体育祭 その2 借り人競争、綱引き、騎馬戦
体育祭で汗水流したあの頃に戻りたいです。
今日は体育祭二日目。
俺は、借り人競争、綱引き、騎馬戦に出ることになっている。
昨日は二つしか競技に出ていないが、今回は三つだ。今日も頑張りましょう。
「これより、クラス対抗綱引きを行います。まず、クラスの代表にくじを引いてもらい、どのクラスと当たるかを決めます。そして、トーナメント方式で優勝を争います」
トーナメント? 6組から3組に絞って、そのあとはどうするんだろう。
「6クラスから3クラスに絞った後は、3クラスによるリーグ戦で雌雄を決します!」
リーグ戦なら理解できる。3回試合する必要があるため、ペース配分を考えなければならない。
「綱引きのルールは、綱に黒い結び目が二つ付いています。その中間に赤い結び目があり、トラックにひいてある白い線に、赤い結び目がある状態から試合を始めます。どちらかのチームの結び目が白線を越えた時点で勝敗が決まります。一本勝負ですので、皆さん頑張ってください。」
この綱引きはクラス全員が参加ではなく、20人が参加というものだ。参加していない人は体力を温存できる。それにしても、トーナメントってことは、最後まで行けば3回はやらなければならないのか。大変だな。でも、みんな頑張ってるんだ。俺もちゃんとやらないとな。
一回戦 vsA組
パーン
一斉に総勢四十人が綱を持ち、綱を引く。
おーえす、おーえす!
最初は拮抗していたが徐々にこちらが優勢となる。
じりじりと赤い結び目がこちらの方に寄って来る。
そして、
パーン!
こちらの勝ちが決まった。
「やったー!」「いぇー!」
「勝者、1年B組!」
俺は大きく息を吐いた。よし、まず一つ。
二回戦 vsC組
ここからはリーグ戦。
さっきと同じように俺たちは縄のそばに並ぶ。
パーン!
さっとしゃがみ、両手で縄を掴む。そして、精いっぱい引く。
おーえす、おーえす
二回目なので綱を引く感覚をつかむことが出来ていた。これはいける。
一回目と同じような展開だ。
徐々にこちらに結び目が移動し、勝敗が決まる。
パーン!
「勝ったのは、1年B組だ!」
「いぇー!」「これ、優勝あるんじゃない!?」
俺たちは歓喜の声をを上げた。よし、二つ。
三回戦 vsF組
F組はC組との対戦で勝利しているので、これに勝てば優勝、負ければ準優勝となる。
パーン
俺は即座に綱を持ち、引き始めた。
ギリギリ、ギシギシ
綱を引く音がする。
今日握力を使う競技はないので、全力を出した。
中央の結び目が白い線を行ったり来たりして、なかなか勝負がつかない。
精神の戦いだった。
おーえす!おーえす!おーえす!
パーン!
「わっ!」
感覚を研ぎ澄ましていたせいで、大きな破裂音に対してかなり驚いた。
後ろに倒れそうになったが、なんとか体勢を立て直した。
「優勝は…………1年B組ー!」
「やったー!」「よかった!」
全員が破顔一笑した。
俺も達成感を感じて顔が緩む。
これで1Bはクラスでトップになったな!
陣地に戻るときもクラスの笑顔は絶えなかった。
運営委員の仕事から戻ってきたライトが話しかけてきた。
「やったな、和人。すげーじゃん!」
「うん、ほんとにね」
「これ、総合優勝いけるかもな」
「そうだね」
数分間駄弁った後、ライトは運営委員のテントに戻った。
2年、3年と綱引きが終了し、次は借り人競争だ。
スタートから20メートルくらい走った後、テーブルが置いてあり、その上にある箱からお題の紙を引く。
後はお題に適した人物と一緒にゴールするだけだ。
くじ運が鍵を握る競技だ。
「準備が整いました。借り人競争の選手はスタンバイをしてください」
これはクラス対抗で、男女それぞれある。まず、一年男子からだ。準備しないと。
スタートラインについた。スタンディングスタートの構えだ。
「位置について、よーい」
パーン
走り出した。二十メートルはあっという間についた。箱は一つしかないので、先着順だ。
俺は、三番目に引いた。どれどれ...
