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第27話 なぜ、今さら?

家族裁判で山谷(やまたに)耕助に有罪判決が下った日、ボクたちは鷹宮(たかみや)探偵事務所にいた。


神馬(じんば)さんによれば、鷹宮探偵が待っているはずだったが…。


社長室のソファに座っているのは、四谷さんだった。


「ああ、君たちも座って。

でも、わざわざ来てもらったのに済まないねぇ。

鷹宮先生に、急用が入ってしまって」


ボクらみたいな大学生を相手するヒマもないのだろう。


「鷹宮先生が、君たちを軽んじてるわけじゃないんだ。

警察庁の浅井(あさい)刑事局長から直々の依頼があって。

こりゃ、鷹宮先生も断るわけにいかない」


浅井刑事局長?

誰、それ?


「浅井さんって、そんなに警視庁で偉いんですか?」


「警視(・)庁じゃなく、警察(・)庁。

警察庁は、47都道府県警の上に君臨する組織。

警察庁のお偉いさんに頼まれたら、断るのは難しいよね。

警察とは、持ちつ持たれつなんで」


大人の世界は、いろいろあるのだろう。

大学生のボクにはピンと来ない。


「そんなに偉い警察官に言われたら、断れませんよね」


「警察官と言うより、警察官僚と言うべきかな。

キャリアの国家公務員だし。

たしか浅井刑事局長はK大の出身だよ」


K大学―山谷真実(まみ)さんが通っている名門大学だ。

真実さんのことを考えると、気が重い。


ボクが思わず

「K大か…」

とつぶやく。


神馬さんは、このつぶやきを聞き逃さなかった。


「私たちC大生は、K大学にコンプレックス?」


「いや、真実さんもK大だと思ってね…

奥さんもキツイが、娘の真美さんはもっとキツイ。

だって父親が殺人犯だと思って、生きていくんだから」


言ってから、しまったと気づく。

父親がとっくに亡くなっている神馬さんに、言うべき話ではなかった。


だが、神馬さんは気にすることなく

「そうね。

山谷耕助を夫に選んだのは、奥さんの選択だった。

結婚という運命の分岐点で、選択を間違えてしまった。

奥さんは、自己責任とも言える。

でも、娘の真実さんは違う。

子は親を選べない」

と、ボクに同意してくれた。


「ところで」

との声で思い出す。


しまった。

四谷さんを無視してる。


「二階堂さん。

申し訳ないんだけど、もう1度ここに来てもらいんだ。

日付は確定できなけど、鷹宮社長は2週間後くらいに1度戻ってくる予定だから」


大学はもう休みに入っている。


「ええ、構いませんよ」


「日程が決まったら連絡するよ」


――――

ちょうど2週間後―


「いやー、二階堂くん、申し訳ないね。

2度も来てもらって。

さあ、さあ、二人とも座って」


社長室のソファに座っている鷹宮探偵は、上機嫌に言った。


ボクたちが、鷹宮探偵の正面に座ると

「まさか2004年の殺人事件を暴くなんて。

2人とも大金星だよ」


「でも、先生。

私の実力じゃなく、単なる偶然です」


「偶然とは、どういう意味かい?」


「いろいろありますが…

特に池田さんは…

池田さんの死期が近かったのは、単なる偶然です。

池田さんが元気なら、あの手紙を書かなかったはずで、完全に手詰まりでした」


鷹宮探偵が、困惑した表情をしている。


ボクが

「そうかなぁ?

神馬さんの活躍が無ければ、それなりの調査報告書を出して終わりだったと思うよ」


―二階堂くん、もう分かったよね?

私たちのすべきことはただ1つ。

安藤さんが納得する報告書を作ること―


神馬さんは、こう言っていた。

神馬さん自身で、自分の言葉を超えたのだ。


「あら、二階堂くんにしては、珍しく優しいのね?」


「失礼な!

ボクはいつだって優しいよ」


「まったくもって、二階堂くんの言う通りだ。

二階堂くんはいつだって優しい」

と言い、ニヤッとする。


「そして、二階堂くんが言う通り、神馬くんはちゃんと活躍した」


「ほら、鷹宮先生も言っているんだから、自信をもって。

ボクは何もしてないけど」


「おい、おい。

二階堂くんもなにを言っているだい?

