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第2話 アッシーという名の探偵助手

「ええと、タカミヤ?―探偵事務所?」


ようやく、それだけ口にした。


「入学してからずっと、その探偵事務所アルバイトしてるの。

でね、二階堂くんにお願いしたいことがあるんだけど」


なんだろうか?

まったく想像がつかない。


「私のアッシーになってくれない?」


「アッシーってなに?

まさか芦ノ湖にいる恐竜?」


「え?

なに言ってるの?」


「だってイギリスのネス湖にいる恐竜がネッシーだし」


「違う、違う。

アッシーってかよわき女性を車で送迎してくれる紳士のこと」


「へぇ、最近はそんな言葉があるんだ」


「バブル景気のころの言葉だよ」


バブル景気!?

いつの話だよ!


「だってぇ、二階堂くん、白色の()()()に乗ってるし」


C大の駐車場でボクの帰りを待ってるのは、カローラ。

大衆車だぞ。

どこがいい車なんだ?


そんな疑問を無視し、なぜか絶妙な上目遣(うわめづか)いをしている。


「だって、私、車なんて買えないもん。

自分で学費を払わないといけないから」


しつけに厳しい両親なのだろうか?


「学費、ご両親は払ってくれないの?」


「子どものころ、両親とも死んじゃった。

私、施設育ちなの。

施設が大学の費用を出すって言ってくれたけど…

高校の学費を出してもらって、さらに大学までって…

さすがにね」


またやってしまった!

気づくのが遅かった!!

神馬さんの両親が健在とは限らないじゃないか!!!


今度は上目遣いじゃなく、こっちをはっきり見つめている。

彼女の視線が、自然と罪悪感を生み出す。


「なんか…その…ごめん…」


「うーん…許さない!」


ここは上目遣いの「気にしないでいいよ」じゃないの?


「やっぱ、行動で示してもらわないと」


「どういう意味?」


「どう説明すればいいかな…」


視線を上にして、なにかを考えている。


「変なお願いをしてごめんなさい」

と、カフェの店員さんみたいに頭を下げた。


急な行動なのでビックリしてしまう。


「い、いや…気にしないでいいよ」


「今の謝罪って意味がある?」


「え?

悪いと思ったから謝罪したんでしょ?」


「まさか!

悪いと思ってなくても、謝罪できるんだから、言葉だけじゃ意味ないじゃん。

だから行動が大切なの!」


――――


―2日後―


ボクは彼女に乗せられてしまった。

いや、彼女はボクが運転するカローラに乗っている。

つまり、言いたいのは―ボクが彼女に乗せられたのは口車(くちぐるま)―ということ。


「なんでボクをアッシーにしたの?」


後部座席ではなく、当然のように助手席にいる女子大生。

彼女に文句の1つも出てしまう。


「だって白い大衆車って、目立たないから。

()()()()()()()()()()()()なんだもん」


「送迎だけじゃなく、尾行までするの?

アッシーって、かよわき女性を車で送迎してくれる紳士のことでしょ?」


()()()()って、かわいい新人探偵の()元にひざまずく奴隷のことだよ」


奴隷だと!?

新人探偵って平気でウソをつくのか?


ビックリして急ブレーキをかけそうになった。

危ない、危ない―


いや、おかしいぞ。

()()探偵と聞こえた気が。


「ちょっと。

今、かわいい新人探偵って言った?」


「あら、ごめんなさい。

かわいい新人探偵は言い過ぎたわね。

セクシーな新人探偵に訂正します」


神馬さんはセクシー系じゃなくて、かわいい系。

訂正箇所が間違っている。


「神馬さんがセクシー指数ゼロなのは、一目瞭然(いちもくりょうぜん)ならぬゼロ目瞭然だから訂正不要だけど…

新人ってどういうこと?」


「だって、今、向かっているクライアント様が、探偵デビューなんだもん」


「はぁ?

経験者じゃなかったの?

大学1年からずっと探偵事務所でアルバイトしてるって言ったじゃん」


「そうだよ。

ずっと探偵助手としてアルバイトしてたよ。

つい最近、探偵助手から探偵に昇格したんで、事務所が新しい名刺をくれたんだ。

その名刺をおととい初めて二階堂くんに使った。

私、なーんにもウソついてないよ」


あきれて声も出ない。


「アレ、名探偵・神馬(じんば)明日翔(あすか)さまが初めて渡した名刺だよ。

将来、絶対にプレミアがつくから。

大切に保管しておくことね。

まぁ、二階堂くんはお金持ちだから、関係ないか」


実家を調べてあるのか―

こんなところに名探偵ぶりを発揮してほしくない。


「二階堂財閥の御曹司さまだもんね」


「財閥じゃないよ。

地元で勝手に呼ばれているだけ」


兄も姉も通称・二階堂財閥の役員になっている。

そんな一族だから、大衆車とは言え、大学生の立場で車を乗り回せているわけだ。


「地元で財閥と呼ばれている。

私から見れば、壮大なるブルジョワジーさまだよ」


両親が亡くなり、施設で育った―

そんなクラスメイトにどこか後ろめたさを感じる。

話を逸らそう。


「ボクのことはいいとして…なんで探偵事務所でアルバイトなの?

大学生のアルバイトなんて家庭教師とかいろいろあるでしょ?」


「あーあ。

お金持ちには、やっぱり分からないかなぁー。

私の経済状況だと、就活に絶対失敗できないわけ。

でも、鷹宮探偵事務所はアルバイトで実績を詰めば、大学卒業後に就職できる。

探偵業は、学歴や面接よりも実力主義だから」


「つまり、まだ大学2年なのにもう就活してるってこと?」


「ええ、絶対に失敗できない就活をね」


話を逸らすのに失敗した。


ボクの気まずさに関係なく、神馬さんは口を開く。


「ああ、見えた、あの看板。

安藤食材。

看板のところに駐車場があるから、そこに止めて」


ボクは、アッシーなのか奴隷なのか。


「その安藤食材からどんな依頼を受けたの?」


「ある男性が2004年に行方不明になったので探して欲しい、って」


「2004年!?

いつの話?

ボクたち、生まれてないじゃん!」


「あっ。

大切なクライアント様なんだから。

まっすぐに駐車してね」


命令通り、きちんと駐車。

ボクは、奴隷なのか。


「じゃあ、がんばって」


「なに言っているの。

はい、これ」


ピカピカの小さなケースを渡された。


「なに、これ?」


黒いケースを開けると、ギッシリの名刺。


株式会社 鷹宮探偵事務所 

探偵助手 二階堂衛


「もちろん、一緒に行くんだよ」


肩書は―助手―

現実は―奴隷―

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