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文学少年の恋物語 〜令和版源氏物語〜  作者: AYASAM
1年生1学期
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41/117

夏の自由研究その3 研究グループメンバー勧誘 パート2

 今日は月曜日。今日のLHRでは自由研究のメンバー勧誘を行う。

朝のSHRで一ノ瀬先生が話があったが、先週の授業で聞いた説明とあまり変わらなかったので、程々に聞き流した。

一時間目に入るまでの休憩時間で、日代(ひしろ)さんが教室の後ろの方にやってくる。

万和人の方に視線を送ると、彼とばっちり目が会った。席を立って俺のもとへとやってくる。


「おはよう」

「うん、おはよう古暮くん。それに櫻井(さくらい)くんも」

「おはよう」

「古暮くんから話は聞いてるよ。よろしくね」

「うん。微力だけどよろしく」


朗らかに笑う日代さんに、万和人(まなと)が頼りない口調で言う。


「今日の六時間目、できたらもう一人増やしたいところだね」

「うん、そうだね」


日代さんが切実に頷いてくれる。俺は弱気な声で続ける。


「可能性は低いかもしれないけど」

「まあ運だよね。もし増やせなくっても、この三人なら大丈夫だよ」

「だね」


日代さんの慰めに頷きで返す。同士に会えるかどうかは、その時間にならないとわからない。



 午前の授業が終わり、お昼を挟んで五時間目。そして六時間目となった。

今回の授業は集合場所が個人個人で違うため、教室を出る生徒の足並みはバラバラだ。

先週の授業から数日後、学校のアプリに今日の授業の資料が送られてきた。

肝心のテーマごとの教室の割り振りもしっかり記載されている。

教室、テーマ、テーマ例の順に記載されているようだ。今一度目を通してみる。


==============================

1-A【科学・理科系】

物理:音速の測定、電磁誘導の実験、ペットボトルロケットの飛距離と圧力の関係

化学:身の回りの酸とアルカリ、手作り電池の性能比較、化学反応で発生する気体の分析

生物:植物の光合成に関する研究、微生物の観察、メダカの行動記録

地学:天気と気分の関係、月の満ち欠け観察記録


1-B【数学・情報系】

数学:身近な確率の検証 (じゃんけん・サイコロ)、美術と黄金比の関係

情報:スマホ依存度と生活習慣の関係、簡単なアプリやゲーム制作、AIとチャットボットの比較


1-C【社会・地理・歴史系】

社会:身近なゴミの分別意識調査、SNSの使い方と学習効率の関係

地理:地元の観光地の変遷と分析、気温と通学スタイルの関係

歴史:地域の戦争遺跡調査、祖父母から聞いた生活史の記録


1-D【文学・芸術・言語系】

文学:好きな作家の文体分析、自作詩集・短編の執筆

芸術:色彩の心理的影響、アニメ作画の技法研究

言語:方言の比較、外来語の使用傾向調査


1-E【生活・家庭・健康系】

生活:勉強法の比較 (ポモドーロ vs 通常)、睡眠時間と学力の関係

家庭科:冷凍保存と味の変化、手作りお菓子の保存実験

健康:姿勢と集中力の関係、目の疲れとブルーライト


1-E【環境・エコ・SDGs系】

省エネ家電の比較、家庭でできるCO₂削減、海洋プラスチック問題と地域の取り組み


1-F【心理・教育・人間関係系】

集中力と音楽の関係、ゲームとストレスの関係、学校内アンケートによる人間関係分析


1-F【スポーツ・身体・動作系】

スポーツ前のストレッチの効果検証、利き手と反応速度、筋トレと姿勢改善

==============================


A・Bは理系、C・Dは文系、E・Fはその他といった感じで区分けされているようだ。

