第46話 余計なこと
中古のテレビに、あの廃屋が映っている。
「新見容疑者は、公園で石橋心桜ちゃんに声を掛けたあと、車で連れ去り、この廃屋の横にあるスペースに停車。
ミオちゃんをトランクに押し込んだあと、夜になるのを待って、マンションの自室に連れ込み…」
元夫側から車までもらっていたとは。
新見さんが配送の仕事をしていたことがあるとはいえ、どこまでも至れり尽くせりだ。
そこまでひどい離婚だったのか―
「…車のトランクに押し込めたのは、Nシステムでミオちゃんが映らないようにするためだった。
このように供述していると、捜査関係者への取材で分かりました」
アナウンサーは、まるで事実のように話している。
だが、その捜査関係者が誰なのか、視聴者は知ることができない。
ピンポーン。
ホワイトデーと違い、今日はちゃんと来てくれた。
帝都ニュースクランブルという、オヤジギャグみたいな番組を消し、急いで玄関に向かう。
今日は予定が詰まっているから。
――――
隣でマモルが、今日もアッシー業務に励んでいる。
「しかし、すごいね。
あの廃屋、神馬さんの言ったとおりだった」
「そうだっけ?」
「ボクに言ったじゃん。
あのスペースに車を停めろって。
新見さんも、同じことしてたらしい」
私は、黙り込んでしまった。
「どうしたの?」
「新見さんの弁護士は、困っちゃうね」
「え?どうして?」
「Nシステムって知ってる?」
「なに、それ?」
「正式名称は、自動車ナンバー自動読取装置。
だけど、運転席や助手席の様子も自動で撮影・記録してる。
ということは、このドライブデートもどこかで撮影されてるはず」
マモルは苦笑い。
「Nシステムにミオちゃんが映らないようにトランクに入れた。
こんなにしっかり考えて犯行をしちゃうと、新見さんは心神喪失・心神耗弱って裁判所は認めにくいよ」
「裁判って、そんな感じなの?」
「さらに、夜になるのを待ってマンションに連れ込んだ。
夜って、20時以降だと思う」
「コンシェルジュがいるのが、午後8時までだからね。
マオちゃんを見られたくなかったってことか」
「マオちゃんをマンションから連れ出したのも夜だったし。
新見さん、しっかり考えて行動してるもん。
こりゃ、弁護士もお手上げね」
「でも、新見さんは、マオちゃんに優しくしてた…はずだけど。
そういう報道はないんだよなぁ」
「捜査関係者は、検事の邪魔になることをマスコミに言わないよ。
新見は4才児をトランクに詰め込んだひどい女だ。だから重罪に―
検事は、裁判でそうやってネチネチ攻め立てるんだから」
「裁判って、怖いんだね」
「まさか、裁判って真実を探求する場だと思ってたの?」
「真実と言えば―
警察の捜査と母親の執念により、ミオちゃんが発見されたことになってる。
ミオちゃんを見つけたのは神馬さんなのに、どこにも名前が出てないじゃん。
名探偵として名前を売るチャンスなのに、いいの?」
「いいよ、別に。
というか、私が見つけたってマスコミにバレたら、名前だけじゃなく顔まで出ちゃうよ。
キャンパスだって、おちおち歩けない」
「ふーん」
と、気のない返事をしながら、優しくブレーキを踏む。
赤信号だ。
「ずいぶんと他人事だね。
私とマモルくんは、セットだよ。
ずっと一緒に行動してたんだから。
私の顔が出るってことは、マモルくんの顔も出るってこと。
目元だけ隠された写真が週刊誌に出て、その写真がネットにバンバン流れる」
「冗談じゃないよ!
神馬さんの顔がネットで流れるのはいいよ。
クラスのアイドルから日本のアイドルになるだけだから。
でも、ボクの顔はダメだよ」
「それ、どういう理屈?
