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文学少年の恋物語 〜令和版源氏物語〜  作者: AYASAM
1年生1学期
14/51

 6日の金曜日の昼休み、ライトは言葉通りに友人を連れてきてくれた。


「初めまして。僕は一ノ瀬(いちのせ)(かなで)

「俺は古暮和人。和人って呼んで」

「よろしく、和人」

「こちらこそよろしく、奏」


奏は想定通り、とてつもないイケメンだった。

ツーブロックのストレートな黒髪と小さく垂れた目。

透明感のある薄い黄みよりの肌と、桃色の薄い唇。

長身だが痩せすぎず、程よい肩幅でこれまたとてもスタイルが良い。


華やかなライトとは対照的で、彼は穏やかで落ち着いた雰囲気を醸し出す彼は、暗い照明の中スポットライトが当てられ、繊細で美しいメロディーを奏でるバイオリニストのようなイメージがある。


「和人はミステリー好きなんだって?」

「え? うん、そうだよ」


「僕もミステリーは結構好きなんだ。もしよかったら今度、喫茶店かどこかで、それぞれの好きな作品について語り合わない?」


学年で一位を争うであろうイケメンが、俺の目の前にいる。

しかも俺がミステリー好きであることを事前に知っていて、さりげなく食事を誘ってくるなんて。


「は、はい。是非お願いします!」


俺は彼の眩しさと美しさに、後ろから即倒しそうになりながらも、なんとか踏ん張って耐えることができた。ふう、危ない危ない。



それにしても、この魔性とも言うべき艶やかさを持つ彼がこれまた爽やかでライトと並んで校内歩いたら、注目の的になること間違いなし。いや、こうしているだけでも絶大な効果があるに違いない。


ふと周りを見ると、クラスの女子たちが、彼らに対してアツイ視線を送っているではないか! これはすごい。



俺の快諾にふっと軽く笑みを浮かべると、奏は隣の席の琴吹さんの席に近寄った。


「初めまして、琴吹さん。僕は1-Dの一ノ瀬奏。よろしくね」


そう言って、彼は手を差し出した。


「え? あ、はい、よろしくお願いします」


琴吹さんが片手を差し出すと、奏はその手を両手で包み込んだ。

あら大胆。俺もあんなふうに手を包み込まれたいーーって、俺は一体何を考えているんだ!?

ちらっと琴吹さんを見ると、その顔がほんのり紅潮していた。まあ誰だってそうなるわな。


「できれば敬語はやめてほしな。同学年なんだしさ」


奏はハハッと笑って、彼女から手を離した。クールビューティーな性格かと思ったが、むしろ逆で、社交的な性格のようだ。


「はい。よろしくお願いしま……あっ、よろしく」


琴吹さんはしどろもどろに言い直したが無理もない。俺だって意識しないと敬語になるし。


「琴吹さんて、もしかして旅行好き?」


奏は琴吹さんに突然そんなことを聞いた。


「えっ? そうですけど……どうしてわかったんですか?」


疑問が湧くのは当然。ライトと接点のある俺のことは知っていても自然だけど、彼と彼女は初対面で、詳細な情報を知る術はどこにもなかったはず。それともどこかで会ったことがあるとかか?


「空港で何度か見かけてね。僕、人の顔を覚えるのは結構得意なんだ」

「そうなんですか。すごい特技ですね」


なんだそういうことか。偶然何回も見かけるうちに顔を覚えたってことね。

ーーって、待て待て。他人の顔を数回見ただけで記憶するって、どんな記憶力してるんだ? 