生徒たちはこの中から自分の興味のある分野の教室に向かうことになる。

俺達のテーマ「学習方法と学習環境」はこれらの項目のうち、どれに相当するだろうか。

1-E【 生活・家庭・健康系】1-F【心理・教育・人間関係系】ここらへんが一番ジャンル的には近い気がする。

2つ近いものがあるわけだが、どっちに向かうのが良いだろうか。頭を悩ませる。


「古暮くん」


顔を上げると、日代さんが笑みを浮かべている。


「次、どこの教室に行こっか?」

「ちょうどそのこと考えてた」


日代さんはうんと深く頷き、首を捻る。その横を見ると、万和人がさりげなくそばに来て口を開いた。


「三人いるわけだし、分担すればよくないか?」

「その手があったか!」


俺は万和人の妙案に声を上げる。日代さんも目を大きく開けて「ナイスアイデア!」と褒めている。

称賛を浴び、万和人は手を振りながら謙遜する。


「俺が考えるに、1-Eの生活と1-Fの教育の2つがあると思うんだけど」

「そうだね。あと、1-Bの情報も関連性はあると思う」

「ああそっか。じゃあ3つだね」


日代さんに見落としを補ってもらう。ありがたいことだ。


「ちょうど三人いるし、一人ずつ別れて勧誘しよっか」

「うん。そうしよう」


俺は日代さんの提案に頷く。万和人も異論はないようで軽く頷いた。


「じゃあ、1-Bは万和人、一番関連のありそうな1-Eは日代さん、1-Fは俺って感じでどうかな?」

「オッケー」「了解」

「よし、それじゃ、何かあったら連絡して。健闘を祈るね!」


そう意気込んで、万和人を残し1-Bの教室を出る。俺は日代さんと並んで廊下を歩く。


「誰か興味持ってくれたら良いけど」


俺が独りごちると、日代さんがこちらを向いて力の抜けた笑みを浮かべる。


「可能性は高くないかもだけど、できる限りのことはするね」

「ありがとう。俺も努力する」

「じゃあまた後でね」

「うん、また」


日代さんが手を上げたので、俺も上げて応える。ここからはソロプレイだ。



 1-Fの教室内に入る。初めて入る教室には見知らぬ生徒がほとんどで、同じ学年ではあるがどこか場違いというか、どこかアウェイ感がある。

教室の前方、黒板には【心理・教育・人間関係系】の大文字が書かれた張り紙がある。

一方で教室の後方の壁には【スポーツ・身体・動作系】の張り紙がある。

教室を半分で区分けしているということだろう。

俺のテーマは教育に近いので、教室の前方の法で待機する。

まもなく、キンコンと授業開始のチャイムが鳴る。周りで立ち話をしている生徒たちも、私語を止めて静かになった。


「それでは六時間目の授業を始めます」


天井付近のマイクから声が聞こえてくる。A組担任の倉石先生の声だ。


「先週説明通り、今日は自由研究のテーマとグループ決めになります。皆さんすでに興味のある分野の教室にいると思います。集まった生徒と会話して、テーマとグループを決めてください。途中で他の教室に移動してもらって構いません」


先生は淡々と説明を続ける。


「メンバーが決まったグループは第一・第二講義室に移動し、代表者を決めてテーマ内容とメンバー登録をしてください。質問等ありましたら、講義室に来て、私や他の先生に聞いてください。

一つ注意ですが、ニ・三年生は普通の授業をしていますので、迷惑にならないよう行動してください。

では、各自テーマ・グループ決めを始めてください」


プツンと先生の放送が終わる。自由時間の開始だ。

静かに話を聞いていた生徒たちが、それぞれ近寄って話を始める。俺もそれに混ざらなくてはならない。

いきなり見知らぬ生徒に話しかけるというのはハードルが高いので、俺は教室の端の方に向かい耳をそばだてることにする。学習などの単語が聞こえたら、その方向に耳を傾けるのが良いだろう。


