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第12話 神と神の山頂決戦

「着いたぁー!」

さぁ、まっしろさまとの(さん)頂決戦!」


頂上決戦ならぬ、()頂決戦。

神馬さんは以前の宣言通り、お稲荷さんに戦いを挑むらしい。


山頂を見渡す。

人はまばらで、お稲荷さんをすぐに発見できた。


神馬さんは、前のめりに向かっていく。

気が早い。


「カワイイ!」


出た。

女子が大好きで、男子が苦手なキラーワード。


眼前には、木の(ほこら)があり、両隣にお稲荷さんが2体ある。

三宅くんから聞いていた通り、2体ともお稲荷さんの頭には白い帽子がかぶせてある。


神馬さんは、スマホを向け、熱心に写真を撮影している。


「祠もかわいいの?」


ボクは嫌味のつもりで言ったが

「もちろん」

と、かわいさ全開で返された。


祠は神聖だと思っていたので、意外な反応だった。


「撮影も終わったし、お願いをするかな」


「お願い?」


「二階堂くん、忘れたの?

このまっしろさまは、冬禁山(とうきんざん)にあるホンモノの代わり。

冬禁山に願掛けに行くと危険だから、並山(なみやま)の頂上にこれを作った」


すっかり忘れてた。


()()()()()したんだから、お願いの1つくらい聞いてもらわないと、まっしろさまも神として失格よ」


()()()()()でしょ?

並山(なみやま)って、そう言う意味だし」


「じゃあ、並みの決戦じゃなく、()頂決戦をお見せしよう」


「神馬さんが前から言っていた、その()頂決戦ってなに?」


「神と神との闘いのこと」


「よくわからない…」


()の神と、()の神。

どっちが勝つか?」


なるほど、そう言う意味か―


「勝敗はどうやって決めるの?」


「狐の神よ、馬の神の願いを叶えてみろ。

そうしたら、お前の勝ちだ」


要するに、私の願いを叶えて、という話だった。


それぞれ、ささやかな額のお賽銭(さいせん)を木箱に入れた後、目を閉じ、手を合わせる。


――――

「なにをお願いしたの?」


神馬さんに聞いてみた。

興味はないが、コミュニケーションくらいは取っておこう。

ボクは、気が利く男。


木の椅子に腰かけながら

「女性にそんなこと、聞くもんじゃないよ。

二階堂くんは、あかわらず気が利かないなぁ。

そんなことより、お昼ご飯だよ」

と、つれない返答。


並山(なみやま)は休めるところがなかったので、昼食は山頂までお預けだった。


「二階堂くん、また菓子パンなの?」


「悪い?」


「今日は、どう考えても、和食でしょ。

はい、お稲荷さん、1つあげる」


箸でつまんだ稲荷寿司(いなりずし)を、差し出した。


「これ、手作り?」


少し気を悪くしたようだ。

なぜ?


「いや、スーパーで買ったんだよ」


「じゃあ、もらうよ」

と手を差し出す。


「手がベトベトになっちゃうよ。

はい、口を開けて!」


ボクが口を開けた瞬間に

「ちゃんと、お口をあーんしててねー」

と、お稲荷さんを()()()()()くる。


「はーい。

マモルくん、よくできました」


ボクは、園児か?


「ところで、マモルくんは、どーんなおねがいをしたのかなぁ?」


女性が男性に聞くのは、OKなの?


幸恵(さちえ)さんが納得できる結末になりますように、と」


怪訝(けげん)な顔が目に映る。


「ほんと変わってるね

普通、自分のことをお願いしない?

単位取れますようにとか、彼女できますようにとか」


「忘れてた!

六本木さんと結ばれますように、ってお願いしとくべきだった!」


「もう遅い」


ボクがしょぼくれてると

「ああ、その件だけど、忘れてた。

安藤食品の社員さんに会わせてくれるって、連絡があった」


「よかった。

調査が進展するね」


「その前に、三宅くんにもう1度、話を聞きたいな。

登山のことを整理しておきたい。

社員たちに会うの、4日後だし」


――――

「ええええええー。

並山(なみやま)で道を間違える人なんて、いないでしょ!」


三宅くんのリアクションに、神馬さんは顔を赤くしている。


ボクはマグカップを取りながら

「いや、そうとも言えないよ。

神馬さんが間違えたってことは、他の人だって間違えてるさ」


「二階堂くん、珍しく気を利かせてくれるのね」


「いや、客観的事実だよ」


「ああ、オレが間違ってたかもな。

二階堂くんの言いたいことは、わかる」


「三宅くんまで、フォローするの?

