↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
40/49

第41話 壊れたシンデレラ

新見(にいみ)真央(まお)

ブリリアントタワー105号室


メモには、この2行しか書かれていなかった。


「あの公園で、真央ちゃんを見たんだって。

誰も真央ちゃんに気づかなかった。

けど、あの人は愛をバラまくだけじゃなく、視線もバラまいてたのね」


「新見さんって、皆さんの間で有名なんですか?」


「真央ちゃん、豊島区に住んでたから。

素直な子どもでね、真央ちゃんって呼んで、みんなでかわいがってた。

頭が良くて、家電の配線や設定を1人でバンバンやっちゃうし。

でも、高校3年の時、両親とも交通事故で亡くなっちゃって。

ひき逃げで、犯人はつかまってないの」


ひき逃げ―

池田さんの奥さんもそうだった。


「真央ちゃんの頭なら進学できたはずだけど、やっぱりお金がね。

ひとりっ子だったから、頼る人もいなかったし。

高校卒業後は、働きながら車の免許を取って、配送までやってたわ。

荷物の積み下ろしもするから、いくら男女平等って言っても大変よね」


「あの人も、新見さんをかわいがっていたんですか?」


「ええ、そうよ」


「でも、声を掛けなかった?」


「実はね、真央ちゃん、離婚して戻って来たの」


「離婚に触れちゃいけない感じですか?」


「いや、離婚自体は、別にね。

あの人だって離婚してるし。

真央ちゃん、離婚して、おかしくなちゃったの」


おかしくなった―

池田さんもそう言われた。


「順を追って、話さないとね。

どこまで話したっけ?」


「仕事で荷物の積み下ろしまでしてたってところまで」


手をポンと打ち

「ああ、そうだった。

真央ちゃんは、その職場で、合コンに誘われ参加した。

人生で初めての合コンだったそうよ。

そこで、1人の男性と仲良くなった。

その男性は、神戸で代々大きな会社を経営している一族の御曹司だった。

しかも一人っ子だから、その会社を継ぐことは決まっている。

それで、気づいたら、めでたく結婚し神戸へお引越し。

20才のシンデレラガールだった、けど…」


「捨てられちゃった」


「捨てられただけなら、まだよかった」

と、大石さんは顔を曇らせる。


「なにかあったんですか?」


「子どもが出来なかった。

というか、調べたら、子どもができない原因が真央ちゃんだった。

正確には、医師の診断は、かなりできにくい。

だけど、どっちでも同じ。

ここで、一人っ子の御曹司と結婚したことが裏目に出てしまう。

両親が納得しなかった。

息子のあと、会社を継ぐ者がいなくなるから。

中小企業なら良かったけど、地元で財閥と呼ばれる企業だけに、どうしても血筋の者に継がせたかった。

両親の圧力に負けて、2人は離婚」


マモルくんも同じ?―

チラッと隣を見る。

私の視線に気づいて、バツが悪そうな顔をしている。

さすがに、意地が悪かったと反省。


「ああ、さすがに神戸の企業名は勘弁してね。

そのブリリアントタワーって、すっごい高級マンションなの。

港区じゃなく、豊島(としま)区だけどかなりお高い物件。

もちろん、真央ちゃんは買えない。

分かるよね?」


「手切れ金ってことですか?」


「さすが探偵さん。

その通りよ。

出身地・豊島区に体よく追い返した。

マンション代だけじゃなく、月々の生活費も払っているらしい。

本来、ずっと妻でいるはずだったから、考えようによっては当然の権利と言えるけどね。

今になって思うと、手切れ金ってより口止め料かも。

子どもが出来ないと分かったから妻を捨てたって、今の時代、許されない。

上場してなくても、会社のイメージ、すごく悪くなるだろうし」


「それで、真央ちゃんがおかしくなっちゃった、と」


大石さんは、深いため息をついた。


「神馬さん、二階堂さん。

私が、結婚後の真央ちゃんのことをこんなに詳しいのは、なぜか。

不思議に思わなかった?

