第7話 白い帽子の稲荷
「お稲荷さんって知ってる?
食べ物じゃなく、キツネの」
「神社にある?」
「そう。
並山にお稲荷さんを作ったんだ。
普通、お稲荷さんって赤ってイメージ。
だけど、並山ではお稲荷さんに白い帽子を被せている。
このお稲荷さんもまっしろさまと呼び、冬禁山の湖の代わりにした」
神馬さんがスマホで検索し…
「コレ、かわいいーーーー♡」
出た!日本女子の最強ワード、かわいい。
日本男子が最もあきれ返るワードでもある。
ボクは嫌味っぽく
「いいかげんな信仰だね」
と、言ってやった。
「確かに、楽チンな信仰ね」
と、うまく話をすり替えた。
「白い帽子をかぶってるから、いつ来ても冬と同じご利益があるんだと。
でも、絶妙なラインなのが先人の知恵だと思う。
並山って危険は少ないけど、祖母山に比べれば楽じゃない。
そこそこ大変だから、なんかご利益がありそうなんだよ」
「祖母山って、そんなに楽に登れるの?」
「高尾山と同じレベルだよ。
高さもほぼ同じだし。
ただ、祖母山には高尾山と違い、ケーブルカーやリフトがない。
だからすべて自力で登らなきゃいけないけど」
「あー、ケーブルカーやリフトなんていらないよ。
カップルじゃないんだから。
高尾山と同じだったら、私たちでも登れるね」
私たち?
いや、きっと、聞き違い。
「最低限の準備をすれば、母山や並山も登れるよ」
「本当!?
超絶カワイイまっしろさまが、私たちを待っている!」
聞き間違いじゃないらしい。
「東京からまっしろさまに行く場合、電車と車、どっちがいい?」
「東京のどこから行くの?」
神保さんは、安藤食品の住所を伝えた。
「うーーーーん」
と三宅くんがうなる。
「微妙だな。
時間的には変わらない」
「じゃあ、電車が労力が少なくていいね」
とボクが言ったが、神馬さんの心には届かなかったらしい。
「駐車場はあるの?」
「山のふもとにあるよ。
5つの山、すべて」
こっちを向き
「違法駐車にならなくて良かったね!」
運転はボク。
だからなにも良くない。
いや、いや、まだあきらめるのは早いぞ―
「車で行ったとは限らないじゃん。
だって自家用車は、家に残ってたんだから」
三宅くんは
「そうなの?」
と不思議そうな表情をした。
「たしかに、二階堂くんの言う通り」
「じゃあ、その人も電車で行ったんじゃない?
地図には路線図もあるじゃん。
チェックした?」
三宅くんに言われて、地図に視線を落とす。
JR真白線の路線図も載ってる。
<南>
祖母山=登山口駅
母山=登山口駅
並山=旧庁舎駅
冬禁山=旧庁舎駅
難山=僻真白駅
<北>
「祖母山と母山が共通で、登山口駅。
国鉄の時代、ましろさんで登山するならこの2つの山にしてほしい、という意味で名付けられたらしい」
「おもしろいね」
「並山と冬禁山も共通で、旧庁舎駅。
国鉄の時代、庁舎駅と名付けられた。
けど、JRになった時には庁舎は移転してたんで、国鉄民営化のとき、旧庁舎駅に改名した」
「能がない改名ね。
何市の庁舎があったの?」
「北山市」
「センスがない地名ね」
三宅くんがコーヒーを飲みながら、苦笑いをしている。
苦かったのはコーヒーか、神馬さんの毒舌か―
ボクは後者だと踏んでいる。
「念のために言っておくと、並山は、北山市と南山市が入り組んでる」
「センスがない地名の二乗ね」
私立文系らしくない皮肉―
「その人も行ったはずないから、関係ないけど、難山が僻真白駅。
国鉄時代から、駅名は変わってない。
僻地だから行くな、という意味が込められてるらしい。
何しろ、それから先は線路を引けないから、ここが終点になってるくらいの僻地」
「ふーん…って言いたいけど、頭が回らない!
つまり糖分の著しい不足!」
こう言って、シュガースティックを2本ドバドバ入れる。
糖分不足を予測していた?
神馬さんは、いつだって準備万端。
「駅名は3つだけだよ。
地名なんて南山市と北山市。
こんな分かりやすいの、ないじゃん」
と、ボクが反論。
「はーい、私は方向オンチで地図の読めない女でーす。
でも、問題なし!
