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第6話 助手席は逃げられない

「もう1度、聞くよ。

男2人で、なにを話したのかな?

おしえて♡」


♡はイメージです―なのだが、困ってしまう。

神馬(じんば)さんが、助手席に乗りこんできたから。

地下駐車場から出られない。


そして、()()()()()()()()()を語り合ったと、本人に言うことはできない。

こっちが、本当の困惑。


「探偵はビジネス、という話を拝聴(はいちょう)してたんだよ」


「それにしては、長すぎない?」


「長い話をありがたくお聞きしてたから、拝聴って表現したんだよ。

文学部なのにセンスないね」


ちょっと煽ってみる。

ごまかせるか?


「あら、()()()()()()じゃない?

じゃあ、拝聴した話をくわしく()()()()()()?」


しつこい―


フゥーとため息が出る。

もちろん、意図せず。


「依頼主に納得してもらう、これが探偵の仕事。

真実を求める、それは公務員の仕事」


「公務員?」


「警察官、検察官、裁判官」


「ああ、そう言う意味」


「これで納得した?」


「ええ。

さすが鷹宮(たかみや)先生」


「なにが?」


「クライアント様の意向を尊重―

この意味を二階堂くんが理解してないと、見抜いてた」


そう言って、1人でウンウンとうなずいている。

ボクをバカ者扱いしてるが、それで良い。

誰も傷つかないから。


「二階堂くん、もう分かったよね?

私たちのすべきことはただ1つ。

安藤さんが納得する報告書を作ること」


今度は、神馬さんがハァーと()()()ため息をつき

「ハイ、これ」

と、メモ用紙を差し出す。


ボクは目を小さく左に流し、そのメモを乱暴に受け取った。

視線を下に流すと、神馬さんの住所が書いてある。

しかも、アパート名と号室まで。


これって、()()()()()()()()()じゃないか!―


目を丸くして、思わず左側に首を向ける。


「二階堂くんって、気が利かないよねぇ。

こういう時は、家まで送っていくよって言わないとダメなの!」


いや、いや。

2日前まで口をきいたことがなかったんだ。

そんな異性に住所を聞く方がノンデリカシー。


そんなボクの不満を見抜いてないのだろう。

どうでもいいことを言ってくる。


「その紙、ちゃんと保管しておいてよね。

あの名刺と同じように」


そう言えば、あの名刺、どこにしまったっけ?―


――――


()()、と言ったからには――

宝くじで一等でも()()てくるのかと思った。


もちろん、そんなことはない。


だが、目の前に座っている彼は――

当たり、なのか?


登山にくわしい人に当てがあります―


神馬さんが連れて来たのは、まさかのクラスメイト。

三宅くんはC大学の山岳部。

だから、当たりと言えるかもしれない。

だけど、もっとすごい専門家の当てがあると期待していた。


神馬さんは

「ほら、ほら。

ケーキ食べなよ」

などと、三宅くんをおだてている。


何を心配していると思ったのか、神馬さんは首を横に曲げ

「大丈夫、大丈夫。

二階堂くんも食べな。

カフェ代は、必要経費。

事務所負担だから」

と、機嫌が良い。


そう言えば…

あの駐車料金は、必要経費になる?

神馬さんのトークとメモは()必要だったけど―


「ケーキをおごってもらえるのはうれしいけど、ましろさんのことはいいの?」


「じゃあ、食べながら話を進めよう」


神馬さんは、例の地図を三宅くんとボクに配ってくれた。

自分の分を含め、3枚ちゃんとある。

準備がいい。


祖母山(そぼやま)

母山(ははやま)

並山(なみやま)

冬禁山(とうきんざん)

難山(なんざん)


「この地図に書いてある名称は、あくまで通称なんだ。

正式な名称より、通称が覚えやすいと思うんで、オレも通称を使って説明するよ」


「5つもあるから、ぜんぜん頭に入って来ないんだよなぁ」

と、(ほお)をふくらます。


三宅くんはちょっと見とれてたが、すぐに説明に入ってくれた。


「ましろさんは、埼玉県にある。

東京からましろさんに行くとしよう。

近い順番は、祖母山(そぼやま)母山(ははやま)並山(なみやま)冬禁山(とうきんざん)難山(なんざん)

