第1話 名刺の肩書きは、探偵だった
真っ白な教室に響く英語。
まさか大学2年にもなって英語に苦しめられるとは思ってなかった。
散々、受験英語で苦しめられたのに―
「そりゃ、専攻が英文学なんだから英語の授業はあるよ。
マモル、まさか気づかなかったのか?」
とバカにしたのは、カズヤだった。
大学ではじめて友達になった男。
だが、おかしい!
クラスメイト&親友のカズヤが隣の席にいない。
―わりぃ、今日、彼女と高尾山に行くわ―
この軽いメッセージだけで親友のボクを裏切った。
友情よりも愛情を取りやがった。
―若い男女が高尾山で遭難―というニュースがきっと流れるだろう。
将来有望な青年だったのに…非常に残念だ。
非常に残念と言えば、語学の授業が終わらない。
早く終われ
早く終われ
早く終われ
祈りが通じない。
講師のネイティブっぽい英語が響き続ける。
英語がびっしりのテキスト、そしてシャープペン。
この2つのアイテムの役割は、たった1つ。
授業をちゃんと受けてますよアピール。
だって授業内容よりも、考えるべき大切なことは山ほどある。
たとえば―
車のガソリン、なくなりそうだったな。帰りにガソリンスタンドに寄らないと―
早く逃げたい、とっとと帰るために最後列に座っているんだ
早く逃げたい、とっとと帰るために最後列に座っているんだ
早く逃げたい、とっとと帰るために最後列に座っているんだ
新世紀エヴァンゲリオンの碇ゲンドウのように指を組んだら、やっと祈りが通じた。
キーンコーンカーンコーン。
高校と同じチャイムが鳴る。
「はい。続きは来週」
ボクはいつだって気づくのが遅い。
チャイムが鳴る前にテキスト・シャープペンをカバンに入れておくべきだった。
この2つをバッグにしまい、視線をあげると…横に女性が。
そこに立っていると教室から出られないんだけど―
「ねぇ、二階堂くん。
予定がなければ、2人でカフェに行かない?」
クラスメイト全員がこっちを見て、男性だけでなく女性までも、目を白黒させている。
給油という大切な用事があって―心の声
意図せず口から漏れ出してしまった。
その瞬間、クラスメイトから驚きやら怒りの声があふれ出す。
頭が真っ白になったのは、壁の色とは関係ない。
だって、入学してから1回も話したことがないのに…なぜ…
その女性は、そう、唯一無二の存在。
クラスのアイドル―神馬明日翔―
――――
そう、ボクは気づかずに、端っこに座ってしまった。
ガラス張りなので外からこっちが丸見えだ。
少しだけ横に視線を逸らし、チラッと外を見る。
歩いているのは大学生たち。
店内もチラッと見る。
お客さんは大学生たち。
正面から癒しの声が聞こえる。
「二階堂くん、そんなキョロキョロしてどうしたの?」
カフェはキャンパス内にある。
だから外も中も大学生だらけなのは当たり前。
だが、大事なのはクラスメイトが尾行してないか。
「クラスメイトがいないか、と思ってね」
「いたら困るの?」
と不思議そうな表情をし、首をグルグル回転させる。
「だーれも、いないみたいだよ」
くったくのない笑顔を向けてくる。
そう、このかわいい顔にみんな殺られる…らしい。
ボクには分からないが、クラスメイトは女性ですら神馬さんに殺られている…とのうわさ。
「ああ、それはよかった」
「ふーん、二階堂くんって心配性なんだね?」
「いや、神馬さんこそ心配じゃないの?」
「なにが?」
神馬さん、クラスでのポジションを分かってないの?
圧倒的なアイドル的存在。
こんなオシャレなカフェで男性と二人きり―うちのクラスで大・大・大スキャンダルになってしまう。
あと2年半あのクラスと関わっていく。
だから、めんどくさいことは避けておきたい。
「神馬さん、クラスでアイドル的存在なんだよ?」
「ふーん。でも、なんでかしら?」
なんでかしら?-だと!?
20世紀アイドルの教科書のようなビジュアル。
ピンク色の秋用セーターというファッション。
そして髪型はショートカット。
「じゃあ、なんで―聖子ちゃんカット―みたいにしているの?」
「聖子ちゃんカット?
それ、知らないんだけど…
でも、みんな言うんだよね。
なんでだろう?」
「C大学出身だからじゃない?」
「ええ、そうなの!?
でも、聖子ちゃんっていう先輩は関係ないわ。
私がショートカットにしているのは、単にお金がないだけ」
本当か?
自分のかわいさを引き出していると思ってた。
「でね、お金がないって話が出たんで、本題に入っていい?」
「ん?
ああ、なんか用があるんだよね」
「私、お金ないからアルバイトしてるんだ」
小さな紙を、ボクに渡して来た。
横書きの名刺?
株式会社 鷹宮探偵事務所
探偵 神馬明日翔
その二行を見た瞬間、頭の中が一気に真っ白になった。
住所も、連絡先も、その下に何が書いてあったのか、まったく覚えていない。