それは、悪いうわさほど広まるから。

悪いうわさを広める人たちっているのよ。

でも、真央ちゃんの知らないところでヒソヒソ話(はなし)しているのは、まだマシ。

真央ちゃん本人に、言ってはいけないことを言った人がいた。

それで、真央ちゃんは完全に壊れてしまった―」


「新見さんに何を言ったんですか?」


「―あなたの元旦那さん、再婚して娘が生まれたんだって―」


悪意しかない。

新見さんが、おかしくなってしまったのも分かる。


「おかしくなったって、どんな感じなんですか?」


「ほとんどマンションから出てこない。

たまに外に出たら、白い服を着て幽霊みたい。

白い服を着てるのはウェディングドレスをイメージしてるらしいけど、本当かわからない。

真央ちゃん、マトモに話ができるのか、怪しいみたいだし」


「幽霊って悪霊みたいな?」


「いや、魂が抜けてボーっとした感じ。

少なくともあの人は、そう表現してた」


あの人とは、浮気離婚女のことだろう。


「新見さんは、病院に行っているんですか?」


「さぁ…。

通院してるって聞いたことないわ。

そもそも、ああ言うのって病名がつくのかしら?」

と、首をひねった。


「新見さんの写真、ありませんか?」


「ごめんなさい。

持ってないわ。

でも、インスタをやっていたはずよ。

結婚時から更新してないから、4年前の写真になっちゃうけど」


「アカウント名、わかります?」


「―新発見 中央道爆走女―よ」


――――

インスタというたった4文字、インスタが更新されなかった4年間。

スマホ画面を観ていると、自然と考えてしまう。

エッジが効いたアカウント名だが、新見さんは華奢(きゃしゃ)でカワイイ女性だった。

荷物の積み下ろしは、かなり辛かったと思う。


「神馬さん。

張り込みって、ほんとうに電柱に隠れるとは思わなかったよ」

と、隣から声がした。


「他に場所がないでしょ」


マモルくんが、視線をクルクル回す。


「あそこは?」


マンションの向こう側に街灯がある。


「あの街灯、棒みたいじゃん。

丸見えだよ」


「神馬さん1人なら、大丈夫」


「それって…イヤミ?」


「…でも、もうちょっと離れない?」


「道路にはみ出しちゃう。

くっつくのは、不可抗力だよ」


「でも、ボクたちって不自然だよ」


「こういう時は、カップルのフリをするの。

昼間から外でイチャイチャしてるカップル、いるでしょ」


「神馬さんも大変だね。

悪霊になったり、バ(・)カップルになったり」

と、マモルくんが言った瞬間、全身白色の女性が歩いて行った。


「あっ!あの人だ!」


私たちにまったく気づかないほどボーっとしているが、想像より元気だった。

むしろ目は輝いている。

幽霊はオーバーだと感じた。


「二階堂くん、追いかけて。

全身真っ白だから、見失うことはないはず」


「ええ、ボクが?」


私が、異論を許さない目をすると

「わかったよ」

と、引き受けてくれた。


素直で、よろしい。


「でもさ。

1人で尾行するなら、張り込みも1人で良かったんじゃないの?」


素直すぎて、よろしくない。


――――

2人で張り込む必要がないことがバレたので、鷹宮探偵事務所に移動した。

同じ豊島区なので楽だ。


会議室が空いていた。

運がいい。

椅子も隣が空いているのに、マモルくんは正面に座ろうとする。


「資料の向きが逆になるから、こっちに座ってよ」


マモルくんが、目を細めて黙っている。

不審の目―


「なに?」


「なんか、ボクに見せるものがあるの?」


「あるよ」


「わかったよ」

と、隣に座ってくれた。


マモルくんの前にタブレットを置く。


「新発見 中央道爆走女って、新見さんの」


「そう。彼女のインスタ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。