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第32話 過剰な父親

二階建ての一軒家。

横書きの表札には、ISHIBASHIとある。


「いやー、お待ちしてました。

どうぞ、お入りください」


玄関で出迎えたのは、安藤食品で石橋と名乗ったあ(・)の(・)時(・)の(・)男性だった。


彼は

「あ(・)の(・)時(・)の(・)お二人が来てくださいました」

と、私たちを部屋に案内した。


神馬&二階堂コンビへの強いこだわりを感じる。

私たちの顔を確認して、わざわざ報告するなんて、スパイみたい―


男スパイは、私たちにソファーに座るよう促し

「私は失礼します」

と、出て行った。


正面のソファーに座っている石橋夫妻。

夫の雄大(ゆうだい)さんは、疲れ切った表情―なのに目だけがギラギラしている。

異様に感じるが、愛娘(まなむすめ)が1カ月も行方不明なら、こうなってしまうのかもしれない。

妻の遥(はるか)さんは、青白い顔をして、ずっと下を向いている。


2人とも痩せている。

もともとなのか、心痛で痩せたのか。

どっちだろう?


「今回は、お引き受けいただき、本当に、本当に、ありがとうございます」


こう言って、雄大さんが深々と頭を下げる。

遅れて、下を向いている遥さんが、さらに頭を下げた。


雄大さんの奇妙な質問から、心桜(みお)ちゃん失踪事件の話は始まった。


「尾行されなかったですか?」


聞きたかったのは、犯人のことではない。

警察に尾行されていたか―それを確かめたかったのだ。


雄大さんは言う。


「ミオの失踪後、私があの公園に行ったら、刑事たちが尾行してきたんですよ。

私を尾行するなんて、バカじゃないかと。

バカ警察がミオを見つけてくれないから、私が公園に行っているのに」


ここに来るときも、警察とかなり揉めたらしい。

雄大さんによると、こんな感じ。


夫婦で親せきの家に行くと行ったら、刑事に止められた。

雄大さんはブチ切れ

「お前らがミオを発見できないから、親せきに事情を説明するハメになったんだ!」

と刑事たちに一喝し、黙らせた。

「あの家に来るのは、みんな親せきだ。

親せきたちを絶対に尾行するなよ。

尾行しているのがバレたら、親せき関係が崩壊だ。

これって人権侵害だろ。

警察が犯罪被害者家族へ人権侵害をやりまくった。

こう世間に公表しまくってやる!」

と、刑事たちに追撃し、自宅を出て来た。


雄大さんは、警察への不満を止めなかった。

そのあいだ、遥さんは下を向いたまま黙っている。

ミオちゃんのことに話をずらした方がいい。


「失踪について、心当たりはないんですよね?」


「ええ、ないです。

遥もないよな!」


「え、あ、はい」


この点は、警察もしつこく聞いているはず。

でも、ミオちゃんは見つかってない。

だったら、もう1度しつこく聞く必要はない。


「遥さんは、あの日あの公園で写真をたくさん撮ったんですよね。

あとで、データをいただけますでしょうか?」


「ああ、調査資料として必要ですよね。

データはバカ警察に提出してますが、コピーを取ってあります。

あとで、鷹宮代表から聞いた連絡先にコピーデータを送っておきます」


「ありがとうございます」


データが来たら、タブレットで拡大して、チェックしよう―


「しっかし、写真を一生懸命に撮ってくれたおかげで、探偵さんにたくさん提供できるよ。

ありがとう、遥」


遥さんは、体をビクッとさせた。

これじゃ、“雄大”じゃなく“尊大”だ。

こんな空気を見ていると、ふと思ってしまう。

マモルくんも結婚したら、こうなっちゃう?

