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第43話 105号室の手前

「怪盗カレーナ・ルーナイトって、悪党に見えない。

大人の大切なモノを盗むけど、最後は必ず救われる。

ミステリー小説でおなじみの大団円(だいだんえん)」


「じゃあ、怪盗カレーナ・ルーナイトってイイ人なの?」


「まだシリーズ途中だから、わからない。

実は大悪党でしたって、アニメ最終回で明かされるかもしれない」


「ミステリー小説でおなじみのパターンか。

ラスト1行の衝撃―みたいな、大どんでん返し。

名探偵プリギャールっていうタイトルだから、ありえる」


マモルくんは、スマホ画面を見て

「このキャラクター、美人系だよね。

カ(・)レ(・)ー(・)ナって、華(・)麗(・)っていう意味かな?

名は体(たい)を表すって言うし」


「そうかもね」


「じゃあ、一本木美麗(びれい)刑事と同じだね」


はぁ?

急になに?


「一本木が、そんなにいいの?

愛するクラスメイト・六本木さんは、どうなったの?

男は愛をバラまけるわけ?」


「男が愛をバラまいても、立ちションらしいからね」


「1人に絞りなさい!」


「じゃあ、一本木刑事だな。

六本は多すぎる。

ボクは一本でじゅうぶんだ」


「何を言っているのか、よく分からない。

けど、女性の趣味が悪いのは、じゅうぶん分かったよ」


「冗談っぽく言ったけどさ。

一本木刑事と仲良くした方がいいじゃないの?

神馬(じんば)さんは、今後も鷹宮探偵事務所に勤務するんでしょ?」


神馬さんは(・)、か―

マモルくんは、ミオちゃんの件が終わったら、鷹宮探偵事務所に関わるつもりはない、と―


「話をプリギャールに戻すよ」


「神馬さん、プリギャールのこと、そんなに話し続けたいの?」


「遥さんって、プリギャールのこと、よく分かってないよね」


「ああ、遥さんとプリギャールのことか。

でも、大人ならおかしくないでしょ」


「ミオちゃんが、熱心に観てたアニメだよ。

好きなキャラクターもカレールーとか、変なこと言っているし」


「それは、ミオちゃんがカレー好きだったから」


「でも、昨日発売された―プリギャール20thアニバーサリー 華麗にカレーなルーでめしあがれ―は、知らなかった。

あの商品、だいぶ前に発売の告知してたよ。

娘が好きなものなのに――知らなかった」


マモルくんが、あごに手を当て

「男の視点だから外れてるかもしれないけど。

遥さんって、雄大(ゆうだい)さんに引っ張られている気がするんだよなぁ。

父親の価値観に」


「それ、私も思った。

あそこ、女の子の部屋って感じがしなかった。

遥さんって教育ママでもなさそう。

じゃあ、お父さんの影響が強いのかなって」


「じゃあ、新見さんが犯人だと、困ったことになっちゃうなあ」


「なんで?」


「両親と一緒だと、ミオちゃんはプリギャールのカレーを食べられない。

でも、新見さんと一緒なら、プリギャールのカレーを発売日に食べられる」


マモルくんが、みごとに的を射抜いた。

珍しい。


「ミオちゃんが楽しくカレーを食べてるのか確認するため、あのマンションに入りたい。

でも、難しい」


「普通に入ればいいじゃん」


「ブリリアントタワーが、どんな物件かネットに出てるから」


隣のマモルくんにタブレットを渡す。


「ひぇー。

完全オートロックで、1階の入り口付近にコンシェルジュがいるの?

高級マンションってすごいんだね。

これじゃあ、怪盗カレーナ・ルーナイトだってお手上げかも」


「怪盗カレーナ・ルーナ(・)イ(・)ト(・)は、夜(・)に活動するの。

コンシェルジュがいるのは、午後8時までだから、夜に侵入できるじゃない?」


「そこも、名は体を表すなのか。

でも、ボクらは怪盗じゃない。

夜でもオートロックは突破できないでしょ」

と、タブレットを返す。


「困ったなぁ」


タブレットで検索・検索・検索…

見つけた!