『同学年で他クラスの異性♪』
んー。他クラス、しかも女子か。一人しか思いつかないな。俺は自陣地に急いだ。
目的の人は数人の女子たちと喋っていた。会話に入りづらい。でも、ほかに他クラスの女子で知り合いはいないので、ここは強気にいくことにする。
「あの、篠原さん。ちょっといい?」
「でさ、これがほんとに……え、何?」
「今借り人競争やってて、一緒に来てほしいんだけど」
そう言うと、栄子は女子たちとの会話から離れてくれた。
「なにそれ。何で私なの?」
「『同学年で他クラスの異性』っていうお題だから、選択肢は一つだろ」
「なんでそんなに堂々と……」
栄子は面倒くさそうな顔をしている。しかし俺に他の選択肢は無い。こうなったら必殺技『テイクアンドギブ』を使うしかない。
「なら、ラノベの新作本でどう?」
「うーん……」
あれ、栄子なら絶対飛びつくと思ったんだけどな……。もしかして、量が足りない?
「なら二冊でどうよ?」
「……うーん、仕方ないわねー」
「よっしゃ、なら行こう!」
彼女を説得することに成功した。よし、ゴールに急ごう。
他のメンバーたちはどうかなと、会場を見回す。
すでに一人ゴールしていて、もう一人がちょうどゴールに向かっているところだった。
「少し急ぐよ」
「え? ちょっ」
俺は栄子の手を引っ張って、ゴールに突撃した。突撃といっても、栄子がついてこれる速度ギリギリの突撃だ。
そのおかげで、俺は二位を取ることができた。まもなく三位の人がゴールした。危なかった。
「栄子、ありがとう」
「はあ、はあ……『負けヒロインを救いたい』の4巻と5巻をよろしく」
「承知」
俺たちはゆっくり陣地に戻った。戻る最中、自分の人脈の無さを痛感していた。無条件交渉できる仲間が欲しい。切実に。
ラノベ一冊800円として、1600円の出費は痛いが、今回はしかたない。誰も連れて来ることができない状況にならなかったのは幸いだった。
結果は悪くなかったので、良しとしよう。
座ろうと思ったところで、同じクラスの男子が話しかけてきた。
「古暮、お前とエイコと知り合いか?」
「エイコ……?」
エイコと言われても誰のことだかすぐにピンとこない。
さっきまで一緒にいた栄子のことかと思うが、違う人の可能性もあるので聞き返す。
「A組の篠原栄子のこと」
「あっ、うん。部活で一緒だよ」
「はー、そうか」
男子は感心したように頷いている。
「えっーと?」
「古暮と話すのってこれが初めてだよな。知ってるかもだけど、俺は櫻井万和人ってんだ。よろしくな」
櫻井はにこりと笑いながら、握手を求めてきた。俺は名前を覚えてなかったこと内心で謝りながらそれに応じる。
「よろしく。櫻井?」
「まなとでいいよ」
「あ、うん。じゃあ俺も、かずとで」
「おう。よろしくな和人!」
万和人は愛想の良い笑顔を浮かべながら応える。
「んで話を戻すんだが、栄子が借り人に応じるとは思わなかったよ。どんな手を使ったんだ?」
「まあ、ギブアンドテイクってやつ」
「なるほど。ってことはお前、あいつと仲良くしてくれてるんだな」
「まあ、そうだね」
「ほう。なかなかやるな」
問いに肯定するとなぜか褒められた。何を考えているのだろうか。
「あいつ、派手な外見だし、愛想振りまくタイプじゃないから近寄りがたかったと思うけど?」
「あーうん。そうだね」
「話してみてどうだった?」
「うーん……?」
どう答えればよいかわからずにいると、万和人が続けて言う。
「本とかアニメの話したか?」
「した」
「どんな感じに? 印象は?」