男子二人の会話。


「テーマ、何にする?」

「行動心理とか?」

「ほう。人はなぜ嘘をつくのかとかかな?」

「深いテーマだね。調べたらなんか色々出てきそう。統計も取れそうだ」

「『一週間以内に嘘をつきましたか?』とかどうだろう?」

「はは、それは面白そうだ!」


女子三人の会話。


「話しかけやすい人の特徴とかどう?」

「うわ、それいいかも。服装? 声のトーン? 姿勢? 顔?」

「顔はちょっと危ないな……容姿の話になるとデリケートすぎる」

「表情とかならギリ? 笑顔が多い人は話しかけやすいか、とか」

「それなら調査しやすそうだね。写真とかイラスト使ってもいけるかも」

「一概に『笑顔』といっても色々あるよね。作り笑いだったら逆に話しかけ辛くならないかな?」

「なるほど……じゃあ、笑顔の種類で分ける?」


男子二人の会話。


「テーマ決めって、どこまで絞るか難しいよね。教育って漠然としすぎてて」

「じゃあ、時代で切ってみるのは? 昔の教育、今の教育、未来の教育とか」

「あ、それいいね。明治の教育と今の教育、比べるとか。面白そうだけど…資料集め大変そうだな」

「未来の教育っていうと、AIとか? メタバース授業とか?」

「出たメタバース。確かにでも、一昔前のパンデミックで一気にオンライン進んだって話だし」

「そういや俺の親もZoomの使い方わからなくて苦戦したとか言ってたな」

「ICT化の進展と教員の適応とかどうよ」

「タイトル決まったじゃん笑」


おや、どうやら教育について話をしている生徒がいるようだ。学習ツールの変遷であれば、学習環境と通じるものがあるだろう。ちょっと話を聞いてみようか。


「あの、すいません。ちょっと良いですか」


男子二人の会話に割り込む。


「俺もその話興味あるので、混ぜてもらえませんか?」

「おう、いいよ」「どうぞどうぞ!」

「ありがとう。それで、君たちはーー」


先の会話を思い出しつつ、二人がどんな研究に興味があるか探りを入れてみる。


「ーーまあそうだな。過去どんな教育があり、未来はどんな教育方法が生み出されていくかってところに興味があるわけだ」

「そうそう。教えられる側じゃなくて、教える側に全集中って感じ」


楽しそうに話す二人に、「なるほどねー」と相づちを入れる。

俺が期待していたのとは逆で、どうやら二人はどうやったらいかにうまく教えられるかということに一番興味があるようだ。

俺達のテーマである「学習方法と学習環境」に関連はしているのだが、彼らのテーマは「教育方法と教育環境」らしく、一緒に研究するのは多分無理だろう。

話が面白く気が合う連中なだけ残念だ。まさかテーマを強制するわけにもいかないので、俺はあえなく引き下がることにした。


その後も聞き耳を立てて、何人かの生徒に探りを入れてみたが、最初に話した男子二人以上の生徒は見つからず、結局はエリア内から人が捌けるまで成果を上げることができなかった。


まだチャイムは鳴っていないが、話しかける人がいないとなると手の打ちようがないので、教室を移動することにした。

隣の1-Eの教室ではまだ何人か生徒が残っており、その中に女子数人と話をする日代さんを見つけることができた。

話をしている女子たちは皆、比較的地味な様相をしており、日代さんだけが強いオーラを放っているように見える。悪く言えば一人だけ浮いているのだ。

彼女は誰に対しても分け隔てなく会話するタイプだ。それは彼女の強みであるが、同時に弱点となり得るだろう。好感度を上げようとしていると他の女子たちから嫌味を言われることもあるかもしれないのだから。

