■第12章:聖女候補という言葉
古城前。
張り詰めた空気。
神官とセレスティアが向かい合う。
ルミナは一歩後ろ。
シャーロットを庇う位置。
「確認、でしたか」
セレスティアが静かに言う。
「ええ」
神官が頷く。
「この周辺での回復事例は、報告の範囲を超えています」
遠回し。
だが、核心を突いている。
「偶然とは思えません」
はっきり言う。
セレスティアは表情を変えない。
「偶然が重なることもある」
短く返す。
神官は一歩踏み込む。
「では、お聞きします」
視線が鋭くなる。
「この村で、特別な力を持つ者はいますか」
空気が一瞬で張る。
ルミナの指がわずかに動く。
シャーロットはその後ろで固まる。
「……」
セレスティアは一瞬も迷わない。
「いる」
はっきりと言う。
ルミナの目が見開く。
神官も一瞬だけ反応する。
「……ほう」
興味が強まる。
セレスティアは続ける。
「この村にいる者は皆、何かしらの“理由”を持っている」
「それぞれが、それぞれの形で生きている」
抽象的。
具体は出さない。
神官は少しだけ目を細める。
「言葉遊びではありません」
「我々は“聖女候補”の可能性を見ています」
その単語。
空気がさらに重くなる。
ルミナの視線が一瞬で鋭くなる。
シャーロットは意味を完全には理解していない。
でも、
“何か大きい話”だと分かる。
セレスティアは少しだけ間を置く。
そして――
「候補、か」
小さく繰り返す。
「ならば尚更」
一歩だけ前に出る。
「軽々しく触れるべきではない」
静かな圧。
神官がわずかにたじろぐ。
「我々は保護のために――」
「保護?」
セレスティアが言葉を被せる。
初めて、わずかに強い声。
「中央の“保護”で、何人が消えた?」
その一言。
空気が凍る。
若い女性の目がわずかに揺れる。
神官は一瞬だけ言葉を失う。
「……誤解があります」
絞り出すように言う。
セレスティアは視線を外さない。
「ならば証明しろ」
「ここで」
「この場で」
逃げ場を与えない。
沈黙。
数秒。
長い沈黙。
やがて神官は息を吐く。
「……本日は確認のみとします」
一歩引く。
完全に退いたわけではない。
だが――
“今は引く”。
若い女性が最後にシャーロットを見る。
今度は隠さない。
じっと。
観察する目。
そして、小さく呟く。
「……見つけた」
誰にも聞こえない声。
馬に乗る。
そのまま去っていく。
静寂。
ルミナがすぐに振り返る。
「……大丈夫?」
シャーロットに。
「……うん」
少し不安そう。
でも、立っている。
セレスティアは空を見上げる。
「……来るな」
小さく呟く。