キミも大活躍してるじゃないか」


「ああ、車の運転をたくさんしましたから。

神馬さんのアッシーとして、大活躍しました」


「C大生はみんな、そんなに謙虚なのかい?

二階堂くんも、あの手紙を読んだよね?」


「はい」


「ちゃんと、書いてあったじゃないか。

二階堂くんの質問、幸恵さんの答え、そして神馬くんの言葉。

この3つから導き出した池田の答えが――手紙を書き、きみたち2人に託す。

言ってること、分かるかい?」


まったく分からない。


「二階堂くんの“なぜ、今さら?”という質問が、きっかけなんだよ。

幸恵さんも“なぜ、今さら?”なのか分かってなかった。

人間はすべての行動について、理由を明確に意識してるわけじゃない。

けど、二階堂くんの質問に答えることで、幸恵さん自身が理解した。

むずかしく言えば、言語化できた。

言語化できていたからこそ、池田が同じ質問をした時に、幸恵さんは即答できた。

池田は、自分のことをだいぶ卑下しているけど、この流れは分かっていたと思うよ。

だって―二階堂くんの質問、幸恵さんの答え―この2つをわざわざ並列にしてる。

そして、手紙にある通り、神馬くんの言葉も池田にとって決め手になった」


幸恵さんに質問した時、神馬さんにぼろクソに言われた。

でも、ボクの質問にも意味があったんだ。


「だから、2人とも大活躍だったわけ。

ということは…神馬くん、内定だ。

もし大学を卒業するとき、気が変わってなかったらこの事務所に就職してくれたまえ」


「ありがとうございます!」


「神馬さん、良かったじゃん!

おめでとう!」


「二階堂くんも内定、と言いたいが、ご実家の都合もあるから、ガマンしよう」


社交辞令に思わず苦笑い。


「申し訳ないんだけど、戻らないといけないんだ」


「浅井刑事局長の件ですか?」


「二階堂くん、よく知っているね。

その通りだよ。

私はこの部屋を出るけど、きみたちはまだ使っていていいから」

と言い残して、颯爽(さっそう)と部屋を出る。


なんかカッコイイ。


どうせ最後だ。

気になることを聞いておこう―


「名探偵殿(どの)に聞いていい?」


「なんでも、どうぞ」


「じゃあ」

と、神馬さんの正面に移動しようと腰を上げる。


「わざわざ移動するの?

隣でいいよ」


神馬さんがそう言うので、上げた腰をもう1度ソファーに沈める。


「いつから真相に気づいたの?」


「その質問に答えるのは、非常に難しいね。

ただ…藤原さんの話には、引っかかった」


「藤原さんって…

ああ、タバコを吸いまくっていた人か」


「そう。

その藤原さんが言っていた―歴史にIFはない―」


「ああ、そんな話をしていたね」


「起きてしまった事実は変えられない。

で、藤原さんは―社長ににIFはない―と言った。

―幸恵さんが社長になったんだから、幸恵さんが社長にならなかった場合を考えても意味がない―と

覚えてる?」


「たしか、そんな話をしていたね」


「藤原さんが―意味がない―と言ったあと、私がどうしたか覚えてる?」


はて?

神馬さんが、どうしたか?

…

ああ、思い出した。

神馬さんは、藤原さんに反論してた。


―そうでしょうか?

幸恵さんが社長に決まる前には、あらゆるIFがあるんですから―


「藤原さんに食い下がってたね」


「そう。

でも、そのあと話はズレてしまう。

栄吉社長が継続する可能性があったこと、有力幹部たちが社長を断ったことなど、ショッキングな話題が続いたんで。

でも、納得はしてなかった。

幸(・)恵(・)さ(・)ん(・)が(・)社(・)長(・)に(・)決(・)ま(・)る(・)前(・)に(・)は(・)、あ(・)ら(・)ゆ(・)る(・)I(・)F(・)が(・)あ(・)っ(・)た(・)は(・)ず(・)だ、と。

この前提に立ったら、真相が見えはじめた」


ボクには全く答えが見えない。

話の続きを聞くしかない。

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