外見に加えてそんなチート能力も兼ね備えているなんておいおいマジかそんなん誰も勝てんよ。

気づくと俺は、周りに(たむろ)する女子同様、興味と尊敬の眼差しを彼に送っていた。

決して物欲しさではない。物欲しさではない。


 その後、ライトと奏は他のクラスメイト数人にも話しかけていき、一通り会話すると俺の元へ戻ってきた。


「和人、昼飯は?」

「俺は学食に行こうかと」

「じゃ一緒に行くか。奏、いいだろ?」

「ああ、僕はいいよ」

「うし。じゃあ和人いこうぜ」


奏たちは俺の方を見た。俺は一瞬迷う。彼らには誰かの視線がつきまとうからだ。

だが、これもいわば慣れなのだと思い、俺は決意して「うん」と応えた。


「よし、それじゃ行くか」


全会一致したところで、俺たち三人は食堂に向かった。


食堂までの道のりを、奏とライトが二人並んで前、そして俺がその後ろにくっついていく形で進んでいると、後ろから声がした。


「あそこにいらっしゃるのは、ライト様と奏様だわ!」

「ライト様、奏様、どちらもなんとお美しい!」

「あら? お二方の後ろにいるのは一体誰?」

「見かけない顔ですわね。なぜ同行しているのかしら? ライト様と奏様、お二人が並んでいらっしゃるのが一番お美しいというのに」

「本当にそうですわね。あれではお二方の魅力が半減どころか九割は落ちてしまいますわ!」

「ちょっとミユさん、声が大きいですわよ」


お嬢様口調の女子の悪口が聞こえた。悪かったな、並んでるのが小物で。

彼らほど別格な存在は、滅多にいるもんじゃない。それは納得せざるを得ない。

しかし、そもそも『美しさ』は基準や比較対象があってのことだ。

ならば、引き立て役というものがあった方が、彼らの美しさがより一層際立つわけでーーって、誰に言い訳してるんだ俺は。


せっかく誘われたのだからな、ここは頑張って耐えるのだ。

どうやら女子たちのその会話は、俺の数歩前を歩くライトたちには聞こえていなかったようだ。




 食堂は通常通り混んでいたが、美の神とも言うべき二人の笑顔に、四人グループの女子たちは気を失いかけながらも座席を譲ってくれた。ああなんと美しきライト様・奏様。


俺は日替わり定食、ライトは焼肉定食、そして奏はパスタを四人掛けのテーブルに置いて腰かけた。


「奏はパスタ好きなの?」

「ああ、本場イタリアのパスタも好きだし、日本のパスタも好きだよ」

「へー、イタリアか。俺は日本から出たことないから羨ましい。よく旅行するの?」

「うん。イタリアに知り合いがいるから、ユーロ圏を制覇するくらいには」

「それはすごい。……ライトは、海外旅行の経験はある?」

「ああある。世界遺産マニアの父に連れまわされるからな」


世界遺産マニアって、そんな人いるんか。ちょっと俺だけ置いてけぼりじゃないか。


「ライトも経験豊富な感じかー。うらやましい。俺も大人になったら金貯めて絶対海外に行ってやるわ」

「……そういやバスケ部の先輩が言ってたけど、今年の修学旅行はフィリピンだって」

「え、ホント? じゃー、もしかして来年!?」


俺がそこまで言うと、ライトはニヤリと笑って、「可能性はあるな」とのたまった。


「やったね!」

「修学旅行、海外だといいな」

「うん! 切に願うよ」


どうか修学旅行は海外でありますように。


その後は二人と少し駄弁ってから別れて教室に戻った。これでひとまず落ち着ける。

どうやら奏とライトはバスケ部で知り合ったらしい。どちらもレギュラー候補だそうだ。容姿に加えて運動神経もいいなんて、これはもうチーター以外の何者でもないな。

また、奏は一ノ瀬先生の弟だそうだ。同じ苗字だとは思っていたが、まさか兄弟だとは思わなんだ。

とまあ、得られた情報はこのくらいだ。


***


 放課後。俺は琴吹さんと共に部室までの道を歩いていた。

足並みをそろえ、たわいないことを駄弁りながら部室へと向かう()()の時間。


「古暮君」

「……」

「古暮君?」


琴吹さんは不思議そうな表情で俺の顔をまじまじと見つめてきた。


「……ん? ーーああ何ですか?」


ぼーっとしていたようで、しどろもどろに返事をした。


「何かあったんですか? どこか上の空でしたね」

「あ、その、何も問題ないですよ」

「そうですか? ならよかったです」


そう言って、彼女は笑みを浮かべた。その笑顔はまるで聖母のよう。

俺の心を優しく包みこんで、邪悪なものを全て浄化されるような気がした。

おかげさまで体力は全回復し、状態異常『ライト&奏病』が治った。


琴吹さんと二人きりになれる唯一の時間。

毎度おなじみになりつつあるが、それでも貴重でかけがえのない時間を、我を忘れたまま過ごすところだった。


熱心に勉強する姿、綺麗な姿勢で読書する姿、そして何より素晴らしいのは、清楚で美しい笑顔。

一か月半近く彼女を隣で観察してきたが、彼女の魅力は測り知れなかった。

ただ隣にいるだけでも満足だが、もっと仲を深めたいと思った。


「今日の部活は何をするんですかね?」

「さあ、何でしょうね」


また、読書か。それとも詩の作成か。

いずれにせよ、琴吹さんと一緒だ、楽しくないわけがない。


「こんにちは!」


俺はガラッと扉を開けて部室に入った。

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