かえって(みじめ)めなんだけど」


三宅くんが手を、ヒラヒラと横に振りながら

「違う、そうじゃない。

中年男性がましろさんで遭難するのか?―

っていう話でしょ」


「うん、そうだよ」


「たとえば高尾山。

あそこは、年間250万人くらい登っている。

ましろさまの数字は知らんけど、かなりの人数が登ってるはず。

だったら、神馬さんと同じミスをする登山者はいる、って考えるのが自然だろう」


「なるほど…そうか…

でも、私のミスとその中年男性が同じミスをするかなぁ?

かなり確率が低い気がするけど」


私立文系に、正確な確率がはじき出せるのか?


「この前の話だと、その人って登山未経験者だったんだよね?」


「うん」


「だったら神馬さんと似ているじゃん。

なにごとも似ている人だったら、同じミス可能性は高いよね。

―あと、登山では、その人の性格も大きい」


「どういうこと?」


「わき道に入ると、大きな岩があった。

ちょっと危ないけど、横の細い道は通れそうだ。

この時、慎重な性格なら引き返すし、イケイケな性格なら進んでいく。

登山は、こういった選択の繰り返しで、その選択に性格が出るものだ」


ガラス張りなので外が見える。

今日は天気が良い。

C大生たちが、のんびりと歩いている。


「ねぇ、三宅くん。

念のための確認だけど、その人が冬禁山(とうきんざん)に行った可能性はない?」


「その人、登山未経験だよね?

少なくとも登山の専門家じゃないんでしょ?

だったら、経験豊かな専門家と一緒じゃなきゃ、無理だね」


ん?ちょっと気になる―


だが、神馬さんが話を進めてしまった。


「でも、並山(なみやま)は私たちでも登れたよ」


「難易度がまったく違う。

母山(ははやま)祖母山(そぼやま)並山(なみやま)冬禁山(とうきんざん)難山(なんざん)の違いが分かるかい?

前の3つは訓読み、後ろの2つは音読み。

訓読みが優しい印象で、音読みが厳しい印象」


「気づかなかったけど、わざと2つは音読みの通称をつけたんだ。

“やま”と“ざん”では、印象がかなり違う」


「言葉のニュワンスを上手く使っている。

これも、先人の知恵だよ」


2人の会話が止まった。

ボクが気になったことを確認する。


「三宅くん。

経験豊かな専門家と一緒じゃなきゃ、無理―って、言ったよね。

ということは、経験豊かな専門家と一緒なら、素人(しろうと)でも冬禁山(とうきんざん)を登れる?」


三宅くんは腕を組み、考えている。


「うーん、まぁ、不可能ではないか。

運命の分岐点には看板もあるし」


「運命の分岐点?

なにそれ?」


「あれ?前に話してなかったっけ?

冬禁山(とうきんざん)を登るルートで、大きな分かれ道があるんだ。

右に行けば、まっしろさまと呼ばれる湖に出る。

だが、間違って左に行くと、谷に落ちる危険があったり、(やぶ)に入り込む危険があったり。

まぁ、いろいろ危険があるってことだな」


()()()()みたいに間違って左に行ったら、かなり危険だね」


チラッと横の()()()()を見たが、なんと、いつの間に出したのか、タブレットをいじっている。


「いや、間違えることはないと思う。

北山市もさすがに危険だから、ゼッタイに間違えない大きな看板を立ててるし」


「これは、さすがに()()()左に行かない」


ボクの嫌味を受け流しながら、神馬さんがタブレットを見せてくれた。

登山ブログの写真らしい。


大きな木を(はさ)んで、山道が左右に分かれている。

同じ太さの道なので、正しいルートが分かりにくいが、大きな木の前にデカい看板が設置されている。


―まっしろさまへの道―の大きな文字。

右ルートに〇、左ルートに☓―の大きな地図。


間違えるはずはない。


「猛吹雪で見えなかったとか、よほど特殊なことがなきゃ、運命の分岐点にある看板を見逃すことはないね。

特に専門家が一緒なら、なおさらだ」


行夫(いくお)さんは、どんな性格だったのか?

前回、幸恵さんから答えを聞いてなかった。

そして新たに、登山にくわしい知人はいたのか?

この2点はチェックすべきだな。


―なんて、意図せず考えていた。


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