埼玉は東京の北にあるから、南から北に向かうイメージだね」


「むむむ…なんとか、それは分かる」


「北にある山と南にある山、山を登るのは、どっちが簡単そう?」


「うーん…北は寒そうだから、南かな」


「ましろさんも同じ。

南から順番に、登山が楽なんだ。

と言うか、戒めとして、5つの山の通称が決まったんだと思うよ」


「どういう意味?」


祖母山(そぼやま)母山(ははやま)は、おばあちゃんやお母さんが包み込むように優しい」


天涯孤独と思われる神馬さん、この説明は平気?―


並山(なみやま)は並みだから、まあ、普通ってことだな。

優しくはないが、厳しくもない。

一般人も気を付けて登ってください、って感じ」


三宅くんは、ここでフォークを手にした。

ケーキを口に入れ、マグカップを手に取りコーヒーを流し込む。


「戒めは、ここから。

つまり、残り2つの山には、入っちゃいけない。

先人たちの教えだね。

冬禁山(とうきんざん)は、そのままだ。

冬に一般人が登るのはかなり危険。

難山(なんざん)は季節に関係なく、ずっと危険。

シロウトはこの2つの山に近づくな、ってことだね」


「じゃあ、この2つの山には入れないの?」


「いいや。

戒めは一般人、つまり登山のシロウトに対して。

登山の専門家なら、ちゃんと装備して、登山届を出せば、いつでも入山できる。

もちろん、亡くなっても自己責任」


登山届か。

2004年当時、提出する人が少なかった―


「じゃあ、三宅くんなら登れる?」


「いやー、あの2つは、登れないだろうね。

大学の山岳部レベルじゃ、登るべきじゃない」


ボクと違い、イイ感じの筋肉がついている三宅くん。

彼が無理なら、中年の安藤行夫(いくお)さんは絶対に無理だ。


ちなみに―ボクと違い―とは、ボクが筋肉ムキムキと言う意味ではない。

筋肉が皆無という意味。

念のため。


「じゃあ、たとえば山登り未経験の中年男性がいる。

彼が、1月に冬禁山(とうきんざん)難山(なんざん)に登ることはありえない?」


「自殺行為だよ。

どれだけ危険か、ネットで調べればだれでも分かるし」


神馬さんは、少し首をかしげてる。

納得いかない点があるのだろうか?


「具体的には言えないんだけど…

ましろさんで遭難したと思われるケースがあって…

警察は、冬禁山(とうきんざん)もちょっとだけ探したらしいの」


―冬禁山は一部だけ捜索―

安藤幸恵さんは、たしかに、そう言っていた。

神馬さん、記憶力が良い。


「1月に中年男性が冬禁山(とうきんざん)に行った可能性を、警察が考えたってこと?

うーん…もしかして、まっしろさま?」


「ましろさんじゃなくて、ま()しろさ()?」


「うん。

むしろ、まっしろさまからましろさまと呼ばれるようになった感じ」


「どういうこと?」


冬禁山(とうきんざん)に湖みたいな場所があるんだ。

冬だと、周りの山が湖面に反射して、すごく綺麗なの。

だから、信仰の対象になって、まっしろさまと呼ばれるようになった。

まっしろさまがおられる地域だから、ましろさま」


「ちょっと待って。

山が、というか、湖が信仰の対象なの?」


「冬にその湖に行くと願いが叶う、っていう信仰。

清水(きよみず)の舞台から飛び降りるっていうじゃん。

あれと一緒だよ、きっと」


横の神馬さんが不思議そうな顔をしている。

ここでやっと、ボクの出番が来た。


「神馬さん、京都の清水寺の話、知ってる?

崖から飛び降りて助かると願いが叶う。

こういう信仰があったんだ。

命がけで何か成し遂げると願いが叶う―って感じ」


「ああ、日本ってそんな信仰があるよね。

だから警察は、1月でも湖を見に行ったかもしれないと考えたんだ」


「でもねぇ…」

と、三宅くんは納得がいかない感じ。


「これも先人の知恵なんだけどね。

冬禁山(とうきんざん)に行かないように、並山(なみやま)にまっしろさまを作ったんだ」


「まっしろさまを作った?

どういうこと?」


このあと、三宅くんの説明に神馬さんは目を輝かせた―女の子として―

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