「オタク極まれりって感じで、すごく饒舌に話してくる」
「ぷっ」
俺が真剣な表情で応えると、万和人は吹き出した。
「やっぱり。お前も被害に会ったんだな」
万和人は腹を抑えながら笑う。
さっきから、栄子のことを知っているような口ぶりだ。それもかなり詳しく。もしかすると万和人は栄子と知り合いなのかもしれない。
「あの、万和人は栄子とどういう関係?」
「栄子を名前呼びか。結構仲良かったり?」
「まあ、それなりかな」
「やるなー和人」
「……万和人も栄子のこと名前で呼んでるけど、仲良いの?」
「幼馴染だな。幼稚園からの付き合いだ」
「えっ、長い」
俺の言葉に万和人はふっと微笑んで応える。
「まあな。あいつのせいで、ラノベとアニメに超絶詳しくなっちまったよ」
「はは。そうなんだ」
俺は笑いながら同意する。被害者一号は彼だったわけだ。
「和人はラノベとかアニメって好きか?」
「うん。好きだよ」
「そっか。よかった」
俺の即答に対し、万和人は安心した表情を見せた。
「趣味の話で盛り上がれる相手が俺以外にいないんじゃないかと心配してたけど、お前がいてくれたんだな」
「そうだね」
俺以外にも被害者がいる可能性もあるが、栄子が万人にではなく特定の人と交流を広げていくタイプであることを考えると、その可能性はそれほど高くないと言える。
「これからも栄子と仲良くしてやってくれ」
「あ、うん」
俺の返事に万和人は朗らかに笑った。
新たな出会いが生まれた。今後は彼とも仲を深めていきたいと思う。
トイレに行きたくなったので、俺は校舎に戻った。
昇降口を抜け、右に曲がり、十メートルほど先にあるトイレに入った。
この学校のトイレはあり得ないほど清潔だ。
校舎が改装されてからまだ3年ほどらしいが、その中でもトイレは別格に清潔で、そこいらの公園の公衆便所が地獄とするなら学校のトイレは天国だ。
一般的な高校とは違って、この学校は県随一の進学校であるから、予算がふんだんにあり、生徒が掃除をする必要はない。
定期的に業者さんが清掃に来て、校舎の隅々を綺麗にしてくれるのだ。
恵まれた環境で生活できることに感動しながらお手洗いから出ると、なんだかお腹が空いてきた。
グウと鳴きそうな腹を叩きながら歩いていると、よく知る人がこちらに向かってきた。
「先輩、こんにちは」
「あら古暮くん、こんにちは」
「なにしてるんですか?」
「職員室に用事があってね」
ああ、それならこっちに来たのも納得だ。
このトイレから少し先の階段を上るのが、職員室への最短ルートだからだ。
「そうですか……あ、そういえば、先輩○×クイズ一位おめでとうございます」
「ありがとう」
「それじゃ先輩、俺はこれで」
「ええ、またね」
長居するのも悪いと思ったので、俺はすぐに立ち去った。
食堂で昼食をし、陣地に戻った。
次は騎馬戦だ。騎馬戦は男女それぞれそれぞれある。
まず男子からだ。
騎馬戦は綱引きのようにトーナメント制だが、少しルールが違う。
一から三年の同じ組同士が一緒になってクラス対抗の試合をする。
つまり、俺たち1Bは、2Bと3Bの先輩たちと手を組んで、他クラスの連合軍と戦うことになる。
各騎馬は同じ学年の生徒同士で組んでいる。
三年の騎馬は三ポイント、二年は二ポイント、一年は一ポイントというように、学年が高くなるにつれ、ポイントも比例して高くなる。
大将は3年生で、ポイントが二倍なので六ポイントだ。
組を見分けるため、騎手は紅白いずれかのビブスを着る。また、ポイントは襷の色によって見分けるようだ。
それぞれ初期位置につき、騎馬を作る。
パーン!