そんな風に雑多なことを考えていると、どうやら女子たちの会話は終わったようで、日代さんは彼女らを手を振って見送った。そのままふとこちらに視線を送り、目が合った。


「どうやら、失敗したみたいだね」

「うん、見ての通り。古暮くんも……?」

「ごめん。俺も成果なしです」

「そっか。仕方ないね」


慰められてしまった。情けないがどうしようもない。後は万和人頼りだ。


「万和人のところに行こう」

「うん」


俺達はトボトボと足取り重く1-Bの教室に向かう。特に会話もなく馴染みのある教室に到着した。

教室内を見回す。中には数人しかいないため、すぐに万和人が見つかった。


「万和人」

「おう」


万和人が冴えない顔でこちらに歩み寄る。もはや表情から結果は予測できてしまう。


「どうだった?」

「すまん。ダメだったわ」

「そっか。全滅か……」


俺が落胆の声を漏らすと、万和人が俺の肩にトンと手を置いた。


「こうなったら切り替えて、三人で頑張ろう!」


日代さんが力こぶを作って励ましてくれる。そうだ、その通りだ。

俺には頼もしい仲間が二人もいるではないか。


「うん」


そう返事をし、人気のない教室を出て講義室へと向かった。



 落胆気味の俺達三人とは違い、第一講義室の中は明るい雰囲気に溢れていた。講義室の後ろのドアから入り、空いている席に腰を下ろした。

メンバーを増員できなかったことをいつまでも引きずっていては情けないだろう。ここはちゃんと切り替えて、今後の打ち合わせを進めようではないか。


「まずは代表者を決めるんだよね?」


日代さんの問いかけに俺は首肯する。


「そのことなんだけど、俺がやってもいいかな?」


俺は二人に申し出る。すると二人は一瞬顔を見合わせて、すぐにこちらを向いた。


「そうだね。古暮くんが発案者だし」

「だな。俺も和人が適任だと思う」


二人からお墨付きをいただけたので、ならばよろしくと頭を下げる。


「それじゃーテーマだけど、これは『学習方法と学習環境』でいいよね?」

「うん」「おう」


二人が返事したので、テーマはこれで決定とする。


「じゃあ、今すぐ申請するね」


俺はスマホを取り出し、学校のアプリを起動する。

授業の自由研究のURLを押し、テーマ・グループ申請を手早く済ませる。

数分かかったが、二人は特に何を言うでもなく俺の作業を見守っていた。

申請を済ませたことを二人に伝えると、「そうだ」と日代さんが声を発した。


「ラインのグループ作らない? 自由研究用のさ」


そう言われ、俺と万和人は賛成の意を示す。


「おっけー、じゃあグループ誘うね」


日代さんがスマホを操作して、ラインのグループを立ち上げる。

グループ名は「自由研究」。いたって普通の名前だ。

招待を受けたので、許可してグループラインに入る。万和人もすぐに入室した。


「これで連絡手段はバッチリだね」

「うん。ありがとう」


ここらへんはやはり日代さんの強みだろう。グループラインを作るという発想が即座に出てくるのはさすがである。


「まだ少し時間あるから、具体的な研究内容を話そうか」

「うん」

「といっても詳しく調査してないから深くは話せないけど」


何を話すべきか思考を巡らせようとすると、日代さんが意見を述べる。


「じゃあさ、それぞれ「学習方法と学習環境」でどんなことに興味があるか話してみない?」

「そうだね。そうしようか」


俺は日代さんと万和人を交互に見る。誰から話すのが良いか。


「言い出しっぺだし、私から話すね。

私はそうだねー……ノートとか文房具とかは小物系は興味あるかな。あと、単語の暗記とかで暗記系のアプリをいろいろ探したりしてて、そういう学習ツールとかはもっと詳しく調べてみたいと思ってる」


期末テスト以降のやりとりでなんとなく察してはいたが、やはり日代さんは勉強に使う道具に関して興味があるみたいだ。これはなかなか面白い項目と言えるだろう。

次はどちらが行くか。俺は万和人と目を合わせる。


「和人、お先にどうぞ」

「わかった」


さすがに万和人もアドリブをいきなりはキツいか。俺は一応テーマ発案者なわけだから、ある程度検討はつけておいた。


「俺は目標設定や計画方法。学習方法なんかに興味があるな。どれくらいの目標を立てるのがよいかとか、どんな学習方法をしたら効率よく学習できるかとかって、別に学校の勉強だけじゃなくていろんなことに応用できるから。例えばゲームの腕を上げるのにも使えるわけで」

「なるほど。和人って結構計画性ある感じかー」

「まあそうかもね。中学の夏休みの宿題はきっちり終わらせてたし」

「なんだ、俺とは正反対じゃん」


そう言って万和人がはははと笑う。日代さんはじっと目線をこちらに向けるだけだ。


「じゃあ俺の番だな。俺はそうだなー……、勉強する場所とかかな。家なのか公共施設なのかカフェなのか。あとはどんな教材を使うかとか? 本なのか音声なのか」

「いいね。調査しがいがありそう」


日代さんがコメントする。俺も同意見で、非常に興味のある項目だ。


「皆それぞれ違うことに興味があるんだね」

「そうだね」


日代さんが返事をする。万和人も頷いている。


「じゃあ皆がそれぞれ興味のあることを、俺が家でもう少し深堀って分類してみるよ。それで明日、調査項目を指示するって形でいいかな?」

「お願い」「頼むな」


二人がそう応えたところで、ちょうどよくキンコンと終了のチャイムが鳴り響いた。

俺達はこれから自由研究を頑張っていこうと意気込んで、講義室を後にした。


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