あっ。
信号、青だよ」
マモルが優しくアクセルを踏みながら、右にハンドル切る。
すると、豊島区屈指の高級マンション・ブリリアントタワーが視界に入った。
――――
―ブリリアントタワー106号室―
協力のお礼は終わった。
3人で椅子に座り、談笑している。
どんな話の流れだったか、光星師さんが
「そう言えば、刑事も聞き込みに来たよ。
男女2人組だったけど、女性はかなり美人でビックリしちゃった」
イヤな顔を思い出すが、ここは大人の対応。
「何を聞かれたんですか?」
「何だっけ?
覚えてない。
めんどくさいから、『105号室から悪い霊は感じなかった』って答えた。
そしたら、美人刑事さんたち、変な顔をして帰っちゃった」
「それで、いいんですよ。
でも、警察はめんどくさくても、占い師としてマスコミに顔を売るチャンスだったのに」
「誘拐犯が隣にいたのに、わからなかった占い師?
バカにされちゃうよ」
「光星師さん、お優しいんですね」
占い師は、困った顔をしている。
「4才児の誘拐事件―
そんな事件をダシにして金もうけしたら、もう人間として終わりだよ。
PVや再生数を稼ぐために両親犯行説をばらまいたヤツと同じになりたくない。
でも、そんなんだから、占い業は大赤字だけど」
「占いって、儲からないんですか?」
「うーん。
ここ、家賃がバカみたいに高いんだよね。
やっぱり、安いところに引っ越そうかな。
馬車道がいいかも。
あの名探偵がいたところだし」
「横浜の?」
「そう。
でも親せきのおばさんが、ずっと反対してるんだ。
あそこの警察はダメだって。
あそこの県警、不祥事を連発したらしい。
かなり昔のことだから、私は知らないし、関係ないと思う。
でも、おばさんが、女性が住むんだから治安は気にしなさいってうるさいんだよね。
うーん、やっぱ、馬車道のボロアパートに住むのが夢なんだよなー」
趣味と仕事がごっちゃになっているような…。
私が言うのは余計なんだけど…。
と思ったが、ガマンできなかった。
「シロウト考えなんですけど――
好きなことより、得意なことをやった方が、儲かるんじゃないんでしょうか?」
「どういう意味?」
「光星師さん、霊感があるんですよね?
せっかく霊感があるんだから、それを使った方がいいと思います。
私には霊感がないし、霊感がある知り合いもいません。
マモルくんは、霊感ある?」
「あるわけないよ!
ボクの周りも、霊感がある人っていないなぁ」
2人のやり取りを見て、光星師さんが軽く微笑む。
「なるほどねぇ。
希少性を売りにした方が、商売になるってことか―」
と、考え込んでいる。
「余計なことを言って、ごめんなさい」
「いいえ、参考になった」
「では、私たちはこれで失礼します。
行かなきゃいけないところがあるので」
こうして3人の談笑は終わり、立ち上がったのだが
「神馬さん、ちょっといい?」
と、光星師さんが声を掛けて来た。
マモルは
「先に行ってるよ」
と、部屋を出て行く。
「二階堂マモルさんと、何かあったの?」
私は驚いた。
マモルは名刺を渡してないし、名前も名乗ってないはず。
なぜフルネームを知ってる?
「彼氏もどきさんへの呼び方が変わったんで、もどきが取れたのかなって」
「いや、特に…何もないですが…」
「じゃあ、神馬さんの主観が変わったってことだね。
じゃあ、あとは行動して客観的事実を作るだけ」
「いや、別に…」
「105号室だってゴリ押ししたんだから、どんどんゴリ押しすればいいんだよ。
既成事実を作っちゃえばね。
―余計なことを言って、ごめんなさい」
余計なことを言ったら、2倍になって返ってきた。
マンションの外に出ると、待っていてくれたマモルが
「次は、石橋さんのところでしょ?」
「うん」
そう言えば、この歩道で―
「マモルくん、空手やってたんだ。
もしかして有段者?」
「え?
空手って動画で練習したら、有段者になれるの?」
余計なことを聞いてしまった。