俺たちは防衛に徹し、大将を守り続けた。
というのも、あれから放課後に騎馬戦の打ち合わせを何回かした。
騎馬は全部で十二機あり、六機が攻撃、三機は防御、残りは状況で対応、という形になった。
俺たちの騎馬は特に目立つ特徴はないが、身長はそこそこあったので、大将を守る役割を担うことになった。
俺たちE組は、一回戦、二回戦と順調に突破した。
四分の三ほど撃破されたが、相手の大将を何とか倒して勝利を収めた。
どうやら戦略が上手く機能しているみたいだ。
そして、決勝戦。B組vsD組だ。
パーン!
狼煙が鳴ると同時に、全員が駆け出した。
B組の騎手は赤、相手は白のビブスを身につけている。
赤と白が混ざり出した。騎手たちは相手の襷を取らんと必至だ。
俺たちは手筈通り、大将を守った。
近づいてくる敵を迎え撃つような、防衛的立ち回りだ。
相手の騎馬が三機、こちらに向かってきた。
俺たちは大将を含めた騎馬三機で迎え撃つ。
俺は騎馬の後ろなので、前にいるB君が行く方向に従っていた。
相手の騎馬二機が俺たちを囲む。前と後ろだ。
俺たちは後ろを警戒しながら、前の騎馬と攻防を開始した。
前にいる相手の騎手が、俺たちの騎手A氏に手を伸ばしてきた。
A氏はそれをうまくかわし、攻撃をしかける。
A氏の手は相手の騎士の頭についてある襷を掴み、颯爽とそれを取った。
しかし、その隙に後ろから別の騎士に襷をもぎ取られてしまった。
そして間もなく、A氏の襷を取った騎士は、横から来た俺たちの仲間の騎士に襷を難なく取られた。
大将の騎馬に向かっていたもう一つの騎馬は、俺たちの大将と戦ったようだが、もうすでに倒れていたので、大将は生き残った。
撃沈した俺たちは、E組の初期位置に戻り、それを観戦した。
どうやらもう残り二機のようだ。大将同士の真っ向勝負だ。
2機はまだ距離があり、相手の様子を伺っている。
そして、両者が一気に近づいた。
サッ、サッ
両者手を伸ばすがどちらも寸前でかわしていた。
騎馬と騎手を合わせると、どちらも身長が同じくらいなので、身のこなしが勝負の要だ。
両者一歩も引かず攻防を繰り返す。持久力戦だ。
サッ、ヒュン
相手の騎手が勢いよく右手を伸ばすが、それをうまくかわして右手を伸ばす。それを左手で防ごうと手を上げるが、途中で止めた。そう、フェイントだ。
俺たちの騎士が、左手を繰り出し、襷をつかみ取った。
「勝者、B組ーーー!」
「「「「「イェーーーーーイ!」」」」」
E組全員に歓喜の嵐が巻き起こった。
これでまた、ほかのクラスに差をつけることが出来た。
俺たちは陣地に戻り、女子の騎馬戦を観戦した。
交戦を繰り広げるなか、栄子の姿が目に映った。上末がそこそこある美人。クラスTシャツも明るい色なので目立つのは当然だ。
襷を手に握りながら起動する姿を見て、頑張っているなと感心した。
女子は男子と違って短期決戦だった。
優勝したのはA組。全体的に強かったし、特に大将の3年生は抜群の反射神経で、相手の襷を何本も取っていた。圧倒的だった。
俺たちは陣地に戻ってきた女子たちの健闘をたたえた。
三位だったので、十分いい結果だと思う。
この後も何個か走る系の競技があり、体育祭2日目は幕を閉じた。
今日は3種目出たので疲労が体に押し寄せてきた。
俺はライトたちと別れ、帰宅した。
いつもはこんなに運動しないので、自転車をこぐのに苦労しながらもなんとか家に着いた。
「ただいまー……」
疲れ声でそう言いながら階段を上り、自室のベッドに倒れこんだ。目を閉じたらこのまま眠ってしまいそうだ。
睡魔の誘いに耐えながら、明里のあたたかい夕食で腹を満たし、すぐに自室に戻った。
その後シャワーを速攻で浴びて、ベッドに飛びこんだ。
明日はリレーがある。あと一日、頑張るぞ。
目をつむるとすぐに意識が遠のいた。
これからもよろしくお願いします。




