第42話 二重の不在
桜が満開の公園―写真
亡き母が連れて来てくれた思い出の場所―キャプション
マモルくんは、タブレットを返しながら
「春桜山の公園は、大切な場所だったんだ」
と、驚く。
「新見さんが、あの公園で石橋母娘を見たとしたら―
二重の意味を持つんじゃない?」
「母と自分。
そして、自分と娘―」
「母は、ひき逃げ事故で亡くなり、もう存在しない。
娘は、不妊なのでずっと存在することはない。
どっちの不在も、新見さんにとっては理不尽でしょ?」
「ボクは男性だけど、そりゃ苦しいだろうね」
「だから、石橋母娘を見ると、2つの不在が二重写しに見えた。
そして、遥さんが目を離した隙に、思わずミオちゃんを連れ去ってしまう。
この場合、ミオちゃんは高級マンションで大切にされていると思う。
あくまで-可能性だけど」
マモルくんは寂しそうな顔をする。
「でも、新見さんは犯罪者になっちゃうよね」
そうなのだ。
私の推理が正しいと、新見さんが犯罪者になってしまう。
もちろん、幼女誘拐は許されないのだが…。
どこか釈然としない。
新見さんの場合、心神喪失で無罪ってありえるのか?
分からない。
「ところで、肝心の尾行はどうだった?」
「ああ、そうだ。
近くのスーパーに買い物に行っただけ。
寄り道はまったくなし」
「何を買ったのか、チェックした?」
「もちろん」
と、スマホ画面を見る。
「玉ねぎ、にんじん、じゃがいも、トマト、インスタントコーヒーほか。
もう、なにを作るか、分かるよね?」
「最初はカレーかと思ったけど、インスタントコーヒーがわからない。
…新見さんが飲むのか」
「ボクには、よく分かったよ」
「なにが?」
「神馬さん、料理しないんだね。
カレーにインスタントコーヒーを入れるのは、珍しくない。
コクを出すための定番アイテム」
「た、た、たまたまだよ。
私だって、すべての料理を把握してるわけじゃないし」
「分かってるさ。
わざと、意地悪をしたんだ。
さっき“ほか”って言ったけど、それが、カレールー」
「私を試したのね!?」
「悪かったよ。
それで、カレールーの正式名称は…ええと、なんだっけ?」
マモルくんは、もう1度スマホ画面を見る。
「プリギャール20thアニバーサリー 華麗にカレーなルーでめしあがれ」
「それ、今日、発売日だった。
すっかり忘れてた」
「プリギャールってなに?」
「プレティでギャルなガールのアニメだよ」
マモルくんは
「ギャルなの?ガールなの?どっち?」
と、首をかしげる。
「両方だよ!
二階堂くん知らないの?
プリギャールは、もはや一般教養だよ」
「じゃあ、神馬さんはONE×HUNTERを知ってるの?」
「もちろん、知ってるよ。
世界に散らばってる7つのボールを集めると、どんな願いも」
「それ、違う作品!」
あれ?
「じゃあ、妹が人を食べる鬼になっちゃって」
「もういいよ。
神馬さんが、教養がないって分かったから」
と、手を横にヒラヒラ振った。
「でも、そのプリギャールのカレーを買ったってことは、ミオちゃんがいるってことだよね。
大人なら買わないから」
「私、帰りに買うよ。
“プリギャール20thアニバーサリー 華麗にカレーなルーでめしあがれ”を」
「え?
神馬さん、買うの?
