↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
47/48

第48話 そばにいるだけ

鷹宮探偵事務所・応接室―


部屋に入ると、女性たちの笑い声が耳に入る。

そして、目を疑った。


だって、神馬(じんば)さんと仲良く話していたのは―

あの一本木美麗(びれい)さんだった。


一本木さんは、ボクに気づくと、サッと立ち上がる。


「二階堂さん。

あの時は、大変失礼しました!」

と、こっちが恐縮するくらい深々と頭を下げた。


「いやいや、一本木さんもお仕事ですから」


「いえいえ、あれは、やっぱり言い過ぎました。

だから神馬さんにも、今、謝ったところです」


「神馬さんは、一本木さんから見ればクソガキです。

謝罪なんて、もったいない」


一本木さんは、驚き

「まあ!」

と、口に手を当てた。


うしろに控えてる四谷さんが

「二階堂さん、悪いんだけど鷹宮社長の時間がないんで―」


うーむ、名残惜しい。

だが、ここで美人刑事と連絡先を交換するわけにもいかないし―


四谷さんが、部屋を出たので、ボクも付いていくしかない。


一本木さんが

「じゃあ、私も失礼します」

と立ち上がり、こっちに寄って来た。


なんと!

ボクの腰にそっと手を当て、顔を近づけて来た。


「ねぇ、二階堂さん。

神馬さんに、あれはヒドいんじゃない?」


あれってなんだ?

さすがにクソガキはマズかった?


「なんのことですか?」


「同じクラスで、同じ職場なんですよね?

神馬さんって名字呼び、よくないと思います。

ちゃんと下の名前で呼んであげてね♡」

と言い、颯爽(さっそう)と去って行く。


大人の女性は、かっこいい―


大人の女性は、香水をしてるものなのか、どこかいい香りだけが取り残された。


――――

鷹宮探偵事務所・社長室―


鷹宮さんは、ソファに深く腰掛けながら

「ほんとうに残念だよ」

を連発している。


残念な理由は、ボクが鷹宮探偵事務所を去ること。

社交辞令としても、しつこすぎる。


「ボクは、今回、何もしてませんので」


「安藤行夫(いくお)さんの時も、同じことを言っていたね?」


「でも…」


「客観的事実はいったん横に置こう。

でも、警察の主観は違うよ

大きく言えば鷹宮探偵事務所が、個人で言えば神馬くんとキミの2人が、石橋心桜(みお)ちゃんを見つけた。

警察は、こう思っているさ」


「そうでしょうか?」


「警察は、神馬くんとキミを尾行してたのかい?」


「いや、してなかったと思います」


ミオちゃん発見という肝心な時にいなかった。

ボクたちを尾行したとは思えない。


「じゃあ、神馬くんと二階堂くんの役割分担がどうなっているのか、警察には分からないよね。

そして、なにより、ミオちゃんを発見したとき、警察に通報したのは二階堂くんだと聞いてるよ。

鷹宮探偵事務所の二階堂―と名乗った」


たしかに、そうだった。


「ということは、警察の主観では、二階堂くんもミオちゃんを発見した功労者だ。

少なくとも、警視庁にとっては恩人でもある」


恩人?

警察に恩を売った記憶はないが―


「いいかい?

ミオちゃんを無事に保護したのは、警察の捜査と母親の執念のたまもの―ということになっている。

しかし、警察の捜査とやらで、ミオちゃんを発見できる見通しは立ったのか、かなり怪しいよね。

つまり、神馬くんと二階堂くんが、自分たちの成果を黙ってくれたから、警察のメンツが守れたんだ」


なるほど、そういうことか。

やはり名探偵って合理的に考えるものだ。

自然と感心してしまう。


「日本を揺るがした事件で、警察のメンツを立ててくれたんだ。

社長である私を除けば、警察は、神馬くんと二階堂くんには頭が上がらない」


「日本中の警察が、ボクたちに頭が上がらない?」


「その辺は微妙だな。

警察も縦割りで、47都道府県警はあくまで別組織だからね。

上に立つ警察庁がどう考えるかにもよるだろう。

だが、少なくとも警視(・)庁は、頭が上がらない。

つまり東京都内なら、神馬くんも二階堂くんも警察相手に無双できる」


なるほど、そういうことか。

やはり社長ってビジネス的に考えるものだ。

さっきとは別の意味で、感心してしまう。


「だから、二階堂くんに残って欲しい。

だが、それは鷹宮探偵事務所の都合だ。

二階堂くんには二階堂くんの都合がある。

それに、二階堂財閥のご子息を引き留めるのは無理だと分かっている」


「なんか…申し訳ありません」


「気にしなくていいよ。

これから神馬くんは、警視庁相手に強気に出ることができる。

これだけでも、探偵業としてものすごい利益だよ。

そして、実はね。

弊社(へいしゃ)は、石橋雄大(ゆうだい)氏の会社と顧問契約をした。

石橋氏の会社は上場企業だから、これも大きな利益だ」


「それなら、ボクもお役に立てたみたいで、良かったです」


「ところで―

これは鷹宮探偵事務所の社長としてではなく、1人の人間として話したいことがある。

完全に余計な話だが、聞いてくれるかい?」


あれ?

鷹宮さんって、時間がなかったはず。

でも、最後だし。

まあ、いいか―


「構いません。

なんでしょうか?」


「この事務所を離れても、神馬くんの支えになってほしい」


聡明な鷹宮さんが、何を言ってるのか、わからない。


「ちょっと意味が分かりませんし、ボクにできることはないんですが…」


鷹宮さんの表情が、どこか寂しそうに見える。

そんなに変なこと、言った?


「二階堂くん―

ただそばにいるだけで、他人の支えになることもあるんだよ」


「はぁ…」


「もう1度言うよ。

ただそばにいるだけで、他人の支えになれることもある

職場の人間関係だけじゃない。

学校でも同じだ。

友人、恋人、夫婦…そして家族でも。

ミオちゃんのそばには、プリギャールのコミックを手にした両親がいると聞く。

これだって、両親がそばにいるだけだ。

でも、ミオちゃんにとって両親は大きな支えになっている―

って言うのは、大げさかな?」


「いや、そんなことはないと思います」


「じゃあ、二階堂くんが神馬くんの支えになってくれるかい?

ただそばにいるだけ―

それだけでいいんだから」


ボクは笑顔で

「はい」

と、答えた。


「ありがとう」


鷹宮さんがプリギャールと言ったから、思わず笑ってしまった。

鷹宮さんとプリギャール。

その取り合わせが、あまりにも不釣り合いだった。

だが、鷹宮さんが口にするほど、プリギャールはネットでお祭り騒ぎとなっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。