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第20話 運命の分岐点

「わざわざ奥さんも来てました。

よほど心配だったんでしょうねぇ」


山谷(やまたに)さんは夫婦で、駅まで来たんですか?」


「少なくとも登山口駅には、夫婦2人でいましたよ。

奥さんは、登山届のことを聞いてました。

旦那さんは、防犯カメラにこだわってた」


「2人は、どんな感じでしたか?」


「かなりしつこくて、ちょっと辟易(へきえき)しました。

心配なのは分かりますが。

奥さんは、登山届を提出する場所は1ヵ所なのか、とか。

旦那さんは、防犯カメラはどこに設置してるのか、とか」


高橋さんは、ティカップを手に取り、アールグレイを飲む。


「何を言っても引き下がらなくって。

奥さんは、登山届をどこかに間違って入れてしまったんじゃないか、と食い下がって来るし。

旦那さんは旦那さんで、入山口のどこかに一般人が知らない秘密の防犯カメラがあるんじゃないか、と。

登山届はともかく、秘密の防犯カメラなんてないし。

そもそも防犯カメラは、警察がすでに調べてますよ、徹底的に」


そりゃ、そうだ―


「ただ、防犯カメラは、当てにならなかったと思います」


「なぜですか?」


「2004年当時の防犯カメラって、かなり映りが悪いんですよ。

テレビでやっている未解決事件って見たことありません?

防犯カメラの映像がガビガビで、犯人の顔が分からないヤツ」


幼児連れ去り事件を思い出した。

映像は、不鮮明すぎて、犯人とされる人物の顔がまるで分からない。

この事件も行夫(いくお)さんの失踪と同じく、ボクが生まれる前だ。


「家を出た時の服装と似ている人物が、防犯カメラに映ってなかった。

顔がはっきりしないんで、警察はこれしか言えないそうです」


「それって、失踪者が防犯カメラに映ってなかったってことですよね?」


「警察は、断定しないんだそうです。

警察の話を聞いて、なるほどプロはそう考えるのかって感心しました」


「どういう話ですか?」


高橋さんの話をまとめると、こんな感じ。


たとえば―

行夫さんが、真白線に乗る前にカフェに行く

席が近いカフェで、隣の人が安藤さんのズボンに飲み物をこぼしてしまった。

隣の人が「弁償させてほしい」と言うので、近くのアパレルショップに行き、ズボンを購入。

隣の人が話を聞くと「これから登山をする」という。

「その服装では、ちょっと寒そうですね」となり、おわびの意味を込めて、隣の人はジャンバーも購入。

安藤さんは、新しいズボンを履き、新しいジャンバーを着て、ましろさん付近へ。

こうなると、安藤さんが防犯カメラに映っていても分からない。


「私も、二階堂さんと同じ気持ちでしたよ。

そんなバカなことがあるかって。

でも警察の話を聞いて納得しました。

100件、200件と事件・事故を扱っていると、そんなバカなっていう真相に行きつくことがあるんだそうです。

だからこそ、捜査は難しいし、あらゆる可能性を完全に排除してはいけないんだと。

なるほど、プロって言うことが違うなぁと、感心しました」


「真実は小説より奇なりってことですね。

勉強になりました」


ボクは、話をこれ以上つなげることができない。

さり気なく隣を見る。

ここで、質問者が神馬(じんば)さんに交代。


「プロの警察を疑うわけじゃありません。

でも、別のプロの視点もお聞きしたいんです。

2004年当時、真白線・登山口駅の駅員だった高橋さんの視点を」


「なんでしょうか?」


「警察の捜査に戻るのですが、ましろさんの捜査範囲は妥当だと思いますか?

さきほどのお話ですと、難山(なんざん)は捜索してないですよね」


「1月の難山(なんざん)は、専門家でも簡単には登れませんよ。

捜索する人たちの人命にかかわります。

厳しい言い方ですが、もし難山(なんざん)で遭難したのなら、自業自得だと思います」


高橋さんが、はじめて厳しい表現をした。


「では、冬禁山(とうきんざん)はどうでしょうか?

