29話 魔王復活
「おお、いつぞやの女性冒険者さんじゃないですか?」
数軒の家が見える集落らしい近くで、草が入った天秤を担ぎ、頭に赤い布を巻いている男が声をかけてくる。そして周りには赤い布を巻いた怪しげな杭やモニュメントが乱立する畑、確か旧世界なら怪しい集落としか見えない。近づいてきた彼は普通の人族に見える。
「以前はどうもね。実はうちのボスが……」
「こ、こんにちは。実は、あ、いや、村の責任者さんとかいますか?」
「おい!お前!ゲラースか!?」
俺が恐る恐る声をかけるが、一切気を使わずに後から、ミダリさんが叫ぶ。
「な!なぜその名を!」
赤い布を巻いた男は、そのまま慌てるように叫び、集落の長を合わせると言いながら、天秤を捨てるように投げて、一緒に馬車に乗った。俺達はそのまま先に家が見える場所へ向かう。
「え?ミダリさん、彼は知り合いですか?ゲラースって……」
”今に分かるから”と、ミダリさんは誤魔化して答えない。
「ちょ!ここ知り合いの村なの??」
一方で、女性3人が、それぞれ俺の腕や服をグイグイ引いて、聞いてくる。俺だって知らんがな。ただ、分かるのは魔族の集落っぽいのは分かる。一応、彼女達に口止めをする。
「良く聞いて欲しい。ここで知った情報は一切秘密に出来る?」
「出来なかったらどうすんのさぁ?」
マービナが引いていた俺の腕に絡みつき、大きな胸を押し付けて、甘えるように聞いてくる。その声を聞いたバケログテさんとミダリさんが睨むようにこちらを見て唸るように言う。
「なら、ここで始末するだけだ」
「ああ、そうだな」
バケログテさんとミダリさんはそれぞれ手に炎を浮かべる。
「じょ、冗談だよね?ボス?」
確かに俺達が魔族とバレるのはヤバイ。それにこの集落が本当に魔族の村だとすれば、俺は同族を守らなければならない。少しの間の後、俺はゆっくりと答える。
「冗談ではないよ。もう一度聞くね。マービナ、それに二人とも秘密に出来るかい?」
その様子を見て、こちらが真剣だと分かったようで、彼女達3人がコクコクと首を縦に振る。そのやり取りが聞こえたのか、赤い布を巻いた男も、目が合うと静かに頷くようにゆっくり頭を振った。
集落につくと、赤い布を巻いた男が叫ぶ。
「復活の日だ!!戻ってきたぞ!!」
その異様に大きな叫び声で、家々から人がぞろぞろ出てくる。20~30人程だろうか、皆頭に赤い布を巻いた人がわらわらと止まった馬車に無言で近づいてくる。
「え?え?なになに!?どういうこと!?」
彼女達は怯えるように俺にしがみ付く。
奥から人を割って、杖を持った男性が出てくる。
「グラードリさん!、彼らは祖先の名を……」
赤い布を巻いた男が叫ぶように言う。その言葉を遮るようにバケログテさんとミダリさんが立ち上がり言葉を発する。
「俺は森に封印されていた、バケログテ・ルゲン・ゲラース!」
「同じく、ミダリ・ルゲン・ゲラース!」
え?なになに?ゲラースって彼の名じゃないのか?
いや、それより二人ともゲラースなのか?名前苗字とかあったのか!?俺が何事か?と思っていると、ミダリさんが、小声で言ってくる。
「バデール、名乗ってくれ、バデール・ルゲン・グレードンだ」
グレードンは父の名だが、なにその“ルゲン“って? ほら、後で説明するから、催促されて俺も名乗る。
「えっと……バデール・ルゲン・グレードンです」
俺がそう言うと杖を持った男性は、返答するように異様な声の大きさで叫ぶ!
