■第10章:裏で動くもの
夜。
古城の一室。
灯りは小さく、
机の上に紙が数枚。
セレスティアが一人、座っている。
羽ペンを取り、
静かに書き始める。
「……“聖女様”か」
小さく呟く。
村での呼び名。
まだ内側の話。
だが――
(時間の問題だ)
外に出る。
確実に。
ペンが止まる。
少しだけ考える。
「……早すぎるな」
想定よりも。
シャーロットの成長。
村の形成。
人の流れ。
すべてが、少しずつ前倒し。
「なら、先に打つ」
静かに決める。
書き進める。
“報告”ではない。
“牽制”。
宛先は一つ。
中央。
教会本部。
内容は簡潔。
・地方にて異常な回復現象あり
・未登録の能力者の可能性
・現時点では管理下
・不用意な接触は推奨しない
ペンを置く。
「……これでいい」
完全な情報は出さない。
だが、
“気づかせる”。
それで十分。
その時――
「……動くわけね」
ルミナの声。
いつの間にか、扉のところに立っている。
「聞いてたの?」
「聞こえた」
隠す気はない。
ルミナが部屋に入る。
机の紙を見る。
「……教会」
小さく呟く。
「来るわよね」
確信。
セレスティアは頷く。
「いずれは」
「だが、タイミングはこちらで作る」
ルミナは腕を組む。
「……面倒ね」
でも――
目は真剣。
「シャーロットは?」
セレスティアは一瞬だけ考える。
「まだ、知らせない」
はっきりと言う。
ルミナが眉をひそめる。
「……いいの?」
「今はまだ、“日常”の中で育てる」
「外を意識させるのは早い」
合理的な判断。
ルミナは少しだけ考えて――
「……分かった」
短く答える。
そのまま窓の外を見る。
村の灯り。
小さく、でも確かに増えている。
「……守る範囲、増えたわよ」
ぽつりと。
セレスティアも同じ方向を見る。
「だからこそだ」
静かな声。
「備える」
一方――
シャーロットの部屋。
「えへへ」
本を読みながら、
シュバルツと寝転がっている。
何も知らない。
でも――
外では、
少しずつ“動き始めている”。