先ほどの話ですと、運命の分岐点から左ルートは捜索しなかったみたいですが。

左に行くと、いろいろ危険があると聞いています。

もし左に行ったとしたら、と」


三宅君の話を思い出す。


―間違って左に行くと、谷に落ちる危険があったり、(やぶ)に入り込む危険があったり、まぁ、いろいろ危険があるってことだな―


あのとき、ボクが神馬さんをバカにするようなことを言って、話が展開していった。


―誰かさんみたいに間違って左に行ったら、かなり危険だね―


―いや、間違えることはないと思う。

北山市もさすがに危険だから、ゼッタイに間違えない大きな看板を立ててるし―


―これは、さすがに私でも左に行かない―


「運命の分岐点―よくご存じですね。

やはり、捜索する人たちの人命に関わるので、難しいかと。

そもそも、左に間違える可能性は少ないでしょう。

かなり分かりやすいですからね、あの矢印」


神馬さんは、少し首を傾げた。

いやいや。

神馬さんですら間違えないなら、行夫さんも間違えないだろう。


「看板の地図のことですか?」


「看板の地図ってなんですか?」


「運命の分岐点にある大きな看板です、地図が描いてある」


「うーん、そんなものはなかったはず…」


神馬さんが

「ちょっとお待ちください」

と言い、タブレットをいじり出した。


チラッと見ると、例の登山ブログ記事を検索している。


例の写真だ。

大きな木を(はさ)んで、山道が左右に分かれている。

大きな木の前にデカい看板が設置。

看板には―まっしろさまへの道―の大きな文字。

右ルートに〇、左ルートに☓―の大きな地図。


「あのぅ、こんな写真があるのですが」

と、高橋さんにタブレットを差し出す。


「拝見します」

と、タブレットを受け取り、確認している。


「このタブレット、少しいじってもよろしいですか?」


「もちろんです」


画面をスクロールしている。


「やっぱり。

《《このブログ記事》》、《《2010年》》ですよ」

と、タブレットを神馬さんに返す。


「え?」


2人でタブレットのぞき込む。

記事の日付は2010年3月14日。


「つ、つまり、これって…」

と、珍しく神馬さんが声を詰まらせている。


2()0()0()4()()1()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事でしょうね。

私の記憶では、木の前に看板は一切なかったです。

当時は、右方向の矢印が書いてある看板を木にロープでくくりつけていたんですよ」


並山(なみやま)で見た―熊出没注意! 北山市―の看板を思い出した。

あの看板もロープで木に巻き付けてあった。


神馬さんもあの看板を思い出したのか、考え込んでいる。


高橋さんが心配してくれ

「神馬さん、どうかしました?

それでも、運命の分岐点を間違える人はいなかったと思いますよ」

と、声をかけてくれた。


「ええ、すいませんでした。

もう大丈夫です。

そう、ほんとうに」


高橋さんは不思議そうにしていたが

「今日は、ありがとうございました。

かなり参考になりました。

そう、ほんとうに」

と言って、神馬さんは質問を打ち切った。


――――

高橋さんがいぶかしがりながら帰ったあと、神馬さんは興奮しながらスマホを取り出し、電話している。


鷹宮(たかみや)探偵事務所の神馬です。

ええ、そうです。

今、どこにいらっしゃいます?

ああ、周りに誰もいなんですね。

それはよかった」


誰に電話してるんだろう?


「いきなりで申し訳ないのですが、1つお願いしたことがありまして。

できる限り至急です」


行夫さんの件だと思うが、誰に何を頼もうとしているのか、さっぱり分からない。


()()()()()()()()()()()()()()のですが、取り次いでいただけますか?

今、交流がない?

なにかツテはありませんか?

ああ、できたら現在の社員さんには内緒にしながらで。

ええ、()()()()()()()()()です。

よろしくお願いします」


池田さんに会いたい?

しかも非常に重要?

どういうこと?


だが質問をする暇なく、神馬さんは顔を急回転させ

「じゃあ、行くよ。まだ閉まる時間じゃないし」

と、話を振って来た。


「行くって、どこに?」


「高橋さんの話、聞いてなかったの?

北山市役所に決まっているでしょ!」


「え?

北山市役所で何するの?」


「決まってるじゃない!

ボコボコにしてやるのよ!!」


誰を?―

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