「私たちは、将来を心配して相談に来た婚約者。

分かった、ダーリン?」


「はぁ?」


――――

「3時に予約した神馬です」

「今、開けます」


入り口を突破すると、やはりコンシェルジュが立っている。


この距離なら、ミオちゃんと一緒だと気づく―


右に曲がって、105号室の前を通るが、表札はない。

高級マンションでは、表札を出さない人も多い。


1つ奥の106号室の前で、約束の女性が待ってくれていた。

年齢は、一本木と同じくらい。


「お待ちしてました。どうぞ」


106号室には、表札があった。

―光星師伶依子の占い館―


マンションの一室なのに館?―と、思いながら、2人で106号室に入る。


カーテンがあるので奥は見えない。

右を見ると、本棚がある。

光星師と名乗るくらいなので、占星術の本が多い。

左を見ると、テーブルの上に大きな水晶がある。


光星師さんが、カーテンを開け、

「こちらにおかけください」

と、私たちを案内する。


2人で奥に入り、並べられた椅子に座る。


あっちが、105号室のはず―


カーテンを閉めた光星師さんが、正面の椅子に座り

「光星師(こうみょうじ)伶依子(れいこ)と申します。

まずは、こちらで簡単にお話をお伺います」

と、あいさつをした。


悩める婚約者のフリをして、うまく105号室のことを聞き出そうとしたが―うまくいかなかった。


最初は疑惑、そして確信へ―光星師さんの表情は変わっていく。


「お客さんじゃないんですよね」


「いや、相談料はお支払いしますので」

という、私の言葉をさえぎる。


「あなたたち、何者?」


戦術変更。


「実は、私はこう言う者でして」

と、うやうやしく名刺を差し出す。


株式会社 鷹宮探偵事務所 

探偵 神馬明日翔


住所:東京都豊島区東池袋3丁目1-1 サンシャイン60ビル20階

電話:03‥‥


「実は、光星師さんにご協力いただきたいことがあり、お伺いしました」


名刺をシゲシゲと見て

「ふーん。

でも、ここは私の仕事場。

この探偵事務所なら話を聞いてもいいよ」


「お願いします」


光星師さんは「ええ」と言ったらすぐに、プイっと横を向いてしまった。

視線の先は壁しかない。

方向からすると、壁の先は105号室。


不思議だが、怒っているはずの光星師さんの横顔はプラスの感情が乗っかてるように見えた。


――――

翌日・鷹宮(たかみや)探偵事務所―


3人でフロアを歩いてると、四谷さんが目に入る。


「応接室、予約してたけど、ちゃんと空いてますか?」


「緊急のお客さんがいないから、大丈夫だよ」


「ありがとうございます」


こんなやり取りをしてる時も、光星師さんはキョロキョロしてる。


応接室に入ってからも

「すっごーい。外、見てもいいですか?」

と、テンションが高い。


こっちがお願いする立場なので

「お好きなだけどうぞ」

としか言えない。


そして、お好きなだけ20階からの眺めを観てる。

ちょっと待ってみたが、お好きなだけが終わりにない。


仕方ない―


私は、そっと部屋の隅に行き、スマホで電話した。

マモルくんがチラッとこっちを見た。


電話が終わり、2人の近く戻ると

「ごめんなさい。

私、住んでるの1階だから、興奮しちゃった」


「いえいえ、ではこちらにおかけください」


ソファーに座ってからも、光星師さんのテンションが高かった。


「ごめんなさい。

名刺なんて誰でも作れるから、心配だったの。

でも、フロアを堂々と通って、人に声を掛けて、この部屋に入った。

これで、あなたたちが鷹宮探偵事務所の人たちって確信した」


「私たちが何者か確認したんですね」


「って言うか、探偵事務所に来てみたかった。

私、ミステリー小説が好きで…」

と、始まった話が止まらない。


「やっと映像化されたヤツ。

あれ、すごかったよね!

変人建築家が設計した館(・)で起こる連続殺人。

たった1行の衝撃って言っていいの、あの作品だけだよ」

と、早口でまくし立てる。


だから、マンションなのに―光星師伶依子の占い館(・)―なのか


「あの作品のキャラクター名って、作家と探偵の名前を組み合わせたんだよね。

占(・)星(・)術(・)をやっている名探偵が、大きなピラミッドで、そう水(・)晶(・)みたいな…」

と、止まらない。


だから、本棚は占(・)星(・)術(・)の本だらけで。机には水(・)晶(・)が置いてあったのか―

光星師さんは早口で語り続けてる。

きっと、自分の好きな作品を布教したいのだろう。

しかし、マモルくんはまったく理解できないようだ。

布教活動は失敗―


「ああ、ごめんなさい。

つい、熱くなっちゃって」


やっと終わった―


光星師さんが、静かに、そして、ゆっくりと問う。


「で、105号室がどうしたんですか?」

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