二階堂くんが、ましろさんまで車の運転するんだから!」
と、最後通告。
「自家用車は自宅にあったんだ。
電車でましろさんに行くべき!」
と、ボクが最後の抵抗。
三宅くんが、マグカップを手にしながら言う。
「デートの交通手段は、2人だけで決めてよ」
「ハァ?」
「はぁ?」
――――
「ブーブーうるさいわね。
ブタさんみたい」
三宅くんほど体は引き締まってないが、太ってもないと自負している。
「なんで、電車じゃなくて車なの?」
周りの木々はいい感じで黄色になっており、秋を感じさせる。
山道は舗装されてないが、危険な感じもしない。
さすが、祖母のように優しい祖母山、安全だ。
「三宅くんの話だけじゃ、本当か分からないし。
どんなことでも実際に確認する。
これが名探偵。
わかる?」
名探偵だと?
ド新人探偵の間違いだろ―
「だからちゃんと安藤食品に行ってから、祖母山に来たじゃん。
行夫さんが、もし自動車で移動した場合と、なるべく同じ条件にしたかったの」
「で、なにか分かったの?」
「うーん。
当時と今では、交通事情も違うだろうし」
なーんにも分かってないじゃないか!
ボクの運転はなんだったんだ!
とんだド新人探偵である。
ボクは黙って山登りに専念することにした。
―10分後
「ブーブーうるさいよ。
ブタみたい」
「麗しのレディに向かってなによ!
セクハラ!」
先に言ったのは神馬さんなのに。
「ブタさんだって、カワイイじゃん。
並山のまっしろさまと同じだよ」
「でも、祖母山には、カワイイまっしろまさがいないから。
あーもー、つかれたー」
また、ブタに、ではなくブーたれに戻った。
「高尾山と同じだったら登れる、そう豪語したのは誰だっけ?
高尾山も祖母山も標高は約600mで同じだよ」
「だって、高尾山には、リフトとかあるし」
「ケーブルカーやリフトなんていらない、そう豪語したのは誰だっけ?」
「名探偵だって、たまには誤算はある」
たまに、ね。
と、ここで気になっていたことを思い出した。
―ケーブルカーやリフトなんていらないよ。
カップルじゃないんだから―
神馬さんは、三宅くんにこう言ってた。
カップルじゃないだから、って何?
「そう言えば、ケーブルカーやリフトの話のとき、カップルじゃないんだからって言ってたよね。
あれ、どういう意味?」
「ああ、ケーブルカーは関係なかった。
100人以上乗れるらしいから。
でも、リフトは恋人たちにピッタリ。
だって、だって、二人乗りなんだもん。
そりゃー、そりゃー、ロマンチックよね」
「へぇ―、そうなんだ。
神馬さん、よく知ってるね。
高尾山に登ったことあるの?」
「ないよ。
だって、リフトのことを調べたから。
ああ、見えた。
あれって展望台じゃない?」
中間地点に展望台があると、ふもとの看板に書いてあった。
「やっと、休める!」
展望台には、木でつくられた椅子と机があり、食事がとれそうだ。
2人向き合い、ドカッと座る。
だが、肝心のお店がなかった。
「えー、ごはん、食べられないの?」
「弁当、準備してないの?」
「水分だけ!」
展望台からは、ましろさんの山々が見えた。
もし本当に、ましろさんに来ていたのなら――
どこかに、行夫さんが消えた場所がある。
それなのに――
目の前の新人探偵は、「つかれたー」と、リュックからペットボトルを取り出した。そして、お茶をがぶ飲み。
登山がきつかったのか、急いで水分補給したからか、ハァハァ息を切らしている。
「二階堂くんも飲む?」
「ボクの分もあるの?」
「え?これだけど」
間接キスになっちゃうじゃん。
気持ちわりぃ―
「いいよ、ボクも持って来ているから」
と、リュックから水筒を出す。
「さっきの続きだけど」
「なんの話だっけ?」
「リフトのこと、調べたって話。
どうして調べたの?」
神馬さんが、お茶を噴き出してしまった。
「え?
まさかのまさかだけど、気づいてないの?
ヒント、あったじゃん!」
なんのこと?
しばらく考えていると、神馬さんはしびれを切らしたのだろう。
「男って2人でつるむと、ロクな話をしない」
「はぁ?」
もしかして神馬さん、ボクのこと、試してる?