「この日をどれだけ待ちわびたか!!俺はラダール・ルゲン・ゲラース!」
その瞬間、俺達を囲っていた集落の人が狂ったように大声を出してそれぞれ泣きながら、抱きあったり、土下座したりと、前世で御近所だったミサイル発射外交を行なう某国の独裁者が死んだときのような狂ったような状況になる。
ミダリさんに、“これはどうなってるの?”と再三、聞くが、今の分かるからと言って答えない。
けたたましい状況の中、どうにか案内されて、さぁ、こちらへと村の集落の中心にある少し大きな家に入る。土間のようなところから上がった場所へ俺達6人が座ると、飲み物を出された後、ラダール・ルゲン・ゲラースと名乗った男が俺達に尋ねる。
「その女性達は?」
「彼女達は人族だが、安心して欲しい。グレードンの女だ」
ミダリさんがそう言う、男はそうですか答え、後ろに控えていた青年がなにやら巻物のようなものを男に渡す。そして頭を下げるような格好で巻物を広げる。
周りを見渡すと、集落の人が全員、集まっているようでぎゅうぎゅうと隙間のないほど密集した土間にひれ伏すようにこちらを見ている。
……すこし怖いな、この状況は。俺だって何事かというのに彼女達も恐怖だろうな。
彼は低い声でその巻き物を読み始める。俺達は黙ってそれを聞く。禍々しい言い回しで読み始めるが、内容は要約すると、魔王バーシツト卿が害を成す人族の国へ兵を挙げたが、封印され残った兵で救出に向かったが、成功せず、王族の洗礼の力を無くした魔族の国は人族の兵に追われて亡国と化したと……。
そうか、封印の外でも救助しようと努力はしたのか。
気になる封印がどれ程の月日が経ったのか?と俺が尋ねる。
「およそ350年前ですな」
え?……と俺は、思わず声を出した。
父に聞かして貰った話では、我々の祖先バーシツト卿は、残忍なロアン人と戦い、勝利目前で卑怯な策に嵌り、結界に閉じ込められたというのは聞いているが、その話は何代にも伝えられた昔話で、父の祖父、その祖父の祖父より何十代も昔からということも聞いていた。350年じゃ年が合わない気がするが。
「バデール 、俺達、魔族がどれくらい生きるか知ってるか?」
察したのかバケログテが声を掛けてくる。そしてラダールのほうを向いて声をかける。
「すまんな、ラダールよ。グレードン家のバデールには幼かったので、まだ伝えてないのだ」
そういうバケログテさんは俺に結構な衝撃的事実を言う。
___魔王の洗礼を受けた魔族は寿命が存在しない。
魔力を完全に失うと幼児化して、また成長し繰り返し生きると。
え?あれ?そういえば、村で墓を見たことがないし、あれ?何十代も伝えられていた話というのは?と聞くとそれは幼児化したら、カウントしていると。
「もしかしてバケログテさんとミダリさんって祖先バーシツト卿に会った事あるのですか?いや、もしかしてあの村に祖先バーシツト卿がいたのですか?」
「ああ、だがな、俺達は幼児化したら、生きてきた全ての記憶を失う。だから幼児化したバーシツト卿は、もうバーシツト卿じゃない。名も違う。そして魔族のしきたりで別人を扱う」
え?とラダールと名乗った男を見ると、ゆっくり頷く。
続けてミダリさんが言う。
「だが、王族は王族の家名を継ぐ。俺達、城に詰めていた家臣はゲラース家名を継ぐ。王族はグレードンだ」
え?おれ?と自分を指差してバケログテさんとミダリさん、そしてラダールや回りの人も頷く。
「デガルデヌ・ルゲン・グレードンはお前の次男だ、それと村長は長男な?お前が元バーシツト卿だ」
え?何?祖先がバーシツト卿じゃなくて、俺の元がバーシツト卿か!?
まじか?あ?あれ?親父が息子?息子は立派か?と少し混乱するが、それでも俺には旧世界の記憶がある?この矛盾したのはなんだ?と首を傾げる。続けて分からないのは、王族の洗礼というのは?あれか?村長の家で額をツンツンしてもらって魔法が使えるようになるあれか?
「すいません、いまいち分からないのですが、王族の洗礼って王族だけしかできないのですか?」
「ああ、そうだ」
ミダリさんがいうと、ラダールはかぶせるようにいう。人族の討伐に向かった魔王バーシツト卿、それと2人の息子。新たに生まれた魔族が洗礼が受けられない状況では、魔法が使えない。幼児化もしない。王妃も亡国の際に人族によって討ち取られ、現在は魔王族の血筋が絶えていたという。
いやいや、もっと子供作っとけばいいのに思うが、下手に子供を残すと王族とか揉めるのか?とまったく分からないが、聞かない事にしておく。
「お待ちしておりました!魔王様!」
ラダールが頭に巻いた赤い布を取りさり、頭を床に擦り付けるように下げると、土間にいる集落の人もザザっと音を上げて、頭の布を取って土下座状態になる。
おおぉ……皆さん頭に結構な立派な角が。
「説明せずに申し訳ない、魔王バデール様」
「忠誠を誓います」
バケログテさんとミダリさんも俺のほうを向き、同じように頭を下げる。
「え?え?ボスが魔王!?怖いし凄い!」
「す、すごいよ!ボス!」
「あたいは惚れ直したよ!魔王の妻か……」
彼女達もなんだか理解したのか?それぞれ異常なテンションで騒ぐ。
「おい、人族の女、調子づいてると解体するぞ!頭を下げろ」
「分かったら、皆に殺されないうちに頭を下げろ!」
バケログテさんとミダリさんが唸るように言うと、ひぃぃと彼女達も同じように頭を下げる。
皆が頭を下げる中、俺は呆気に取られていた。




