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文学少年の恋物語 〜令和版源氏物語〜  作者: AYASAM
1年生夏休み
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夏の自由研究 万和人編パート1 アヤナ

 夏休みのある日。

俺は夏休みの宿題のノルマをこなすべく、図書館へとやってきた。

一昔前までは夏休み終わりの前日まで課題を放置していて泣きを見ていた。

しかし今回は違う。自由研究で「どんな環境が一番勉強に適しているか」ということを調べているため、各地の学習スポットを回らなければならないのだ。

ただ宿題をやるということであればモチベーションは湧かないが、取材のついでに勉強をするということであれば多少はやる気が出てくる。一石二鳥と言えばいいのか、得した気分だ。


図書館内をぐるりと見回してみる。周りは誰もおらず、貸し切り状態といったところだ。

適当な通路近くの席に腰を下ろす。


「やるか」


そう呟きながら、俺は鞄から参考書を取り出して勉強を開始した。


勉強を始めてから三十分ほど経過した。

背を伸ばすため席を一度外し、自販機で水を購入して戻った。

図書館内はチラホラと人の気配が増えているようだ。


席に戻ると、すぐ隣の席に小学生らしき女子三人が勉強道具を広げているのが見えた。


騒がしくされると集中できないかもなどと思いつつ席に座ると、彼女たちが俺の存在に気づいたようで、興味津々な目でこちらを見てきた。

その様子を訝しみつつも気にせず参考書を開いた俺に、一番近い席に座る女子が話しかけてきた。


「ねえお兄さん」

「ん、どうしたの?」

「お兄さん、イケメンですね」

「ああ、ありがとう」


顔を褒められたのは数年以来のことなので、戸惑いつつも感謝を口にする。


「高校生ですか?」

「うん」

「ーーもしかして県立北高校ですか?」

「あ、うん。よくわかったね?」


少女が食い気味に聞いてくるので、俺は少し背を反らして答えた。


「雰囲気的にそうかなーって思ったんですよ。お兄さんはめっちゃ頭いいんですね?」


少女が目を輝かせながら聞いてくる。これは返答に困ったものだ。

何せ俺が北高に合格できたのは運が良かったからで、地頭はあまり良いとは言えない。

一応受験勉強をやりはしたが、要領は至って普通といったところだろう。


「大半の人はそうだけど、俺はちょっと違うかな。運が良くて入れたけど、ギリギリだったし」

「そんな謙遜しないでくださいよー。入れるだけで超すごいと思います!」


少女が手をひらひら振っておだててくるので、俺は微笑んでごまかす。


「お兄さんは何の科目が得意なんですか?」

「えっと、そうだね。特にこれが苦手とかはないかな」

「え、すごい。算数は得意ですか?」


昔から数学は比較的得意な方だったので、素直に頷く。すると少女は「じゃあ」と口を開いた。


「あたし今、夏休みの宿題で算数やってるんですけど、どうしてもわからないところがあって困ってて、助けてくれませんか?」


少女が軽く手を合わせながらお願いしてきたので、少し考えて承諾することにした。


「うん。いいよ」

「ありがとうございます! あたしアヤナっていいます。お兄さん名前は何ていうんですか?」

「俺は万和人(まなと)櫻井(さくらい)万和人(まなと)です」

「櫻井さん?」

「マナトでいいよ」


俺は特に敬称は気にしない。年下であろうが呼び捨てで構わない派だ。


「じゃあ、マナトさん。私のこともアヤナって呼んでください」

「うん、わかった。アヤナちゃんだね」

「はい!」

「それで、算数の宿題どこでつまずいてるの?」

「あっ、えっとここなんですけど……」


その後、俺はアヤナちゃんに算数の問題を丁寧に解説していった。小学生とはいえ、単純な計算問題ではなくて問題文の読解が必要なところがあって、そこそこ難易度が高いように感じた。


そして三十分後。アヤナちゃんの宿題が一段落したので、自分の宿題に戻ろうかとしたところで、今度は彼女の連れの女子二人に教えてと頼まれてしまった。

またかと尻込みをしたが、二人も彼女と同様に積極的な性格のようで、「困っている」と言われてしまったら断りきれなかった。アヤナちゃん一人だけ優遇するというのが不公平だと思ってしまったが最後だ。


二人の宿題を見ている最中、アヤナちゃんが「あっ」と声を上げた。

俺は「どうしたの?」と小声で問いかける。


「ミサキちゃんが来てる」

「え、どの子?」


そう問うと、アヤナちゃんが少し離れた場所を歩く少女を指差した。

少し長い黒髪で体は華奢なようだ。アヤナちゃんらとは違って服装は地味。大人しそうな印象を受ける。

座る席を決めようと周りを見回していて、ふと目が合うがすぐに逸らされた。

俺はアヤナちゃんに彼女について聞いてみる。


「あの子と知り合いなの?」

「うん。同じクラスだよ」

「仲はいいの?」

「うーん……普通? あんまり関わりないかな」

「へえ、そうなんだ」


返事をしつつ、話題の人物の方を見る。彼女は机に勉強道具を広げ、早速勉強を始めたようだ。


「あの子、ちょっと話しかけづらいよね」

「うん。あんま教室いないし、いても本読んでるし」


アヤナちゃん以外の女子二人が手を止めて口々に会話に入ってきた。


「だよねー。あれぜったいガリ勉だよ」


アヤナちゃんが二人に同調する。

俺より若いというのにそんなに勉強熱心な少女がいるとは。大した少女だ。

彼女に少し興味が湧いてきたが、それよりも今は


「ちょっと、手が止まってるよ」


二人を注意する。彼女らのチューター役を終えるのが先決だ。さっさと終わらせて自分の宿題をせねば。




「マナトさん、ありがとう!」


 アヤナちゃんら女子三人は笑顔で手を振って図書館を立ち去った。

俺は「どういたしまして」と彼女らを見送り、ようやく自分の勉強を再開した。

先ほどまで賑やかだった図書館内が急に静かになる。賑やかなのも悪くわないが、やはり一人の方が集中できるようだ。


何回か休憩を挟みながら宿題のノルマを無事終わらせることができた。


帰り際。アヤナちゃんらと話題にした少女のミサキちゃんは、まだ同じ席に座って勉強を続けているようだった。

随分頑張るなと関心しながら勉強道具を片付け、図書館を後にした。

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