っていうか、なにも見ないで、正式名称を言えるの?」
「当たり前でしょ。
こんなの、一般教養だから。
そもそも、こういう商品って大人も買うよ。
むしろ大人買いするんじゃない?」
「ああ、ONE×HUNTERもボクが子供のころからやってるから、大人がグッズを買ってるもんね」
「新見さんがプリギャールを好きな可能性もある。
発売日にグッズを買う感覚で、発売日にカレールーを買った。
せっかくだから夕飯はカレーに。
プリギャールが好きなのは、新見さんなのか、ミオちゃんなのか―」
判断がつかない―だから、確認するしかない。
――――
ベッド、机、小さなタンス、時計くらい…
簡素とも言えるが―
「いまさら、ミオの部屋を見たいってどういう事でしょうか?」
こう質問した遥さんは、かなりやつれている。
眼光も鋭い。
新見さんより、遥さんが幽霊っぽく見えた。
「本当は、もっと早く見ておきたかったんです。
警察に私たちのことを隠す必要がなくなったんで、来ても問題ないと判断しました」
この部屋、色味がない。
ピンクは無理にしても、4才の女の子の部屋にしては、不自然に殺風景すぎる。
「ミオちゃんが、何が好きだったんでしょうか?
たとえば、好きな料理は?」
「それは、ミオがいなくなったことと何か関係があるのでしょうか?」
「もし、あくまで仮定ですが、誘拐事件だとします。
誘拐犯は、ミオちゃんの好きなもので、ミオちゃんの気を引いた。
こんな可能性もあるのです。
一緒においしいモノを食べようと言って」
「そういう意味ですか。
好きな料理は、ありがちですが、カレーです」
時計を眺めてたマモルくんが、ビクッとした。
「好きな2次元コンテンツはありますか?」
「2次元って、アニメとかですか?」
「はい」
「プリギャールが好きですね」
「ミオちゃんはアニメ、観てますか?」
「はい。
毎週欠かさず、熱心に観てました。
主人は、いい顔をしませんが。
教育に良くないって」
マモルくんも時計から目を離し、こっちを見ている。
「プリギャールシリーズって今、何でしたっけ?」
と、カマをかけてみた。
「名探偵プリギャールです」
本当に観てるようだ。
「ええ、そうでした。
名探偵プリギャール。
この作品で、ミオちゃんが好きなキャラクターいますか?」
「ええと、カレールーがどうの、とか」
「カレーナ・ルーナイトですか?」
「ああ、そんな名前のキャラクターでした。
よくご存じで」
「仕事柄、あらゆるものを把握しておかないといけないもので」
「はぁ…そうなんですか」
「プリギャールは、今年20周年です。
映画、イベント、グッズなどかなり大きくビジネスを展開してますが、ご存じですか?」
「4月に映画が公開されたのは、知っています」
「名探偵プリギャール 歴代戦士がまるっと謎解き―ですね。
映画以外は?」
「あまりよく知らないのですが…」
「プリギャール20thアニバーサリーの商品が、昨日発売されました。
ご存じですか?」
「いいえ…」
「そうですか。
ところで―今日、ご主人はお仕事ですか?」
「あまり、家に帰ってきません。
ええ、分かってます。
浮気とか、そう言うんじゃないんです。
仕事に打ち込めば、ミオがいなくなったことを忘れられる。
そんな感じで―」
もう聞くことはない―
「今日は、お時間をいただき、ありがとうございました」
と、お辞儀をし、頭を上げると、遥さんと目が合う。
遥さんは、悪霊のように怖い目をしていた。
――――
「遥さん、なんか怖くなかった?」
鷹宮探偵事務所・会議室に戻って来たら、マモルくんがいきなりこう言った。
「きっと、追い込まれているんだよ。
警察発表も、いまだにゼロだし。
それより、気になったのはプリギャール」
「さっき、スマホで調べたんだ。
ミオちゃんが好きなカレーナ・ルーナイトって敵なんだね」
「正式名は、怪盗カレーナ・ルーナイト。
その大人にとって一番大切なモノを奪う大泥棒。
もちろん女性」
「普通、子どもって戦士側を好きになるんじゃない?
ミオちゃんって変わってるね」
「たしかに、二階堂くんの言う通りなんだけど」
第3話で、怪盗カレーナ・ルーナイトが初めて登場した。
第3話のストーリーって―




