33話 侵略の方法
ロバルの領主、ギリードは報告書を読み終えて、脇に立つ総役庶務ノーザンに問いかける。
「 この集まりに何の問題というのだ?魔物を狩って組合にしっかり卸しているじゃないか?」
そうギリードは言うと報告書を脇において、組んだ手の顎を乗せてノーザンを見る。
「失礼ながら伯爵は報告書をしっかりと読まれたか疑問ですな。彼らは自分たちを神の使徒と触れ回って布教し、そのうえ安価で市民に治療行為を行っているのです。毎日のように治療院と教会からは苦情が上がっているのですぞ」
「だからワシは聞いておる!何が問題というのだ?税も納めていない治療院や教会の苦情を、なぜワシらが面倒を見る? この冒険者団体バデールズはしっかりと冒険者組合を通して税を納めているし、借りている家だって冒険者組合から確りと納税しているじゃないか?信仰に税金は冒涜だと主張する太陽教団や、治療は聖域だと宣う治療士団体より良いと思うがのう?」
このロバルの街は、他の領地争いをしている地域と違い、冒険者や魔法を学ぶ学校があり、”交易と自立営”を掲げている街。更に領地の騎士団も常時2000名以上おり、非常事態になれば領民や冒険者組合から、その数倍を徴兵する事もできる。
つまり事実上は、王国最大の戦力を有している。
ギリード伯爵からすれば、他の領地と連携を取っている教会や治療士団体より、この冒険者団体バデールズのほうが余程良いと思えた。ギリード自身、剣も持たぬ口先だけの聖職者は良くは思えない。もっとも金さえ払えば気持ちよく思えるかもしれないが。
このロニアテ王国は、王に楯突かなければ領地は自由に納めて良いのが決まりであり、他の領地にまたがり言うことを聞かない教団や治療士団体など邪魔でしかない。治療士団体は仕方ないとして、教会の信仰など金にならない。もっともこのバデールズが言うことが聞かないというのなら問題だが……とギリードは考えてノーザンに言う。
「まぁ分かった、ノーザンの言いたいことも分かる。一度奴らを呼んで話はしてみるから手配しろ」
ノーザンは分かりましたといい、部屋を出て行く。
ギリード伯爵は残って報告書を再度手に取って見る。
確かこのバデールズの代表バデールという者は、エッツオ家ミリーデの護衛してくれたお礼に、自身が冒険者組合へ紹介した者だったはず。
この街に来てまだ幾月も経っていないのに、報告書を読む限りでは街の冒険者の大多数を束ねているとある。確かにエッツオ家の追手も追い払う魔法も使える腕があれば、可笑しくはないが、やりすぎては困る。
苦情は別としても一度会っておく必要があるなと、ギリード伯爵は考え壁に掛けてある大きな剣を手に取り、数回素振りして剣先で窓先を睨んだ。
余程苦情に悩まされていたのか、夕食の時にノーザンが翌日バデールズの代表のバデールの面談を約束取り付けたと連絡を入れてきた。
翌日の昼下がりに呼ばれて客間に行くと、ローブを着た少年と体格の良い冒険者風の男ふたりが、椅子に腰掛けていて、こちらを見かけると立ち上がって礼をしてこようしたので、そのままで良いとワシは手を上げて、用意された椅子に腰をかける。そして腰から短刀を出して、机に思いっきり立ち刺す。
一瞬、冒険者風の男が腰にはない剣を取ろうして動きを見せたが、続けてワシは大きな声をだして彼ら言う。
「よい!ワシはなにも害しようとはせぬ、安心せい!だがお主らの行いによって苦情が来ておる。ワシらはあずかり知らぬことだがこちらに苦情がくるのは辛抱たまらん。なぁ?ノーザン?」
ノーザンのほうを向くと彼も相づちをする。
