお誘いが来てしまう。
ボクは急いで、リュックからペットボトルを取り出した。
勝った!
遅れて、神馬さんがパックの弁当を出す。
「あれ?
二階堂くん、昼食ないの?」
「あるよ!」
と、コンビニで買った菓子パンを掲げる。
「それだけで足りるの?」
「神馬さんと違って、小食だから」
「まぁ!
私を食欲オバケみたいに言って」
―山よりうどん―が頭に浮かんだが、さすがに口にしなかった。
神馬さんがモグモグしながら
「さっきの続きなんだけど、行夫さんは、本当にましろさんで遭難したと思う?」
「まぁ、そうじゃないの。
本人がましろさんに行くって言ってたんだし」
「事務所でも話したけど、他にも色々な可能性あるよね。
一番ありそうなのは、浮気してて、その相手と愛の逃避行かな」
「神馬さんの話には、やたらと愛が出てくるね」
菓子パンを食べ終えたので、ペットボトルを手に取った。
「嫌ねぇ。
むしろ、愛をあちこちに、ばらまいてるのは男性でしょう」
お茶を思わず吹き出してしまった。
ヒドい決めつけだ。
「女性こそ、バレンタインチョコをあちこちに、ばらまきまくってるじゃないか!」
「あれは、イベント。
男女を問わず、誰に対してもあげてるんだから。
義理だよ、義理。
昔のお中元、年賀状だって義理。
二階堂くんだって、バレンタイン、義理でもらったでしょ?」
ボク、沈黙―
「さすがに0個じゃないでしょ?」
「だ、だ、だって大学は、冬休みじゃないか!
わざわざ、冬休みに呼びだして義理チョコを渡すこともないし!!
って、バレンタインは、行夫さんの失踪となにも関係ないじゃん!!!」
ましろさんを冬山と呼ぶには、まだ早い。
展望台から見える山々は、紅葉になりかけた程度。
だが、ボクの気持ちは極寒だ。
「そもそも二階堂くんが、バレンタインを持ち出したんだけど…
話を行夫さんに戻しましょう。
幸恵社長の、夫を愛する気持ちには感服するね。
だけど、その愛する気持ちこそが、真実から目をそらしている気がする」
「つまり、行夫さんは、ましろさんに来てないと?」
「そこまでは断言しないよ。
けど、今までのところ、三宅くんは正しかった。
一般人が登っても危険は少ない。
行夫さん、本当にましろさんで遭難したのかな?」
「祖母山で遭難は、考えにくいと思う。
母山の残りと、並山が、今までと同じだったら、遭難したとは思えないなぁ」
「だよねぇ…」
神馬さんは、少し考えたあと、こう言った。
「2004年の安藤食品なんだけど。
実は、二階堂くんに言ってないことがあるんだ」