そんなことないよね。


チラッとマモルを見たら、困惑している。

4才児が失踪してるから仕方ないが、にしても場の空気が悪すぎる。

早く切り上げよう。

だけど…これだけは言わないといけない。


「鷹宮から説明があったと思いますが、警察がストップをかけてきた時点で、調査は終了とします。

この点はご了承ください」


「そんなことになったら…そんなことになったら…」


雄大さんは言葉を詰まらせた。


「とにかく、ミオを見つけてください」


雄大さんは、そうつぶやき、両手を強く握りしめた。


――――

鷹宮探偵事務所・会議室―


サンシャインビルの20階、イルミネーションみたいな夜景が眼下に広がる。


このイルミネーションは、サンシャイン勤務の特権。

だけど――

ミオちゃんを誘拐した犯人も、この光のどこかに紛れ込んでいるのかもしれない。

いや、そもそも…

誘拐と決まったわけでもない。

ミオちゃん失踪について議論が必要―


「神馬さん、ごめんごめん」

と、マモルくんがハンカチを手に戻ってきた。


「まず、事件を整理しましょう」

と、椅子に座り、マモルくんには隣に座るよう促した。


「え?正面でいいじゃん」


「資料の向き、逆になっちゃうでしょ?」


「ああ、なるほど」


「マモルくんがアッシー活動をしてくれてるあいだ、遥さんが撮った写真を見たけど、めぼしいモノは映ってなかった」


「車ではずっとタブレットを見てたよね」


「拡大できるだけ拡大したけど、なにも見つからなかった。

まぁ、これは予想通りだけど」


目がチカチカして痛い。


「じゃあ、なんでチェックしてたの?」


「念のため。

そもそも、何か映ってたら、警察がとっくにミオちゃんを見つけてるし」


「だよね。

じゃあ、どうするの?」


「まずは―ミオちゃんが失踪した原因を考えよう」


「原因って…誘拐でしょ」


「やっぱり誘拐だと思う。

ミオちゃんがフラッとどこかに行ってしまった――その可能性は低い。

警察も山狩りしてるはずだし」


「そういう可能性も考えていたのか。

でも神馬さんの言うとおりだよ。

大勢の人たちが春桜山(しゅんおうざん)を捜索してる映像が、テレビでバンバン流れてた」


「じゃあ、誘拐事件という前提で話を進めましょう。

そして、もう1つとっても大事(だいじ)なことがある」


「なに?」


「ミオちゃんは生きている」


マモルくんが息を飲んだ。


「ミオちゃんが死んでいる…可能性もあると?」


「考えたくないけど、もう亡くなっている可能性だってある。

だって、なにも状況が分からないんだから、生きているか死んでいるか分からない」


むしろ、亡くなっている可能性が高いのでは?―

心の中では、そう思っているが、絶対に口にできない。


「まぁ、そうだよね…

でも、亡くなってる可能性は考えないんだ。

なんで?」


「雄大さんの―ミオを見つけて―って、生きてるミオちゃんを見つけてって意味でしょ。

まさか、ミオちゃんの死体を見つけてって意味じゃない」


「ああ、そりゃそうだ。

当たり前だね」


「だから、行夫(いくお)さんの時と違って、時間をかけるわけにいかない。

4才児の命がかかってるから」


「うーん」


マモルくんが悩み始めた。


「どうしたの?」


「行夫さんの時と似ているな、と思って。

行夫さんの時は、幸恵(さちえ)さんが納得する報告書を提出することが目的だった。

今回は、警察が邪魔してくるまで調査をすることが目的。

なんか本来の目的とズレてるんだよなぁ」


「そうなんだけど、今回はできるところまで全力でやるしかない。

なにしろ4才児の命がかかってるんだから。

これは、オトナの義務だよ」


横から、ぬっと顔が出てきた。


「びっくりした!

急に、なに?」


「神馬さんって、たまにいいことを言うよね」


「たまにって―失礼!

それより、事件を考えましょう。

誘拐の目的。

犯人が変質者だと…これは、ちょっと考えたくないよね」


「もっと考えたくないけど、変質者だと、その、もうミオちゃんは、その、亡くなってるんじゃないか、と」


マモルくんの性格だと、かなり言いにくそうだ。


「変質者まで行かなくても、頭のネジが飛んでいるレベルだったら、まだ希望がある。

4才児ではなく9才児だけど、誘拐されて9年後に救出された事件もあったし」


「ええ?

そんなこと、あったの?

どんな事件?」

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