「はい、この街の教会と治療士から苦情が上がっています。苦情の内容は神を冒涜すると教会から。また治療士団体から治療の異常な値下げ。正直な話、彼らは我々の管理でなく領地を跨ぐ組織。一応この領地に支部を出している以上は保護しなければならないのですよ?分かりますか、バデールさん」
「ギリード伯爵のお手を煩わせて申し訳ございません」
「詫びはいらぬ!自分らで起こした問題だ。いいか苦情だ!一両日中にどうにかしろ。いいな?」
「それは勿論です」
こちらが威圧しているのに、この少年……バデールは動じない。
「で、ギリード伯爵様、お詫び……では、ございませんが、今後とも故意にしていただけるよう、ささやかではございますが、お納めください」
そういうと拳より大きな革袋を数袋と、木箱を後ろに控えていたものが手前に運ぶ。
革袋を握り、中を開けると金貨、木箱を空けると見事なひと振りの剣が入っている。
「ほう、話が分かるな?」
「領主あっての街、そして我々冒険者ですから」
「ほう……、気に入ったぞ!小僧!何かあれば助けになろう。ともかくお前が神だか触れ回って治療士と揉めているのは事実だ。早く問題を解決しろ!いいな? ”問題”を起こすなよ?」
「はい、早急に”処理”致します」
「うむ、いいだろう。お主らにはミリーデの恩もある、何かあればいつでも来い」
ワシは箱から剣を取って眺めながら、彼らに言う。
バデールズが出て行き、ノーザンが口を開く。
「いいのですか?伯爵。教会はいいとして、治療士団体は無くてはならないものです」
「よい、治療士は必要だが団体に言われて動くのは癪に障る。それに気の利いたバデールズなら奴ら自身でどうにかするだろう」
「しかし、あの様子だと彼らは……」
「よい、ノーザン、それよりこの金は税ではない、苦情を聞いた我々に対する礼だ、ほら貰っておけ」
金貨の詰まった革袋をノーザンに投げて渡すと、口元をゆがめて言う。
「そうですな、”問題”は彼らが解決すればいいこと」
俺が“神の使途”だと発言してから、俺達のバデールズは新たに向かいの大きな屋敷を借りて、その地下で毎晩のように集まり、どうやったら人族を“信者”にできるか考え、結果として神聖魔法教会と看板をデカデカと掲げて布教に乗り出した。
そして元冒険者組合のゲインズも意見も取り入れて、この屋敷は教会兼治療院とし、ほぼ無償で怪我人を魔法で治療を始めた。サデバルトと呼ばれた石像は神の使途の一つ……神の使徒バデール。つまり俺が神の使いという事で、病気や怪我を治して布教しまくる日々が始まった。
そんな折り、領主に呼ばれた。何でも苦情が来ていると。
ここまでは予想通りだ。この街の治療院も教会も、荒くれ者の冒険者の俺たち直接言わずに領主に言うのはわかっていたこと。
領主か……一度ミリーデを護衛した時にあったあの大猿のようなあの男か。
領主のところから帰ると、同行したラダールが聞いてくる。
「バデール卿、あれで良かったのですか?」
「ああ、問題ないだろう。俺達で解決していいとお墨付きを貰ったのだからな」
事前にこの町の領主がどう行動するか調べておいて正解だった。
そして俺は“信者”に言う。
「いいか?今夜中に苦情を入れた教会関係と治療士を全員始末するぞ」
現在俺たちバデールズこと神聖魔法教会は、現在では冒険者以外の事務や内部の細々した作業も行なってくれる人間や手伝いに来る孤児院の子供たち、近くの鍛冶屋や道具屋、一階でなぜか飲み屋をやっている人もいれると、350名。そして生き残っていた魔族は40名程。
そしてこの治療を行う教会を中心に信者が集まってくるが、それを入れても500名程しかいない。
ゲインズの話では、このロバルの街には2000名以上は専属の騎士がいるという。
つまり今、人族と戦っても勝てない。
今はこの人族の街で大儀名分を得て、組織を大きくする他に道はない。




